表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロングロング  作者: くろ
38/85

ピュアセレクト

  


   アリロスト歴1920年  10月




 ジョアンが俺の聖域で居付く様に成ってから非常に心地良い時間を過ごして居る、

 講義が終わればセインも此のロッジに戻って来るし、俺にとっては陽だまりの安らぎの日々だ。


 ジョアンが連れて帰ったサラームは、本邸でグレタリアン的マナーを学び、優しいメイド達から勉強を教えられ、手の比較的空いているニノに鍛えられて、その内クールなオシリスの星になっている、予定だ。

 民族的にヨーアン大陸に住んでいる者達と骨格が違うので、自称7歳のサラームは5歳位の貧相な子に見えてしまうのは仕方ない。

 イラド人に近いのかもな。


 俺の相手に疲れたジョアンが偶に気分転換でサラームに遊んで貰って居た。

 

 


 新たなショーン・キャメロン大統領は棍棒外交をしない、と言って3人の国務長官にヨーアン諸国や南カメリア、アーリア大陸との外商交渉に勤しんでいるそうだ。(ヤング談)

 でも、言う事行かないと殴るんだよね?

 気質的にはグレタリアン人だし。


 そして北カメリア北部では、グレタリアンで条件付きだけど女性に参政権が認められた、と言うニュースを知り、それ迄、北カメリアで女性の参政権を求めて活動ををしていた人達にも一層、熱が入りヨークや他の州の空気を温めている。

 ニュー・フェーズ。

 新時代の幕開けである。

 

 でもって、俺の右斜め向かいに置いてあるモスグリーンのベルベットを張ったアームチェアーへ長い脚を組んで腰を降ろしたウィルは、当然の様に俺の作った煙草を吸い、クロードの淹れた熱い珈琲を嗜み、ジョアンに人の好きのする笑顔を向けて話し掛けていた


 まあー、さー、分るけどね。

 ジョアンのジャックに似たハスキーボイスと喋り方にウィルも癒されているのは。



 


 「で、ウィル、ジョーン・キャメロン大統領は今の所は何処とも争う気は無いんだよな?」

 「ん?ああー、トルゴン新政府とも通商交渉はしたいみたいだよ。でもトルゴン皇帝は革命を避けモスニアに保護され、国際連盟預りだろ、ジェローム?グレタリアンの許可が無いと会えないしな。」

 「それこそキャメロン大統領は、新政府と交渉するば良いのに。帰国したらトルゴン皇帝は革命派に処刑されるだろうからさ。」

 「一応、スラットル制(世俗の最高権力者)は代々トルゴン王家が継ぐものだし、今の内にグレタリアンやグロリア、そしてオーリアやアシャッタは自分達が望む条約を結びたいみたいだね。」

 「手間取っているって言う事は碌な内容では無いのだろうな、ウィル。」

 「まあ、グレタリアンはイラド迄行く航路と権益を確保する事が目的だから、それに沿うような内容でトルゴン皇帝と調印したいだろう。その為に時間を掛けて、アワギレ地域の各王国へトルゴンからの独立を支援したからな。ジェロームも知っての通り、今回の大戦もそれが根本だし。」

 「踊らされるタブロ民族にしても堪らないな、ウィル。」

 「まーね、だから今、下手に北カメリアに出て来て欲しく無いんだよ。ジェローム。」

 「はぁー、つうことはモスニアとも交渉になるな。モスニアとオシリス帝国との通商条約をグレタリアンなら変更を望むだろうしね。デニドーア外務卿がモスニアと直接交渉してそうだ。トルゴン帝国とは同盟を結んでいたのに、ホント、グレタリアンは最低だな。」

 「ふふっ、デルラに居る所為かジェロームも気兼ねないね。」



 「こんなものだよ、俺は。そう言えばウィル、キャメロン大統領って社会学の教授だった人だよね。珍しいね、司法関係者で無い知識人が大統領に成るのは。」

 「ああ、短期間だが牧師として従軍もしたそうだよ、ジェローム。一家そろって敬虔な新教徒で、父親は南部寄りだな。カレ帝国には宣教師的な外交をしたいそうだ。」

 「うへっ、俺って余り良いイメージはないんだよ、宣教師的って、ウィル。」

 「でもまあ、一応は平和外交を主軸で頑張るらしいよ、ジェローム。」

 「まっ、ジョアンが戦争に行かなくて良いなら、俺は、それで良いんや。」

 「ジェロームは投げ遣りだな。」

 



 そうな事をウィルと話して居ると、暇を持て余したジョアンはマイケルの屋敷へ行ってくると俺とウィルに告げて、艶の或るオークの扉を開いて、元気よく俺の聖域から飛び出して行った。


 「ふっ。」


 俺は息を吹くように笑って、マイケルの所へ出掛けて空いたジョアンが座っていた俺と同じ緋色のベルベットを張った猫足のアームチェアーを見詰めて、銀色のシガレットケースから煙草を一本取り出して口に銜えた。

 ウィルは短い金の髪を右手で掻き上げて、捨てられた子犬の様に深緑の瞳を情けなく揺らして、俺を見て大袈裟に肩を落としてみせた。







 




      ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




    アリロスト歴1920年 10月


 


 今夜はハロウィン。

 ウィルに連れられ、ジョアンとサラームはポスアードの街を冷やかしに出掛けていた。

 暖炉には赤々と燃え、白熱ガス燈に照らされ室内は黄色味を帯びた明るい光が広がっていた。


 余程の失策をしない限りは、キャメロン大統領で大丈夫だろう、と何時もの緋色のベルベットを張ったアームチェアーに腰を掛け、俺は兄へそう手紙を書き綴った。

 インフレも起きて居ないし、新たなホワイトカラーと呼ばれる中産階級の所得は30%近くも伸びていると言う報告も在った。

 兄は、密かに確りと税金対策も終えて、シルビアや子供達とラブリーな毎日を過ごして居るようで何よりであるけど、そろそろフレデリックの事も考えて遣らないと駄目な気がする。


 エイム公爵家は、祖父の兄弟の親族が居る位で、直系の身内はフレデリックが生れる迄、兄と俺しか居なかった。

 グレタリアンでは爵位と不動産は基本、直系の嫡男にしか継承出来ない。

 そう言う事もあり、兄に何か在ると俺が面倒な事に成るので、亡き賢き義姉エリスと兄の婚姻を後押しをして、甥フレデリックや甥のジャックや姪エレインを誕生させて貰ったのである。

 俺を溺愛した侭、兄は生涯独身の危機にあったので。

 賢き義姉エリスには、マジ感謝してもし足りないのだ。


 俺の知る親戚は、祖父の妹と弟の家系で、父からすれば叔父と叔母である。

 祖叔父の家系は嫡男と次男でそれぞれに兄妹と兄弟が居て、祖叔母は嫁いでいるのでエイム家の系譜から抜けていた。

 まー、直ぐに辿れてしまうのだけど、だって生れたその娘が兄と俺の母親なので。

 当然、祖叔父と祖叔母はもう鬼籍に入っているし、俺の父と歳が近かったので、祖叔父の嫡男は既に亡くなり今は其の息子が後を継ぎ、次男も死に掛けている年寄りだ。

 軍人として張り切っていた祖叔父一族は、別家を立て伯爵家に成って居て、ホリー党の議員となってそれなりに頑張っている模様。

 親族婚を繰り返したエイム家は、兄を含め案外と血族に情を感じる変態と疲れる執着心を持つ歪な阿呆も多く、世に困ったさんを増やさない為か子供の数も少なかった。


 

 そう思って居たのだけど、故エリス義姉はとの間に4人、再婚した俺の娘シルビアとの間に2人と兄は果敢に限界に挑戦している最中だったり。

 てな訳でエイム家の後継は問題無いけど、フレデリックってもう29歳なんだよな。

 流石に婚約者位は対面的に必要だろって俺でも思うんだけど。

 もしや、フレデリックはグレタリアン式友情オンリーなピュアセレクトじゃないよな?

 偶にいるんだよなー、天然モノ。

 男女ミックスするなんて不潔だって言う潔癖症。

 兄によく似ているから、コミュ不足でもモテると思うんだけど、長女のエミリアは夫のセドリックが戦死して寡婦になったし、甥の方のジャックはどうなるか分からない不安定なギール国へ行くみたいだし、末っ子のエレインはロリコンのジュリアス皇太子に見初められてるし、恩の或る義姉エリスの子供達のウキウキなエンジョイライフが見えて来ない。

 

 兄は興味無さげだし、仕方ない、ウィルに頼んで、カントリーハウスに居る家令のヨールに尋ねて来て貰おう。

 まあ、ウィルならエミリアをセドリックの嫁に貰う時に、幾度か亡き義姉エリス達と婚姻の話の為、カントリーハウスへ会いに行って、ヨールとも会っている筈だから、俺よりはフレデリックの好みのタイプを尋ね安いだろう。

 だって俺って一度もカントリーハウスへ行った記憶が無いんだぜ。

 タウンハウスで育って其の侭パブリック・スクールに行って、で、ロンドで下宿112Bからフォック大学へ通い、ジェローム探偵事務所を始め、そして現在に至る。

 義姉エリスの会話や手紙でしかヨールの事を知らないモン。



 クロードが淹れた薫り高い珈琲を口に含めば、艶の或るオークの扉を開いて、満面の笑みを浮かべた忌々しいウィルと荷物を抱えたジョアンがいそいそと俺の聖域へ戻って、ウィルは嬉し気に入って来た。

 ウィルは短い金の髪を右手で整えながら、俺の近くに置いてあったモスグリーンのベルベットを張った猫足のアームチェアーに深緑の瞳を細めて、堂々と腰を降ろして長い脚を組んだ。

 ジョアンは、俺の心を落ち着かせるジャックに似たハスキーボイスと喋り方で、戻った挨拶とポスアード街で催されていたハロウィンの様子やサラームの表情や仕草を俺に話し一呼吸置き、淡い水色の瞳を輝かしマイケルへ土産を渡して来ると告げて、手荷物を1つ右手に持ち、艶の或るオークの扉を開いて、俺の聖域から早足で出掛けて行った。


 「朝まで戻って来ないかと思ったよ、ウィル。」

 「ふふっ、ヨークの街だとそれも良いけどポスアードでは流石にパブくらいしか開いて無いからね。それにサラームも連れていたからね。揶揄ってジョアンを誘ったら、未だ、お酒は飲んだことは無いと話すから奢ろうとしたら、晩餐の時以外で初めて酒を飲むのはジェロームと飲みたい、って言われたから諦めて帰って来た。ジェロームはジョアンから慕われてるな。」

 「そう言えば、ジョアンとは食事以外で飲んで無かったな。もう27歳に成るんだから1人で飲んでも良いのに。俺はセインと偶に飲んでるから気にして無かった、悪い事をしたな。ふふっ、明日にでもジョアンを誘ってみるよ。」

 「僕は?ジェローム。」

 「はっ?ウィルは好きに飲んでるだろ、此の部屋でも俺の酒を。」

 「はははっ、だってジェロームのキャビネットには良い酒が置いているからさ、遂ね。」

 「全く。しかしポスアードの街も景気が良さそうで良かったよ。輸出入も順調そうだな。」

 「まー、ポスアードは港もあるし、漁港や林業も盛んだから他の州で景気が良いと商品も良く熟れるだろう。そうだ、売れると言えばラード社がS型のベルトコンベアってのを造って、流れ作業で蒸気自動車を造れるようにしたみたいだよ。今までよりも大量に作れるから、車も安くなるって街で聴いたよ。」


 「げーっ、だな。絶対に北部の事だから馬鹿みたいにワーカー達を働かせて作るんだぜ。昔、俺の友達が言ってたよ、無理して作っても売れる数には限りが在るってさ。何事にも程々ってのが良いそうだよ。」

 「でも、早く作って販売市場を自分達で独占したいって思うんじゃ無いか?ラード社も自分達が独占した方が利益が大きいと思ったから、車を造れるベルトコンベアって物に可成りの金額を投資したんだろ?」

 「まー、特許の兼ね合いもあるしな。コールスタンドやモーテルも舗装された道路に増えそうだな。ウィル。俺は自転車で充分だと思うけど、結構人気あるんだよ、蒸気自動車。あんな煩いモノに乗りたい人間の気が知れないよ。」

 「そりゃー、ジェローム。機関車と違って時間に縛られずに動けるし、此の北カメリアだと自動車の方が断然便利だよ。そろそろ街では馬車が走らなくなると僕は思うけどね。ハンサム馬車みたいな蒸気自動車が常駐するようになるよ、ジェローム。」

 「はいはい、ウィルには楽しい未来で良かったな。」

 「でもベルトコンベアを他の商品でも開発されたら蓄音機も安くなるし、今は富裕層の屋敷にしかない洗濯機や冷蔵庫も安くなって中産階級でも買えるようになるかもな。」

 「ふふん、そして、停電に成るんだよ、ウィル。」

 「ジェロームは、直ぐそう言う性格の悪い事を言う。」

 「ハンっ!俺の基本スペックなんだ、ウィルも判ってるだろ?それよりウィルは、イラドの情報は如何成って居るんだよ?」


 「今、僕の部下を行かせている。もう暫く待ってよ、ジェローム。」

 「ホントに此処の所、ウィルは動かなくなったな。まー、ヨークとクリストン特区には良く行っているみたいだけどさ。エイム公爵領に行ってヨールに会って欲しいんだけどな。」

 「ええー、ジェロームが珍しい。」


 

 そう言って揶揄ってくるウィルをスルーして、俺はフレデリックの事を掻い摘んで話し、好みのタイプをヨールに尋ねて欲しいと頼んだ。

 ウィルは顔を僅かに上に向け、脳内でスケジュール確認してから、俺に頷いて依頼を了承してくれた。


 其処へ艶の或る重厚なオークの扉を開いて、講義が終わったらしいセインが厚手の黒いオーバーコートとソフトハットを被り、暖炉で暖めていた俺の聖域へとゆっくりと大きな体を揺らして入って来た。

 俺はアームチェアーから立ち上がり、クロードにステッキと帽子を預けたセインの元へと歩みより、冷えた手を取って、暖炉の傍に置いてるソファーへと導いた。


 「寒かったろ、そしてお帰りセイン。」

 「お帰りセイン。」

 「ただいま、ジェローム、ウィル。ハロウィンだから林檎を買って来たんだ。明日の午後からサラームも誘ってアップルポピングを遣ろう。リオンに一先ず厨房へ林檎を持って行っているから。」

 「ええー、僕も買って来たのに。サフランイエローのジョアンの椅子に置いてある紙袋がそれだよ。それとスナップドラゴンの材料も。僕も明日、それで遊んでから行っていい?ジェローム。」

 「はぁー、幾つだよ、ウィルは。良いよ。」


 俺はそう答えてウィルとセインを見た。

 深緑の瞳を俺に向け、目尻の横皴を深くしてウィルは楽しそうに笑って、キャビネットからブランデーを入れたクリスタルのデカンターとグラスを取り出して、いそいそとマホガニーのテーブルへと並べて置いた。

 そのウィルの余りの手際の良さに俺は呆れて、セインの飴色の瞳に視線を合せて、首を軽く左右に振りつつ、セインと2人で苦笑を零した。



 そしてパチパチと暖炉の火が爆ぜた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ