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ロングロング  作者: くろ
29/85

グッドニュース


   アリロスト歴1918年   8月




 仲良しだなとジェロームとウィリアムのじゃれ合いを見て俺は思う。

 大人に成った俺は、迂闊にそんな言葉をジェロームとウィリアムには言わないけどね。


 仲良しと言えば、マイケルとデイジーがメチャクチャ仲良く為っていた。

 いつもマイケルの傍にデイジーは寄り添って、必要そうなモノが在ると可愛らしい笑顔をマイケルに向けて、そっと手渡したりしている。

 気に成ってマイケルに訊いたらデイジーに好きだと告白したと真っ赤に成って俺に打ち明けた。

 心の奥の方でズクリと痛みを感じたけど、俺は気付かない振りをした。

 まっ、デイジーは憧れを秘めた目でいつもマイケルを見て居たものな。

 秘めれては、いなかったけど。

 当然マイケルはデイジーからも好きだと言われて、付き合う事に成ったらしい。

 うん、ソレはイチャイチャもしたいよね。


 つう訳で、邪魔しない程度にマイケルと過ごすようになった。

 マイケルが知り合った頃よりも元気に成ったのって恋のパワーだったのかな。

 俺も25歳に成ったけど、いつか元気に成れるような恋って出来るのかな?

 って言っても俺って元々元気だけどね。



 俺はベットに横に成ってパラパラとセイン・ワート博士が書いた『ジェローム探偵の冒険』のページを繰って、本を閉じた。

 もう3回は読んでいる。

 何度読んでも小説の中のジェロームと俺と暮らして居るジェロームが同一人物とは思えない。

 凛々しくって、鋭敏な頭脳で謎を解き、悪者をビシバシ遣っ付けて、良き弱い者を助け悪い強き者をくじく、正に正義のヒーロー。

 此れって誰だよって俺は思う。

 同名だけど違うジェロームって話しだったりして。

 俺の知るジェロームは時々意地悪で、やっぱり意地が悪くて、怠け者なのに手間暇かけて煙草をブレンドして、古書を集めては光に賺したり、ページのチェックをしたり、小さくて薄い武器を作成したりと、気の赴く侭に生きている。

 エイム公爵の配下ーズと呼ばれる人達以外の来訪を面倒がって本邸のディックやクロードに相手させる事も或る。


 でも、ジェロームは意地が悪いけど俺には優しい気がする。

 まあそうか、優しく無かったら記憶を無くした子供を拾って、此処まで育てて呉れないよな。

 それに俺もジェロームの傍を離れなくて良いと言って呉れた後は、嬉しかったし。

 初日のジェロームの言葉なんて、俺はジェロームに忘れられていると思っていたから。

 俺が側に居る事でジェロームの気分転換に成るなら、それはそれで一つの恩返しに成るのかな?

 とても返し切れる恩じゃ無いけどさ。


 それに俺がプライベートスクールを卒業して、あの侭軍学校へ行って居たら、今回の大戦に出征してきっと死んでいたと思うんだよね。

 デルラへ送り出して呉れたエイム公爵も「小姓になってよ」と引き留めて呉れたジェロームも、俺の命の恩人だと思う。

 ニックからの手紙で、ブレード地区に住んでいた時に、顔を会わせた事の在る幾人かの近所の人が、戦死していたのを知った。

 実はウィリアムの嫡男セドリックも戦死した事を最近知った。

 ジェロームは、其の事を余り特別な事として捉えるなよって俺に言ったけど、そう言う訳にも行かないじゃん。

 だって、マイケルのお兄さんなんだよ。

 俺は急いで部屋へ行って、マイケルにお悔やみの言葉を告げたんだ。


 「有難う、ジョアン。国の為に戦った兄を僕も誇りに思うよ。ただ僕は、殆ど会った事も話した事も無いから、余り実感は湧かないんだ。実は父上ともデルラで暮らし始める迄は、余り会った事は無かったんだ。多忙な人でウエットリバーに居る事が多くて、本邸が或るグラム領には殆ど戻って居なかったんだ。父上は、ただ我が家の誇りだと告げて、それで十分だと。」


 何となくマイケルの家の複雑さを俺は感じたけど、マイケルが余り話したく無さそうだったので、俺もそれ以上は聞かなかった。


 そして気に成っていた、一緒に軍学校へ行こうと言っていた学友のフランク・ネルソンとジョーン・パリス先輩が、無事だとロンドから知らせる一報が届いて、俺はホッとして慌てて歓びの手紙を2人へ書いた。



 そう言えば旧プロセン連合王国のフリード7世が北カメリアに亡命して来た。

 フリード6世は革命が起きる数か月前に亡くなって、宰相に国王へ据えられて執務の殆どは宰相が遣り、王宮の一室に軟禁されていたのだ言う話。

 フリード6世の従弟の息子だったそうで、革命政府が現れた時に、直ぐに退位を済ませて側近と一緒に北カメリア迄逃げて来た。

 裁判を開きたいのでフリード7世の引き渡しを国際連盟側は求めたそうなだが、北カメリアの連合政府は亡命した者を引き渡せないと拒絶したそうだ。

 まあ、退位していたら既に王でも無いし、闘いの詳細などフリード7世が説明するのは無理だろうと、ジェロームは話していた。

 北部の連合国は、これまで通り、プロセンじゃないや、ゲルン共和国との関係を続けて行くと宣言していたから、ルイスにとっても良いのじゃ無いかと思う。

 

 協合国主催の国際平和連盟から戦争の責任を問われる事を恐れて、フリード7世が亡命して来た時に科学者たちも多くついて北カメリアに来た。

 北カメリアの北部政府も欲しい知識や技術だったので、丁重に受け入れたみたいだ。

 今回のヨーク市でのサマーキャンパスで9月の新学期から講義を始める教授名と大学名、学部が教えられて、学びたかった教授の名前が有りルイスは大喜びをしていた。

 大戦が始まって以来、将来の不安を感じて暗かったルイスも自分が望む教授の下で学べる未来が見えて来て、表情が明るくなってトーエン・ビレッジで電球の改善に余念がなかった。

 秋に大学に戻ったら、研究室で新たな電球を作って見ると清々しい笑顔で俺に話して呉れた。


 そんなルイスの笑顔を想い出しながら、俺は白熱ガス・ランプの灯りを消して、掛布を掛け直して瞼を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちた。










     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1918年  10月




 もう幾度目かに成るヤング大統領からの召喚状を携えてクリストン特別区の大統領官邸の迎賓室で、俺は嫌々エネルギッシュなヤング大統領と面談していた。


 クロエも真っ青になる程にビジネスジャンキーな北カメリア北部の連中は、怖ろしい勢いで建物やインフラを建設し、しかも4つの州には女子大学を建設し終わっていた。

 ポスアードの川から蒸気船で南下して通り過ぎる街並みの風景を見る度に時間を跳躍したのでは?つう錯覚に陥る。


 工業地帯には南部から移って来た多くのプリメラ人が働いて、北部の好景気を下支えしている。

 着の身着のままで南部から民族大移動をして来たプリメラ人は、貧困層が当然多いけど学びのチャンスはあるので、やる気とラック次第で北部では成り上がれる。

 そう言うカメリアンドリームを胸に好景気の波を皆で泳いでいる、のかな?


 内戦中、中立区だった5州は、南部と北部の緩衝地帯として存続していた。

 段階的にプリメラ人奴隷制度を廃止するそうだ。

 此処数年で進んだ農地の機械化は、プリメラ人奴隷を余り必要としなくなったようだ。

 きっと南部もその筈なのだけど、あちらは工業労働者やインフラ整備として使っているそうだ。

 必然的に奴隷制度そのものが過去の遺物と成るだろうけど、如何やらカレ帝国から10年の借地契約を得た土地へ移して開墾させる心算みたいだ。

 グレタリアンとモスニアがカレ帝国と北カメリア南部と不可侵協定を結ばせた挙句の戦利品?

 どうも南部は北部のようにプリメラ人に教育を受けさせるのは嫌みたいだ。

 そう遠くない未来に南部のプリメラ人も銃を手にするだろう。

 昔、北カメリアがグレタリアンから独立したように。


 そんな事を考えていると補佐官から渡された書類を読んでいたヤング大統領が顔を上げて真っ直ぐに俺を見て、整えられた顎鬚を揺らして口を開いた。


 「随分と挑戦的な国際連盟を作ったのだな、グレタリアンは。」

 「いえ、グレタリアンと言うよりもモスニアのレオンハルト3世が主導されたと俺は聞いています、ヤング大統領。南部の連盟国も批准するようですので、此処は北部の連合国も批准された方が良いと思いますよ。」

 「しかし、余り我らには旨味は無いな。ジェロームが批准を進める理由は?」

 「ええ、恐らく此れからは国際連盟加入国内で新たな枠組みを作る話し合いをする筈です。強制力は在りませんけど、まあ、海千山千のヨーアン諸国が秩序を決め始める所へ参加して居ないと後々、面倒な事に成るのではと。それに現在はゲルン共和国だけですよね、ヨーアン諸国の同盟国は。通商条約国はありますけど。外交チャンネルを広げるチャンスでもありますし。」


 「はぁ、私もそう考えるのだが、きっと議会では難しいだろうな。今回もヨーアン諸国に関わらなかったから、此の好景気が続いて居ると話している議員も多い。国際連盟からの批准勧告書にも腹を立てたり、無関心な議員が殆どだ。報告にあったヨーアン諸国の被害が大き過ぎた。」


 「そうですか、議会制民主主義の議会の決断がそうなるなら仕方ないですね、ヤング大統領。では、俺は此れで失礼を。」

 「コラコラ、ふっハハッ、勝手に話を終わらせるな、ジェローム。」

 「うーん、でも現在のヤング大統領の懸念事項はそれぐらいですよね?人手不足は各議員達の選挙対策本部で補充して、中央の省庁は有能な学生や大学教授から招聘す津事に成って居るし、」

 「ジェロームは何故、直ぐに帰りたがるのか。」

 「ええー、ヤング大統領だってバカンスは領地へ戻っているでしょう?まあクリストン特区は、背の高い建物や密集させた建築物を造れない様に規制していて、緑の多い静かな地域ですけど、俺には人工的過ぎて苦手なんですよ。」


 「次に自由党が勝ち、自由党の大統領に会ったらジェロームが相談役に、、。」

 「成りません。色々と俺の我儘を聞いて呉れたヤング大統領だから俺も招きに応じているだけなんですよ。それにこう言う立場の人間を議会の承認なしに大統領の傍に置くのは感心しません。内戦の動乱期直後だったから、許された部分でもあると思います。俺なんかより有能な若い人も多く育って来ているし。」

 「はあ、全く君は頑固だな。若いってジェロームも未だ充分に若いだろう。」

 「ふふっ、見た目は若く見えても俺って51歳ですからね。ヤング大統領とは9歳ほどしか変わりませんよ。連盟国のアンソニー・デイビット総統は3期目も続けられるそうですよ。ヤング大統領も、もう一期務められては如何ですか?2期と言うのは慣習なんですよね?」

 「それは流石に勘弁して貰うよ、ジェローム。選挙運動ももう始めって居るし、私の気力もそろそろ限界だからね。」


 そう言ってヤング大統領は肩を竦めた後、両手を開いて左右に振って、お道化た調子で何も無いと言う仕草を俺に見せて、イラドの紅茶を口へ運んだ。

 俺もヤング大統領のその仕草に笑いつつ、シンプルな白い珈琲セットのカップを右手で持ち、冷めかけていた珈琲を口へと運んだ。



 実は、この時にc・エイム研究所なるモノがクリストン特区に作られていた事等、俺は知る由も無かった訳で、コレだから政治家と言う生き物は信用がならないのだとブータレたのは、又、後の別の話である。









     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1918年   11月




  今年の冬の寒さは例年より一ヶ月早くデルラの地を白い雪景色に染めた。

 海や地形のお陰で隣国ナユカに比べて雪の少ない地域だったので、窓の外に見える白い景色に、俺は一瞬ロンドに立ち込めていた濃霧の中へ戻ったような気分に成った。


 そんなナユカ国は、モスニア=フロラルス帝国の植民地3ヶ国を除いたグレタリアンの保護州全てが、グレタリアンに対等な権利を求めて、現在ロンドへ交渉に行っているとか。

 南プリメラも自治権を求めて居ると言う話だ。

 そして南カメリアに或る植民地でも民族自決を求めて交渉中だとか。

 トラッドランドも独立の機運が高まりロンドへトラッドランドの議員達が訪問して居るらしい。


 俺の目の前でニコニコと嬉しそうに語るウィルが忌々しい。


 「なあ、ウィルって揉め事が好きなのか?何がそんなに嬉しいんだよ。」

 「いやあー、パックス・グレタリアンが夕陽を拝む様に成るかと思うと、少しだけワクワクしてさ。ジェロームもグレタリアンが嫌いだったから嬉しくない?」

 「ねーよ。俺はウィルみたいな万年思春期じゃねーからな。全く正義感を拗らせやがって。」

 「でも、今回の此れは戦争には成らないだろ?ジェローム。一応は、民族自決の国際連盟に批准した内容に沿って居るし、下手に違反したらヴェイトみたいにヨーアン諸国から批難決議出されるしな。」

 「まあ、皆、グレタリアンの戦争に半ば強制されて協力したのだから、当然の要求だけどさ。でも、次の問題が立ちはだかって来るよ、ウィル。金融と法律。」

 「ああー、銀行や証券、保険会社と裁判所と弁護士か。」

 「そう、何れ各国に移行はするだろうけど、その間にグレタリアンが無策で居る筈もなく、見えない形での支配になる予感。って俺は思う訳よ、ウィル。」

 「そうだけどさ、ジェローム。やっぱり外交権や開戦・終戦権は国としては、担保したいと考えるのじゃないか?兵は出すのにソレが無いって軍事的にもヤバいだろ?」

 「はぁー、まあそうだけどな。なんか俺はモヤモヤする。」

 「ふっ、ジェロームの方が拗らせてるだろう。そうそう、ジェロームのモヤモヤを吹き飛ばすグッドニュースを1つ。マイケルとデイジーが婚姻するんだ。」

 「はっ、まー、おめでとう。ウィルの望み通りに成ったじゃん。それで慌てて、あんな小さな屋敷を此のロッジの敷地に作ったのか。ウィルの事だからもっと我儘にでっかく作ると思ったけど。」


 「色々と僕もマイケルと話し合って、なんだかジョアンの考え方にマイケルも感化されて、自分に見合った屋敷をって事で山小屋みたいな家に成ったよ。野放図に生えてる樹々の所為で本当に山小屋にしか見えないが。」

 「人の屋敷の敷地にウィルは勝手な事を。で、何時マイケルとデイジーの婚姻式を?」

 「3月に成ってだな。ポスアードの教会から牧師に来て貰って屋敷で祝福を授けて貰うよ。」

 「ふふっ、トーエン・ビレッジの牧師はなんちゃって牧師だからな。」

 「まあ、僕は良いんだけど、デイジーを新教徒へ改宗させないといけないからね。フロラルスは旧教徒が多いから。」

 「でもまあ、おめでとう。確かにグッドニュースだよ。」

 「だろ?それでさ、ジェローム、結婚祝いって事で、マイケルの妹とジョアンを婚約させて、俺達も本当の家族に成って見ないか?」


 「ハア――っ!冗談を言うなよ。つうか、ウィルとジョアンは家族に成るかも知れんが俺とは全く関係ない。ウィルと此れ以上濃い関係なんて、俺はお断りだっ!」



 めでたいグッドニュースだと俺がウィルに甘い顔をすれば、直ぐコレだ。

 本当にウィルは油断も隙も無い。

 短い金の髪を揺らして、声に出して朗らかに笑うウイルを、俺は冷たく睨みつけていた。

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