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ロングロング  作者: くろ
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No46 ラジオネーム



      アリロスト歴1922年   5月




 北カメリア北部政府は、主要な箇所を全て電話線を開通させた後、民間企業へと電話を引く権利を売却し、投資及び投機をより活発化させた。

 煩い話題序に、初めはウンともスンとも聴衆に反応が無かったラジオ放送も、生演奏を放送する技術が出来て、それが流されるように成ると、一気にリスナーが増えて新たなメディアの花が開いた。


 「ふーん。」

 「ラジオを置こうぜ、ジェローム。

 「ラジオや蓄音機の聞きたい奴は本邸に行け!」


 と、俺は言い、主にウィルを俺の聖域から追い払うのを此の所の日課にしている。



 なんでも先月ラジオネームは、革命戦士ローソン代表って言うお便りが在ったそうだ。


 『世界を革命する為に決起せよ。場所はレッドスター広場、世界中の同志諸君、集合せよっ!』


 by ヴェイトより愛を込めて、ローソン。

 日時と場所をはっきりラジオで告げて各国に居る同志へ呼び掛けたローソン代表。

 すわ、行かねばっ!

 各国に居たローソン代表シンパが駆け付けようと出国しようとした先で、待ち構えた各国の憲兵が同志たちを次々捕縛して行った。


 こうして、世界同時革命は不発に終わった。




 「どうよ、この情報!」と言わんばかりに、勝ち誇った表情を浮かべる忌々しいウィルへ、俺はテーブルの下で蹴りを入れて遣った。


 全く、面倒な時代になったモノである。

 きっと、その放送を知った直後、北カメリア北部連合政府も、ラジオ放送についての緊急会合を開いただろう。



 そんな北カメリア北部で『移民規制法』が策定された。

 新技術の導入で工場での機械化も進み、新たな労働者を必要としなく成った事が大きい、と俺は見ているのだけど、行き過ぎたカメリアン主義ではないか、とみている人も居るとセインは話していた。

 まあ、元はそう言う議論も当然あったのだろうけど、人手不足を資本家に請われたら、幾ら有力な政治家の支援者であるヨーアン人種でグレタリアン出身の新教徒であっても、利益の為にスルーするだろうし、その支援者の意見を受け入れたと言う事は、人手が足りたと言う事なのだろう。

 世の中、銭だって言う金ぴか時代だからな。


 如何やら南部の方も人手は余っているらしく北部の連合政府と話合い、南部から逃げていくプリメラ人奴隷は、秘密協定で北部に受け入れる事にしたそうだ。

 まー、内戦迄起こした案件だし、プリメラ人奴隷も自分で行く分には、どちらの政府にも負担が掛からないって言う、投げ遣りな対応である。

 好景気が続くと賃金の安い単純労働者が減ってしまう、と言う事もあるのだろう。

 今でもホワイトカラーに比べるとブルーワーカーは低賃金だと思うけど、獰猛なピラニア種には見えない事みたいだ。



 そして禁酒法は9月から、プリメラ人・婦人参政権は6月から施行される。

 えらくバタバタと施行するなと思ったら、7月は大統領選だったりしているので、もう施行している州もあったりしていた。

 禁酒法も婦人参政権も運動自体は古いもんなー。

 同列に扱う気はないのだけど、禁酒法の活動している女性活動家は婦人参政権活動と並行して遣って居る事が多いモノで、遂、俺も並べて考える様になった。

 

 クロエから、過去の記憶によるとタブン禁酒法は失敗すると思う、つう危ない手紙が届いたので、慌てて俺は焼却処分した。

 此れだからクロエって目が離せないってーの。

 そんなクロエの前世の記憶に頼らなくとも、素直に考えれば失敗なんて想像出来るって言う。

 神話の時代から人が集えば酒を飲むものだし。

 それを思い付きみたいなノリで法にされてもな。


 でも此れからはこういう法が増えて行くのだろうなと、予感させる事例だ。

 ジャックが居れば、皮肉っぽく俺に話して呉れるのだろう。



 さて、友人のジャックでは無く甥っ子のジャックの話。

 憲法もプロセンが敗戦してから新たに作られ立憲君主制に成り、ジャックも幾ら何でも煙草の銘柄の名では、って事で改名され、アルバート1世となり、ギール国王に就いた。

 いや、煙草の銘柄の話は俺とクロエとの内密の話だよ、勿論。

 当然、国政などに不慣れな18歳なので、フロラルスやオーリアに亡命していたギール王国の有力者が教育係兼枢密院として甥のジャック事アルバートに就いた。


 つうても、グレタリアン政治に慣れ親しんでいるので、新たに選ばれている議会と揉める事は少ない、と予想して居るのだけどね。




 でもってギール王国の北隣に在るランダ国は、1811年のモスニア革命の頃にレオンハルトに占領された時に共和制に成っていて、1890年辺りで旧プロセン連合王国が侵攻した時も当然だけど共和国だった。

 てな訳で、旧プロセンから解放された今もランダ共和国で在ったりする。

 結構ストレスが溜まっていたランダ国民は、血の報復って感じで、残って居た旧プロセン住民をやっつけて行ったのだ。

 旧プロセンに支配される迄、自由主義で議会政治を行っていたランダ共和国は、抵抗運動やゲリラ活動をプロセンの占領軍に仕掛けて行ったので、静粛に次ぐ静粛で多くのランダ国民が亡くなったそうだ。

 まあ、大戦に成るまでは、旧ルドアとグレタリアンも旧プロセンと組んで、階級制度維持の為に啓蒙主義や社会主義の取り締まりや弾圧を行っていたので、王侯貴族が居なかったランダ国民には余計に厳しく感じたのかも知れない。


 モスニア革命軍が来た時に、難を逃れた王族や貴族達はフロラルスやモスニア、プロセン、オーリアに亡命して居るのだけど、1811年の事なので今や昔の話だよな。

 まあ、しぶとい王侯貴族達なので確りと血脈を繋いで居そうだけどね。

 そういやシェリーの女友達マーサがランダ王国の王家の者だと騙られてコロリと騙されていた筈。



 終戦後ランダ共和国の議会が出来て、1890年代の旧プロセン侵攻のどさくさに紛れてグレタリアンが南カメリアにあったランダ共和国の植民地をパクって居たから、返還要求が来ていた。

 ホントにさ。

 グレタリアンてグレタリアンだよな。


 

 未だに戦勝国で揉めているのは、旧プロセン連合王国が持って居た植民地分割の件。

 いや、グレタリアンとか革命後のトルゴン帝国から取り上げた国や海域が一杯或るから良いじゃん。

 つうて、俺とか思うんだよ。

 どうせ、簒奪だけして管理とか出来ない癖に。

 提督や大使と軍を派遣して置けば大丈夫とか、お花畑な考えでいそうでマジでヤダな。


 オーリアとグレタリアンとグロリアがさ、妥協しない。

 てか、グレタリアンとルドアのとばっちり受けているフロラルスやモスニアを放置してるって如何なのかね。


 俺は思わずまったりと俺の向で煙草を燻らしていたウィルに尋ねた。




 「如何なんだよ、ウィル。戦勝国の分け前に対してモスニア=フロラルス帝国は?」

 「モスニアの方じゃ、今更、植民地を増やしても仕方ない、って考えているみたいだよ、ジェローム。旧プロセン連合王国が持って居た植民地は、グレタリアンと同じ簒奪式植民地だろ?植民地との揉め事が増えるだけだ、と北部の大使館に駐在しているモスニアの外交官は話していたよ。まあ、一部の人間は将来の為に確保しておくべきだと言う意見も在るらしいけどね。」


 「ウィル、それはモスニアのレオンハルト3世の意見なのか?確かモスニアは議会制ではないだろ?」

 「そうだろうな、ジェローム。俺達がレオンハルト3世の意見を、直接に聞ける事はないけどな。」

 「ふぅーん。でも、世の中がこうも変わって来ていると専制政治も難しいだろうね。ウィル。」

 「だな、ジェローム。まあ色々あるさ。」

 「流石にウィルも言えない事も或るんだな。」

 「そうりゃね、こう言う伝書鳩みたいな仕事をしているとね。」

 「ふーん、まあいいや。俺も色々あるしな。じゃあ、植民地の事で、グレタリアンとモスニアが争うことは無いってのでオーケー?ウィル。」

 「ああ、ソレは無いだろう。グレタリアンとグロリアは分らないけどね。」

 「グロリアは1つの王国に成って、拡大主義になってのか。」

 「みたいだよ、ジェローム。」

 「勘弁して欲しいよ、ウィル。」

 「ソレは周囲の小国も考えていると思うよ。ジェロームは何処がグロリアを抑えていたと思う?」

 「うん?トルゴンじゃないのか?ウィル。」

 「外れ、実はオーリア帝国なんだよ、ジェローム。」

 「ああー、北東か、ウィル。」

 「そう。丁度、グロリアの東側にあったオーリア帝国の海沿いの王国が3つ独立したからな。」

 「しかし遅れて来た帝国主義か。グロリア王国か、ウィルでも無理だと思うだろ。」

 「うん。まあ北カメリア位に大きな国なら、ギリギリかな?でもグロリア王国は、国際連盟に加入しているから植民地が欲しくて、戦争を起こすとは言えないしね。そう言えば、カレ帝国も入ったね。ジェローム。」


 「へぇー、そうだったんだ、ウィル。」

 「恐らくは、北カメリア北部を警戒してだろうね、ジェローム。南部とは、通商条約を含め外交条約を結んでいるから。」

 「同盟を結んでいるモスニアからカレ帝国へ何か助言が入ったのかも。」

 「まあ、カレ帝国は元はモスニア帝国と同君連合だっただろ。レオンハルト1世に追い出された元モスニア皇帝ルナンド9世が、カレ帝国を治めて現代まで続いているって話だ。」

 「凄いな。ウィル、それから互いの国で婚姻を結んでいるのか。」

 「まー、離れていたし、婚姻でしか繋げなかったのだろう。でも良い具合に北カメリアの進出を防いでいたと思わないか?ジェローム。」


 「確かにな。ウィル。」




 俺はそう言ってクロードが淹れた薫り高い珈琲を口に含んだ。

 カラカラと涼しげな音を出しているウィルを見ると、クリスタルグラスに氷を浮かべてウィスキーの水割りを旨そうに飲んで居た。

 全くクロードもウィルには甘い。

 俺がレオンハルトの思い出に浸っている間にウィルはクロードに水割りを頼んだに違いない。

 

 俺はウィルと居るとおちおち昔の事を想い出す暇も無い。

 まー、昔、過ぎる話だけどな。



 「そういや。進歩主義の女流作家が女性の性の解放を提起していたのを知っているかい?ジェローム。」

 「うぐっ。」


  俺は、ウィルの言葉に思わず口を付けていた珈琲を咽る様に飲み込んでしまった。

 此の男は、昼間っから、何を言ってヤがるんだ。

 そう言うのは口に出して話すべき言葉じゃないだろう。


 遂、ジョアンが聞いていないかと俺はキョロキョロと俺の聖域内を確認したあと、にこやかな笑顔を浮かべていたウィルを、冷たい目で見詰めた。

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