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ロングロング  作者: くろ
58/85

No58 初恋

  アリロスト歴1925年  2月




 リッチマンに成ったジョアンからスロン製の腕時計を俺にプレゼントし、ジャックに良く似たハスキーボイスで南部から来たプリメラ人に教わった歌を謳って昨年のクリスマスメモリアルにしてくれた。

 ジョアンの歌は最高に嬉しかったけど、腕時計は大切に俺の机の引き出しに仕舞ってある。

 1902年にモスニアで人工ルビーが作られる様になって、腕時計は品質の安定とコスト低減をなし一般にも販売される様になった。

 クロエが人工宝石の商品化成功のニュースを読んで、宝石が安くなるかもと期待していたのに、其処まで値崩れを起こさなかったので残念がっていた。

 腕時計を作る技術は開発したスロン王国が独占しているので、今の所はスロン製を買うのが一番なのだろう。


 でも俺って腕に何かを着けるのって苦手なんだよな。

 色々と邪魔に為るし。

 てな理由を俺はジョンに告げて気持ちだけ有難く貰った。

 で、良かったら毎年ジョアンからのプレゼントは歌が良いと頼んでおいた。

 昔、ジョアンが俺の誕生日を尋ねて来た時に、此れからはジョアンと同じ12月25日を誕生日として祝い合おうと話していた。


 それにしてもクリスマスにプレゼントする風習なんて高々4~50年前の作ったモノなのに変な感じだ。


 俺がクロードが淹れた薫り高い珈琲を飲み乍らそんな事を想い出して居ると、艶の或るオークの扉を開いて、ウィルが例の人好きのする笑顔を振り撒き俺の聖域へ入って来た。

 オークの重厚な扉が開くと暖炉で温まっていた室内の空気が通った風の分だけ冷えて行った。


 「寒いよ、ウィル。早く扉を閉めろよ。」

 「あー、悪い悪い、ジェローム。」


 扉を閉めたウィルは大股で歩いて来て、俺の右向かいに置いてあったモスグリーン色のベルベットを張ったアームチェアーに腰を降ろして長い脚を組み、当たり前のようにクロードへ珈琲を頼んだ。


 「全くウィルは自由だな。」

 「いやー、ジェロームの自由さには僕は負けているよ。そうそう北部の海軍とモスニア海軍とが軽い戦闘行為を行ったそうだよ。」

 「はぁー?何でまた。宣戦布告とか無かったぜ、ウィル。」

 「バナン島へ接岸しようとした北部海軍をカレ帝国海軍と巡行していたモスニア海軍が停船命令後、威嚇攻撃したらしいよ。双方の主張が食い違っているので国際連盟で話し合うそうだ。」

 「つうか、バナン島って元々がカレ帝国の領土じゃん。」

 「植民地がそろそろ必要だと資本家にせっつかれてプリメラ大陸を目指すのに、補給地が必要だったのじゃ無いか?ジェローム。幾度か北部海軍が来てたから、モスニアに頼んだのだと僕は思うけど。」

 

 「ウィル、プリメラって今は係争地ばっかだよ。ゲルン共和国(旧プロセン)から奪った植民地を戦勝国同士で争って居るし、ヴェイト(旧ルドア)から貰う気でいた植民地を巡ってヴェイト(旧ルドア)とも争って居るしさ。戦争しに行くようなモンじゃん。」


 「だから、余計に北カメリア北部も入り易いのじゃ無いか?ゲルン共和国(旧プロセン)の資本家連中も、今は北部に居るしさ。当然、北部連合政府とも資源とかの情報を共有しているだろ?ジェローム。後は、実践じゃないと武器の能力や威力を上手く測れないしね。」


 「つうか、ウィル。一般の人は、誰も戦争を望んでないだろう。」

 「でもジェローム、今回の禁酒法も一般人は望んでなかったと思うよ。まあ北部は孤立主義だから、モスニアと戦争はしないだろ。流石に北部一国ではモスニアと戦っても負けるからね。せめて南部と組まないとな。」

 「南部は今、イラドと戦って居るからな、ウィル。」

 「はぁ、それも一種の公共事業なのかな?ジェローム。」

 「南部は、、、。」




 パトの話だと南部同盟国はキッチリとした階級社会に成っているようだ。

 一応は議会制だけど、アンソニー・デイビット総統が亡くなるまでは、軍中心の保守党政権が続くだろうとの事。

 資産家達がグレタリアンでの貴族階級に成り、元々の北カメリアでの貴族は、オールドと呼ばれて尊敬の対象だとか。

 旧教徒が多くグレタリアン民族主義の強い南部では他の宗教や他民族は生活しづらいだろう。

 宗教戦争の後、新教が国教となり旧教徒には様々なペナルティがグレタリアンでは課され、新大陸北カメリアへ移民として来た人たちの末裔だ。


 北部では先鋭化した新教徒たちの純教徒の末裔たちが実権を握っていたし。



 グレタリアンて手に負えなくなった人たちを島流しにするのが好きなのかな。

 で、グレタリアンが空白にしたイラドを南部の兵たちは果敢に再占領していた。

 グレタリアンにしても、安全に仕入れが出来る南部からの輸入品は必要なので、体制維持に協力していた。

 宗主国と保護国のような関係に見えるけど、グレタリアンと南部が互いに望んでいて作った関係なら、それはそれで在りな関係かな?って思うしかないよな。



 「でも何れグレタリアンもモスニアと争う気だろうしな。そうなったらジェロームも苦手なデニドーア外務卿が出て来て北部と南部をグレタリアンに組ませるんだろうな、はぁー、厄介な爺さんだな。しかし、オーリア帝国から独立した国は、ヴェイト(旧ルドア)と同盟を結んでいって、共産国が増えて行っているだろ?マイクロフト首相は分らないけど、他党から入閣している閣僚は、警戒感が半端ない。そっちの対策が成される迄は、グレタリアンも大きな戦いは難しいな。」


 「ふふっ、グレタリアンらしく商売は別とばかりに、ヴェイト(旧ルドア)とも部分認可で輸出入を再開したしな。国交再開は無理でも通商だけはオッケーって、どうよ?ウィル。」


 「まあ、全く人的交流がないと相手の正確な情報を入所出来ないしな。」

 「そうだけどさ。そういやゲルン共和国(旧プロセン)って内密で、削減した事に成って居る軍人の一部をヴェイト(旧ルドア)に送って訓練してるって話だけど、ウィル、そっちの方がヤバい気もするよね。」


 「だな、ジェローム。でも幾ら制裁措置と言っても、グレタリアンとオーリアが要求した兵士の削減規模は多過ぎるからな。今までゲルン共和国(旧プロセン)が侵攻していた国もあるし、イザ他国が攻めて来られても国際連盟が助けて呉れる訳でも無いし、最低限の兵士は備えて鍛えて於きたいだろう。ヴェイト(旧ルドア)が良い国に見えたなら、ゲルン共和国(旧プロセン)の兵士もヴェイトの考えに染まるだろうな。」


 「今は、やっと内戦中の一部の国を除いて、ヨーアン諸国で流通も増えて経済も廻って来たのに。」


 「プリメラの各戦闘位だと情報が洩れる方が損失が大きいから、余り新技術は使われてないけど、次に大きな戦いが或ったらと思うと、ゾッとするよ。ジェロームは。武器の技術開発の情報はオミットしているんだって。」


 「フンっ。だってさ、ウィル、今市場に出ている製品から、大抵は予測出来るんだよ。人間の発想力とかは。破壊と殺傷力だけ考えているアホな研究馬鹿と技術馬鹿を俺は眠らせたいよ。」

 「はあぁ、人間には此の大地が狭過ぎるのかもな、ジェローム。」

 「ソレは新発見だな、ウィル、ふふっ。」




 「そうそう婚姻話があったんだよ、ジェローム。」

 「うん?ジュリアス皇太子殿下とエレインの婚姻は5月だけど。俺も参列するのはウィルも知ってるだろう?」

 「違う違う、ジェローム。モスニアのレオンハルト3世とオーリア帝国の皇女殿下が婚姻なさるんだよ。」

 「へぇー、俺は、てっきりフロラルスの王女と婚姻すると思ってた。レオンハルト2世には、フロラルスからの輿入れだったよな?ウィル。」

 「まあ、モスニアとフロラルスは血も濃くなって来ているからね。レオンハルト1世の皇后はオーリアの貴族と言われているけど、フロラルスの王族だしね。アルフレッド王太子の娘レティシア王女なんだ。」


 そう言うウィルの深緑の瞳は何処かウットリと夢見る乙女に成って、アルフレッド王太子の事を語り続ける69歳のジジイ。

 

 もうさ、ウィルってアルフレッド信者なんだよ。

 曾祖父さんを救世主と呼んで信仰している危ない性癖のウィル。

 そして転生つうか意識だけをジャックの肉体に放り込まれたアルフレッドに惚れてしまったマジもんの変態でもある。


 ウィルは、ある意味、初恋を拗らせた真っ直ぐ君かも。


 何時終わるとも知れないウィルの話を聞きながら、俺は銀色のシガレットケースから取り出した煙草を口に銜えて、マッチで火を点けた。

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