表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロングロング  作者: くろ
57/85

No57 凪


     アリロスト歴1924年   8月




 ルスラン氏に似ていた幼かったミッシェルは、すっかり淑女に成り、プラチナブロンドの肩に着く長さの髪を左右の側頭部で花柄のリボンで止め、形の良い白い肌の額を見せて、好奇心旺盛なアイスブルーの瞳で俺を見詰めた。


 「お久しぶりです、えーとミューレン氏?」

 「ああー、子供の頃みたいにジョアンで良いよ。俺はどうしようかな、すっかり美人に成っているから戸惑ったよ。久し振りミッシェル嬢。」

 「私も昔のようにミッシェルって呼んでください、ジョアン?」

 「ふふ、なんで疑問形?ミッシェル。」


 それから俺とミッシェルは、会わなかった間の約13年間の話を互いに、シャンパンを飲み乍ら掻い摘んで報告し合った。

 偏屈な長男ニックや暴れん坊の次男ダリウスや鬱陶しい父親ルスラン氏や面白い母親サマンサ夫人の話は、ジョークを交えてミッシェルが語り、俺は4人を知っているだけに可笑しくて、とても楽しかった。


 「あのジョアン、北カメリア北部は禁酒法が出来たんですよね。私達も含め皆飲んで居るけれど、大丈夫なんですか?」

 「あーぁ、うん、大丈夫。お酒の販売を禁止しているだけで、飲む分には違法じゃないから。此の屋敷で出しているお酒は法の施行前に購入していたモノだし、ミッシェルは気にせず飲んでよ。」

 「はい、でもジョアンに聴く前にオリビアさんやシェリー先生と話しながら結構飲んで居るんですよ。くすっ。でもジョアンはあの綺麗なジェローム子爵と一緒に暮らして居て緊張しませんか?幼い頃、私ってジェローム子爵は人じゃ無いような気がして結構、怖かった気がするんです。」


 「ふふっ、俺はジェロームが美し過ぎて緊張はしないけど、怖くて緊張はしていたなー。流石に今は緊張しないけどね。案外、優しいし、まあ、俺が此処まで成長する迄、育ててくれたしね。」

 「そうでした。私が怖いって言ったのジェローム子爵には内緒にしてくださいね。」

 「あはは、うん、了解したよ。ミッシェルは今、大学?」

 「はい、来年卒業なんですけど、遣りたい仕事を決め切れなくて。ジョアンはどうやって仕事を決めたのですか?」


 「んー、俺は成り行き?ジェロームから、今日から俺の小姓になれって言われて、小姓の延長でこの本邸で接客って言うか不要な客を追い返してる。で、大学時代の友人の会社に投資したら、その友人のルイスが凄く優秀で、凄い電球を開発したモノだから、其処で出た利益でまた投資したり?ふふ、ミッシェルの参考には成らないな。でもサマンサ夫人は商会を遣っていたよネ?それは?」


 「それがですね、母はアノ商会は、今の顧客だけを中心に商品を作るから継ぐようなモノでも無いって言うんですよね。粗方は大きな企業にレシピとかも掴まれているから、それと値段で対抗する気も無いし、ってヤル気が無いんですよ。父も母の言う事はいつも正しいって微笑むだけだし。」


 「なんだかサマンサ夫人て達観して居るよね。其処ら辺がジェロームに似ているって思う。サマンサ夫人もジェロームも欲求が薄いって言うかさ。何処か似ているんだよな。」

 「ええー、私の母とジェローム子爵がですか?」

 「うん、そう。」

 「そうかなー?新聞を読んでこの話は酷過ぎるわ!って、良くプリプリ文句言ってるし。」

 「まあ、ジェロームの文句はウィリアムの事ばかりだから、其処は違うかもね。」

 「ふふっ。」



 それから、ミッシェルと俺は互いの母親サマンサとジェロームの変だと思う所を、気が付いたら長い間、話し込み、気が付いたらバカンス期間の殆どを共に過ごして居た。

 サラームとも合わせたり、久し振りに会いたいと言うので、ミッシェルの下宿112Bの向かいに住んでいたミューレン爺を共に訪ねてトーエン・ビレッジへ出掛けて行ったりして俺は気儘に過ごせた。


 ミッシェルは俺の生い立ちも知っているし、俺もミッシェルの家族を知っているし、ミッシェルも言って居たけど、共に居て話すのがとても楽なのだ。

 話さなくても近くに居ると安心出来てしまう。

 妹みたいな感覚なのかなって思ってもみたけど、ミッシェルがロンドに戻る日が近付くと、俺は離れ難く成っていた。

 

 それはミッシェルも同じだったらしくて、ルーサーに頼み込んで内緒にして貰って、別れの日まで夜は共に俺の部屋で眠った。


 初めてミッシェルが俺の部屋に泊った翌朝ルーサーが、サマンサ夫人にだけは話して於いた方が良いよと忠告されたので、サマンサ夫人を訪ねて行くと俺と2人切りなった後、頭を左の手の平でパシリと殴られた。


 「ルーサーからミッシェルはジョアンの部屋に泊って居ると聞かされていなかったら、私は探し回っていたわ?ジョアンだって突然ジェロームが何も言わずに居なく為ったら心配するんでしょう?」



 俺は怒っていても綺麗に整ったサマンサ夫人の真剣な表情を見て、自分の軽率さに歯噛みした。

 俺は自分とミッシェルの事しか考えて居なかったのだ。


 

 「まーね、ジェロームの日頃の行いを見てたら仕方ないわよね。でも、ルーサーの話を聞いて、私の元迄来たので良しとしましょう。ジョアン、ミッシェルを大切にしてくれる?」

 「は、はい。勿論です。それと勝手にミッシェルを外泊させてしまってごめんなさい。ですので、ロンドへ帰国する迄は、夜はミッシェルを俺の部屋に泊めたいです。良いですか?サマンサ夫人。」

 「、、、チャッカリして居ると言うか、なんて言うか。流石、ジェロームが育てただけはあるわ。まあ、今更駄目という訳にも行かないし、仕方ないわね、ジョアン。さて、ルスランを、、、、。」


 そうブツブツとサマンサ夫人は口に出して、組んでいた右腕を上げて自分の右頬へと掌を当て、考え込み始めた。

 俺は軽く頭を下げて、サマンサ夫人が滞在している部屋を辞して、自室へと戻りルーサーへ感謝の言葉を伝えた。


 「いいですよ、それ位。僕はジョアンに恩が有るので。偶にポカ遣りますよねジョアンは。」

 「うーん。ミッシェルとの事は、かなり舞い上がっていたんだ。はぁ、でもサマンサ夫人は相変わらず優しいな。お母さんてやっぱりサマンサ夫人みたいな感じなのかな?ルーサー。」

 「え?ミッシェル嬢と婚姻成されるなら、サマンサ夫人がジョアンのお義母様に成られるのでは?」

 「えっ?」

 「ん?」


 俺はルーサーと顔を見合わせて互いに頭を傾げてから、此の状況を理解して同時に2人して噴き出した。







 


        ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





   アリロスト歴1924年   10月





  恋をすると男は変わるのか?

 あの呪われた男パトと同じ様に。

 て、訳で最近のジョアンは多忙を極めていた。

 クレソン社が映画フィルムの特許を盾に9社でトラストを組み、その中に入っていない者達には高い特許使用料を請求した。。

 それに反発して居る者達や中小映画会社は映画を撮りたくても撮れない状況だったので、健全な市場を考えたジョアンはウィルを頼り、カレ帝国に頼み広大な土地を購入し、土地由来の名前ポリウッドランドとし、自由に映画撮影出来る私有地としてジョアンは用意した。


 それまでの暗く湿潤な北部では、フィルム映像の撮影に電球を使ったりと苦労して居たけど、西部の乾いた空気と長時間の明るい日光は映画の撮影に向いていた。


 クレソン社が違反した者たちを探偵雇ってフィルムを回収したり、次々に裁判を起こして撮影会社を立ち行かなくする遣り方に『ジョアンがキレる』状況に成ったのだ。

 俺もつい面白がって「ヤレー!ヤレー!」って応援しちまった。

 てな訳でジョアンは映画撮影専用場を作ってしまった。

 クレソン社の特許料回避の為、カメラやフィルムはモスニア産を使用したよ。





 


       ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1925年  1月




  グレタリアンが税金を集めて軍需技術革新と軍拡に血道を上げつつ、マイクロフト首相は失業保険法の法案を通した。

 上院の力を直ぐ為の解散総選挙後、不動産課税を導入されたので、対策を行えなかった貴族や地主達は税を支払う為、屋敷や土地を手放して行った。

 長引く不況で力をつけていた金融資本家達は、売りに出されていた欲しいカントリー・ハウスや土地を買い漁って行ったよ。

 まあ、労働党の真のスポンサーが姿を現した感じだよな。


 つうかさ、金融屋が国内に投資すれば景気は浮上したと思うのだけどな。


 悪名高いグレタリアンで第二のドレイン銀行や国内最大のモリアーニの経営しているガイア銀行とかが新たな権力者の座に就いたって俺は勝手に思っている。

 表は金貸しの顔をしているけど、本業は他人の金を使う投機屋だから。

 

 17世紀から其の兆しは見えて居たけど、今やロンドは金融業界でのルールを決める場所として、完成していた。



 そのモリアーニ家は徹底した血族主義なので、其処ら辺が兄や亡き父とも気が合ったのだろう。

 ゾッとする話だけど、俺とか女なら今頃は兄の子を産んでたかも。

 国教会がグレタリアンの呪いを解く為、少なくとも2親等迄の婚姻を禁止した時は、貴族の反発が強くてあわや又、宗教戦争かって状況だったけど、貴族の子供が出来難い状況を説明されて矛を収めたとか。

 そして法律の条文で親族婚が禁止されたのは1870年辺り。

 国教会が禁止したのが18世紀末だから、世俗での明文化に時間が掛かったモノだ。



 そんな血族主義なモリアーニ家は北カメリア北部とオーリア帝国、ゲルン共和国やグロリア王国に息子達を配している。

 モスニア=フロラルス帝国は外資の金融機関を廃しているので入り込めなかったそうだ。

 オーリア帝国とグロリア王国では、息子達も貴族の席へ座れたのだけど、グレタリアンでは鉱山や製造業で身を起こした資産家が貴族へ叙勲されたりもしているけど、金融資本家は貴族には成れないと言う暗黙の了解が在った。

 おまけにガロア教徒だしな。


 で、モリアーニは嫡男をグレタリアン貴族にしたいらしい。

 枢密院とスチュアート4世が拒否ッているので無理そうだけど。

 でも、あんなにモリアーニ自ら力を削いだグレタリアン貴族なんて成りたい者なのかね。

 まあ、ガロア人に成れないモノへの壁を壊して行きたいのかも知れないけどな。

 君主制が未だ続くようなら、次の世代でモリアーニ家もグレタリアン貴族に成れるとは思うけどな。



 相変わらず身分主義なスチュアート4世は、デバーレイ副首相や自分の教育係だった妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿の話を聞いて裁可を下したり、対外的な公務を熟して居る。

 つうてもデバーレイ副首相も兄と同じ76歳だし、ぬらりひょんデニドーア外務卿は85歳だった気がするんだけど、そろそろ若手と交代した方が良く無いか?



 近頃は、見目麗しい青年よりも、見目麗しい女優とのアバンチュールを好まれるように成ったスチュアート4世をロンド市民達は、やっと真面に成ったと喜んでいるそうだ。

 えっ!?

 それで良いのか?ロンド市民。

 前の皇帝たちよりも議会に口を出さずに、強権的でないオサレなスチュアート4世は、意外にも庶民達に人気が在ったのだ。

 ここら辺はパトやノルセー伯爵、愛人キース・ブランのプロデュース能力のお陰かもな。

 48歳にも成ったスチュアート4世がお馬鹿な発言をしないように側近も周りを固めているけどさ。



 夫のスチュアート4世みたいに成長させたくないと考えた妻のエリザベス皇后は、ジュリアス皇太子をスチュアート4世から引き離し、徹底した皇族教育をしたとか。

 苦労人なエリザベス皇后は、グレタリアンに亡命して来た芸術と美少年を愛し過ぎた兄のバンエル国王ルーラリッヒ2世も、遊び人な夫スチュアート4世もスルーして、堅実に国母として頑張っていた。

 うーん、マジで苦労人だよな。


 でも教育係に又、妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿を置くとか。

 スチュアート4世を育てたジジイだぞ?デニドーア外務卿。

 まあ、国内貴族だけでなく、ヨーアン諸国にも顔の利くデニアード公爵家の後ろ盾は、必要だったのだろうけどさ。


 だからジュリアス皇太子はロリコンに。

 いや、今のエレインの年齢は19歳に成ったらしいからロリコンじゃあないけどね。


 そのジュリアス皇太子と兄の娘エレインが今年の5月に婚姻式を執り行う。

 俺ってもう行く必要無いなって思ってたのだけど、兄から来いって言われたので仕方ない。

 アホな、嫌、愛情深い兄のお陰で二重国籍なんてモノを持たされた所為で、面倒なグレタリアン貴族としての縁は切れない。


 しかしまあ、こうして他のヨーアン諸国とは違い、内戦に成る程の混乱も無く、グレタリアンでは権力交代がじんわりと進んだ。

 国内的にも対外的にも判り難いだろうけど。


 マイクロフト首相は後のグレタリアン史に、選挙権の拡大を行い、労働者に健康保険や失業保険そして年金を作った素晴らしい政治家として記されるのだろうな。

 この凪のようなグレタリアン革命は秘されて。


 俺はロンドからの報告書を読み終え、クロードが淹れた薫り高い珈琲に口を付け、熱さと苦味を味わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ