スコアボードvol1
アリロスト歴1917年 4月
キラッキラの生体エネルギーを、トーエン・ビレッジと本邸で過剰浪費してた6人組を、一先ずポスアード街へ放牧し、生育させてヨーク市へ出荷する予定でロビンに処理を頼み、俺は兄から預かった彼等を蒸気自動車3台に積み込ませて見送った。
当然、蒸気自動車の騒音を俺は聞きたくないのでロッジの玄関ホールから。
アデューっ!
『ジェロームお兄さまへ-、ジェローム子爵と出逢って私は運命を感じました。-バロン-』
そんな若い生体エネルギーの1人、バロンからラブレターを貰ったけど、きっと君は大丈夫。
バロン、君ならきっとヨークでディスティニー・ラブが空から降って来るヨ。
俺にはバロンのキラッキラッな生体エネルギーを受け止めるキャパがねーし。
その内、俺の気が向いたら返信を書く、、、かも?
バロンから貰ったラブレターを、俺はライティングデスクの引き出しに仕舞って居ると、艶の或るオークの扉が開き、トマスに案内されて優しげに見える紳士がベージュのスーツ姿で、俺の聖地へと侵入してきた。
ちっ!
ジェームス・モリアーニかよ。
聖水はパトに使っちまったから他に何か除霊するモノが無かったっけ?
「お久しぶりです、c・エイム子爵。お元気そうで何よりです。」
「ああ、久し振り。モリアーニ氏も元気そうで何よりだ。」
トマスが礼をして去り、クロードが引き継ぐ様にフロラルス窓が並べ応接用セットの置かれた場所へ案内し、ローズウッドのウィンザーチェアーの椅子を引いて、モリアーニが静かに腰を降ろすのを待った。
俺は渋々ライティングチェアーの席を立ち、モリアーニの斜め向かいに置いていた主人用のゆったりとしたアームチェアーへと座り、モリアーニの来訪予定について思いを巡らせた。
そもそも俺とジェームス・モリアーニとは、まるで接点がない。
兄の言伝が無いのなら俺は此れからも、コノ悪党とは縁を持ちたく無いのだ。
「それにしても酷い戦いのようですね。フロラルス西から元ギール国迄の国境線上にモスニア=フロラルス軍とプロセン軍が広がり交戦し、ハンリー国や元ランダ国と元ギール国がプロセン側に就いて闘い、終わりが未だ見えていないとか。戦況報告で、モスニア=フロラルス協合軍約21万4千人、約プロセン連合軍は約19万8千人の被害状況。そしてソルットで、開戦が始まるとか。他にもアワギレ半島、そしてベルビアとグロリアとの国境線上にルドアが展開し、其処へオーリア帝国やルーニア王国、ルガリア王国、エーデン王国が向かっていると聞きました。後はイラドも危険だと言う噂です。」
「、、、被害が21万人?」
「ええ、まだ増えるでしょう。私の方に或る電信は、北カメリア北部の連合国情報将校達が様子を伺って居るのようなので都合が悪く、それでc・エイム子爵邸で正確な情報を得たくて参りました。」
「そうですか。モリアーニ氏は兄からの情報許可書をお持ちですか。」
「ええ、此方です。お確かめください、c・エイム子爵。」
「どうも、失礼します。」
俺は黒い皮と銀のプレートを合わせた二つ折りの手帳に見える板を預り、左手の上で開いて複雑なエンボス加工が施された文様を確かめ、情報開示コードを見るとc-3と彫られて在った。
俺はクロードにも見せ、礼を言ってモリアーニ氏の手に返した。
モリアーニ氏は俺から受け取った黒と銀のプレートを質の良いジャケットの内ポケットから取り出した皮のケースへと仕舞い、ジャケットを僅かに弛ませ左胸の内ポケットへ丁寧に仕舞い直した。
「本邸の応接室で家の使用人から戦況情報を訊けます。此処でも同じ内容の情報は聞けますけど、モリアーニ氏は本邸の方が豪奢ですので、そちらの方が良いのでは無いのですか?」
「いえ、私はタダの金融屋ですので、貴族のc・エイム子爵の近くで話を聞ける方が光栄なのですよ。お邪魔で無ければ、此方に居ても宜しいですか。」
「ええ、どうぞ。少し温く成りましたが、モリアーニ氏も宜しければ珈琲をどうぞ。」
そうモリアーニへ俺は告げて、緋色に金色の細かな彩色を施した温かな珈琲カップに口を付け、クロードの淹れた珈琲の香りで心を落ち着かせた。
1898年のポーラン戦の頃よりも、格段と両国が技術力を上げて作った兵器の殺傷性に、俺は冷たく重い溜息を喉の奥へ、静かに落とし込んだ。
天寿を全う出来ずに散った魂が、安らかな眠りに就けることを俺は内心で願った。
その願いの為に今夜は1人で、バーボンのロックを飲むことに成りそうだ。
そんな事を考えているとトマスが本邸から幾枚かの書類を持って、艶の或るオークの扉を開き、急ぎ足で俺の元へ来て、手にした書類を渡して呉れた。
プロセン、ルドア、ポーラン、他は連合軍と称し、モスニア=フロラルス、オーリア、ルーニア他は協合軍と名乗り、この戦争を始めた。
『西部戦線異状なし』
プロセン側の西部の戦いでは、プロセン、ポーラン連合軍は、様子を伺っていたハンリー王国とチーズ王国に戦闘の協力要請をし、南下して来たオーリア帝国協合軍とルーニア王国協合軍へと戦闘を開始し始めた。
戦闘状況を調べていたバンエル王国はプロセン連合軍側が有利と判断し、オーリア帝国協合軍に宣戦布告して、プロセン連合王国軍とポーラン王国軍、ハンリー王国、チーズ王国たちへ連絡を取り、オーリア帝国協合軍とルーニア王国協合軍を攻撃し始めた。
遅れて来たからエーデン王国がオーリア帝国協合軍へ援軍に来て合流をした。
『東部戦線異状あり』
プロセン東部戦線で、運悪くグレタリアン軍が一国で戦うことに成った。
プロセン領東に進撃したグレタリア軍は、タンベルクでプロセン軍に敗れた。グレタリアン軍は当初、予想を上回るブイブイの速さで進撃してきたが、若く不慣れな兵たちで、次第に連携不足と通信の不備が露呈してきて、進撃が停滞した。
プロセンの戦線立て直しに派遣された司令官レンブルク大将とルーデン参謀長は、グレタリアン軍の無線を傍受してその進路を知り、列車で大軍を移動させて、タンベルクでグレタリアン軍を急襲して勝利を収めた。
このときの戦闘で11万人のグレタリアン兵のうち、5万3千が戦死か捕虜になり、プロセン側の損害は1万だった。
『血風録ベリカワ半島』
北からのプロセン、バロキア軍と同時に東側からベルビアに侵攻し、首都ベオラードを占領した。そのためベルビア軍は、国王政府と共に首都を放棄して撤退、ベルビア政府は一時アシェッタ領のコルン島に亡命した。
その後もベリカワ半島では、プロセン、ポーラン、ハンリー、チーズ王国、バンエル・バロキア連合軍側とベルビア、ルーニア、ルガリア・アシェッタの協合軍側が各所で交戦が続いた。
同時期。
『隠密アワギレのロレンス』
ルドア帝国がトルゴンへ南下し侵攻、アシェッタ諸島も序に目指した。
グレタリアン、モスニア=フロラルス、グロリア、アシェッタ、トルゴン協合軍が迎撃中。
この時、どさくさに紛れてグレタリアンのぬらりひょんデニドーア外務卿は、部下情報将校ロレンスにトルゴンと密約し、モスニア=フロラルスとも話し運河を渡り、ジェルからエデリアナへ進出を図るよう命じた。
オシリス帝国の持つイエル運河の利用権をモスニア=フロラルスへバレないように、もぎ取って来い、つう無茶な注文も追加された。
そして、アワギレの紅海沿岸のシャンプーズ地方でオイリの族長シャリンが反乱を起こした為、トレビス=ロレンスが派遣され、ロレンスはオイリ軍の顧問格となってゲリラ戦を指導し、後方攪乱に尽力した。
そしてオイリで『アワギレのロレンス』と呼ばれてるように成る。
ブラック上司、ぬらりひょんデニドーア外務卿の犠牲者がまた1人。
『イラド・モンスーン』
カザード王国とルドアが、アガスタン王国への侵攻。
当然ですが、グレタリアンとアガスタン兵が熱烈な歓迎。
でもってルドアと戦争が起きている最中、調子に乗っていたグレタリアンへイラド地方の植民地にしていた国々から反乱と言う返礼。
反グレタリアン・マルーター同盟が結ばれムジャル帝国ほか3つの国が反乱を起こし、グレタリアンの総督府が置かれていたベルガーガで蜂起が起きた。
其処に居た総督府の職員や家族が人質に成っていた。
その他、海軍情報もあり、盛りだくさんな戦乱情報。
さて、この中でモリアーニへ渡して良いc-3情報と言うと、プロセン東部、プロセン西部、ベリカワ半島情報までか。
つう訳で俺はモリアーニへとピックアップ情報を報告して遣った。
兄から、俺は情報の引き渡しつう暇潰しな仕事を依頼されて、情報開示レベルAクラスは俺が本邸の執務室で直接面談して渡す案件。
俺となんでもツーツーで話し合っているウィルでさえ、情報開示レベルは「B-1」だったりする。
ウィルの場合は、セルフサービスで情報を得てるので、有能なイケ爺ぶりが俺を苛立たせるけど、手を全く煩わされる事のない出来の良い伝書鳩なのだ。
ウィルのそう言う所も俺は忌々しいけどな。
でもってc-3情報開示レベルのモリアーニを嫌々ながら丁重に俺が応対して居るのは、兄が珍しく人間扱いしている相手だったから。
兄の目に人として映っているのは、俺やジャックそして相性最悪な「ぬらりひょんデニドーア外務卿」でもって伝書鳩ウィル。
そして目の前に居る俺の苦手なジェームス・モリアーニ。
あっ、クロエと兄の嫁で娘のシルビアも居たな。
「有難う御座います、c・エイム子爵。プロセンとオーリア、ハンリーと旧ランダ王国に息子たちが居るので心配していたのです。」
「それはモリアーニ氏も心配でしょう。此の北カメリアへ避難させれば、戦火に巻き込まれないと思いますよ。」
「そう私が言って避難を勧めたのですが息子たちは商売を放り出せないと申すもので。そう言えばエデリアナの地は、どのような状況に成っているか判りますでしょうか。あの地は我らガロアの民に取って必要不可欠な場所ですので。」
「今回の報告には記載して居ませんね、モリアーニ氏。エデリアナの情報が届いたら、其方へ報せましょうか?」
「ええ、お願いします。しかしアレですな、このヨーアン大陸での大戦のお陰で北カメリアの景気は嘗てない程に盛況で、北カメリアからヨーアン諸国へ送り出す輸出の蒸気船も、途絶える暇も無い状況です。我らのような金融屋や商人には良いのですが、それでも多くの命の対価だと思うと遣り切れなくも成りますよ。」
「まあ、そうですね。でも規模が違うだけでヨーアン諸国も他国が争っていた時には、それで利を稼いでいたのですから俺としては何とも言えないですね。モリアーニ氏の気が済まないのであれば慈善活動に寄付をされるのは如何ですか。グレタリアンではレナードホームやセーラ病院やセーラ衛生研究所と看護学校等に。北カメリアでは南部にレナード・ホームが新設されましたよ。」
「おおー、それは良きことを聞きました。有難う御座います、c・エイム子爵。早速手配して置きましょう。そう言えば此のデルラの地は如何ですかな?」
「良いですね、気に入っています。あの兄に不動産をチョイスするセンスが合った事に俺は驚いたモノです。駅の手配をしてくれていたのがモリアーニ氏ですよね?感謝していますよ。」
「ふふ、少し骨は折れましたがお世話に成っているエイム公爵からの注文ですから無碍には出来ません。そうそう此のデルラの領地に或る南西部にエイム公爵の命で、保養地を作りましたので気が向いたら視察してみてください。」
「そうなんですか、ふふっ、そうですね、また何れ。」
それから俺は、モリアーニと型通りの社交辞令で会話を終わらせ、クロードに導かせて艶のあるオークの扉から、聖域からガロアのイカサマ師を優雅に追い払った。
席を辞す時「くれぐれもエデリアナの事を宜しくお願いします。」とジェームス・モリアーニから、俺は念を押された。
俺は、デコられた漆喰の壁と大理石で造られたマントルピースの或る、何時もの場所まで歩いて行き、臙脂色のベルベットを張ったアームチェアーに腰を降ろし、マホガニーのコンソールテーブルの上に置いていた銀色のシガレットケースから、一本取り出した煙草を抓み、口に銜えて火を点けた。
被害状況の多さで、ただでさえ憂鬱なのに、俺はモリアーニと会うと気持ちがザラザラとして不快な気持ちに成って行く。
優し気で礼儀正しい紳士でも、俺の天敵である神と称する者に、過去から未来までの一族の全てを約束の地の対価として支払う信条は、矢張り理解不能な存在だからだろう。
そんな事を想いながら、丸めた書類を広げて俺はグレタリアンのスコアを数えた。




