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ロングロング  作者: くろ
53/85

No53 気のせい



    アリロスト歴1924年  4月



 若き画家マイケルの遺作、って銘打って、グレッグ出版の禿げジジイ会長が、泣ける煽りの小話と共に、シェリーが著した『青い鳥』を出版した。

 広告って大事。

 それ程売れるって内容でもないのに、良く売れているそうで。

 マイケルの住所は未亡人デイジーが居るグレタリアンのウェットリバーにしているよ。

 勿論ね。

 北カメリアの此の売れ方に、きっと「私の力じゃないのに。」ってシェリーなら不貞腐れそうだ。

 処女作『青い火花草』の時みたいに。

 あの時は俺の探偵デビューって奴で兄が大枚叩いてシェリーの本を宣伝していたっけ。


 もうシェリーはタイトルに「青い」って言葉をNGワードにすれば?




 当然だけどプライベートな不幸など気にも留めて呉れずに世の時は流れていた。






 俺は、銀縁眼鏡を掛け研究職な風貌ををした、真面目腐った補佐官クラークから受け取った報告書をパラパラと繰った。




 モスニアがグレタリアンとは繋がりたくないと拒否ッていたフロラルスの海峡とグレタリアンが海底ケーブルでやっと繋がった。


 『優しくするから。』


 そう猫撫で声で純なモスニアを騙くらかしてナントカ契約に漕ぎ着けた。

 兄、グッジョブである、と、取り敢えず言って於こう。


 なにやらモスニアからは山程の付帯事項をつけられたそうだ。

 グレタリアンは他国から信用無いからな、仕方ない。


 でもこう言う新たな通信技術が出来るとヤバめな戦争が起きる気するよな。

 前は無線技術だったけど。

 無理矢理フロラルスと繋げなくてもランダ国と繋がってるんだから良くね?

 とか、俺は思って居るんだけど、兄とぬらりひょんデニドーア外務卿の碌でも無い世界戦略には、必要なんだろう。

 つうか、モスニアからフロラルスを引き剥がしたいのが見え見えな気もするけど。

 案外トルゴン帝国をバラバラに分割したのって成功だとかグレタリアンは思って無いよな?

 思って居たらヤダなー、俺。


 当然だけど独立した国って揉めている。

 国内の利害調整ってマジ難しいから、短気な人々は直ぐに物理バトルに移行する。

 トルゴン帝国も異民族・異宗教を無理奴併合していただけだから面倒だって分っていた筈なのにな。

 中にはチーズとバロキアみたいにくっ付いてチーズバロキア共和国に成ったり、大戦後に国際連盟が大雑把に造った国セルアート王国は、3つの国の民族から為り、議会でロマン語を使うかキリル語を使うかで揉めて発砲騒ぎが起きたりと、前途多難であった。



 グレタリアンだって4王国はガッシリ纏まって1つじゃないからな。

 5王国だったのだけどモーランド公爵が蟄居の後、亡くなったのでスチュアート家に統合され、4王国に成ったのだ。

 エイム公爵家とデニドーア公爵家とノーロック公爵家は嫡男も居るので、もう暫くは吸収合併されずに済みそうで何より。

 取り敢えずグレタリアンでは、先の3つの公爵領はカントリーに区分されている。

 確か兄はノーロック公爵とも仲が悪かったと聞いたけど、もしや兄って同格な相手を許せないタイプなのか、はたまたノーロック公爵もデニドーア公爵の様に性格が悪いのか。

 うん。

 両方か。


 てな事を考えたら、乱暴に3ヶ国を1つにしようとか出来ないと思うのだけど、実は面倒に成っただけだったりして。





 さて、マイクロフト首相を含む一部の下院議員の皆様は、上院『貴族院』の力を削ぐ為、世論に訴えてみたり、自分に賛同する貴族を増やしてもっと増やすぞ!と上院を恐喝したりと宴も酣。

 そして国民に信を問うと解散総選挙なんてモノをやって、「えー、去年選挙したじゃん。」と一部、俺の様なへそ曲がりからは、罵詈雑言な訳なのだけど。


 実は、イラド戦て上手く行って無いんだよな。

 植民地のイラド人の兵はサボタージュ気味だし、ゲリラ戦を遣るイラド兵も慣れて技術向上目覚ましいし、住民が反グレタリアン感情の高まりが大きくて、北カメリアの南部連盟軍も厭世的な気分で、ベルガーガなどなど、とても今までの植民地を解放するって目的が達成出来ていない。

 グレタリアンから見れば解放でもベルガーガ側から見れば再占領な訳だから、反発は当たり前。


 まぁ、此れを上院側に突かれ、本当に年金や失業保険の為なのか?

 てな、論陣を張られて労働党の大勝利為らず。

 「お前が言うな。」

 つうてホリー党に返せば良かったのに、と、俺は思うのだけど。


 まーでも一応は第一党に成ったので、マイクロフト首相内閣はアップを始めた。



 議会法を改正して予算審議には上院手出し無用にした。

 上院は予算案の否決、修正する事は出来ない。

 その他の法令も3会期引き続き可決すれば上院が否決しても法律として成立する。

 下院の任期は5年、歳費は400ポンドを支給する。


 此れで、議員は持てる者の義務では無く、職業と規定されたのだけど、案外に兄たちは素直に上院の力を削ぐ法案を通させたな?と俺は少し首を捻った。

 相変わらず安定のデバーレイ副首相とぬらりひょんデニドーア外務卿だった。

 なんとアノ、ダブルアイアンの片割れ鉄仮面ヒースが保健相になった。

 鉄の女セーラと統計学で遊んでいるモノと思って居たけど、確りまだ議員でも頑張っていたのか。



 俺はロンドから来た補佐官クラークから渡された報告書に目を通して、思わず呟いた。



 「しかし、クラーク、今回の報告書の量は多いね。」

 「はい、一応は税制が動くので、此方をジェローム様の方で処理して欲しい、とエイム公爵から言付かりました。」

 「了解。結構コレだと国の予算が集まりそうだよネ。」

 「ええ、ジェローム様。海軍へ予算を可成り廻しますね。年金と失業保険はスキームをほぼ作成済ですので、其処までの予算は使いませんので軍事費に行くでしょう。」

 「げっーーだな。マイクロフト首相は戦争を嫌がっているのじゃ無いのかよ、クラーク。」

 「そうですが、だからと言ってグレタリアンが負けっぱなしと言う訳にも行きませんよ。それにヴェイトも海事に研究費を注ぎ込んでいるようですしね。ふっ。」


 「クラーク、本音を言っていいぞ。」

 「もう、ジェローム様には敵いませんね。アーサー・バレン植民地相とデバーレイ副首相とが絵図を描いてます。まあ、失業者対策にも成りますから。それにマイクロフト首相も勝手にヴェイトを国家として承認しましたからね。此れからマイクロフト首相はペナルティを支払って貰わないと。」


 「何?あの承認ってマイクロフト首相の独断だったの?」

 「ええ、後からあの承認はなし等と国として言えないでしょう?」

 「ソレって他の国際連盟国が驚いただろうな、クラーク。」

 「外務は大変だったと兄のヒューイは申しておりました。オーリア帝国とグロリア王国は怒っていたらしいですね。マイクロフト首相は果敢に色々と挑戦されるのですが、外交は不得手のようです、ジェローム様。」


 「つーか、クラーク、絶対に外交を任せたら駄目な人だろう。うん、でも、やっぱりクラークは性格が悪いよな。」

 「ふっ、気のせいですよ、ジェローム様。」



 クラークは、細面の顔に掛けた銀縁眼鏡の細いフレームを、右手の指で軽く押して位置を整え、澄ました表情でクロードの淹れた薫り高い珈琲へと口を付けた。

 くそつ。

 メッチャ、クラークにムカつく。



 「でもクラーク、結構税金を取られるから富裕層は阿鼻叫喚だろ?」

 「そうですね。事前に準備出来ていない方は大変でしょう。土地を手放す方も多いでしょうね、ジェローム様。」

 「そして、手放した領地を土地を持たなかった新たな資産家が買うのか。北カメリアの土地の広さを見ているとグレタリアンの農園とか買う気がしなくなるな、クラーク。ジョアンが言うには、西の方は駄目だけど、ここら辺は土も豊かみたいだし。」

 「そこは、歴史が違いますからね、ジェローム様。私は、狭くてもグレタリアンの方が好きですよ。まあジェローム様に私の好み等、不要でしょうが。」

 「つーか、マジでクラークに腹が立って来たわ、俺。」

 「ふっ、気のせいですよ、ジェローム様。」

 「チッ!」



 俺は、舌打ちして、クラークから気取って差し出された封書を受け取り、蝋を切って中の手紙を取り出した。



 「えっ、クラーク、やっぱり婚約するの。ジュリアス皇太子とエレイン。」

 「はい。エレイン様も18歳に成りましたので、そろそろ婚約を発表しても良い御歳かと。」

 「ふーん、まあ俺は世の中で婚約するのが何歳とか分からんし。しかし、良く4年もお庭デートで我慢したよね、ジュリアス皇太子って。27歳で既に仙人の域に到達して居るとは。とてもスチュアート4世の息子とは思えないよな。」


 「お二方ともグレタリアンの古代史が御趣味で、偶にヒースやムーアに或る遺跡を見学を成されたり、古代史の編纂を共になさってますよ。とても和やかで、お2人を見学されている皆様も微笑ましそうになさってました。」


 「てか、発表前にジュリアス皇太子とエレインのデートを公開してるじゃん。兄の封書の報告は要らなくね?」

 「ふっ、お若いジュリアス皇太子殿下やエレイン様が、引き籠りのジェローム様じゃあるまいし、庭園で散策だけなんて有り得ませんよ。」

 「おい、クラーク、お前は俺に喧嘩を売りたいんだな?」

 「気のせいですよ、ジェローム様。では、私は急ぎますので、残りの書類にも目を通して於いてくださいね。失礼します。」



 クラークはそう言うとアームチェアーから立ち上がり、ジェケットの襟を整えクロードからステッキとソフトハットを受け取って、艶の或るオークの扉を開き、姿勢よく大股で歩を進め、俺の聖域からヨークへと向かった。

 



 仕事が出来るんだけど、年々俺への扱いが雑に成る、生真面目が服を着たように見えるクラークへ『ボケ』とか『眼鏡割れろ』等と呪いの言葉を吐いて、俺はクロードの淹れた薫り高い珈琲の薫りと苦味を味わって、気分をリセットして居ると、艶の或るオークの扉を開いて、リセットボタンをキャンセルさせるウィルが俺の聖域へ、にこやかな笑顔で入って来た。



 「ただいま、ジェローム。今日も表情が硬いよ。」

 「お帰り、ウィル。能天気な奴が来たからな、気を引き締めただけだ。」

 「まあまあ、偶には息抜きに映画でも観に行こうよ。ジョアンを誘って。」

 「ウィルは元気だな、どうせヨークだろ?ジョアンと行って来いよ。」

 「一回観たんだけど良い映画だったんだ、放浪者と捨て子の物語でさ。それがジェローム、喜劇だけど泣けるんだよ。」

 「へぇー、ウィルは恋愛ものじゃ無いのを観るんだな。でも、いいや。俺、1度クレオパトラって奴を観たんだけど、スゲー目が疲れて後半は目を閉じてたんだよ。」

 「本当にジェロームって爺臭いよな。こう新しいモノに感動が無いって言うかさ。」


 「いや、これだけ日々、新発見だの新開発だのって言う記事が紙面に踊っているんだぜ、ウイル。いい加減に面倒になるさ。俺は、クロードの珈琲や此のロッジを飾る家具が有れば十分なの。それにウィルみたいに俺は彼方此方に投資もしてないしな。」


 「ジェロームが、そんなのだからジョアンも友人のアーベル・ルイスと後2人の友人にしか、投資していないんだな。色々とリターンの大きい所もあるのに。」

 「まー、でもソレがジョアンの判断なら仕方ないだろ。ウィルこそヨークの熱気に当てられているんじゃないか?ロンドでは、それ程、投資好きにも見えなかったけど。」

 「んー、そうかも知れないな。グレタリアンでは、貴族の付き合いとしての投資ばかりだったからな。兼ね合いを考えず、自由に投資するのは楽しいよ。今の北カメリア北部は資金を動かすと、リターンが在るからね。」


 「それは、余り健全な状況じゃないな、ウィル。つっても、此の状況で如何規制を掛けて良いのかは、俺も分らんけどさ。マジで投資して於きたいモノだけにしておけよ。」

 「ヤバい?」

 「分らんよ、そんなの。ロンドに居た時は、株も買って居たけど、北カメリアじゃ、指標になるモノが見付からないから、自社株しか買って無いよ。結局はショーン・キャメロン大統領は外資の規制も掛けなかったし。やっぱり自由党って経済は、『為すが儘』政策なんだな。」


 「まあ、それでないと自由党とは呼べないしな。そうだなあー、結構僕も資産が増えたから、株や投資先を整理してみるよ。僕はジェロームの危険察知能力は、信用しているからね。」

 「ウィルに其処ら辺を信用されても嬉しくは無いけどね。」



 そう言ってウィルは目尻に横皴を寄せ、深緑の瞳を細め人好きのする笑顔を浮かべ、喪服に映える短い金の髪を右手で整え、俺に向き直って大きな左の手の平を差し出した。

 俺は女神の彫金が施されたシガレットボックスを開いて、カレ産の細巻の葉巻を取り出し、皴の深く成ったウィルの手の平へと投げ渡した。


 もう直ぐロンドでは、薔薇の咲き乱れる5月に成る、

 そして6月にはクロエ達も来る。

 兄もシーズンに来てみるか電話をしてみよう、まあ無理だろうけどな。



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