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ロングロング  作者: くろ
33/85

冒険譚



  アリロスト歴1919年  7月




  そうだった。

 俺の可愛いセインは時々、超ド級のエアー・クラッシャーに成ってしまうのだ。

 面倒事回避の為、俺はウィルにジョアンへの気持ちを気付かせない様にしていたのだけど、セインが見事なストレートパンチを決めてくれたのだ。

 焦ったウィルは「何を馬鹿な、僕にソッチの趣味はない」と、逆切れ状態でアタフタ焦りながら、艶の或る重厚なオークの扉を開いて、転びそうに成って俺の聖域から出て行った。


 「僕は何か失敗をしたのかな、ジェローム、だったら御免よ。」



 黒縁の眼鏡の蔓に右手を当てて押し上げ、飴色の大きな瞳をパチパチと瞬かせて、大きな体を縮ませ俺を見詰める愛らしいセインが悪い事等、何一つある訳は無い。

 悪いのは爺の癖にジョアンへ勝手にフォーリン・ラブしてるウィルだから。

 うん。

 俺の内心のジャッジは決まった。


 『セイン、逆転無罪!!』


 で、ある。








     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 アリロスト歴1919年   8月




  大方の予想通り北部では自由党が勝ちショーン・キャメロンが新大統領になった。

 ベンジャミン・ヤング元大統領は暫しクローバーフィールド市のホームタウンで英気を養うそうだ。

 61歳のヤング元大統領なら未だ若い。

 再婚してセカンドライフをエンジョイして貰いたいものである。


 あれから俺の聖域にはセインの大きな体に合うライティングディスクを入れて、ロンドのジェローム探偵事務所の部屋と少し似た状況にしてみた。

 あくまで似ている気分だけなんだけどさ。


 そんな俺の元へ有能な方の補佐官クラークがロンドから遣って来た。

 なんか兄が2人目の懐妊に浮かれて何か遣らかしたのかと俺は一瞬ヒヤリとしちまったよ。

 研究職的な風貌をした銀縁の眼鏡を掛けた細身の補佐官クラーク。

 セインは黒縁眼鏡を掛けているし、徐々に俺の周囲の眼鏡率が上がって行きそうだ。

 互いに挨拶を終え、クローが淹れた薫り高い珈琲を補佐官クラークに勧めて俺は話の続きを促した。



 「ジェローム様、近々、北カメリア北部でも政府に寄り電話設備が整えられるでしょう。」

 「へぇー、兄が北部にも権利を売ったんだ。グレタリアンの方針で南部にだけしか売らないと思っていたよ。じゃあ、グレタリアンでも電信網が完備したんだ。」

 「ええ、グレタリアン政府が買い上げて都市部の主要な所にはラインを引き電話機を設置しました。北部に売らなくとも簡易な物なので直ぐに真似されるだろうと。まあ、金融機関から国外との提携を強く求められて居ましたから。それと反対は多かったのですが、エイム公爵はヴェイトとゲルン共和国にも販売するそうです。」

 「ふふっ、発明者のティンゴ氏も兄が出資している会社も大忙しだね。」

 「ええ、今は未だ高額ですし交換手も少ないので設置する場所が限定されていて、未だ楽だとエイム公爵も仰っていました。」

 「当分はそうだろうね。俺なんかは直ぐに連絡とるなら電信で良いけどな―。」

 「それで、北部でも交換手を置いたらデルラに電話を設置したいとエイム公爵が。」

 「げっ、はあー仕方ないな。本邸の方へ頼むよ。序にヤング氏が置いてった無線機も回収してよ。」


 そう俺は補佐官クラークに答えて、陶器で作った藍色の珈琲カップに口を付け、クロードが淹れた珈琲の薫りと苦味を愉しんだ。


 「それと、」


 そう一言補佐官クラークは区切って、窓側の少し離れた場所に座っているセインをチラりと見て、俺に向き直り、静かに俺の次のアクションを待った。

 俺に内密の話をしたいのだろうけど、前世とジャックの話以外はセインに極力秘密にしないと俺は決めていたので、此の侭補佐官クラークに話させる事にした。

 まっ、セインの素直過ぎるウッカリ・レスポンスは俺への可愛い試練だと考える事にした。


 「ああ、クラーク、セインは居て貰っても俺は構わない。」

 「はっ?えーと、はい。では、、、皇太子殿下のお妃さまに臣下からと言う話はジェローム様もご存じで?」

 「ああ、審議中だと報告は貰ったよ。」

 「そうですか。そちらの方は9月には法案が通ります。それでなのですが、エイム公爵のご息女エレイン様が選ばれることに成ります。ですので婚姻が決まりましたら、是非ジェローム様もご出席を。」

 「はあ?ちょっと待ってよ。エレインて13歳で、しかも亡くなったエリス義姉上はオーリアの伯爵家出身だよ?幾ら臣下から選ぶと言っても母親の家格が低過ぎるだろう。」

 「実は、バレたのです、ジェローム様、、。」

 「はっ?何が?」

 「亡くなられたエイム公爵夫人はギール王国の王女であるエリザベート様であると。」

 「嫌々、えー、なんで?正か兄が?」

 「いえ、飛んでも無い、ソレを告げられた時のエイム公爵の殺気は今思い出しても身が震えます。」

 「な、なんで、そんな事に。」


 俺は焦りでカラカラに乾いた口で、兄の殺気を想い出し顔色を悪くした補佐官クラークに、掠れる声で説明を促した。


 問題の日は7月に起きた。

 ぬらりひょんデニドーア外務卿に呼び出しを受け、兄と補佐官クラークはバレン宮殿の皇帝の私室へと入って行った。

 其処にはエイム公爵家と同格の公爵3家の当主と皇帝、そしてデバーレイ首相と何故かパトリックと皇太子が居た。

 其処でぬらりひょんデニドーア外務卿は惚けた良い笑顔で話し出した。


 「全くエイム公爵もお人が悪い、一言私やヒューイに相談して呉れれば、もっと色々と上手い具合にギール王家を助け出せましたモノを、フフフッ、全く謙虚も過ぎると嫌味ですぞ、ふっ。

 実はエリス夫人の養子先ノーファ伯爵家から既知である私に嘆願が来ましてな。プロセンの前王が亡くなって、キール王族への危険が去った今、キール王家の正当な縁者エリザベート王女のご子息をキール国へ戻して欲しいそうですよ、エイム公爵。

 エリス夫人がエリザベートであると言う証明なら、教会の方と肖像画と、此の書類、そして亡くなられれたキール王国の両陛下の手紙と揃っております。

 まあ、エイム公爵とエリザベート公妃との事は深くは聞きますまい。若い頃は色々とありますからね、ふふふふっ。」


 そんな話に集まった皆々は度肝を抜かれて、長閑な笑い声を上げて良い表情を造っている、ぬらりひょんデニドーア外務卿を呆気に取られて眺めた後、エイム公爵を見ると絶対零度の殺気を込めた目をして、ぬらりひょんデニドーア外務卿を見詰めている姿に、皆々は恐れをなして沈黙した。



 ええー、ノーファ伯爵め、絶対に墓場まで秘密にして持って行くと俺に言った癖に。

 何サクっと兄の天敵ぬらりひょんデニドーア外務卿にバラしてんだよ。

 あっ、俺に連絡を取れなかったか。

 ジェローム探偵事務所ねーもんな、もう。

 つか、息子を負債しかないキール王国へ渡さない事を懸念して、敢えて公に成るようにデニドーア外務卿を巻き込んだか。

 って事で次男はキール王国内が落ち着いたら旅立つことに。


 はぁー、何やって呉れてんだよ、ノーファ伯爵め。


 「でも、やっぱりエレインの歳がなー。兄も嫌がっているだろ。」

 「それが、エイム公爵は大袈裟に騒がないなら良いと言う事に。まあ、機嫌が最悪で直ぐにタウンハウスへと戻られましたが。」


 はぁー、俺やジャックが関わらない事に、兄は興味が無いからな。

 良い子達に育ったのは偏に賢き義姉エリスのお陰だろう。

 願わくばエイム家の偏愛の血も義姉エリスの血によって薄まって居るのを望んでしまう。

 俺は意図的にソレを避けて来たからなー。

 つうか22歳の皇太子に13歳の少女って、、、ヤバくね?


 「では、ジュリアス皇太子とエレイン婚約は決まったの?クラーク。」

 「一年間は偶に会われる程度、過ごして貰い、その後、婚約と、、、エレイン様はまだお若いので。ただ、ジュリアス皇太子がエリアス様をお見掛けして必ず妻にしたいと、集まっていた皆様に宣言してしまったので、断るのは難しいかと思います。皆様も男性や人妻を選ばなかったことにホッとしまして。」

 「えー、何その基準。って言うか13歳の少女を見掛けて、その反応はヤバいよね、クラーク。」

 「はい、しかし、まあ色々在りまして、大変だったのです。主に私の兄ヒューイやヒューイの部下達が。ですから今回の婚約が成れば一安心と。」

 「あー、うん、お疲れって言っといて。て、言ってもスチュアート4世って未だ未だお盛んだよね。」

 「はい。」


 兄なら基本放置だけど、ぬらりひょんデニドーア外務卿辺りなら細かく動いてそうだ。

 元は枢密院議長でスチュアート4世の教育係も兼ねていたからなー。

 婚姻して引退出来たと思ったら、ぬらりひょんデニドーア外務卿はスチュアート4世の世紀の恋問題で呼び戻されて、80歳過ぎても保護者兼外務卿として働かされている。

 でもまあ、彼は兄を揶揄えて楽しそうだと思えるのは俺の気の所為か。


 その後、俺は補佐官クラークから兄からの伝言を受け取り、一先ずトマスに本邸へ案内するように頼み、艶の或るオークの扉を開いて、若干草臥れた補佐官クラークの細い背中を見送った。


 1886年頃、仕込んだ企みがこんな形で露わになるとは、、、。


 賢き義姉エリスを兄への人身御供にしたけど、いや、兄と言うよりはエイム公爵家へのだよな。

 13歳の幼い少女はスチュアート家って言うよりも、グレタリアンの人身御供に成るのか。

 まー、先の事等、どうなるかなんて誰にも分らないよな。

 俺だってこんな世の中に成ってしまうとか、兄が俺の娘と婚姻して、セインの娘オリビアと俺の息子ユージンと婚姻してしまうなんて、夢にも思わなかったし。


 セインは、大変な秘密を聞いてしまったことに驚いて、黒縁眼鏡の下の飴色の大きな瞳を見開いて、俺を凝視していた。

 俺は、またセインに秘密を抱えさせてしまった事を申し訳なく思いながらも、此れからは共に生きて行くのだし、下宿112Bで助手でいた時の様に、兄との機密情報を遣り取りする度、退室させていた頃に戻したくは無かった。


 退室させるたびに、どこか寂しそうなセインの背中を俺は此処デルラでは見たく無いんだ。


 俺は呆然としているセインに声を掛けて、俺の近くに置いてあるサフランイエローのベルベットを張ったアームチェアーへと手招きをして呼び寄せた。


 さて、俺はジャックの事柄だけを抜いて、賢き義姉エリス、本名エリザベート王女との馴れ初めをセインへ取って置きの冒険譚として話そう。

 此れはクロエとシェリーが見つけた、あのダイヤモンドの持ち主の話だ。


 きっと聞き終わったら、セインはガチョウの丸焼きを食べたくなるだろう。

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