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ロングロング  作者: くろ
49/85

No49 セフティーネット



     アリロスト歴1923年  9月



 何だかんだとウィルの悪巧みにより、北部の中央政府の連中と遣り取りさせられて、俺って自由党に組み込まれた気がする今日この頃。

 俺は、自由でも国民でも民衆でも無いのだけどな。

 ショーン・キャメロン大統領は、選挙公約通りに棍棒外交は止めカレ帝国と通商交渉を行い、序に禁酒法が或るから、国境や北カメリア北部の海域での酒の臨検をする許可を得た。

 身柄の拘束や押収品については、少々揉めたようだけど、裁判時にカレ帝国の弁護士を付ける事で、同意した。

 新たな国&他民族からの移民が多い北カメリアでは、揉め事と起訴がメッチャ多くて、ドンドンと裁判を熟すんだけど、いい加減て言うか、ほぼ確定裁判だ。

 検察側の証人も有罪にする為、集められているので、裁判中に逆転無罪なんてモノも殆どない。


 こんな乱暴な裁判が許されるのは、北部ではグレタリアンの貴族や議員特権と同じく、金持ちは起訴されない、つうか、そもそも捕まらない。

 って、言う分り易い理由だ。


 とある資本家は、「私のポケットには、議員を何時も10人は入れている」と嘯く。

 グレタリアンでは、二回目の選挙法改正で、有力貴族の懐中選挙が無くなったと言うのに、ヤレヤレだよ。





     ※※※※※※※※※※※※※※※※


 



 俺は18年ぶりで、ロンドに或る南セントラルの兄の執務邸に訪れている。

 兄とジャックの愛の巣だ。

 って言うと、ジャックが怒って「違う」って拗ねそうだ。


 バカンスも終わりセインも仕事に戻ったので、兄の顔を見にロンドに戻ってきた。

 駅から、遂いつもの下宿112Bへ行って貰いそうに成って、俺は苦笑を漏らしてから、南セントラルにある元男爵邸へと馬車の御者へ向かわせた。


 ロンドも蒸気自動車の乗り入れ許可を出す法案が通りそうだったのだけど、兄を筆頭にぬらりひょんデニドーア外務卿や他の有力貴族が反対の意思表示をし、学者たちに狭いロンドで自動車を乗り入れた場合の混雑と消費時間、そして事故発生率の高さなどを上げて、ロンドの交通は今まで通り馬車や馬での通行のみとなった。

 お陰で城壁の外から近郊州の地域は滅茶苦茶住宅も増えて発展した。


 まあ、蒸気機関車や地下鉄、工場地には乗り合いバスなんかも走っているので、自動車を買えないか労働者層には、余り関係もない話。

 ゆとりの或るミドルクラスには評判は悪いけどな。

 文句を言ってきた産業界には小型化と音と煤煙の低排出の要望書を出したそうだ。

 此れって絶対に兄が蒸気自動車嫌いの俺を想定して動いたんだろうなと推測した。





 情報や電話・電気など素材で独占企業も掌握している兄は、本当に世界を征服するやも知れない。

 嫡男のフレデリックが今や兄の代わりに表に出されている所為で求婚カードが一杯来るらしい。

 リトル・エイムのバージンは誰の手に。

 兄はフレデリックが婚姻しても良いし、しなくても良いって言ってたし。

 婚姻して後継が出来た場合はフレデリックに。

 後継が居ない場合は動産以外はシルビアの産んだ子に譲るって取り敢えず遺言書を認めたと話した。

 そうか。

 兄も遺言書なんかを書く年齢に成ったのか。

 俺は、74歳に成った目の前に座る兄をしみじみと眺めた。


 俺と同じ淡い金糸の短い髪をやや左寄りから分けて後ろへ流してセットし、シャレた感じに鄙びて、エロ気も消えて、兄は綺麗な頑固ジジイな風貌に成って居た。

 きっと若い人等には怖がられているんだろうな。

 綺麗なジジイなのに。


 エロ気も消えている筈なのに、俺を見詰める兄の瞳は相変わらずウットリとして甘い。


 「、、、それでジェローム、北カメリアの北部と南部は統合する気配はあるかい?」

 「今の所は。ただ禁酒法実施前に話し合いを持ち、その後プリメラ人奴隷の事で、互いに合意を取り付けました。裏で、ですけど。共通の敵国と戦争でも無いと、既に価値観が違って来ているので、1つに成るのは難しいと思います。グレタリアンも南部に気を使っているみたいだし。」


 「ふ、まあね。イラドへ共に兵を出しているからね。マイクロフト首相が大きく軍を動かすのを嫌がっていて、その所為で周囲も苦労する。北カメリア北部のキャメロン大統領もカレ帝国や南カメリアだけでなく、ヨーアン諸国にも独自の通商条約を新たに結ぶ為に忙しく外交官を派遣しているな。」


 「みたいですね、兄上。そう言えば外交って言えばエデリアナの地は、どうなったんですか?」

 「ああ、デニアード外務卿と一緒にモリアーニと話をしている。どの道、現在住んでいるタブロ民族を、追い出す訳にも行かないからな。グレタリアンが新たに造ったクイラ王国とトランス王国に話をしている最中だ。私だけでなく、元ヤング大統領もデバーレイ副首相もモリアーニから、戦費を賄って貰って居るからな。無碍には出来ない。」


 「全くモリアーニなんて、面倒な人に兄上も借りを作って。」

 「だが、モリアーニの想いは、私も父も理解出来るのだよ、ジェローム。もし、エイム公爵領の地が奪われていたら、私も何をしてでも取り返そうとするだろうからね。」


 「俺には、そう言う感覚を理解するのは難しいですね。」

 「ふっ、ジェロームには私が余り動けない分、動いて貰って居るから、それで十分だよ。北部はジェロームに任せ、モスニアはシャルル・ペリール伯、フロラルスはウィリアム・ベラルド伯、旧ルドラはハンナ・マローズ。覚えているかな?ルスランを探しに来た旧ルドラの女性だ。そして、オーリアを含めたゲルン語圏は息子のジャックとメアリー・グリーンに任せる。」


 「ええ?メアリー・グリーンと兄上は知り合いだったんですか?」

 「ああ、ギール国王夫妻が亡くなってから、連絡を取り合っていた。向こうも亡くなったエリスの様子を知りたがっていたからね。ジェロームが北カメリアに引っ越してから此方に来て貰って、オーリアで暮らし足場を固めて貰った。」


 うう、ジャック。

 ジャックの初恋の女性の名をこうして又、俺が聞くことに成ろうとは。


 「あ、兄上は、もしかして世界征服を目指す為に情報網の構築を?」

 「はっ?ジェロームは何を馬鹿な事を。」

 「あははっ、まあ、そうですよね。兄上がそんな面倒な事をする訳が無いか。」

 「当り前だ。私がこうしたモノを作ったとのはジェロームのセーフティーネットだ。」

 「え?俺のセーフティーネット?」

 「ああ、情報と交通の革新が起きて、何が起きるか分からない時代に成ったからな。ジェロームに危機が迫った時に、いち早く情報を得て対応する為だっ!それを、、、。」

 「はぁ。」


 「あのデニドーア外務卿めぇー。この計画を掴んでいて。くそっ。モリアーニに出させた金がジェロームの為のモノだから着服になるとか私に言っ来て、訴えられたく無かったら此の情報網をグレタリアン外交で活かして下さいと、ニンマリと笑うのだ。己、デニドーアっ!その代りにモリアーニの一件は片付けて差し上げましょうと言いやがるのだ。」


 要するに、此の兄が妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿に利用されたのだ。

 兄も中々の悪党だが、その上を行くぬらりひょんデニドーア外務卿。

 世に公爵家は他もあるけれど、エイム家最強と思っている兄が、唯一同格と認めている由緒正しきデニドーア公爵家。


 兄を揶揄って、心底楽しそうに笑う妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿の顔が、俺の目の前に浮かんだ。

 俺は悔しそうに臍を噛む兄の表情を見ながら、デニドーア外務卿の引退までは、兄の苦悩は続いて行く予感がした。

 てか、80歳は優に超えてるでしょうが、ぬらりひょんデニドーア外務卿。


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