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ロングロング  作者: くろ
37/85

悪い癖


 

   アリロスト歴1920年  7月



 私が緑藍へ電話プレゼントのおねだりをした手紙を書いて送ると、暫くして『電話機』と「了解」と書いた返信がウィック島にある我が家へ届いた。

 それを見て「違うだろっ!」と私は憤慨した。

 電話機くらいなら私が船に乗って10分も掛からないグレタリアン本土へ買いに行けば済む話なのだ。


 『緑藍て最低ー!』とプリプリ私が内心で怒って居ると、ルスランが「サマンサ、機嫌を直して」そう言って厨房から持って来たトーストサンドを乗せた大きなプレートを私に見せた。

 トーストサンドイッチとは、トーストしたパンを、バターを塗った2枚のパンに挟んで、塩コショウをして食べるお手軽料理である。

 一応は病人食らしいけど、ルスランの好物で小腹が空くと厨房でコックに作って貰って居る。

 私は、、、。

 出来ればおにぎりを食したいとは思ってるんだけど、ニコニコと嬉しそうに持って来て呉れるルスランに釣られて、私も笑顔で食べて居ると何時の間にか夫婦で食べるおやつに成っていた。

 パンなので不味くは無いのだけど、流石に私も60歳を過ぎるとカロリーも気になるお年頃。

 なんだけど、それを言うとルスランは「サマンサはいつも綺麗だよ。」って私を誉めそやかしてくるので、今日は肉体労働を追加して、素直にカロリーを消費する事にした。



 私とルスランが住むこのウィック島は、世紀の大悪党と呼ばれたモーランド公爵の領地だった場所で、命を狙った詫びにと緑藍ことジェロームへプレゼントされた曰付(いわくつ)きの場所。

 モーランド公爵が利用していた別荘なんですよね、私達が住んでいる屋敷。

 緑藍は放置していたのだけど、夫ルスランの祖国で政変が起き、史上初めてとなるプロレタリアートが権力を担うことに成った。

 その時に、ルスランの従弟ミハイル皇帝を亡命したスロン王国から呼び戻そうだとか、元皇太子だったルスランを探し出して皇帝にしようだとか言う、可成りイっちゃった皇帝信望者(ファン)が動き出したとエイム公爵達は知り面倒事を避ける為、緑藍の勧めで、ここウィック島へルスランと共に管理人として住むことになりました。



 「大多数の人達が皇帝を望まないのにミハイルもわたし(ヴァー)もルドア帝国へ戻る事はないよ。」


 私がルスランへ「祖国ルドアへ帰りたい?」と尋ねると、そう答えて少し寂しそうに微笑んだ。

 どの道ルスラン達がルドアに戻っても革命政府に殺されるだけだと言うのは、考えの足りない私でも理解出来る事なので、ルスランの言葉に私はホッと胸を撫で下ろした。

 全く傍迷惑な皇帝派の為にルスランも私も良い迷惑。




 ロンドより可成り南西にある此のウィック島は、漁業や羊毛で生計を立てているカリント旧教徒たち1206人の島民が住む所だ。

 モーランド公爵は彼等の生産物を購入し、モーランド公爵家から穀物や必要な生活物資を島民たちは購入して暮らして居た。

 モーランド公爵が逮捕され幽閉された後で、モーランド公爵に代わり、ソレを緑藍が、と言うかエイム公爵家が代行して、生活の不安に怯えていた島民を安心させていたようなのだ。

 

 「此れって島民が追い出されないよう、俺へ押し付けただけじゃん、何が俺への慰謝料替わりだよっ。モーランド公爵め、畜生。」


 グレタリアンにしては暖かなこの島は、確かに資産家達が別荘地にするには持ってこいなので、売りに出された後は、きっと邪魔だと言って数少ない島民たちに退去命令が出されただろう。

 ブイブイ文句モーランド公爵に言いつつ、手続きを終わらせた書類をクロードに渡していた緑藍を想い出した。


 四方が海でなだらかな牧草地が何処までも続くこの地に、未だ若いニコラスやダリウス、末娘ミッシェルが住むのは無理だった。

 この地を家族で訪れた途端、


 「「「無理。」っ!」よ!」


 そう3人の子供達から引っ越し拒否の宣告を私とルスランは受けた。

 まあニックは22歳だし、ダリウスは20歳だし、ミッシェルは17歳で、生れた時からロンドの喧騒の中で育って来たので、波や風、鳥たちの声しか聞こえないウィック島は寂しいのやも知れない。

 それにロンドは便利だものねー。


 とは言っても私達が引っ越す前にエイム公爵家で電気だけは通して呉れていたんですけどね。

 ガスは難しかったみたいで、使いたかったら本土のガス会社と工事屋に頼めって言う手紙が緑藍から届いていた。


 なので現在、子供達はエイム公爵家のロンドに或るタウンハウスでお世話に成って居る。

 バカンスシーズンに成ると私とルスランも、そのタウンハウスにお邪魔して子供達と会ったり社交を熟したりしている。

 何となくなのだけど、緑藍は自分が北カメリアに移住した後、あの下宿112Bの存在を消してしまいたかったのかもと私は考えたりしていた。

 あくまで、何となくですよ。

 

 

 そう言うラチも無い事を考えて日々を過ごして居ると、エイム公爵家が出資している通信会社が私達の屋敷に着て、無事に本土からの工事が終わり、緑藍から送られて来た電話機を取り付けて、テレフォン・スタンバイ・オッケーに成った。

 早速、私は子供達へ電話しようとして気が付いた。


 そうでした。

 個人宅へ電話が設置されるのは、もう少し先に成るだろうことを。

 今って、名前と住所を伝えて交換手から伝えて相手に代わって貰うのでした。

 私が気楽に「はいはい、元気ー!」って、お喋り出来るような状態では無かった、当たり前だけど子供達に電話は繋がりません。

 そんな事を工事に来てくれた人に説明され、思わず気力が抜けて、私は脱力してしまった。

 はい、説明は確りと聞かないと駄目ですね。御免なさい。



 さて、、、と、無事に選挙も終わったし、緑藍にお礼の手紙を書こう。


 でもね、初めに『電話機』だけを送って来るなんて、相変わらず、緑藍はイイ性格をしていると思うのよ、全く、私が無駄に腹を立てたじゃ無いの。











   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  アリロスト歴1920年  9月



  クロエから電話のお礼と文句と選挙結果について綴った手紙が俺に届いた。

 そのクロエからの文句を読みつつ、俺は唇の右端を僅かに上げて目を細めた。


 電話する相手不足をクロエは嘆いていたけど、それ程時を待たなくてもクロエが交流を持って居る人達なら、直ぐに回線は開かれるだろうし。

 選挙結果については既にウィルや兄の配下(ハイカ)ーズからも伝えられていた。

 きっと労働党が大勝するだろうと言う予測に反し、ホリー党も検討して野党第1党に成り、次にトラッドランドからの祖国党も大きく議席を伸ばした。



 マイクロフト首相は、ホリー党のデバーレイ党首とフーリー党のロバート・カスタット党首と連立を組み、安定した議会運営を目指すらしいけど、労働党の議員自体が経験不足感を否めない。

 ホリー党が票を伸ばしたのは資産課税への警戒感が大きいのだろうと思う。

 フーリー党へ票が集まったのは、労働組合の力をこれ以上つけさせない為、企業家たちの苦肉の策だった、後は関税自由化への道かな。

 でもまあ、幾ら貴族や富裕層が頑張っても数で負けているので、政権を担うのは労働党のマイクロフト首相な訳なのだけど。



 マイクロフト首相は、本来なら考え方の近いロバート・カスタット党首を副首相にしたかっただろうけど、他の閣僚の任命や陛下との調整を考えるとホリー党のデバーレイ党首しか居なくて、副首相にデバーレイ議員を任命。

 デバーレイ副首相71歳など未だ未だ若造と言わんばかりに、御年82歳ぬらりひょんデニドーア公爵が又もや外務卿に成った。

 1904年頃、「デニドーア外務卿は歳だから直ぐに引退する」と言って俺は兄を慰めていたのに、「あの方が引退する姿を想像出来ない」と話していた兄の読み通りに成ってしまった。

 妖怪(ぬらりひょん)は実在した。



 そしてロバート・カスタット党首を財務臣に任命し、パンデミックの疾病対策でロンド市街を再開発したアーサー・バレン議員を自治大臣にした。

 アーサーバレン議員は植民地大臣か通商大臣に就任したかったようだけど、無役の労働党議員も居るし、連立を組んだ党での力学で、今回は妥協した。



 パトリックことパトは今回こそ引退して北カメリア南部に住むつもりだったのに、グスラン元首相やカスタット他のフーリー党議員から出馬要請を請われ、断り切れずに出馬し元から人気の高いパトはアッサリ当選し、マイクロフト首相の社会保障研究作業部会に組み込まれた。

 パトがレナードへのファン活動に専念するのは未だ未だ先の話に成りそうだ。

 頑張れ、パト。



 マイクロフト首相は中産階級の出身で地主達に虐げられた同級生達を見て育った所為か、弱者の為に戦う弁護士として地元で人気が高かく、推薦を受けてフーリー党から立候補した人。

 その後、労働問題を扱う事も増え、労働党が結成されてからは仲間とフーリー党から労働党へと移動した。

 マイクロフト首相の公約を読むと、貴族や準貴族、そして富裕層に対しては、格差是正の為に容赦ない改革を行いそうだ。


 心情的にヴェイト=ルドアを応援している節があるので、俺としてはマイクロフト首相に微妙な感想を持って居るけどね。

 此れは、誰にも話す心算の無い俺の感想だから。


 取り敢えずは、労働者の失業率を減らし労働者の賃金を守る為に、自由貿易では無く保護貿易に舵を切ることに成った。

 フーリー党で自由貿易を望んでいた議員や有権者たちの怨嗟の声が聴こえて来そうだ。

 そして祖国党へ気を使ったのか元から、トラッドランド農民の権利の向上を願って居たのかも知れないけど、トラッドランドで議会を置く事が承認された。

 相変わらず上院の反対は多いけど、選挙の争点で労働党や祖国党が勝ったから、余り文句も言えない、つうか、今回は資産課税とのバーターと思われる。

 今議会では、資産課税を棚上げするので、トラッドランドの議会設置を通してね、ってデバーレイ副首相とぬらりひょんデニドーア外務卿は、交渉したように思う。


 て言うか、ヴェイトの活動家がトラッドランドに入り込んで、何やら蠢いていると兄はデバーレイ副首相に報告をしたらしいので、火種に成らない内の消火活動を優先したと推測している。

 此処でぬらりひょんデニドーア外務卿に報告しないのは兄の仕様である。

 

 中々に面倒なのはトラッドランドの土地を支配して居るのが本土の地主達だって所。

 それに経済的に発展して居るのは、その繋がりを持つ北部に住む新教徒の一部で、他は旧教徒で小作人だったりしている。

 農奴制など廃されて可成り経つのに、旧教徒たちは農奴と変わらない生活に甘んじていた。

 それに先の大戦で約束していた問題でもあるし、強硬な議会設置反対派の方々には耐えて貰う様に、兄たちが説得して回るそうだ。

 兄が情報を取集して居るのは、何気にこういう時の為かと思ってみる。

 祖父の代からだから、エイム公爵家って、結構怖い家かもな。


 惚けた爺さんのデニドーア公爵家もヨーアン諸国ではキングメーカーって悪評が高いし、本当に碌な国じゃねーな、グレタリアン帝国ってさ。

 あっ、元々が海賊国家だったわ。

 忘れてた。




 艶の或る重厚なオークの扉を開いて、兄の伝書鳩ケニーは俺の聖域に入って、クロードへライトブラウンのソフトハットとステッキを預けて俺の傍まで歩いて来た。


 さて、ロリコン趣味の皇太子。

 じゃ無くて、兄の娘エレイン14歳と月に2度、茶会を催しているジュリアス皇太子23歳は、未だラブイチャには程遠く、スキンレスな茶会でキャッハウフフな時を過ごされているご様子だとか。

 いやー、俺とか絶対にストレスが溜まって、夜は娼館でレッツパリィーしているわ。

 そう言う噂も無いと報告に来た伝書鳩2号のケニーは、俺に話す。

 ジュリアス皇太子って生涯独身の旧教徒の司祭でも目指して居るんだろうか。

 色即是空、情欲など滅っしてヤルみたいな感じで。


 んー、だからロリコンなのか、ジュリアス皇太子は。


 「いえ、別に私はジュリアス皇太子殿下はロリコン等と言う話は一言も申してませんよ、ジェローム様。ジュリアス皇太子殿下は、庭園でエレイン様と和やかに散策なされて、微笑ましかったとご報告しただけで。」

 「いやいや、可笑しいよ、ケニー。健全な23歳男子がさー、好きな女と居て何もしないなんて。つうか、9歳も年下の14歳の子と何を話すんだよ。これがさ、39歳男と30歳女なら茶飲み話とか散歩とかも分かるけど。ケニーは14歳少女と何を話す?」

 「、、、余り私は接点が無いので判りかねますが。健全なジュリアス皇太子殿下は健全な会話をなされているのだと思います。立派な教育を受けて来られた方ですので。」

 「けっ、嘘くせー。大体あのスチュアート4世の息子だよ?でもってスチュアート4世を教育していたデニドーア外務卿(ぬらりひょん)が、ジュリアス皇太子の養育係も兼ねていたんだよ?真面(まとも)に育つ可能性って限りなく低い気がするよね。どうよ?ケニー、其処ら辺は。」

 「き、きっと、エリザベス陛下の教育の賜物だと。あ、あの、エイム公爵からの報告書は此処に置いておきますので、で、ではっ、では、私は失礼します。」


 そう言ってケニーは明るいブラウンのソフトハットをクロードから受け取り、そそくさと艶の或るオークの扉を開いて、俺に礼もせずに一目散に退出した。

 兄の配下にしては珍しく皇族を敬っているケニーに、こうして揶揄って遊んでしまう俺の悪い癖だ。



 隣りで座っているジョアンは大きな溜息を吐いて、薄く透明なアクアブルーの瞳を俺に向け、白っぽいベージュの真っ直ぐな眉を顰めて、情けないと言いたそうな表情をしていた。

 俺はそんなジョアンを見つつ、僅かに右端の唇を上げて微笑んだ。

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