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ロングロング  作者: くろ
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   アリロスト歴1912年   1月




 本邸からの通路をを使ってロッジに戻り、一階のティー・ルームに入って俺は厨房で貰って来た珈琲を飲みゲンナリする。

 別に、砂糖とミルクを適量入れた珈琲は勿論のこと美味しい。

 ロンドから連絡が入って争いが起こりそうな報告が入るとジェロームは俺を本邸の執務室に連れて行き、「楽しい戦争講座」と言う楽しくもなんともない説明が行われ俺はゲンナリするのだ。


 ジェロームってグレタリアン人なのにグレタリアン帝国が嫌いなんだなと俺はつくづく実感する。


 こんな気分の侭でマイケルと会いたく無くて俺は珈琲ミルクを飲んで気分転換をしている。


 


 冬の間、雪の所為で俺も余り外へ出られなかったので、如何にかマイケルと長時間一緒に入れないか考えた結果、疲れる朗読をさせないで良いと言う事に気付いた。

 もっと早く気付けば良かった。ぐっ。

 いや、俺が綺麗なアルトの声でマイケルが読む詩篇を聞いて居たかっただけだったし。

 で、

 行儀が悪いけどベットの上で俺は読書、マイケルは読書をしたり絵を描いたりして、マイケルは日頃と変わらない生活を過ごして貰う事にして、俺も遅れているとジェロームに言われた勉強をして2人で過ごすようになった。




 そんなある日、キャメルの毛布を掛けた膝の上に、ルドアの本を開いてマイケルが読んでいた。

 そして、ポツリと呟いた。


 「僕ね、本当は妹のリズが嫌いだったんだ。此れはジョアンと僕だけの秘密だよ。」

 「う、うん。」


 俺は慌てて頷いてドキドキしながら金色の髪を左耳に掛けたジョアンを見詰めた。

 妹のリズは、マイケルを心配して、領地のカントリーハウスに居る時は、彼の世話をしに部屋を良く訪れていると、父親のウィリアム・ベラルド伯爵から、俺は聞いて居たのだ。


 「ジョアンの知っての通り僕は何時も屋敷の中で絵を描いたり本を読んだりしている。勿論それが嫌いじゃないけど、そうして居るのは僕の身体で出来るのはそれ位だからだよ。」

 「ミック、、。」

 「リズにすれば、僕に外での事を教えて呉れて居るのだろうけど、訪問した先の話や乗馬や社交、旅行の話も実はウンザリなんだ。そして部屋を出る時には必ずリズは言うんだ。元気に成ったらマイクも一緒に行きましょう、ってね。」


 「ミック、、。」


 俺は、『ラゾーフの兄弟』と言う本の群青色の布に金で刻印された背表紙を、強く握り締めているマイケルの左手の甲へ右手を重ねて、苦しそうな彼に寄り添った


 「父にナユカ国へ行くのを頼んだのも僕と良く似た顔をして、健康的な日々を愉しむリズを見たく無かったからなんだ。兄妹愛をテーマにしている本を読んだせいで僕の感情が上手く抑制出来ないや。こんな僕をジョアンは軽蔑するだろ?」

 「ミックを軽蔑なんてする訳ないだろ。俺の古典の師でもあるのに。ミックが苦しかったら俺に言ってよ。俺も苦しい事が在ったらミックに話すから聞いて呉れよ。」


 俺はそう言って小さく華奢なマイケルの身体を抱き締めて背中を摩った。

 幼い頃、眠れない夜に俺の背をジェロームはこうして摩って呉れていた。

 忘れていたそんな記憶を、若草色の瞳に涙を堪えていたマイケルを見て俺は思い出して、昔ジェロームがして呉れた様に、そっとマイケルを抱き締めた。


 暫くして感情が落ち着いて来たマイケルは泣いて照れ臭くなったのか白く小さな両耳を赤くして、「有難う」そう小さく俺に呟いた。



 そんな事が在ってから俺とマイケルの距離はずっと近付いて、俺もジェロームの愚痴を零すように成っていた。

 このロッジに勤めている人達は皆ジェロームを尊敬しているので、下手な愚痴とか言えない雰囲気だったのだ。

 て言っても、俺の愚痴って砂糖ミルクは激マズって事ぐらいなんだよね。


 そう言う訳で、偶にジェロームが開く『楽しくない戦争講座』以外は、俺とマイケルで楽しい冬ごもりの時を過ごせていた。






  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1912年 4月



 

 完全な雪解けは未だだけど、冬の空気が緩んで風に春の気配を感じる様に成った頃、俺にニックからの手紙が届いた。

 ソレを、俺は何時もの部屋で青い厚手のガウンを羽織った拾い主ジェロームから受け取り、近くの椅子に腰を掛けた。

 ニックはルスラン氏とサマンサ夫人の長男でニコラス・ブレードと言う13歳の少年だ。

 俺がプライベート・スクールを卒業した年に、ニックはパブリック・スクールへと入学した。

 両親が美男美女な事も在ってプラチナ・ブロンドにアクアブルーの綺麗な容姿の少年だった。

 5歳も年が離れていると家が近所でも挨拶する位で、強いて遊んだことも無いニックからの手紙に俺は少し緊張しながらクロードから借りたペーパーナイフで封を切って、手紙を読んだ。


 ハァー、ヤッパリか、何となくそんな気がしてた。

 パブリック・スクールの先輩たちからのセクハラが酷いので学校を辞めたいけど、両親に如何いえば良いのか分からないと在った。

 ニックは中肉中背で乗馬やアーチェリーが好きな少年だとルスラン氏が言っていたので、一対一なら喧嘩負けする事は無いと思うけど、あの人等って脳が筋肉で出来ているので俺や俺の友達たちと思考回路んが違うんだよな。

 其処まで親しくない俺に手紙を寄こすのだ。

 案外、ニックは切羽詰まってるんだろうな。

 如何しようと俺が考え込んでいると耳に馴染んだジェロームの甘く低い声が届いた。


 「如何したんだ?ジョアンに似合わない難しい顔をして。」

 「は、はぃ。」


 一瞬俺は悩んだけどニックの貞操の危機だ。

 ギリギリ先輩達の理性が働いている間に、と言う事に俺はした、ニックを助け出して貰わないと。

 こういう時はサマンサ夫人を良く知るジェロームに頼むのが良いだろう。

 俺にも「何で飛び級しなかったのか」と真顔で質問して来るジェロームだし、サマンサ夫人にニックが学校通わなくても済むアイデアを出してくれるかも知れない。

 そう思って俺はニックの手紙をジェロームへと手渡した。


 「全くー、俺が折角サマンサに忠告して遣っていたのに無視するからだ。」


 サッとニックの手紙に目を通すと、そう言って文句を言いながら、ジェロームは窓側に或るライティング・デスクに向かい、クロードに持って来させた便箋にペンを走らせ始めた。

 時折り、動いて揺れる緩く1つに纏めた淡い金糸の髪を、煩わし気に左肩へと払いながら、ジェロームは2通の手紙を書き上げて、ロビンに封書を渡し注意事項を伝えた。

 昔下宿112Bにいたロビンは礼をしてオークの扉から二通の封書を持って出て行った。



 「今はポスアード港からじゃなく、ナディアのニッシュ湾経由でグレタリアンと行き来してるんだよ。ジョアン」

 「もしかしてアカディアも危険なのですか?」

 「いや、大丈夫だよジョアン、一応は念の為さ。」

 「ふふっ、やあ、おはようジョアン、ジェローム、何が念の為なんだい?ジェローム。」

 「おはようございます、ウィリアム。」

 「ああー、一応ナユカ経由でロビンに手紙を頼んだのだ。つうかウィルは自分の家みたいに気楽に入って来るんじゃねーよ。此の部屋は俺の聖域なの。」

 「良いじゃ無いかジェローム。二階に僕が滞在する部屋まで用意してくれてるのに。」

 「それはマイケルの保護者が居ないと駄目だからだろ、全く。そういやウィルの鉱山はどうなるって?」

 「厳しいかもね、今回グレタリアンが武器を供与して居るのがバレてるみたいだよ。まっ、見え見えだったけど。その点モスニアは上手いよね、カレ帝国を使って協力しているから。」

 「位置的に便利だよなー。カレは南部の州と隣接しているから。グレタリアンは如何してもナユカからなら北部を通るし、船で行こうとしても見張りが居るからバレちゃうね。」

 「うん、プリメラ人奴隷解放って言われて反対出来る国は、今のヨーアン諸国に無いからね。僕の所の船もナッシュ港へ着けるように電信を打とう。で、何をそんなにジェロームは急いで手紙を出したんだい?」


 「あーうん、寄宿学校の例の問題でね。」

 「ん?貴族はスクールへは余り行かせて無いだろう。売官で成った一代貴族は別だろうけど。」

 「あー、貴族じゃ無いんだよ。俺の友達の息子が被害受けてたんだ。つう訳で、学校へ通わせるなって言うアドバイス。」

 「僕には男を好きになる気持ちは全く理解出来ないよ。ジェロームが幾ら美人でも僕は友人にしか思えないからね。矢張りパブリック・スクールの弊害かな。」

 「へぇーー、ウィルは同性を好きに成らないんだ。」

 「なんだよ、ジェローム。ニヤニヤして気味が悪いな。成らないよ。」

 「ふーん。覚えて於くよウィル。」


 そう言って、整った顔の唇の右端を微かにジェロームは上げて、綺麗にウィリアムへ微笑んだ。

 あっ、此のジェロームの笑みは何か企んでいる時か、企みが成功した時のモノだ。

 でも確かに、男らしくて色気の或るウィリアムが男を好きになるとは思えない。

 貴婦人にもモテていると息子のマイケルも言っていたし。

 188cm在ると言う高い身長は俺も羨ましいし、マイケルも羨ましがっていた。


 ジェロームは多分セイン・ワート博士と特別な間柄だと俺は思っているんだけど、偶にポスアードの街で一泊して帰って来ると何時もと違う香りをさせているから、良く分からない。

 其処ら辺はジェロームが言う大人の事情って奴なんだろう。

 でもセインと話している時のジェロームが優しい表情をしていたので、それだけでもセインは特別な人だと俺には思えるんだ。

 だって表情を余り変えないジェロームが優しい表情に成るんだよ。

 ソレはとっても凄い事だよね。

 俺もロンドに居る時はセインから良くしてもらったし。


 でもよく考えたら、俺がジェロームにニックの手紙を見せたら直ぐに動いてくれたし、飢えていた俺を暴力的にだけど拾ってくれたし、口や態度は案外と酷いけど、ジェロームも実は優しいのかなって思うんだ。


 ジェロームとウィリアムはクロードが淹れた珈琲を飲み乍ら、パブリック・スクールの在り方について話し合っていた。

 

 ジェロームは互いに同意が在れば、ヤング・ジェネレーションだからノーカンだって言ってるし、ウィリアムは、偶に社交界で見掛けるグレタリアン流な友情はシークレットなブラインド案件にして欲しいって話し溜息を吐いた。

 何処となく嚙み合わない2人の会話の結論は、『強要駄目絶対』、って事だった。

 俺も互いに好き合っているつう但し書き付きでなら許容は出来るかな?

 ちょっと微妙なラインかも?

 此れって先輩たちが寮でやんちゃし過ぎたのを見てきた悪影響だと俺は思った。





   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 オークの樹々が生える林の中で、俺はクロードから的に向かって、ひたすらナイフを投げる練習をさせられている。

 出来れば俺はナイフでは無くて射撃の練習をしたい。

 ナイフを投げ続けて20分くらい経って、クロードにそのことを伝えると耳が隠れる黒髪の頭を大きく左右に振って俺に静かに話し掛けた。


 「照明の少ない所では銃の照準を定めるより、ナイフで敵を沈める方が簡単です。」

 「いや、あの、戦場ではライフルですよね?確か、クロード。それならライフル銃の打ち方を習った方が良いと。」

 「あんな下劣な場所は爆弾の1つでも敵に投げ込めば良いのですよ。それにジェローム様はジョアンを戦場へは出さないでしょう。」

 「ええー、だったら何の為にナイフ投げの練習を?」

 「ジェローム様の傍に付くものがナイフを扱えないで如何するのですか。これはナイフに慣れさせる為の練習です。怪我をさせないようにという命ですから、こういう方法を取って居るのですよ。」

 「あのー、クロード。俺がナイフを扱う練習をしなくてもジェロームって充分強いですよね。大体、貴族のジェロームへ誰かが襲い掛かる事って、あるんですか?」



 俺がそう言うとクロードが顔付を変えて、亡くなったエドガー・ワインドとの戦いの歴史から、ヘクター大佐と言う人に狙撃をされた事、そしてモーランド公爵との戦いをじっくり詳しく話してくれた。

 それを聞いて俺は確信した。

 やっぱりジェロームやクロードやトマスは滅茶苦茶強くて、俺のちんけなナイフ護衛なんて全く、欠片も、必要としていないと言う事。

 プロテクトが必要なのは、ジェロームじゃ無くて、きっと俺だと思う。


 俺がそう言うとクロードがすっきりとした顎に右手を当てて暫く思案した。


 「そう言えばそうですね。では、ジョアン、狩りに行ってみましょか?ナイフで。」


 クロードに取ってナイフは譲れない(ライン)だと言う事も俺は確信した。

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