変化が起きた
そんなこんなで一週間、デートの日がやってきていた。
「本当に遊びに行くのー?」
「当たり前だ、お前ばっかりにさせてたまるか!」
「ついてっちゃだめ?」
「お前どういう神経してんだよ……今日は俺のターンなんだからな!」
「むぅ」
「そういえば………ここ最近兄弟で遊びに行ってたりしてないよな」
考えてみればそうだった、僕は兄さんとしばらく遊んでない。
「そんじゃ、来週の休日は二人でどっか遊びに行くか!」
「それもいいかもね」
「んじゃ、向こうで姉ちゃん達と一緒に飯でも作って待っててくれ。期待してるからなー!」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってくるぜー!」
「………今回は、流石に邪魔できないよなぁ。今日は叡智さんと寂滅さんとで何を作ろうかなぁ」
と、僕は三人の家へと向かったのであった。
「やべっ、不味い……」
私は今緊急事態に陥っていた、携帯の充電が空っぽなのだ。
「そういえば、昨日はクタクタで充電しないまま寝たんだっけ………」
これじゃあエルドラドと意思疎通ができないや。
「まぁ、待ち合わせ場所も伝えてあるし……エルドラドになんとかしてもらうしかないか」
それにしても、待ち合わせ時間から少し時間が経っている。遅刻だろうか? でもエルドラドはあんな見た目しておいてわりと時間には間に合わせる人だからそんなことがあるだろうか?
「何かあったのかな……」
思わず不安になる。でも、ここから動くわけにもいかない。すれ違いというものだけは避けたいからだ。
だから私はここで待ち続けた。待ち続けた………
………けど、彼は一向に現れなかった。
やがて、雨が降り、それは豪雨となって私はまともに動けなくなった。
「……エルドラド」
本当にどうしたんだろう、天気予報で雨になることを知って家から動いてないとか? くそ、もしそうだったら電話してほしいと思ったが携帯のバッテリー切れてるんだった。
「モバイルバッテリー……持ってくればよかったな……」
「………………幻…さん」
聞き覚えのある声がした、でもそれは私が予想していた声ではなくて
「………アルカディア?」
そこにいたのはアルカディアだった。
「ど、どうしたのさ!? こんなに濡れて……傘とかは? エルドラド知らない?」
アルカディアは何も言わなかった、ただ私の肩に手を置いて両膝をつく。アルカディアもエルドラドほどの身長だったから、先程はどんな表情をしているのかわかりにくかったが、今ならわかる。凄まじい力を顎にかけ、歯軋りをしていた。
「アルカディア…………?」
一体、私の知らない間に何が起こったの?
「兄さんは…………とっくに家を出たんだ………数時間前に………」
「え…………」
だったら、何でここに居ないの?
「…………兄さんは……」
私は直感でわかった、この先を言わせてはいけないと。でも、アルカディアの口からその言葉は紡がれた。
「死んだ…………」
ずっと続くと思ってた、ずっと変わらないと思ってた。
終焉が来るにはあまりにも早すぎた。それは夢なんかじゃなかった、現実だった。
エルドラドが、この世から消えた。
数時間前のことだった。叡智さんが手に携帯を持ちながら物凄い形相で僕を呼んだ。叡智さんによると、兄さんが事故に遭ったらしい。
僕らはそこへ向かった、そこには見るに耐えない兄さんの姿があった。寂滅さんが幻さんに電話をしたが、電源を切っていたのか繋がらなかった。
「………………兄さん」
どうしてこうなったんだ。崩れ去るにはあまりにと早すぎるじゃないか。僕達の当たり前が、死んだということなのか?
医者曰く、兄さんの状態はかなり不味いとのこと。覚悟をしておいてくれとのこと。
処置はした、と言っていたが果たして本当なのだろうか。兄さんを助けるために本当に全力を出したのか、と。……いや、わかっている。手を抜くなんてことはしないし、そもそもその人達に非はないのだなんてことは。
「兄さん………」
僕が再びそう呼んだ時、尻尾が揺れた。
兄さんが僅かに目を開いてこちらを見ていた。
「………よく聞け、アルカディア」
「兄さん!?」
「お前が………あいつを支えろ……」
「支えるって……何でそんなこと言うんだよ!!? 兄さんがやってた役を僕が出来るわけないだろ!!?」
「出来るさ……お前は俺の弟だからな……」
「そんなん言われたって………」
「アルカディア………約束をしよう………最期の…約束を……」
「最期…?」
「俺を足枷にして生きるな、お前らで幸せに暮らせ」
「………は?」
「俺の幸せは……お前らが幸せになることだからな……」
「何の話だよ…?」
「………いや、そんなことより……」
兄さんは、大事な話をしたのであった。