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生きる者に、敬愛を


「……ぶ……べろぶ……おぶぶぶ………ぶぁぁぁぁっ!! 犬みたいに起こしにくるの何!!?」


「だったら最初から起きてなよ」


「いや、それは悪かったけど。それどこで覚えたわけ?」


「寂滅さんから。それに今日はどっちにしろ早起きしてもらわないと困るんだよ」


「それは、そうだけど…」


「それじゃあ朝ごはんタイムだ!早くカモンカモン!」


………あれから、どれくらいの時間が経っただろう。


二、三ヶ月は軽く過ぎてしまったかな。


まぁ、まだ完全に立ち直れたってわけじゃない。思い出すと未だに涙腺が緩んじゃう。これは情けないことなのかな。


でも、ずっと引きずってるわけでもないんだ。


あの時の彼もメンタルがズタボロだったのに、彼には迷惑かけちゃったな。


きっと、彼も居なかったら私も居なかったんだろう。


「……………って、朝から何考えてんだろ」






「おそーい、何してたのさ」


「貴方に感謝してた」


「何言ってんの?」


いや事実なんだけど。


「そういえばさ」


もっしゃもっしゃとご飯を食べながら彼は


「幻さんは新しい恋愛とかするの?」


「藪から棒だねぇ」


「いや、気になったから。女の恋愛は男と違って上書き保存って聞いたから」


「考えたこともなかったよ。……まぁ、エルドラドの許可が降りればするかな」


「絶対に無理じゃん」


「じゃあ二股前提でいく?」


「それだけ聞くと最低だよね」


「でもそんなことをしているようでもあり、そうでないようでもあるよ」


しばらくして、姉さん達が首を突っ込んでくる。


「二股? やっぱりエルドラドのことはまだ好きなんだ」


「そりゃあね。なんならエルドラド以上に好きにならないと好きにならないね」


「それじゃあ今は誰とも付き合わないって?」


「そういうことだねあっはっは」


「一生どーてー独身」


「ぐさっ」


何かがグサリと刺さった気がする。


「違うぞ寂滅、この場合は処女独身だ」


「あ、そっか」


「ぐささっ」


連鎖(チェイン)攻撃(アタック)やめてもらって良いですか?


「過去の男のことなんて忘れれば良いのに」


「いや一応自分の兄でしょ!?」


「兄さんだからだよ、兄さんは死んだ自分に固執なんてしてほしくないよ。他の子との幸せを望むよ、そう言う人だ、兄さんは」


「でも、そんな相手いないし」


「いるかもしれないよ、案外近くに」


「燭台デモクラシーだね!」


「灯台下暗しね」


「いやいやいや、エルドラドと同じくらい好きな人ってアルカディアしか居ないじゃない」


「………だめだこりゃ」


「え、何が?」


「何でもない、早くご飯食べた食べた。今日は行くところがあるんだから」


「急かさないでよー」


「頭良いのか馬鹿なのかどっちかにしてよね」


「なんで私馬鹿にされてんの???」



今日、どうしても外せない用事がある。


黄金郷の墓参り。






幻さんと墓参りに行っている途中、僕はあの日のことを思い出していた。


それは、兄さんと交わした大事なお話。


「きっと、幻はなんやかんや俺をずっと好きでいると思うんだ」


「うん、それは容易に想像できる」


「だから、俺が許可を出す」


「…………許可?」


「浮気の許可だ。たった一人だけにな」


「一人、だけ」


「お前にだけ浮気しても良いことにしてやる。だからな、お前が幻を幸せにするんだ。いいなアルカディア?」


「僕が、彼女を?」


「お前にできるとわかっているからお前に許可出してるんだぜ?」


兄さんは尻尾を揺らしながら


「………あ、もちろんお前自身も幸せにならなきゃだめだぞ。それを俺はあの世で嫉妬に狂い落ちながら悶えるからさ」


「なんだよ………あの世だなんて……そんなこと言うんじゃねぇよ……」


「…………きっと、俺はこれからお前にとんでもなく酷いことを言う。辛いだなんて言葉が生温いほどには」


「………何さ」


「絶対に幻に弱い所を見せるな。見せてしまったら一気に崩れてしまうから。お前だけは前を向き続けろ」


「……………わかった」



そうして、僕は約束を守った。ちょっとだけ泣いちゃったけど、これくらい許容範囲でしょ?





「………こうしてお墓参りにくると実感しちゃうね、もう居ないんだって」


「それはわかるけど、こんなところでそんなこと言ったら兄さんに説教されるよ?」


「それもそうか」


こんなところで暗い話するなー!って身体ピカピカに輝かせながら言ってきそう。


「あれから何ヶ月経ったっけ? もうすっかり桜が咲く季節になったね。寂滅姉はとてもわっしょいわっしょいしてたよ」


貴方とも一緒に見たかったな。なんて奇跡を描くのはやめよう。現実を受け入れなきゃならないんだ。


「………これ以上は特にないな。貴方は何か言いたいことある?」


「僕? 一応あるよ、兄さんに言わなきゃならないこと」


「なら早くしてほしい、エルドラドからお前の話はつまらんって言われそうで怖い」


交代だ、私の代わりに今度はアルカディアが墓の前に片膝をつく。


「………兄さん、僕ずっと悩んでたんだよ。兄さんの幸せが僕らの幸せと同じように、僕の幸せも二人の幸せと同義だった、あのままでも別に構いやしなかったんだよ。だというのに、兄さんは僕らを遺して先に逝っちゃってさ。何だか嫌なんだよね、卑怯っていうか、フェアじゃない気がして」


「…………?」


アルカディアは一体何を話しているんだろう?


「ま、たくさん考えた結果、兄さんと僕が望んでいることをやろうってことになった。兄さんもそれを望んでいるんでしょ? あの時言ってたもんね、後悔しないようにしろって。だから、僕は………もう遠慮しないよ。だから精々あの世で負け龍の遠吼えでもしてなァッ!」


そうしてアルカディアはお墓から離れた。一体何を話してたんだって聞こうとしたその時だった。


ふにゃりと頬が何かに撫でられた。


「………え、尻尾?」


アルカディアの尻尾の先端が私の真横にあった。そのままその尻尾は私の肘まで絡みついて


「好きだよ」


「…………ぇ?」


「好きだよ、君のこと」


「好き? いや私も貴方のこと…………って貴方まさか」


「さぁ、そこはどうだろうね。そういう意味なのか、はたまた違う意味なのか。ぶっちゃけ、幻さんの考える方で良いよ。君の弟の存在のままでも僕は構わないけど、そうじゃなくても別に良い」


「………なにその曖昧な告白、結局どっちなのさ」


「どっちに転がっても何も変わらないからこその言葉だよ。……まぁ、僕は後者になるように全力で君にアプローチするけどね。後悔はしたくないし」


そうして尻尾を解いた彼は


「…………愛しているよ、幻さん。兄さんと同じくらい」


そう言葉を残して行ってしまった。



「………えぇ……ここで私を一人残すの?」



エルドラドのことは好きだ。でも、アルカディアに好きと言われた途端彼のことも好きなのではないかと思い始めた自分が居る。これじゃあ二股じゃないか、最低じゃん。


「………うーん」


悩んでも悩んでも答えが出ない。


「………ねぇ、貴方はどう思う? さっきの彼の言葉聞いたでしょ? 困っちゃうよね、ああいうの。悩んでも全然答えが出なくてさ。もちろんアルカディアと付き合えば幸せになることなんて目に見えてるよ。貴方と同じくらい一緒の時間を過ごしたからね。でも……これで良いのかなって……」


相手からの返答がないことくらいわかってた。しかし私は続ける。


「あはは、どうやら貴方が言ってた通り私は浮気やら二股やらする最低な人だったみたい。でも、好きな人が複数居るんだったらそれも仕方のないことなんじゃないかなって。エルドラドもアルカディアも二人とも大事だもん」


ねぇ、私はどうしたら良いのかな?


…………………。


わかってるよ、自分で答えを出さなきゃいけないんでしょ。


「まだ寝足りないんでしょ、また来るからさ」


そうして来た道を戻ろうとした時




      幸せになって、いいんだぞ




聞こえた。確かに聞こえた。声が聞こえた。でも、辺りを見回してもその言葉の主は見当たらない。


「………なんだよ、今までずっと起きなかったくせに………ずっと無慈悲な現実を見せてきたくせに………今更起きるってわけか………」


私はいつのまにか湿っていた顔を拭って


「わかったよ、幸せになればいいんでしょ? だったらモリモリに幸せになってあげるよ!! でも、そっちに逝ったら貴方のことも幸せモリモリにしてあげるんだから覚悟しておけっ!!」


その声に反応するかのように、桜の花びらが私の周りで踊る。


さぁ、行こう。もう一人の愛する者のところへ…




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