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ロングロング  作者: くろ
60/85

No60 ロマンティックな恋愛



    アリロスト歴1926年  9月



 8月にトーエンビレッジで婚姻式を挙げたミッシェルはc・エイム子爵邸の敷地の広さに改めて驚愕しつつも、ロッジの北隣に建てられた新ゴシック様式の2階建ての新たな屋敷で俺と暮らし始めた。

 ジェロームのロッジと俺の屋敷と似たような屋敷が二軒並んで建てられた景色は其処だけロンドの街のようだった。

 ジェロームのロッジよりは小さいけどね。


 本当は今まで暮らして居たロッジで、俺はジェロームと共に暮らしたかったけど、「ヤダっ。」って断られてしまった。


 「女でロッジに入って良いのは俺の使用人とサマンサだけ、後は不可。」


 って言う謎のジェローム・ルールに寄り、俺がミッシェルとの付き合いを打ち明けると、そそくさとロッジの北隣に屋敷の建築をロッジを建てた建築業者へジェロームは依頼した。

 ミッシェルの母親サマンサは入室許可をされ、娘のミッシェルが駄目だと言う理由を知りたいけど、きっぱりとジェロームが俺に断言した後、煙草を燻らし始めたので俺は沈黙した。

 此れって話は終わりというジェロームの合図なんだよな。



 俺は自業自得で忙しくって偶にしかデルラに戻れなかった。

 カレ帝国から購入した土地に作った映画撮影所をクレソン社に訴えられて裁判をしなくては成らなくなり、ウィル経由でトーマの友人の弁護士やエイム公爵が作っていたブラザー弁護事務所にも手伝って貰い、争うことに成った。



 1924年の9月に訴状が届いてから、クレソン社の探偵を使った小汚い手法や圧力を掛けて撮影の邪魔した証拠を集めたり、証人を頼んだりと有能な弁護士達が頑張って貰い、やっと1926年7月に連邦裁判所から反トラスト法違反と言う判決をクレソン社に出して貰った。

 俺は、高額な使用料を支払わせるために、財力にモノを言わせて逆らっている(権利を主張してる)人を薙ぎ払うって、余りクレソン社の金儲けに成らない気がしたのだけどな。



 まあ、此れでクレソン社も映画撮影を邪魔出来ないし、俺の役目も終わったかなと思ったのだけど、あの侭ポリウッドランドを使用したいと言うので、不動産課税の分だけ土地を使用して居る人達で払って貰うことにした。

 そしてウィルのアイデアでカレ帝国と北カメリア北部連合政府の間で国家間の争いが起きても映画を愛する芸術の街ポリウッドランドは中立地帯と言う契約を締結して貰った。

 まあ、バナン島の威嚇攻撃みたいな争いを起して欲しくないから、ウィルの提案は有難かった。

 成果が出たのは、ヤング氏やジェロームが苦手としているモリアーニ氏も映画が好きだから、と言って協力してくれたのが大きいと思う。

 ジェロームがモリアーニ氏を悪党と読んでいるけど、俺にはそんなに悪い人には見えないんだけどなぁ。




 そんな慌しい日々を送って居たら、あっと言う間にミッシェルとの婚姻式に成って、俺は家族でデルラに訪れていた何時も優しいルスラン氏がアイスブルーの瞳を鋭くして、ミッシェルを幸せにする3つの誓いを約束させられて、頷くまではマジで怖かった。

 1つ浮気はしない。

 2つ何でも話し合う事。

 3つ喧嘩をしたら俺から謝る事。


 サマンサ夫人から、実はルスラン氏が50個くらい紙に書いて居たので、どうしても守らせたい約束を3つにさせたと笑って俺に教えて呉れた。

 「きっとジョアンに娘が出来たらルスランの気持ちが分かるわよ。」

 そう言ってサマンサ夫人は俺の背を優しく撫でた。


 サマンサ夫人、ていうかサマンサ義母さんの息子のニックは、ジェロームの言うデルラでのファミリーの集い後、グレタリアンに帰国してからシェリー夫妻の屋敷に訪ねて行くように成り、其処で知り合ったヒルダと知り合い、ニックの婚姻機会を逃さまいとしたサマンサ義母さんの手に寄り、昨年の5月末に婚姻した。

 シェリー夫人からの挿絵の仕事を貰うように成ったマイケルは、本当に嬉しそうでマイケルの屋敷へ遊びに行った俺自身も、その笑顔を見て幸せに成れた。


 「こんな僕の絵を必要としてくれる人が居て嬉しくて仕方が無いよ。」


 そう言って、グレッグ出版から本邸経由で届いたマイケルの絵のファンレターを宝物にしていた姿を俺はシェリー夫人の名を聞くと思い出す。


 「僕には無理だと諦めて居た友人と仕事を与えて呉れた此のデルラの地は僕には祝福の地だよ。」


 綺麗なアルトの声で若草色の瞳を煌めかせていたマイケルを、こういう何気ない瞬間に俺は思い出していた。

 礼を言っても言い足りないシェリー夫人。

 そんなシェリー夫人の娘ヒルダと義弟ニックとの婚姻の話は嬉しい驚きだった。

 書類の続柄的にはニックが俺の義兄に成るのだが、年齢的に5歳も年下のニックを義兄と呼ぶのは難しいので、義弟として接する事にした。

 今までの手紙の遣り取りでも俺はニックを弟して扱っていたしね。


 そのニックとヒルダはアノ下宿112Bの二階で生活することに成ったらしい。

 1階に住んでいる下宿人から達の面倒や家賃の管理もするとサマンサ義母さんは俺に話した。

 

 「私とルスランも下宿112Bで出会って、シェリーもパーシーと下宿112Bで出会ったの。そんな私達の子供達が下宿112Bで新婚生活を過ごすってロマンチックな運命よね。」


 両の掌を両頬に当てて夢見るようにサマンサ義母さんは語り、それを見ていたジェロームとセインワート博士は顔を見合わせて軽く首を振り、息を吐いていた。

 ルスラン義父さんは、そんなサマンサ義母さんを愛し気に見詰めていた。

 近くに居たミッシェルは伸びをして俺の耳元に顔を寄せて「アレは母の趣味なの。ロマンティックな恋愛に就いて話し出すと長く成るから、気にしないで、ジョアン。」そう言って苦笑した。



 そんな細やかで穏やかな婚姻式と食事会を終えて、俺とミッシェルとの2人で暮らす新たな生活が始まった。

 家族での食事会の後、ルイス夫妻とウィリアムも遣って来て賑やかしいパーティーに成ったけどね。





 

 


     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1926年   10月



  今年はモスニア=フロラルス帝国で万国博覧会が在った。

 植物オイルと化合物で作られた新たなオイルの精製技術と自転車を発展させたオイルで動くバイクと言う乗り物が出展され、人気を博したそうだ。

 ヨーアン諸国では狭い街路も多いので活躍しそうだし、北カメリア北部でもヨーク市やカーゴ市等の蒸気自動車で渋滞する街路や建物が密集した市街だと便利かもしれない。

 次回は1930年に北カメリア北部ミスリータ州のセントル市で開催予定だとか。


 植民地を含めた40以上の国が参加したらしいけど回を重ねるごとに盛大に成って居る。

 一緒にオリンピックも開催されていたと言うから尚更会場が湧いただろう。

 各国で活躍している映画監督たちも招聘されて万博やオリンピックの様子を撮影していたらしい。

 ウィルは政府関係者の一員として紛れ込ませて貰って馬術や陸上競技を楽しんだとご満悦だ。

 大戦が終わってからは初めての開催だったので関係者の人々は感慨も深いだろう。


 金の短い髪を右手で搔き上げて、深緑の瞳を細めて楽しそうにウィルは俺に万博とオリンピックの報告をしていた。



 「未だ開催期間だろ?ウィル。ゆっくりしてくれば良かったのに。」

 「まあ、一応見たいモノは見れたし、グフィス監督も居たからジェロームも見せて貰いに行こう。」

 「あのさ、俺が観に行くと思う?ウィル。」

 「はぁ、ジェロームは何が楽しくて生きているんだよ。」

 「ん-、そうだな。先ずはセインとの会話、次にジョアンとの会話だな。後はクロードが淹れて呉れた珈琲と煙草。此れにフロラルス産のブランデーが有れば言う事はなし、かな。」

 「うわっ、刺激が無さ過ぎて僕には耐えられないよ、ジェローム。其処に僕との会話が入って居ないのはジェロームの強がりだよね。ふふっ。」

 「言ってろ、ウィル。」


 「ジョアンの新婚家庭は落ち着いたみたいだな、ジェローム。」

 「如何だろうな、ウィル。結構忙しいみたいだから、俺は日頃はミッシェルと一緒にヨークに住んでも良いと思うんだけどな。船でヨークに行き来するのも面倒だろうし。」

 「ソレはジョアンがジェロームと居たいからだろう。ジェロームも酷い事を言う。それにヨークへ行くのは、ショービジネスに関わっている変な奴を、ジョアンも此のデルラに来させたく無いんだろ。」

 「全くさー、ジョアン迄、仕事を頑張る人間に成ったよ。新婚なんだし、ゆっくりミッシェルとラブイチャ生活をして居れば良いのにさ、ウィル。俺はジョアンを仕事人間に育てた心算は微塵もないのに。」


 「ふふっ、ジョアンもジェロームに育てられた覚えは無いって言うよ。まあ今年は大詰めだった裁判も在ったし、大統領選も在ったし、終わった後でも、色々と会って於かないといけない人間も多いんだよ。でもクレソン社に泣かされてた人も多かったからジョアンも良い事をしたと僕は思うよ。」


 「俺、クレソン社の事は、絶対にウィルがジョアンを唆したと思ってるけどね。ジョアンて根が善良だから、ウィルの口の上手さには逆らえないだろし。なーんか知らない間にヤング氏とモリアーニとをジョアンと会わせてるしさ。ウィル、ウチのジョアンを面倒な政治の世界に関わらせるのは、止めて呉れないかな。」


 「いや、僕も率先してジョアンを政治に関わらせる心算はないよ、ジェローム。まあ、此れも北部の戦争回避の一環だよ。それにジョアンも自由党支持を表明している訳じゃないからね。」

 「でもヤング氏と居れば自由党支持と見られるだろ?ウィル。」

 「まあまあ、自由党にも国民党にも民衆党にも均等にジョアンは献金をして居たから。だけどまあ、安定の自由党の勝利だし。確かルビン・クーリッツだったかな。別に政治家を引退した3期前の大統領の事に、ジェロームが考える程誰も其処まで気を尖らして居ないよ。」


 「ホントにウィルって軽いよな。なんか初めて大統領でラジオ演説を行ったんだろクーリッツ大統領って。」

 「そうそう。でも労働組合には否定的なんだよ、ジェローム。20年の州知事だった時代に警察がストライキをしていたら州兵に鎮圧を命じたそうだ。『誰にも、どこに於いても、いつ如何なる時も公の安全に対するストライキの権利はない』と言ったそうだよ。」


 「ええー、そうなんだ。いやまあ北部の人ならストライキしている最中なら、何が在っても動きそうに無いけどさ。北部の組合は弱いから反発出来ないしな。クーリッツ大統領はウィル的には無しかな?」

 「大統領に成ってそれほど時間は経って居ないしね。それだけじゃ分らないよ、ジェローム。」

 「まあ、でもさ、クーリッツ大統領って自由党なんだよなー、ウィル。」

 「だね、ああでもジェロームの察しの通り、為すが儘経済の人だよ、クーリッツ大統領は。自由市場へ手出しする事は無いと言って居たからね。此れで投機筋も安心してビジネスが出来るだろうね。」

 「神の見えざる手つう人かあ。ヨーアン諸国とは距離は離れているから、向こうの揉め事にも無関心でいられるんだろうな。どう?ウィル、北カメリアに何か動き或る?」

 「まあ、今や電話も電信も在るから、ジュロームの言う海の向こうって感覚は、北カメリアでも少ないと思うけどね。でも懸念事項だったゲルン共和国のインフレも落ち着いたし、キャメル王国への道も開けたから、遅ればせながらだけど北部もプリメラ大陸への道も開けたって事だろう。」


 「そういや此の所、国務長官のフランク氏がモスニア大使館へ良く行っていると言う情報を、ヨークから届けられたけど、ウィルはモスニア帝国から何か聴いている?」

 「多分アレだ、ジェローム。バナン運河地帯を開拓して船が往来出来るようにしたいのだろう。アーリア大陸へ行くにも楽に成るしね。それの交渉だろう。」

 「確かにアソコを船で通れたら楽に成るけどね。ウィルはモスニアが了承すると思う?」

 「交渉内容次第だろうね、ジェローム。まあ、モスニア帝国の事だからカレ帝国も交渉のテーブルに着かせようとするだろうし。国際連盟に入って無いから、他の加盟しているヨーアン諸国への兼ね合いも考えるだろうから。」

 「ああー、そうだよなー。一層の事グレタリアン帝国やオーリア帝国、ゲルン共和国とかも誘って工事すれば良くね?そしたら揉めなさそうだな、ウィル。」

 「いや、余計揉めるだろう、ジェローム。船頭多くして船山に上るだよ。」


 ウィルはそう言うと短い金の髪を左手で軽く整え、大きな右手の人差し指と親指で抓んだ煙草を燻らせて、煙たそうに深緑の瞳を細め眉間と一緒に寄せて顔を顰めた。

 如何やら俺のアイデアはウィルの気に沿わないらしい。

 

 

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