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ロングロング  作者: くろ
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リターン・ホーム



     アリロスト歴1920年    3月




 長いグランドツアーから俺がデルラに戻り、艶の或るオークの扉を開いて、懐かしいジェロームの部屋へ入って行くと、優しいセインワート博士とジェロームとウィリアムが出迎えてくれて、なんだか胸の奥から熱いモノが込み上げて来そうに成って、俺は慌てて「マイケルの屋敷へと行く」と告げ、扉から駆け出して行った。


 昨年の6月、ポスアードの港から旅立って、そしてマイケルとデイジーの婚姻1周年に間に合うよう北カメリアへと帰国した。

 ジェロームから2~3年くらいのんびりとヨーアン諸国を見ておいでと言って貰ったけど、実の所俺は旅立って1ヶ月も経たない内にジェロームの傍へ戻りたく成っていた。

 ポスアード大学の大学寮で生活している時は、こんな事を想わなかったのに、アカディアと風景や気候が全く違う場所に居ると、ジェロームの燻らすカカオの薫りが微かに混じった煙草の匂いが懐かしくて堪らなかった。


  『リターン・ホーム』

 一緒に行ったルーサーや2人の学友や護衛のジョン爺さんには絶対に言えないけどさ。

 ジョン爺さんはウィリアムの護衛なのに俺が心配だからと俺について来た変わり者だ。


 ルーサーに案内されて北カメリカから旧ランダ王国、キール王国、フロラルス王国から船に乗ってグロリア王国そしてまた船でアシェッタ諸島を巡りアシェッタ王国で古代遺跡を探訪。

 いや、探訪と言うよりも調査、発掘?

 ルーサーの言う通りに作業着に着替え、アシェッタの古代遺跡の或る場所で、他の考古学研究チームと一緒に成って、未だ見ぬ城塞都市を探していた。

 もうルーサーがキラキラ輝いて止まりません。

 此処にね、3ヶ月以上も居たんだよ、俺達。

 流石に11月も過ぎると寒くなって来たので、危険なトルゴンを避けて、南下しモスニアの保護国に成って居るオシリス帝国へと向かった。

 そしてルーサーはトキメキのピラミッドへ俺達を連れて、許可の出た場所にレッツトライ。

 俺達は紆余曲折、悲喜こもごもとし、ルーサーは其処ら辺でメモリー・ストーンと言う名の石ころを拾い、狂喜乱舞していた。



 

 こうして俺達はグランドツアーと称する遺跡調査の旅を終えたのだ。


 「この旅での恩は、ジョアンへオレの身体を一生分つけて返すよ。」

 「いや、ルーサー、要らないから、マジ。」


 帰国途中にモスニアのホテルで俺とルーサーが、そんな会話をしていたのも良い旅の思い出だ。




 ほぼ肉体労働だったツアーを終えて拾い主ジェロームに帰宅の挨拶を済ませると、俺はルーサーとオシリス帝国で買った7歳位のサラームと一緒にジェロームの敷地に或る雑木林を開いて作ったマイケルのスィートホームを訪問した。

 鮮やかな青で覆われた小さな屋敷の白く塗られた真鍮の扉を開いて玄関ホールへ入ると、懐かしい若草色の瞳を揺らしたマイケルは、俺へ飛びついて細い躰に似合わない力強いハグをして来た。


 「お帰り、ジョアン。無事で良かった。」

 「ただいま、マイケル。絵葉書は届いていた?」

 「うん、全て額に入れて僕の部屋に飾って在るよ。ジョアンは凄く身体が引き締まったよね。」

 「はは、旅行中は、ほぼワーカーだったからなー。」

 「お帰りなさい、ジョアン。マイクも何時までもホールで立ち話じゃ駄目じゃない。小さいけどティールームへどうぞ、ジョアン、お茶の準備が出来ているわ。」


 可愛らしかったメイドのデイジーは、可憐な貴婦人へ変わって居て、丸く広く空いた襟繰りの白いワンピースドレスへ深い緑で織り込まれた繻子のショールを掛けて、淑やかな所作で俺やマイケル達をティールームへ導いた。

 デイジーの長かった髪は両耳が隠れる程お洒落に切られ、左へに流れるようなウェーブを作り、毛先は外へとカールさせていた。

 1年近く合わない間に、北カメリア北部の女性のファッション・スタイルは大きく様変わりしていた。


 俺とマイケルは、向かい合う形でゆったりとしたキルトカバーの掛けられた皮製のソファーに座り、デイジーが勧めてくれた熱い紅茶を口にした。


 「遅くなったけど、改めて結婚おめでとう、マイケル、デイジー。」

 「有難う、ジョアン。」

 「ありがとうございます、ジョアンから頂いた青い鳥のオルゴールは居間に飾ってるんですよ。ゼンマイを巻くのは、マイクの仕事なの。」

 「デイジー、あれは仕事ではなく僕の愉しみなんだ。」

 「ふふっ、そうでしたね。」


 互いの表情を確かめ合って微笑むマイケルとデイジーはとても素敵でお似合いの夫婦だった。

 可愛らしい子だと揺れていた俺のデイジーへの儚い想いは、此の慌しかった9ヶ月のグランドツアーで昇華出来たみたいで、俺は心底ホッとした。

 デイジーと再会して、胸の底が痛んだらどうしようと、俺は此処まで歩く道で悩んでいたのだ。

 強引なルーサーやジョン爺さん、そして学友2人との賑やかで揉め事の多かった旅は、俺の下手な迷いを吹き飛ばしてくれたみたいだ。


 「しかしデイジーの髪の長さが変わっていて、俺は吃驚したよ。肩までの人はヨーアン諸国にも多かったけど、デイジーみたいな長さは初めてだよ。」

 「あら?そうなの?もっと短い人も居るのよ、ジョアン。」

 「それはヨークの街でだろ?偶にマリンやロビン達とヨーク市迄、デイジーは買い物に出掛けて行くんだよ。其処で仕入れた情報で本邸で変身大会をしてくるんだ。父上も一緒に成って悪乗りするから、僕の手には追えないんだよ、ジョアン。」

 「ああーぁ、そう言えばウィリアムの髪形も変わっていたよ。トップに巻きが出来ていて、若々しくなっていたよね。デイジーも良く似合って綺麗だと思うよ。」

 「有難うジョアン。ねっ?マイク、ジョアンは似合うって言って呉れたでしょ。」


 そう言うと、デイジーは共布のリボンを結び、白いワンピースを弛ませた腰に軽く手の甲を当て、胸を逸らしてマイケルへ左目を軽く瞑って見せた。

 マイケルは小さな溜息を吐いて、肘で僅かに曲げて上げていた両腕を力無く卸して、細い両肩を落とした。


 「はぁー、デイジーを甘やかした駄目だよジョアン。絶対にジョアンは似合うと言って呉れると自信満々にデイジーは言っていたんだ。僕は生真面目なジョアンなら、デイジーの短い髪を否定すると言う方に賭けていたんだよ。ヨークへの外出を許可しないといけなくなったろ。駄目だよデイジー、妊婦なんだから、産まれる迄は外出禁止。体調が戻ったら、ヨークの街へ行っても良いから。」

 「ホント?約束よマイク。」

 「ええー、デイジー、懐妊して居たの。おめでとうーつ!」

 「ふふ、分らなかった?ジョアン。」

 「うん、全くだよ、デイジー。」

 「デイジーも判らなかっただろ?胃が悪い、風邪かもって言ってた癖に。」

 「もうー、分らないわよ、私も初めてだし。」

 「ふふっ、有難うジョアン。僕とデイジーは、こう言う抜けてバタバタした日々を過ごして居るんだよ、ジョアン。此れからはジョアンも一緒だと思うと愉しみだよ。」

 「ははは、それは楽しそうだね、でっ、何時マイケルジュニアは誕生するんだい?」

 「4月頃の予定だよ、ジョアン。」

 「来月じゃ無いか、マイケル。大丈夫なのか?デイジーは。」

 「うん、今は本邸の先生かルイスが交代でチェックして呉れているよ。僕の体調チェックはずっと3日に一度してくれていたけど、デイジー迄診て貰って無かったしね。それで気付くのが11月頃に成ったんだよ。それ以来、本邸から出産経験の或るエマが来てくれるように成ったんだ。」



 そしてマイケルとデイジーは懐妊が分かった時の騒動を照れ臭そうに俺に話して呉れた。

 ふと、俺の父親と母親もこんな風に俺が母親のお腹にいる時は、語っていたのかと考え始め、慌てて小さくかぶりを振って、その想いを追い払い、美しいジェロームの笑みを脳内に思い浮かべた。

 俺には幼い頃からずっとジェロームが居て呉れた。

 そう思うと急にジェロームの部屋へ戻りたくなって、俺はアシェッタとオシリスの土産をルーサーから渡して貰い、再訪を約束しマイケルとデイジーのスィートホームを後にした。



 

 『リターン・ホーム』


 さあ、俺のウチへ帰ろう、、、。

 俺の足は自然と早く動いていた。












  旅に出していた野良猫がでっかくなって帰って来た。

 別に肉体の事じゃねーし。

 身長は1ミリも伸びて居ないのだけど身体は引き締まり、ぼーっとしていた顔付はキリリと凛々しく成っていた。

 薄い髪色に薄い目の色そして真白な肌にヌボーっとした野良猫ジョアンも抜けていて俺的には好ましかったけど、日に焼けて確りとした瞳で俺を見詰めて来る野良猫ジョアンは飼い猫にレベルアップして、此れは此れでマニア向けに良い感じへと育ってくれた。

 拾い主の俺はウハウハである、色んな意味で、、、。

     エロい意味は微塵もないからな。




 帰宅して俺の顔を見た途端「うるっ」っと淡いアクアブルーの瞳を潤ませたジョアンは、慌てて「マイケルに挨拶してくる。」つうて、艶の或るオークの扉を開いて、勢い良く飛び出して行った。



 「なぁ、ジェローム、ジョアンは僕に挨拶して呉れなかった。僕はマイケルの父親なのに。」

 「知らねーよ。大体、なんでウィルの護衛がジョアンに就いて行ってるんだよ、ウィル。」

 「いやー、知らなかったなー(棒)。暫く旅行したいと言ったから、休暇を与えたけど、ふふっ、ジョンには困ったモノだよ。護衛と言っても友人みたいなモノだから上下関係じゃないからね。」

 「そー云う所だよ、ウィル。絶対にジョアンに鬱陶しがられるからな。どうせジョンにジョアンの行動とかを報告させていたんだろ。」

 「そう言うジェロームだってルーサーをジョアンの護衛に就けて居たじゃ無いか。」

 「俺とウィルじゃ違うだろ、つうか、あのルーサーの阿保が報告とかしてくる訳が無いだろう。でもってオシリスの古代遺跡跡地でメモリーストーンなんつうモノを拾って来たから、グレタリアンへ返さないといけないし。」

 「どうして?ジェローム。」

 「ああ、セイン。ルーサーも北部へ国籍は移して居ないから、グレタリアンの考古学研究所で登録しないといけないんだよ。新しいモノを発掘したからさ。本来ならオシリス帝国に渡せば良いんだけど、ジョアンが3月には帰国するって言うから面倒で持って来たんだ。」

 「それってグレタリアンとオシリス帝国が揉めないかい?ジェローム。」

 「知らん、、ルーサーがグレタリアンで登録する方が良いつうんだから俺は発掘者に任せるよセイン。マイケルの所から戻ったら、ルーサーを一時帰国させないと。それにしてもジョアンも困ったモンだよ。」


 「何が?」

 「どうしたんだい、ジェローム?」


 「いやオシリス帝国で子供を買ったと手紙は貰って居たけど、何の説明もない侭で飛び出して行っただろ?猫や犬の子じゃないんだから、ホイホイと買って来て如何する心算なんだよ。ジョアンは全く。」


 「いやー、ジェロームにそれを言われたら、ジョアンも吃驚するだろーさ。」

 「うん、そうだね、。僕もそう思うよ、ウィル。」


 セインは頭を左右に振って俺を見詰め、忌々しいウィルは呆れた顔で肩を竦めた後、クロードの淹れた珈琲に口を付けた。


 

 


 


 

 マイケルの小屋から戻って来たジョアンを俺は迎え入れ、ウィルとルーサーを俺の聖域から追い払い、無事にグレタリアンへと旅立たせた。

 早速ジョアンにサラームの事を尋ねると、毎日のように旧遺跡跡地に手伝いに来ていたのでジョアンは食事や1ペニー与えていると孤児院の人が売りに居たので、その侭購入したと言う。

 

 「サラームは奴隷として買った訳じゃ無くて、何となく俺が放って置けなくて」


 そう言って懐かしいジャックに良く似たハスキーボイスでポツポツとジョアンは俺に説明をした。

 子供達が多く遺跡跡地近くに集まっていたらしい。

 遺跡に近付くと、調査している人やオシリスの警察に叱られるので、外国人の気の良さそうな人の傍へ近付いて行っていたと、サラームは早口で話した。

 まー、ジョアンもセインもオシリス語は解らないので、サラームの失礼な説明は理解して居ないのだけどね。


 モスニア帝国は、基本的にオシリス国内の事には不干渉なので、子供達の売買も関知して居ない。

 オシリス帝国へ直ぐに攻め入ろうとするグレタリアン帝国対策でモスニア軍は常駐しているだけ。

 まあ、オシリス帝国の湾と南下する便利な河川を守っているだけなのだ。

 序に攻めて来るトルゴン帝国も追い払っていた。

 もう攻めて来ようにも攻めて来る王が居ないと言う微妙な国と成ってしまったトルゴン。

 建前的には宗教が違うのでオシリスの文化とルールはオシリスでと言う話らしい。

 流石モスニアと思ってけど大元はフロラルスの遣り方を真似ただけだそうだ。



 セインやウィルに「ジョアンを拾ったお前が言うな」と散々にこき下ろされたので、サラームを買った事を俺は寛大な心でジョアンを不問にした。

 ウィルから「飼い主を真似しただけ」って言われたしさ。

 まっ、ジョアンとサラームは此れから互いに言葉を学べばいいさ。

 2人のジェスチャー会話は見ている俺も楽しいしね。



 そして俺はサラームと退室しようとしたジョアンにポツリと告げた。



 「サラームって平和って意味らしいよ、ジョアン。」


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