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ロングロング  作者: くろ
61/85

No61 未来図



   アリロスト歴1927年  3月




 春先の日差しに誘われた暇なジジイ基、ヤングが俺を訪ねて来て、好き勝手に愚痴を言って帰って行った。

 スピークイージ(潜り酒場)をFPB(連邦捜査局)で捜査を行っても、グロリア・マフィアのボスで或るチヤ・デ・カッポレへと辿り着けないとか。


 「幾軒かのスピークイージへ踏み込んで調べても何も無かったらしいのだよ。」


 そりゃそうだ。

 末端の現場に自分の足が着く様なモノとか情報を残して置く馬鹿は居ないだろうし。

 確かカッポレって2度ほど襲撃受けてからは、今まで以上に周囲や身辺を警戒するようになったって、カーゴに居る連中からの報告にもあったからな。

 同じグロリア系で古くからの知人に任せていた仕事の上前を撥ねられたのを知って、カッポレはその知人を部下に暗殺させて、その報復で知人の部下がカッポレの車へ銃撃を仕掛けて来たんだよな。

 当然カッポレもその報復に出て、、、そして、銃弾の飛び交う街カーゴに成って居た。 


 窓側の何時ものライティングデスクに向かっていたセインは、ヤングが帰ってから俺の方へ向き直って、チヤ・デ・カッポレの話を俺としていた。


 「しかしジェローム、ギャングって上前を撥ねた位で銃で襲ってくるモノなんだね。」

 「あぁ、報告によると、カッポレの友人がその知人を探っていて殺されたようだよ。南部から運ばれていた可成りの量の密造酒をパクッて居たらしい。」

 「じゃあカッポレは友人の(かたき)を取ってる心算なのかな?ジェローム。」

 「さあなー、まあロンドに居た時もグロリアマフィアに就いて調べて居たけど、俺達が知っている破落戸(ごろつき)集団とは毛色が違うみたいだよ。ファミリーって言うか、仲間内の結束が固いみたいで、血には血をって独特のルールが仲間内に或ったよ。つうても一般の市民からしたら、只の犯罪集団だけどな。」


 「じゃあジェローム、カッポレは元からそう言う一族の出だったのかい?」

 「嫌、セイン違うよ。両親は南グロリアのパニア出身じゃ無かったからな。ヨークの生まれでグロリア系カメリア人だった。両親は真っ当な職人だったよ、兄弟は10人と多いけどね。でも、カッポレが暗殺した知人て言うのはパニア系の出身だな。グロリアは今の王国に成るまで、色々あったから北カメリアへグロリアの色々な所から来た人も多いのだろう。」


 「サルデーニャの王族が戻るまで、南グロリアは内戦状態だったモノね、ジェローム。サルデーニャ国王軍とモスニア軍で南グロリアで暴力的な集団を一掃したとロンドに居た時、僕も新聞で読んだ気がするよ。そうか、僕も関わってしまったリチャードの事件か。あぁ、リチャードがパニア出身だったね、確かデロッセ家だった?しかしジェローム、移民として来た新たな国で子供がこんなことを起こすなんて親も辛いだろうね。」


 「貧しい所だし、まぁ周囲に住んでた大人達は強請を遣っているブラックバンドが多い地区だしなぁー。同じグロリア系で貧困者の中で金持ちがマフィアなら、子供はそう言う大人に憧れるんじゃ無いかな。つうかさぁ、只でさえ悪党が多い世の中で、禁酒法なんつう安易に大儲けの出来るチャンスを作って遣る方の頭をセインは疑わないかい?」


 「僕もお酒は好きだから禁酒法って言うのを聞いた時はええー?まさかっ?って思ったけどね。はあぁぁ、しかし報復が彼等のルールかも知れないけど、ジェローム、、。新聞での記事を見ると矢張りヨーク市やカーゴ市では人が死に過ぎて居ると僕は思うよ。戦争でも無いのにコンナに銃撃で殺し合うなんて、医学を学んだ者としては堪らないよ。」


 「報復って言ってもなぁ、セイン。結局は商売場所の縄張り争いだし損得だからな。でもこう言う抗争を繰り返していく内に非合法な組織として完成していくんだろうな。今は、新聞とかでバイオレンスなガンマンみたいな奴が派手に目立っているけどさ。カッポレも或る程度は頭が廻るのに、目立ちたがり屋だから捜査官に注目されてるしね。」


 「うん、それなんだよ、ジェローム。カレッジでも悪ぶった格好をしてる子が居てね。少し新聞なんかも騒ぎ過ぎて居ると思うんだ。」

 「まあ、カレッジに通っているような子等はファッションだからセインも気にし過ぎなくて良いよ。ジョアン位の歳に成ったら、カレッジ時代は若かったなーって昔話にしているさ。」


 「んー、、、。そうだね。良く考えたらジェロームの学生の頃は凄かったのを忘れていたよ。」

 「いや、セイン。出来たら忘れて呉れて居ると俺は嬉しいんだけどさ。」

 「ふふっ、でも、あの頃のジェロームも美しかったから僕は忘れたく無いな。しかしそれにしてもジェロームも落ち着いたけど、パトリック氏がアレほど変わるとは思わなかったよ。」


 「確かに。92年頃からレナードを想い続け、男も女も相手にせずプレトニックで天使レナード一筋って、俺には真似が出来ないな。俺は思うんだけどセイン、アレってヤバい病気だよな?」

 「そんな、パトリック氏の純愛を病気って言うなんてジェロームは酷いよ。」

 「だって35年間だよ?セイン。下半身でモノを考えていたパトだったのに。カレッジ時代のパトの素行の悪さはセインも知っているだろ?」

 「うーん、パトリック氏は取り繕わない人だったから、堅苦しいフォックカレッジでは目立って居たのだと今なら思えるよ。僕も若い頃はパトリック氏を失礼な人間だと感じていたからね。」

 「ふふっ、まあパトは、欲望には純粋だったよな。若い女性達からすれば疫病神みたいな奴だったけどさ。量産していた作品作りも流石に北カメリアとロンドの二重生活で余り作れなくなったみたいだけどね。」


 「パトリック氏の奥方も殆ど北カメリア南部暮らしだよね?ジェローム。」

 「そうみたいだね、セイン。パト夫婦は、白い結婚なのに長続きしてるな。妻のディアナは南部の広い敷地に或るレナード・ホームで、天使レナードを手伝って満足な日々を送って居ると、レナードに会う時間が減ったパトが悔しがっていたな。ある程度、教育を受けさせて南部を出たいと言うプリメラの子には、モリアーニやヤング氏が受け入れる様にしているらしいよ。妻のディオナは、本当ならバクナン家が経営する企業で就職をさせたかった様なのだけど、グレタリアンてプリメラ人を受け入れて無いから無理だったようなんだ。南部だとプリメラ人は低賃金の所で一生を終えるしか無いからな。」


 「でもジェローム、奴隷では無く成ったんだね。南部も。」

 「ああー、うん。グレタリアンからの要請みたいだよ、セイン。僅かでも賃金を払って労働者にしろってさ。流石に今の時代で奴隷制を取っている国と同盟を結んでるとは、先進国のグレタリアンとしても言いたく無かったんだろ。」

 「僕はプリメラ人が北部へ移って南部から殆ど居なく為るかと思ったのだけどね。」

 「老いている人も居るし幼い子供が居る親も居るしな。何としてでも北部へ移動したい人は、幼い子をレナードホームへ置いて行くみたいだね。ただ南部にも、北部でのプリメラ人の貧しい生活の情報も入って来るから、南部に残って居る人も多いよね。少なくても住居と食事に僅かな賃金でも南部だと手に入るし、主人の家庭と円満に過ごして居ると思っているプリメラ人達もいるしな。」


 「ふぅー、北部でも別にプリメラ人に対しての差別が無くなった訳じゃ無いし、危険で低賃金な労働は相変わらずプリメラ人が就いているみたいだからね。」

 「ただまあ北部は選挙権が在るからね。少しづつ変わっていくと思うよ、セイン。今は労働組合にもプリメラ人労働者は参加させて貰えてないから、民衆党みたいな所は動き始めたみたいだし。」

 「そうだね、ジェローム。良く考えたら北カメリア奴隷解放戦争と言われている南北の内戦が終わって、12年しか経って無いんだよね、未だ。中立州だった2州を除いた21州の自治体では公教育を始めているから、優秀な子達なら望む職に就けて居ると良いけどね。豊かに成れば皆のプリメラ人の見る目も変わる筈だよ。」

 「ううん、そうだよな。」


 俺はそう頷いて、クロードが淹れてくれた珈琲を苦い想いと共に飲み込んだ。

 200年以上続いたプリメラ人の奴隷制。

 グレタリアンや他のヨーアン人が北カメリアで無理矢理与えた立場だと言うのに、多くのヨーアン人の意識は、プリメラ人は奴隷だと認識してしまっている。

 ソレを今日から変えようと言って全ての人間の意識は、そう簡単に変わらないだろう。

 俺の意識はアーリア人の緑蘭だった時代のモノもあるから、ヨーアン人が他の人種を劣ったモノとして見る事も感覚で知っているし、トリス・ローデのように、グレタリアン人が此の世界で最も優れていると素で思っている人への気味悪さも経験している。

 

 だからだろうか。

 俺はセインの様に明るい未来を思い描けないでいた。

 俺の生きている時代では、未だプリメラ人への偏見を薄くすることくらいしか出来ないだろう。


 でもジョアンの子供が俺くらいの歳に成った頃には、セインが思い描く未来もあるかも知れない。


 ジャックも良く俺に話していた。

 何事も急激に変えようと力を加えると軋み折れて行くと。

 そんなジャックの言葉を想い出してしまうのは、ジョアンの子供をミッシェルが懐妊したと言う知らせを先程トマスが俺に持って来て呉れたからかもな。

 丁度ジョアンは、ポリウッドランドに出来たモニュメントの落成式典へ招待されていた為に、デルラの新居を留守にしていた。


 フフ、残念だったなジョアン。

 真っ先にミッシェルからおめでたい知らせを聞けなくて。

 ポリウッドランドの事務局に伝言だけ預けたそうだから、聞いたジョアンがワタワタと慌てふためく姿が想像出来てしまった。



 「おめでとう、ジェローム。」

 「ふふっ、一先ず有難う。でもセイン、俺に祝いの言葉を言うのは可笑しい気もするけど。」

 「ええ?なんで?ジョアンの義父ならジェロームがお祖父さんに成るだろう?」

 「うーん、そうなのかな?」

 「そうだよ、ジェローム。」

 「まぁー、セインが言うなら間違いないか。セインはシャロンの本物のお祖父さんだしな。俺って遂ジョアンを飼い猫みたいに思っちゃうんだよね。」

 「そんな事を言って居ると、サマンサ夫人から『ウチの婿を猫扱いしないで!』ってジェロームが怒られるよ。」

 「ふふ、それは怖いなセイン。」

 「何だか良いね、ジェローム。こうして家族が増えて行くのは。僕もジョアンとは血は繋がって居ないけど、11歳の頃からずっとジョアンの成長を見て来たからね。僕も気分的には、ジョアンの父親なんだよ。家族って血だけじゃなくて、こういう風に年月を重ねて出来て行くのかも知れないよ。」


 「ふっ、セインも父親で俺も父親かー。まぁー母親はグランマのサマンサ1人いれば確かに充分だよね。では、今夜はジジイ2人でジョアンを祝う酒でも飲もうか。」

 「うん、ジェローム。いいね!」


 セインは立ち上がって、ライティングデスクから離れて、クロードにブランデーを頼んでから暖炉の近くに座いた俺の隣或る長い寝椅子に腰を降ろした。

 暖炉の火に照らされ、セインの明るい栗色の短く切って整った髪も明るいオレンジ色に揺れ、そして黒縁眼鏡の下で炎で揺れる飴色の丸い瞳が柔らかく俺を見詰めて微笑んだ。

 きっと俺の淡い金糸の長い髪もセインと同じ様に、燃える暖炉の炎でオレンジ色に揺れているのだろう。

 

 こうして静かに同じ時を重ねて俺とセインは1つの家族に成って来た。

 ジョアンともゆっくりと俺は家族に成れるだろうか。

 そう言う未来図も悪く無いな。

 ジョアン、セイン。


 


 でも、未だ暫くはジョアンは俺の飼い猫だけどな。



 そうんな事を想いながらクロードが運んで来たブランデーグラスを受け取り、俺とセインはカチリと控えめな音でグラスを合わせて、ジョアンの為に寿いだ。

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