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ロングロング  作者: くろ
27/85

たった一つ



  アリロスト歴1918年   6月



フロラルス窓から入って来る、6月の光と風を繊細な白いレースのカーテンでベールを掛け和らげて、俺の聖域へと入れている。

 グレタリアンつうかロンドでは窓を開け放つ等、煤煙を供給するだけの行為だったので、俺も含めて誰もしなかったけど、アカディアに或る此処デルラに住んでからは、心地良い風の流れを室内で楽しめるようになった。



 時は5月、賠償金の額は被害を算出後に出すと言う事で、敗戦国や戦争当事国であるトルゴンを参加させない侭の長い話し合いは一先ず終わった。

 グレタリアン帝国は、被害の大きさの責任を取りグスラン首相が辞任し、解散総選挙に成った。

 この時期に辞任を延ばしたのは、反戦を一貫して唱え、勢力を拡大した労働党が政権内で多数を執りそうだったので、フーリー党のグスラン首相と連立を組んでいたホリー党のデバーレイ副首相達は、大まかな大戦後処理を済ませて於きたかったからだ。


 労働党が野党第一党に成れば、旧ルドア帝国や旧プロセン連合王国に出来た社会主義を標榜している革命政府寄りな敗戦処理に成る事を懸念したのだ。

 まあ、プロセンは革命を起こしたゲルン共産党は、穏健派に倒され(穏健派とは?)資本主義経済の侭、議会制民主主義で国民投票に因る大統領が統治するゲルン共和国になった。

 

 でもって、旧ルドアでも立憲君主制やら民主制やら社会主義やら共産主義で革命後の革命闘争が起き、結局ヴェイト政権が成立し、『社会主義国家ヴェイト』へ移行した。


 此の社会主義国家と言うのが労働党議員達のツボなんだよね。

 グレタリアンの労働党員ってメクゼス博士の社会論の申し子な訳で。

 労働党のテキストだからさ、メクゼス博士の社会論。

 で、旧ルドアに甘い措置で妥協などされたら困ると考えたグスラン首相とデバーレイ副首相は、野党や国内世論の責任追及に耐えて、旧ルドアや旧プロセンの戦後賠償の枠組みを締結し帰国。


 そして、解散総選挙である。


 帰国したら総選挙とアナウンスはしていたので、一気に増えた4百万以上に増えた有権者にも対応出来たようで、野党第一党として立候補していた議員も28名全て当選した。

 既存の政党は、案外と細分化して居て俺も吃驚。

 保守のホリー党は、保守党以外、「この党名イケてね?」みたいな複雑な名前に分れ過ぎだよ。

 まあ、ソレはフーリー党も同じだけどさ。

 青年の主張みたいな党名は辞めた方が良いよ、元フーリー党の皆さん。


 で、デバーレイ服首相が居たホリー党が、与党第一党になって連立を組むことに成ったんだけど、マイクロフト党首がブチ噛ました。


 「上院の予算否決権を無くしたい。」


 当然、ホリー党は古き良き貴族の下院に置ける保守政党でも或る。

 喧々諤々の議論を終え、デバーレイ首相は仕方なく労働党のマイクロフト党首と連立を組むことに成った。

 フーリー党より可成り革新的な労働党と御年69歳のデバーレイ首相は、上手く遣れるのだろうか。


 グレタリアンにもプロレタリアートが表に出て来る時代に成るとは、、、そう思うと感慨深い。



 そして戦いから生還して帰国した有産階級の皆様に、課税のプレゼント。

 旧ルドアや旧プロセンみたいに成ったら如何すると、宥めたり賺したりして累進課税は通したけど、相続税を紛れ込ましていた固定資産税は否決された。

 普段、全く議会に出席しない上院の方々も出席されての否決だったり。


 その時に国際会議の内容が甘過ぎるとデバーレイ首相へ議会から追及もあったらしいけど、俺としては頑張ったと思うけどな。

 それよりも、旧プロセンと旧ルドアの植民地を取り上げて、敗戦国の大幅な軍縮まで押し付けただけでも凄いつうか、酷いっ内容って思うけど。

 軍人の大量解雇なんて、基本的に碌なことに成らないのは歴史が証明しているんだけど。

 レオンハルト3世は、未だ若いって聞いているけど、グレタリアンとオーリアのジジイ達に押し切られたんだろうなー、可哀想に。

 



 国際会議では沸点の低いグレタリアンとオーリアを宥める為に、モスニアのレオンハルト3世が会議を主導し、国際紛争を話し合う国際平和機構を創設する事を話したそうだ。



1)講和交渉の公開・秘密外交の廃止、2) 海洋(公海)の自由、3) 関税障壁の撤廃(平等な通商関係の樹立)

 4)植民地の公正な処置、5)ルドア・プロセンからの撤兵とルドア・プロセンの政体の自由選択

5)ギールの主権回復、6)ルールをフロラルスへ返還

7)グロリア国境の再調整、8)ハンリー、バンエル王国内の民族自治

9)ベリカワ諸国の独立の保障、10)、トルゴン帝国支配下の民族の自治の保障

11)ポーランの独立


国際平和機構の設立


 要は、国際協調、国境問題の調整、民族自決、戦後処理の具体的提案(国際平和機構)等を話し合って『平和的に』解決しようね?って奴である。

 初めての大戦も終わり、新秩序、ニューオーダーである、仲良きことは美しきかな?かも。

 如何なのかなー。

 てか、真っ先に破るのはグレタリアンだっ!と俺は思うし、此の書類を廻された各国の役人も思ってる筈。

 此れは推理では無く事実だから。

 

「グロリアって役に立たない割りにガタガタ領土欲しがって煩せーよな、スルーしとこうぜ。」


 そう言う会話が休憩中に成されたとか成され無かったとか。

 まあ、戦勝国は基本、分捕りにフロラルスの首都パルスに集まっている訳で、春うららってティー・ブレイクしに選挙や議会を放り出して来ていない訳で。

 モスニア帝国の若きレオンハルト3世が、ヨーアン諸国の性格の悪さに凹まない事を、おいちゃんは内心で願っているよ。


 まーっ、オーリア帝国がブチ切れてるのも仕方ないつうか、戦死者の数がグレタリアンと為を張る約90万人だし、今回は連合軍が通り抜けた村や町も被害に遭って、パンピーも餓死も含めて10万以上亡くなっているし、同じ分遣り返したいのも分かるけど、取り敢えずは生き残った人達の事も考えよう。

 同じゲルン言語圏でありながら、アルフレッドが死んでからは何かと張り合って戦争していたプロセンとオーリア。

 ハンリー王国とバンエル王国もオーリアに帝国に戻ることなく国際平和連盟に見守られつつ、民族自決を成すことに成った。

 一応ね、バンエルの王女様がグレタリアンのスチュアート4世陛下の妻なモノで、余り無茶をされたく無いって内々の事情も或る。

 それにバンエルの元国王陛下もグレタリアンに逃げて来ているし、

 ぶっちゃけて下世話な事を言えば、バンエルの国王陛下はピュアな男色家で嫁も居ない。

 で、嫁に来ている王妃エリザベスが男児2人を儲けている。

 嫡男は当然グレタリアンの皇太子として現在成長中で、あわよくば次男をバンエルの君主へと狙っているので、バンエルへ下手にオーリアの干渉を受けさせたく無いのだ。


 ハンリー王国は元からオーリアの結びつきが強かったけど、貴族の力も弱りプロセンの干渉もあり実質ブルジョワジー達市民派はプロセンを呼び込んだ。

 まあ、バンエルも同じようなモノだけどね。

 でもって今更オーリアが出て来て身分社会の再構築とかされたくないって訳で自主独立を主張。

 

 ハンリーやバンエルで死傷者が多かったのは、そう言う内情があったからかも。

 貴族が減って居て将校クラス不足。

 ハンリーが約11万以上でバンエルがやく10万以上、捕虜や移動中亡くなった人も多いらしい。

 ハンリーの王族は行方不明だとか。

 調査が入るのでその内に分かるだろう、タブンな。



 旧ギール王国は今更主権回復って言われても、プロセンに作り替えられているし、今更自分たちでと言われても混乱しないかな。

 一応、グレタリアンが縁も在るしフォローすると言っているけど、心情的にはオーリアの方が親近感を持って居るのでは無いかと考える。

 兄の嫁だった故エリスにも嫡男以外に子供は居るけど、こんな負債しかないような王国へ兄も態々、戻さないと思うし、必然的に身分制の無い社会を模索するだろう。

 亡き賢き義姉エリスが、ギール王国の王女だったと知るのは亡命する時に手を貸したオーリアの伯爵家とメアリー・グリーンだけだと言っていたし。

 グレタリアンが欲を出し過ぎて、資源の管理に口を挟み過ぎない事を願うばかりだ。



 て言うか旧ルドアの軍人達の死者数が可笑しい。

 約189万人~約235万人って、マジか?

 まあ、プロセン連合王国の約200万人以上って数も可笑しいけどさ。

 

 俺は思わず頭を振って、兄から届けられた書類から顔を上げて、大きく息を吐いて伸びをした。

 こういう遣り切れない気分の時は、ジョアンの声を聴くと気持ちが晴れるのに、ジョアンは大学の友人とヨークのサマーキャンパスに出掛けていて、デルラに戻って来るのは来月だ。

 俺は椅子から立ち上がってゆっくり歩いて、艶の或る重厚なオークの扉を開いた。

 『ハスキーのジャックに似た暢気な顔でも撫でて遣ろう。』そう思って、俺は初夏と夏の狭間を感じる日差しの中へとクロードと共に歩いて行った。


 


 俺が何時もの緋色のアームチェアーに腰を降ろして、クロエからの手紙を脚を組んで読んでいると、艶の或るオークの扉を開いて、にこやかな笑顔を振りまき、左手を上げて忌々しいウィルが俺の聖域に入って来た。

 少しだけ伸びた金の短い髪を左手で搔き上げ、ウィルは深緑の瞳を細めて俺の傍に置いてあるモスグリーンの生地を張ったアームチェアーに当たり前のように腰を掛けた。


 「お早う、ウィル、何時も機嫌が良さそうで何よりだ。」

 「ふっ、お早うジェローム。ジェロームは何時も不機嫌そうだな。思って居たのだが、お早うと言うには、時間が遅いな。もう昼に成るぞ。」

 「午前中だから良いんだよ。つうか、ウィルは何時デルラに戻って来たんだ?」

 「さっき戻ったばかりだ、ジョアンはサマー・キャンパスから戻って来ているかい?」

 「ああ、マイケルを連れて友人と一緒にトーエン・ビレッジに行っているよ。ウィルは行って、余り若い子達の邪魔をするなよ。」

 「失礼な、僕が邪魔をする訳無いだろう。」

 「ふふっ、ロンドは如何?大分、落ち着いた?」

 「ロンドが落ち着く訳が無いだろ、夫が復員して来たら妻が居なく成ってたり、新しい彼氏を作ってたりでパブでは、愚痴のオンパレードだよ。後は妻が忙しくて放置されるとかね。」

 「ふはっ、そいつは悲劇だな。しかしウィルがパブに行くのって似合わないな。」

 「流石に此の恰好では行かないが、街の空気を知るのはパブが一番だよ。労働組合の動きも活発だったしね。皆が飲んで居るのがエールに成って居て少し可哀想だったな。」

 「ジンへ馬鹿みたいな酒税を掛けているし、ブランデーやバーボンなんかの強い酒も税金を上げたからな。女性には評判は良いってサマンサが書いて来ていたよ。でも、もう何回、国が酒税を上げたか忘れたな。それで今回の増税はなんて?」

 「重症の傷痍兵への治療費の補助だそうだよ。今回は徴兵制だったから、人数も多いし貧しい傷痍兵も多くて国が負担するのも大変に成ったそうだよ。此れを機にマイクロフト副首相は国民保険を考えているらしいよ。反対が多くて此れも難しいけどね。」

 「へぇー、自助努力のグレタリアンが変わったものだな。そんな考え方をする政治家が現れるなんて。ふふ、それで上院を何とかしたかったのか、マイクロフト議員は。」

 「でも、ジェローム、ホリー党と労働党の仲が最悪でね。何時、連立を解消するかって感じだ。」

 「貴族院を無くしたい下院も議員も居るだろうから、遣り方を間違えなければ下院を通過させられるかも知れないけど、少し性急な気もするね、ウィル。」


 「まあ、労働者問題と上院の問題のばかりを、デバーレイ首相達も構って居られ無いから、苦労していたよ。それにジェローム、今、植民地自治区だった国々から民族自決の請願が多く届いていて、ソレの対応やヴェイトやゲルン共和国の問題も在るしな。」

 「ああー、モスニアのレオンハルト3世が主導して作った国際平和連盟の奴かー。」

 「そう、あの文言に刺激されて東ヨーアンや、ベリカワ半島でも独立の機運が高まって、気が抜けない状態だ。ジェロームはレオンハルト3世が提示したあの文言を如何思った?」

 「まー、無理だろうなーと思ったよ。秘密外交の撤廃なんて此れを提案したモスニアが先ず無理だし、グレタリアンやオーリアも外交なんて締結する迄は嘘でも秘密でも何でもアリだと思っているモンな。ウィルだってそうだろ?貴族としても商人としてもさ。あの大戦で領土問題は何一つ解決して居ないから、火種だけを増やしたって状況だな。」

 「はあー、そうか。レオンハルト3世の思惑は如何で在れ、戦勝国は増えた植民地や領土の問題を解決しないといけないワケだ。後はポーランの独立は一番難しいだろう。皆ポーランの資源は欲しくて仕方ないからな。それに、未だ国が始まったばかりなのにヴェイトで、も3回政府が変わっているし。」

 「でも、仕方ないよ、ウィル。一回目はブルジョワ政権で二回目は王政復古派が武力で政権を執ったし、国民が支持して居たのはヴェイトだしな。でも漸く社会主義政権に成って声明を出したじゃん。まあ、土地を全て公有化したという発表を聞いてグレタリアンや北カメリア等は驚愕したと思うけどね。でも、あの広大な土地を公有化して運営するのは大変だと思うよ。」


 「はー、やっぱりモスニアが言うようにヴェイトを国際平和連盟に呼んでいた方が良かったよ。軍縮などすると思えないし、呼ばずに勝手に懲罰的な制裁措置を下しても拘束力はないしな。」


 そう言ってウィルは俺の煙草を口に銜えて、マッチで火を点け、吸い口の薄い紫煙をを吸い込んだ。

 俺はクロードが淹れた薫り高い珈琲で散らばった情報を脳内で構築し直し、苦味の強い黒く熱い液体を喉の奥へと零して行く。



 深緑の瞳が俺を捉えて揺らめき、紫煙と共に深く息をウィルは吐き出した。


 「ジョアンが、、、。」

 「うん。」


 ふと落ちた沈黙で、俺とウィルはジョアンの姿を想う浮かべている。

 そう、俺もウィルも願っている事は、たった一つ。

 ジョアンが笑って居られる、そんな日々を願う。

 俺もウィルも拾った野良猫に癒されジジイに成っちまってるからな。

 擦れたジジイ同士のサイレントトークは、俺の聖域に紫煙と共に薄く広がって行った。


 俺も煙草に火を点けて、薄く紫煙を燻らせて、何時もは忌々しいウィルの微笑みに、俺もわずかな笑みで返す。

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