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ロングロング  作者: くろ
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エクソシスト



   アリロスト歴1916年 1月



  ジョアンが別れを惜しみつつ(俺じゃ無くマイケルに)ポスアードの大学へと戻った頃、俺はヤング大統領からの召喚状を携え忌々しい笑顔を向けるウィルの足を蹴飛ばしていた。


 「だから召喚状じゃなくて招待状だよ、ジェローム。」

 「ヤダよ。クリストン市って戦闘が激しくてボロボロだってウィルが言ってたじゃんか。」

 「だからヨークに或るホテルでの会食だよ。ポスアードの港からヨーク港迄は直ぐだしね。」

 「つうか、何でウィルはベンジャミン・ヤング大統領を推しているんだ?兄の伝書鳩をするまではヤング大統領と縁もなかっただろ?」

 「ふふっ、強いて言えば僕が今まで会った事のない政治家だからかな。それに北部の連合政府は貴族が居ないし、面白い国に成るんじゃないかと思うよ。此れからの事を考えたらジェロームも一度会っていた方が良いと思うよ。」


 「まあ初代総督のジャン・クリストンは僅かだけど独立戦争後に貴族を残して置いたからな。独立戦争後も南部に領地を持つ人達だったし、今回の内戦で北軍を辞めて貴族子弟の将校たちも全員が南部へと移ったから中立州は兎も角として、確かに全く貴族の居ない議会は興味深い。だけどっ、ウィル!それと俺がヤング大統領と会う事とは別の話だ。」


 「はぁー、ジェロームは我儘だな。それにグレッグ貸本屋と言うか出版社の事も在るだろ?」

 「それこそ既知のウィルが頼んで呉れても良いのに。」

 「僕はホラ、エイム公爵の伝書鳩なだけだから。クルックーって啼くのが精々だしね。」

 「くそっ、ウィルは白々しいんだよっ!」


 ウィルは左に流した短い金の髪を左手で整え、何時の間にか俺の向かい置いていたモスグリーンのアームチェアーに腰を降ろして、俺の煙草をチャッカリと口に銜えていた。

 俺がウィルの事を獰猛な人狼だと認識しているのに反して、他の奴等には優しく穏やかな紳士と映るらしい。

 プラス色気も或るダンディな紳士だとか。

 色気があるって言っても60歳のジジイなんだぜ。


 お前等ウィルに油断し捲くって居ると気付いたら屋敷の金庫を空にされるよ?

 一応は兄とウィルの契約で現在『怪盗バート』を封印しているらしいけど、伝書鳩として色々な場所へ出掛けているウィルの事だ。

 ウィルが心惹かれる場所のチェックは済ませているだろう。


 俺がこんな面倒な男を出入り禁止に出来ないのは、半分が兄の所為で、もう半分が友人のジャックの所為だ。


 『精神的な曾孫ウィルが可愛い、超可愛い。』


 つってジャックは無条件にウィルを可愛がり、何かと気に掛けていたのだ。

 俺は身長188cmもあるウィルに毛ほども可愛さを感じないけど、人を余り寄せ付けないジャックが気に掛けていたと思うと俺も邪険に出来なくなっていた。

 全く面倒な置き土産をジャックは残して行ったモノだ。


 俺はクロードが淹れてくれた熱い珈琲に口を付けた。

 俺は深緑の瞳を細めて優雅に煙草を咥えて吹かすウィルへ南部の様子を尋ねた。

 北部のデルラに住む俺の手元に届く新聞には、古い南部の在り方を嘲笑する記事ばかりで、情報と呼ぶべきモノが無かったからだ。



 「南部のアンソニー・デイビット連盟国総統は外商の為にカレ帝国や南カメリアとの外交交渉を頻繁に行っているようだ。」

 「ふむ、まあ、グレタリアンだけに輸出を頼るのは危険だし、出来ればモスニア帝国とも密接な関係を構築したいだろうね。南カメリア自体がグレタリアンとモスニアとの係争地でもあるけどなー。アンソニー・デイビット総統って元は連合国の陸軍長官だった人だよね。」

 「そうそう、連合国から脱退する事は違憲ではないと判断した。そしてミシピル州の脱退を支持し、陸軍長官を辞任して南部へ戻ると周囲から押されて、連盟国の総督に成ったらしいよ。初めはデイビット総督も州が連合国から脱退する必要性を感じて居なかったみたいだね。」

 

 「そうなんだ。それで南部の経済状況は?」

 「良いと思うよ、北部と状況は似ているし。北部よりも南部は人口が少ないからグレタリアンからの移民労働者をドンドン受け入れている。後、気に成ったのが、懐古趣味と言うか懐古主義に成っていて領主や資産家たちの意識は、グレタリアンの時代が20年巻き戻っている感じがするね。」

 「それは又、新たな階級社会を作る心算なのか、。憲法の下で平等であると言う北カメリア憲法に抵触するんじゃないのか?」

 「南部の連盟国も憲法は独立戦争で勝ち得た北カメリア憲法を堅持するらしいから、恐らく明文化はしないよ。でもホラ、南部は旧教徒が多くて、元々北部の新教徒特有の質素な生活と金儲け主義を嫌って居たから、此の内戦で起きた感情の縺れで、新たなアイデンティティに成っているんだと思う。」

 「はぁー、まあ良いや。今の所、北部と戦闘が起きる気配は無いんだね?ウィル。」

 「ああ無いよ。暫くは南北とも国内の再構築が忙しい。それに兵も激減してるから無理だろ。」

 「そうか。」


 その後、俺はウィルとヤング大統領と会いに行く手筈を話し合い、にこやかな微笑み部屋から去って行くウィルを罵倒してその背中を見送った。








      ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  アリロスト歴1916年  3月




  北カメリアに移住した目的は、セインが心置きなく仕事を引退するのを、野良猫ジョアンと共にまったり優雅な有閑生活を送りつつ、俺は静かな場所で待つって事なのに、忌々しいウィルめ。

 昔程は煩く無いからとグレタリアン産のフォック蒸気自動車に乗せられポスアードの港へ連れて行かれた。

 簡単そうにアクセルとハンドルをウィルは操り、やっぱりケタたましい音をさせるデカい武骨な蒸気自動車で、スピードを出して驀進させた。

 俺の耳は唸る蒸気音に殴り飛ばされ続け、酷い頭痛に悩まされた。


 「1人で帰る。2度とウィルの運転する蒸気自動車には乗らんっ!」


 そう宣言してヨーク港近くに在る3階煉瓦建ての簡素なホテルでベンジャミン・ヤング大統領とヒューチャー・エンカウンター。

 癖の強いダークブラウンの短い髪を左右とトップでなんとか纏めて、痩せた頬にボリュームマックスのダークブラウンの顎鬚を蓄え、強いけど冷静な茶の瞳を俺に向けて、焦げ茶のツイードのスーツを着ていた。

 実は俺って車酔いでこの時ヘロヘロだったんだよね。

 なんとかカメリア式の挨拶をして雑談なんかを熟した。


 ぶっちゃけ奴隷は個人の財産だから段階的な廃止を考えていて、砦を攻撃され南部の州が連合国脱退を表明する迄は内戦をするとか考えて居なかったそうだ。

 まあ、色々とヤング大統領と話が合った所為で、大統領官邸が再建出来たら職員として俺を呼びたいと言われたけど、素直に固辞した。

 きっと気が合うと言うのはヤング大統領の勘違いだから。

 そしてグレッグ出版社については了解を貰えた。

 自由の国なので反北カメリア的でないなら良いとのこと。

 どの道、出版前に検閲は或るそうだ。


 15分程のヤング大統領との邂逅を経て、俺はヘロヘロに成ってポスアード港からデルラに或る我が家へ独りで馬車で戻った。

 実際の所、車酔いが酷過ぎて、俺は真面に話して居ない気がするんだよな。

 

 つう訳で、俺が蒸気自動車に乗る事は当分ない。

 アンド、ウィルの運転する蒸気自動車に乗る事は2度とないであろう。







 

     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1916年  3月



 暖炉の近くに座る俺の右隣には何故かパトリックことパトが居た。


 オークの扉を開いて俺の此の聖域に入って来たパトを見た途端、勢い良く俺はガラスの水差しに入っていた聖水をパトへとブチ掛けた。

 ポスアードの教会で、俺に祝福を与えて呉れた牧師の言葉を頂き、後ろで控えていたクロードにコッソリ持たせていた水は手間暇と金を掛けて作り出したパト用の聖水だ。

 呪われた男パトが来た所為で「ロッジ殺人事件」とか「ビレッジ殺人事件」何つうモノが起きたら堪らない。

 単にパトへ水を浴びせたかったと言う理由では無い。



 ロンドで鬱陶しい華やかさを持ったパトは、水を掛けられたチンチラのように、しょぼくれたオヤジに成っていた。

 実際に、俺から水を掛けられたのだけど。

 でも俺って背が低いからパトの白髪混りの褐色の髪には掛けてはいない。

 つうか、届いていない、クソっ。


 しなやかな動きでクロードが乾いたタオルと俺のお気にの濃紺に金の彩色をした珈琲カップに湯気の立つ珈琲を2つ淹れカートを押して持って来た。

 クロードから乾いたタオルを受け取ったパトは水の掛かったグレーのトップコートの水滴を大袈裟に拭い、「酷い酷い」とボヤいて皴の刻まれた疲れた顔を俺に向けた。


 「酷いよジェリー、久し振りに合った親友の俺に水を掛けるなんて。」

 「済まんがパト、俺は一度たりともパトと親友に成った記憶はないけどな。て言うか俺は決めてたんだ。パトが北カメリアで俺のテリトリーに入って来たら聖水で清めるって。俺に取ってパトは呪いみたいなモノだからな。」

 「なんてことを言うんだジェリーは。でも、そうか、もしかしたら俺の所為かも、、、。」


 何時も能天気で明るいパトが俺の軽口を真に受けて、焦げ茶色の瞳を陰らせ口籠ってしまった。


 「どうした?パト。年を取って性格が変わったか?」

 「うん、聞いて呉れよジェリー。俺の天使レナードが気管を悪くして体調を崩しがちなんだ。それでも天使レナードは誰にも負けない美しさなのだが。」

 「はいはい、でもそれならレナードがロンドを離れて空気の良い所で静養すれば良いだけだろ。」

 「俺もそう思って天使レナードへ引っ越しと療養を勧めたのだが、何処までも清らかな天使レナードはホームの子供達を放り出して行けないと言うんだ。その優しい言葉に俺の心臓は蜂の巣状態に成ったのだ。身を挺しても弱き者の為に尽くさんとする美しさ。それは天上のどのような女神よりも尚、美しく煌めき俺はより一層の熱い思いを天使レナードへ、、、。」


 俺は煙草を燻らせながら、暫くはパトが飽きる迄、レナード賛歌を語らせて置いた。

 オスのパト54歳、天使レナード45歳。

 純粋な天使も年を取るモノ。


 人間パトから天使レナードへ種族が違う一方的な片思い歴23年は、現在も進行中。



 しょぼくれオヤジだったパトがレナード賛歌を語り始めるとキラキラと意味不明な光がパトから溢れて来て、徐々にロンドで会った頃の鬱陶しい華やかさを取り戻して行った。

 此処でレナードに何か在ったら俺に此のウザイ呪われた男パトが取り付くかもしれない。

 でもってジョアンにこんな変態の悪影響とか与えられても困る。

 

 俺は面倒だと思いつつも、レナード救出作戦を考え始めた。

 天使レナードを救う事が、俺に取っての救いに成る筈。



 「それで、天使レナードを癒すために俺は如何すれば良いんだ?ジェリー、教えてくれ。」

 「そうだなー。確かレナード・ホームは国にも予算を認められているし、レナード・ホーム劇団もそこそこに受けているんだろ?」

 「ああ、議会で予算も通したし、児童劇団としての評価も高い。活躍した子達は成長して其々ロンドや地方都市の劇団にも就職が決まったし、他の子供達も就職出来る子も増えた。それに里親や養子に引き取って貰える子も居るしな。」

 「それってレナードやパトやパトの嫁さんが居ないと出来ないシステム?」

 「いや、職員や下働きが熟して呉れている。俺も議会や劇団の管理も有って、そこまで手を廻せないからな。天使レナードは幼い子供への教育をしてる。この所は咳が酷くて、本当に見ていると俺の胸が苦しく、、、。」

 「うーん、ならパトは北カメリアの南部へレナードと移っておいでよ。」

 「いやジェリー、だから天使レナードは引っ越さないと。」

 「ソレは療養って言っているからだろ?こっちの南部は恐らくロンドと変わらない、いやそれ以上に子供たちに過酷な環境だと思うんだ。そこでレナードに北カメリア南部の子供達を助けて欲しいんだ。ロンドと違って土地も広いしパトが良い場所を選んで北カメリア・レナード・ホームを造ってあげるのさ。南部の連盟国はグレタリアンと親密だからパトが話を通せば許可が下りると思うよ。それともレナードは、プリメラ人奴隷を見るのも嫌な人間なのかな?」


 「何を馬鹿な事をジェリーは言っているんだい?俺も怒るよ。天使レナードは人種で判断を下すような人間だと思って居るのかい?嘆かわしいよジェリー。俺があれ程天使レナードの崇高な志や、純粋で清らかな想いや容姿を聞かせて上げていると言うのに。大体において天使レナードは、、、。」


 パトが天使レナードの素晴らしさを語る度にキラキラとした光と共にバラの花びらが舞いながら、パトを見目麗しく飾って行くのを俺は幻視した。

 鬱陶しい華やかさを回復したパトは、意気揚々としてクロードに見送られ、オークの扉を開いて俺の聖域から無事に除霊し終えた。

 俺は即席エクソシストになった気分だった。

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