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幻実


あれから、どれだけの時間が過ぎただろう。


それすらもわからない、電池が切れた携帯は未だに充電されていなかった。


「………なんで…」


それは愚痴、悲しみの言葉。


「なんで、私達なんだ……」


それはあまりにも理不尽すぎた。神が私達の幸せを、間引きするかのように摘み取っていった。


大好きだった、大好きな人だった。その人が、この世から消えた。


「…………待ち合わせを………家のままにしてればこんなことにはならなかったのにッ!!!」


けれど、それは結果論にしかならない。もしも、なんてものはこの世に存在しない。奇跡なんてものは存在しない。


どれだけ叫んでも、どれだけ嘆いても、どんなに名前を呼んでも、私の前には現れてくれない。


どれだけ彼の名前を呼んだだろう、そんなもの覚えてるわけもない。満たされない、何をやっても満たされない。



だったら、死んでしまおうか。



そもそも、生きて何になるんだろうか。生きることに何の意味があるというのだろうか。幸せなんてありはしない、あったとしてもまた摘み取られるだけなのだ。


だったら、死んだ方がマシじゃないか。


「………だけど、どうやって死ねば良いかなぁ…」


私は外の世界を見る。


「………貴方みたいに事故で死ねば、貴方に会えるかなぁ?」


しばらくして、視界にある人物が入った。アルカディアだった。鞄を持って学校へと向かっている。


「……なんで」


なんで貴方は学校に行けるんだよ。エルドラドの死は貴方にとってその程度なの?


………………いや、待て。そもそもエルドラドは死んだの?


だって、アルカディアは平気な顔して学校に行ってるんだ。エルドラドは死んでないんじゃないの?


そうか、ドッキリっていうやつか。そうだ、そうに違いない。


「あは………あはははははははは!!」


危ない危ない、騙されるところだった。


それなら、早く彼との約束の場所に行かなくちゃ。





その日も雨が降っていた。その日……も? 私は雨が降る日最近ここにやってきたんだっけ? 記憶が何故か曖昧だ、まぁ私のやることは変わらないけど。


ここでエルドラドを待つ、それだけのこと。


「………集合時間は何時だったっけ」


まぁいい、待てば来てくれる。彼は約束を破るような人じゃないからね……………



「………幻、どうしてここに?」



姉さん達とアルカディアがそこに居た。


「どうしてって、エルドラドを待ってるだけだよ」


「………………エルドラドを?」


「そう、姉さん達も知ってるでしょ? エルドラドは約束を破る人じゃないってことを。だから、こうして待ってればいつかやってくる」


「………………兄さんは、きっと体調が悪いんだ。それに雨だから来ないと思うよ」


「…………そう、なの?」


「うん………とりあえず、戻ろうよ。ご飯食べよう」


「ご飯? あぁ……そういえば最近食べてなかったな……どれくらい食べてなかったっけ」


「…………少なくとも一週間」


「そっか、道理で」


「それじゃ、いこっか」


アルカディアが手を伸ばしてくる。


「……浮気になるからダメだよ」


そうして………私は三人と家に帰った。





「…………美味しい」


「そういえばさ、明日せっかくの休みじゃん。一緒に出かけようよ幻さん」


「明日? でも…………」


「兄さんは明日も具合悪いよ、それにそもそも明日は兄さんと僕とで遊びに行く予定だったんだ」


「…………何それ初耳なんだけど」


「最近兄弟で遊んでなかったからさ」


「……だったらそれに私が首を突っ込むのは野暮だね」


「そういう予定だったんだけど、兄さん具合悪いし。だからさ、二人で遊びに行こうよ」


「私で良いんならそれで良いけど……でも、二人で行ったらエルドラドが………」


「大丈夫だよ、ちゃんと許可はとってあるからさ。幻さんが怒られる心配はないんだよ」


まぁ許可があるんなら別にいいか。


「で、何をするのさ」


「まぁ、それはその日に決めようよ。その方が楽しいから」



………楽しいって、何だっけ。



頭が痛い、さっきから違和感しか感じない。私の頭がその違和感を処理しきれていない。違和感が違和感のままで良いと言ってくる。だから私はそれを無視し、次の日アルカディアと一緒に出かけた。



出かけた先で、アルカディアはあるものを見つけ指をさした。


「たこ焼きだ!」


「たこ焼き…?」


確かに目の前にあるのはたこ焼きだ。


「たこ焼き美味そうだね!美味そうだね!!」


「……ごめん今そんなに手持ちが無いんだよ」


………あれ、もっと持ってたはずだったんだけどいつ使ったんだっけ?


「そっかぁ、じゃあ僕が買ってくる」


そうして、アルカディアはたこ焼きを買ってきた。


「ほら、美味そうじゃない?」


アルカディアは自分が食べるより先に私にたこ焼きを差し出してきた。



痛い、頭が痛い。私の脳が何かを否定している、思い出してはいけないと否定している。



「…………自分で食べる」


私はアルカディアの手から爪楊枝を取り、たこ焼きを食んだ。


………ソースがたっぷりついてるのに、何も味がしなかった。



頭痛が鳴り止まない、私の海馬は私の知らない記憶を知っているみたいだ。何だ、この不快感は。どうして私はイライラしているんだろう。


気づいたら夜だった、何をしていたのかあんまり覚えてない。


「楽しかったねぇ!」


「……………うん」


私はぴたりと足をとめて


「どうしたの、忘れ物でもした?」


「…………うん、忘れ物。先帰ってて」


「護衛しようか?」


「大丈夫、それに今一人になりたいから……」


そうして、私は彼から逃げるように走っていった。



帰る気なんてなかった、何故かアルカディアと一緒に居たくなかった。何かを思い出してしまいそうで怖かった。


「……結局、ここに来ちゃったか」


期待してしまうんだ、彼が来てくれるんじゃないかって。でも、深夜の今来るはずもないか。


帰るつもりもない、ならここでずっとエルドラドが現れるのを待とう。



「………………嘘つきが」



「………………」


「どうしてこんなところに居るんだよ」


アルカディアが何故か眉間に皺を寄せて私を尋問するかのように質問する。


「居ると思ってたから」


「兄さんが?」


「うん」


「ここに来るまで永遠に待ち続けるつもりだったわけ?」


「うん」


「来なかったらどうするの」


「さぁ、考えたこともなかったね」


彼が約束を破るだなんてあり得ない。帰ってくるまで、私は待ち続ける。


「先に帰ってて、姉さん達にはここに当分居るって伝えてよ」


静か空間に響く、獣の唸り声。


唸り………声?


誰の声?


そう疑問を持った瞬間、私の身体は宙に浮いた。


アルカディアが私の胸ぐらを掴んで持ち上げていたんだ。



「Are you fucking kidding me!?」



アルカディアが鬼の形相をしてこちらを見る、歯茎が見えるほどに牙を剥き出しにしていた。


「!?」


「………ずっと下を見て、縮こまって起こりもしない奇跡に縋り続けて、ムカつくんだよ!!!」


「何……何を言ってるの?」


「お前の脳味噌は一昔前のコンピューターか!? ちゃんと見ただろ、その眼で!! お前は知っているはずだ、その現実を、真実を!!!」


「…………うるさい」


言わせるな。


「うざい………うざいッ!!お前の言葉がうざすぎるんだ!!!」


「うざかろうと言ってやる、支えようとしたけどやっぱり僕には出来なかった。言わなきゃずっとお前は幻実を見続けるだろ!?違うか!?あぁ!!?」


否定は出来なかった。


「どうしてお前がそんな馬鹿(ポンコツ)思考回路になったのかは知らない、だけどそれはきっと逃げたからなんだ。君は現実を見ようとしない、僕らが受け入れた事実を受け入れようとしない!!」


「うるさい………黙れ黙れ黙れ黙れッ!!」


「いいや限界だ、言うねッ! 兄さんは死んだんだよ!!!」


………知ってたよ、そんなこと。


逃げようとしても逃げられない、アルカディアが逃してくれなかったから。


だったら………だったら………


「なんでお前はエルドラドが死んだのにそう平気な顔をしてられるんだよ!!実の兄が死んだんだよ!!?」


「……………」


「どうして平気な顔で学校に行ける……どうして笑うことができる……!! わからない、理解できない、お前の行動の原理が!!! エルドラドはもう居ないのに!! なのにどうしてお前は……そうやって……そうやって!!!」


彼が居ない世界でどうやって生きろって言うんだ!!!


「…………僕は!!!」


「…………お前なんかと話したくない………私はお前みたいに強くない………」


私は強引にアルカディアの手を振り解いて、逃げるように走り出す。



家の鍵を閉めて、アルカディアが入ってこれないようにする。


「……! 幻、今まで何してたの!? 心配したんだよ!?」


姉さんの言葉に耳も貸さず、私は自分の部屋に篭った。


「もう……生きるってことが何なのかわからないよ……」




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