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ロングロング  作者: くろ
17/85

大戦

  


   アリロスト歴 1916年   9月




 ナユカ国のナディアで、数日間、俺とジョアンは熱いパトスを解放してハッスルし終え、スッキリとしてデルラのロッジに戻って来た。

 態々、隣国迄行ってする事かって?

 見知らぬ人ばかりの隣国だから俺もジョアンもメンタル・リリースし。パラダイス・ナイトをエンジョイ出来るって思うし、シャイなジョアンにはこれ位のイベント性が必要なのだ。


 「男は下手に欲望を我慢すると野生に戻るよ。」


 つう説得がジョアンには一番効果的。

 プライベート・スクールで放し飼いに成っている野生の獣をいっぱい見たのだろう。

 不憫だ。


 男に不寛容なウィルだけど女には寛容なので、俺は此の隙にジョアンを女好きにさせようと若干企んでいる。

 ウィルの魔の手から守る為に。





 さて、スッキリしたジョアンは明るくマイケルとフレンドシップを交わし、楽しいサマーバケーションを終えて、ポスアード大学へと男っぷりを上げて去って行った。

 ちゃっかりウィルは蒸気自動車にジョアンを乗せて駅まで送って行ったけれど。



 さて、ハイマン・トーエン達に任せてあった広い敷地も小麦畑に成ったり羊や山羊の牧場にしたりしてそれなりに楽しい農園生活を過ごして居る。

 暮らし始めて2年程はエイム家のフォローも必要だったけど、ハイマン・トーエン達のモットーは「自分の事は自分で行う。」なので3年目辺りからは自分達で確りと食べて行けるように成った。

 グレタリアンの自助努力の精神半端ない。

 蒸気トラクターや刈取り機や脱穀機など他を貸与していた為、少ない人員での農園運営が可能と成っていた。

 元から販売と言う目的ではなく自分達の食糧予定だったけど、大量に小麦が生産されたために、小麦粉にし、焼き菓子や保存用食料としたドライ・ブレッドがグレタリアンで売れるように成り、ナディア経由で輸出されるように成っていた。

 俺と違ってハイマン・トーエン達は働き者なのである。

 

 そして緩やかなコミュニストのハイマン・トーエンは、念願の地域通貨をビレッジで運用し始めていた。


 で、他の保存食も販売し始めた為、いつまでも仮称のデルラ・ビレッジと呼んでいる訳にもいかなくて、トーエン・ビレッジと言う名称にした。

 デルラ駅付近には北カメリアから許可を得た正規のデルラ・ビレッジが或るんだよな。


 

 元々は北カメリアのポスアードからナユカ国のナディアを繋ぐ線路で蒸気機関車が両国を往来していたのを、兄がデルラの地を購入する際にモリアーニがそそくさとデルラに敷かれた線路付近に簡素な駅を作り、デルラ駅を手配していたからだ。

 そして兄の所有する土地以外はフリーにしていたら、何時の間にかビレッジが出来ていたそうだ。

 俺がポスアード駅からデルラ駅を降りて、用意されていた馬車に乗った時に新しい建物が多かった訳を、仮称名の変更を本家デルラ・ビレッジから申し入れをされて、知った。








  アリロスト歴1016年   10月





 兄がジャックの言っていたように世界征服を目指しているかどうかは俺に分からないけれど、結構以前から北カメリア北部への進出を準備していたみたいだ。

 ロンドに居た頃、デルラの地を購入したと告げた時は本邸に電信網が引けたからだった。

 まあ、俺は兄の裏事情も知らないので、能天気に面白変態人間のハイマン・トーエンへ自由にビレッジ作りをさせたんだけどね。


 取り敢えず、世界征服を目指していると俺が勝手に思っている兄から、ポツン、ポツンとエイム領地に住んでいた学生を送って来たり。


 『マシな人間なのでジェロームが好きに使いなさい。』


 って、俺に言われてもなー。

 どうも今回の戦争へ行かすのが兄には惜しい人材であるようなのだ。

 何人かと面接してルーサー・カーバンクとリオン・ドーセットって言う20歳のガキをロッジに住まわせることにした。

 どうせなら美少女を送って呉れよと俺は兄に内心で文句を言った。

 ルーサーは考古学を学び、リオンは鉄の女セーラに心酔して防疫を学ぶ変態医学生だった。

 理想の女性が鉄の女セーラだと、豪語するリオンは無機物に愛を語れる新種のヤング・マンなのかも知れない。

 ルーサーはパトに負けず劣らずの華やかな容姿にあるにも関わらず、アシェッタ諸島の地層をもっと調べたいと言う根暗なオタクであった。

 勿体ない。

 此れを宝の持ち腐れと言う。

 

 他の兄のお気に入りは本邸暮らしをさせている。

 如何も兄は妻シルビアに娘が生れて浮かれ過ぎてテンションが狂ったんだろうか?

 トマスに叱られつつ、フリーダムにロッジ生活を満喫しているルーサーとリオンを眺めて俺は思う。









    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




  アリロスト歴1916年  10月

 

 

 


  秋も深まり日暮れ前には暖炉へ火を入れる頃、俺はクロエから届いた手紙を読んでいた。

 終戦に成ったら雇われていた女性達はリストラに成るのか?と言う問いだったけど、まあ、成らないだろうな。

 先ず、雇った女性の賃金は安価だった。

 経営者たちがこんな美味しい労働力を手放すとも思えない。

 増して、出兵する前は賃金アップの交渉や労働時間の短縮を経営者側に求めていた男性労働者を帰国後、再雇用するとも思えない。

 労働者にも選挙権を与えたグスラン政権は戦後の不況をどう乗り越えていくのだろう。

 ふと、クロエ達の事を考えると心配に成った。

 我ら、と言っても俺とジャックだけなんだが、我らのグランマ・クロエだから俺が心配しなくても逞しく生き延びて行くとは思うけど、クロエも歳を取ったからなーと自分の歳は棚に上げた。


 そんな事を考えていると一月以上ぶりに忌々しい笑顔を浮かべて、オークの扉からウィルが俺の聖域へと軽やかに入って来た。

 短い金の髪を掻きわけて、モスグリーンのベルベットの生地を張ったアームチェアーに腰を掛け、さり気なくクロードへ珈琲を頼んで俺に向き直った。



 「お帰りウィル、相変わらず俺の部屋へ堂々と入って来るよな。」

 「只今、いい加減にジェロームも俺の存在に慣れて呉れよ。」

 「はぁー。今回はデルラを留守する期間が長かったな。」

 「ああ、ロンドに戻ってエイム公爵の用を済まして居るとルドア帝国がイラド地方のアガスタン王国へ侵攻を始めたとう報告が入ったので、その情報を探っていた。」

 「ええー、1898年にグレタリアンが北東部を割譲したじゃん。アガスタン王国をルドア帝国が取ったらトルゴン帝国が北と西から囲まれてマジで消滅するぞ。」

 「まあ、アガスタン王国にはグレタリアン軍も駐留しているし、オーリア帝国も参戦を表明して対ルドア・プロセンと戦うそうだ。グロリア王国もモスニア帝国側で戦うそうだ。ほれ、此れがその他の参戦表明国だよ。ジェロームも一応、目を通して於くだろ。」

 「ああ、有難うウィル。」


 俺はウィルから渡された書類に目を通した。

 オーリア帝国側にルーニア王国、ベルピア王国、ルガリア王国、エーデン王国が就いた。

 プロセン連合王国側はハンリー王国、バンエル王国、ポーラン王国、チーズ王国、バロキア王国。


 モスニア帝国+グレタリアン帝国+オーリア帝国+グロリア王国ほか。

  VS

 ルドア帝国+プロセン連合王国+ポーラン王国ほか。

 「トコゴン帝国の救出戦争」つう名目戦争なんだけど、実質はグレタリアンとプロセン、ルドアとの覇権争いって構図だ。

 小国は今までの怨念みたいなモノもあるのでドロドロとした戦いに成りそうだ。

 現段階で参戦を表明して居ない国々も当然ある訳だけど、こんな広範囲な大規模戦争は初めてなので俺は思わず興奮し、気を落ち着ける為に煙草を口にした。


 

 「なー、ウィルなんでコンナことに成っているんだ?」

 「まあ、オーリア帝国とトルゴン帝国の力が弱まって、プロセン連合王国の力が増したからかな。ルドアだけのトルゴン侵攻だったら周辺国も動かなかったけど、98年のポーラン戦争でプロセン軍の強さを知っているから、今後の事を考えて諸国も其々に動いたのだろう。それにグレタリアンも戦いを有利に進める為に外交チャンネルを使って各国へ協力を呼び掛けたそうだ。」

 「此れでイラドも荒れるな、ウィル。」

 「ああ、ヨーアン大陸全域で争って居るのを知って、反グレタリアンなイラドの各王国が大人しくしているとも思えないからね。」

 「鉄道網が出来て、蒸気船が開発されて積載量と移動距離が増えたら、此の戦争だよ。どう思うよ、ウィル。」

 「まー、ヨーアン諸国は長過ぎる不況に人々が鬱屈した居たのもあるしね。北カメリアはヨーアン諸国への輸出で景気が上向いているし。元々内戦後、北カメリア両国は景気が上向きつつ在ったから、益々好況になる。」

 「全くさー、、、。」



 俺は、其処でウィルへの言葉を切って煙草を燻らし温い煙を飲み込む。

 そう、全くっ!、なのだ。

 ルドアにしても他の国々もこれほど長く続く不況はシステム的な欠陥なのだ。

 良くジャックが言っていた穴の開いたバケツ問題。

 自己利益の最適化を目指す故に穴が塞がらない。

 少なくとも先進国と呼ばれているグレタリアンやオーリア、プロセンの知識階級がその解決策に気付かない筈が無いのだ。

 ソレをしない、若しくは出来ないのは自己利益の最適化に反するからなのだろう。


 俺がそれを提議したとしても多数の人間に黙殺されるだけだろうけどね。


 まっ、俺はそんな事をする心算はサラサラないけどね。



 「でもジェローム、これで暫くはイラドからコットンやウールを輸入が出来ないから、グレタリアンで衣類の値は上がるだろうな。」

 「ふふっ、案外とそれは一大事かもね。イラド綿は人気の高い商品だから御婦人方から、何とかしろと夫に圧力を掛けて、議会に陳情しに行きそうだ。」

 「笑い事じゃあ無いよジェローム。研究された医療用の薬草類も多いし、案外とイラドの方が重要に成って来ると思うよ。その兼ね合いで、下手したら南カメリアの権益を巡って、モスニアとも争う事にもなるかも知れない。」

 「その為に外交が或るんだろ。ウィルだってモスニアとは交渉が出来るみたいだし、上手くやってよ。いい加減にグレタリアンも力でヒャッホーって分捕って行く外交手法を変えないとね。」

 「はぁ、議会でそう言う決議に成るようにジェロームも祈って呉れよ。」

 「ウィルが兄に話してデニアード外務卿へ頼んで貰えばいいんじゃないか?」

 「デニアード外務卿は余り議会で声を上げる人では無いからな。今は労働者に人気の或るアーサー・バレン議員が、未だに植民地拡張主義でね。どうもアーサー・バレン議員の意見に流される議員が多くて、グスラン首相も手を焼いている状態だ。」

 「ああー、失業者対策や国内の景気回復には、植民地拡大政策は必要不可欠だとロンド・ポスト新聞の記事であったなー。モスニアが抑えているオシリス帝国の運河の権益に食い込む交渉をするべきだとあったな。この考えには前デバーレイ首相も同じホリー党員として賛成していたね。」


 「そう、この戦争の最中なのに。僕には全くアーサー・バレン議員や前デバーレイ首相の感覚は理解出来ないよ、ジェローム。」

 「うーん、そうだ、ウィルは兄が如何考えてるのか分かる?」

 「僕にエイム公爵の考えが分かる訳は無いだろう。それこそ弟のジェロームの方が分かるだろう。」

 「ふふっ、残念だったねウィル。俺もサッパリだよ。元々ロンドに居た頃から、兄は俺に政治の事は殆ど関わらせなかったからね。ロンドを離れてデルラに居る今の方が、色々と兄から情報を貰えている状況だよ。いやー、エイム公爵領から若い学生を送って来てさ、如何したモンかと考えていて、ウィルが兄から何かを聞いてるかな?と思ってさ。」


 「まあ単純に有能な若者を此のワールド・ウォーから避難させて置きたいのだと思うよ。ジェロームが居るから北カメリアで有用に使えると思って、安心してエイム公爵は送り出したんじゃない?」

 「ワールド・ウォー、、確かにヨーアン大陸が世界だと思えば、今回の戦争は大戦かもな。」

 「ジェロームはデルラにしか居ないから、ロンドや北カメリアのヨーク市やポスアード市の緊迫した空気が分からないんだよ。グレタリアンも北カメリアもヨーアン諸国から移民で来ている人達が多いから、ヨーアン諸国でこれ程多くの国が同時に戦うのが、初めての事だから戸惑って恐れているんだよ。全く、ジェロームは、やっぱり偶に外へ出た方が良いぞ。」

 「そうかもな。」



 俺のそんな気のない返事にウィルは呆れて、大きな溜息を吐いた。

 いや、俺だってこれ程広範囲な戦争に気持ちが昂ったけれど、それでも戦えば誰かが死ぬのだし、何処の国でも何らかの勝算が合ってチップを掛けて、自国の兵士が死ぬと分って戦争を始めると決断したのだろう。

 少なくともグレタリアンでは、現在、皇帝が勝手に戦争を始める事は出来ない。

 選挙権を持つ者たちが選んだ議員がフラッグを降ろして、闘いの開始を議会で決めたのだ。

 そんな戦いに、俺は何を想えば良いんだ。


 俺が、顔も名前も知らない息子もラットン子爵家の当主として戦場に居る。

 こんな俺が出来る事と言えば、精々、縁の合った人々が無事で在る様にと願う事くらいだ。

 目の前に居る忌々しいウィルの息子も当然な。


 大戦であろうと、ありふれた戦いであろうと俺の願える事はそれくらいだ。

 懐かしい友人ジャックの姿を想い返して俺は内心で呟く。



 『神には祈らないがな。』

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