作戦開始
休日、私の家に来たエルドラドとアルカディア。エルドラドが何やらうんうんと唸っていたので私は聞いた。
「どうしたの?」
エルドラドは答える。
「いや、このままで良いのかなってな」
「このまま? 何の話?」
「恋愛を長続きさせるには飽きさせないことに尽きると思ってだな。いつまでも同じこと繰り返していたらマンネリ化するに決まってる」
「そりゃそうだろうけど」
「それを打破するべく今考えているのだ!!」
せっかく家に来たんだからゲームすれば良いのに。
「考えすぎじゃないの? 今は特に何もないじゃない」
「なってからじゃ遅いんだ!!」
真摯な顔つきをしている、どうしてそんなに新しいことにこだわるんだろう?
「というわけでお前も考えろ!!」
「そんなこと言われても、私貴方以外と付き合ったことないからわかんないよ」
「使えない奴だな!」
「なんでそんなこと言われなきゃならないのさ??」
「そんなことじゃ怒らないだろ?」
「まぁ怒らないけど」
「というわけでlet's thinking! ていうか、俺らデートとかしてないな!!こうやって家でだらだらしてるだけじゃないか!!」
そういえばそうだね。
そこに、近くでゲームをしていた姉さん達が言った。
「なら、次のデートまでエルドラド達がここに来ないとかは?」
「そんなんダメに決まってるだろうが!! アルカディアもそうだよな!!?」
「え? あぁ、そうだね」
「それは無しだ!! その隙に浮気するじゃないか!!」
「私いつのまにか浮気する人になってない?? そんなことしないし、したことないからね???」
「わりと良い案だと思ったんだけどな〜、ねぇ姉さん」
「えっ? そ、そうだね?」
うーん、と頭を悩ましていると
「だったら、現地で集合したらどうだ? いつも貴方達この家に集まってるじゃないか」
姉さんが言う。
「おっ、名案じゃねぇかそれ。ていうか、普通デートってそういうもんなんだろうな」
「貴方達が異常なんだろうね」
おい。
「よし、それじゃあ来週のデートはそれでいこう!」
「今日じゃないんだ」
「今日はぐーたらしたい気分だからな、わからんか?」
「わかんない」
「じゃあわかれ」
………にしても、どうしてこんなことを聞いてきたんだろう。今までだったら絶対そんなこと言わないのに。
「じゃあさぁ、買い物付き合ってくんない?」
アルカディアが唐突にそんなことを言ってきた。
「買い物?」
「うん、少し多くなりそうだから人手が欲しくて」
「私は構わないけど、エルドラドが……」
「そうだ、それは認めないぞ! それに人手なら俺が居るだろう!!」
「兄さんは今日ぐーたらしてたいんでしょ? それに幻さんは騒霊の能力があるから無制限に持てるしー」
「うぐっ」
「だから、自分の言った通りにここで休んでればいい。僕は幻さんと買い物に行くから」
「うぎゅっ」
アルカディアは私の腕を掴む、うぎゃー後でエルドラドに酷い目に遭わされそう。
「…………浮気したら……殺すぞ……」
「ひえっ!」
エルドラドの忠告を聞いて、私達は買い物に行くのだった。
「…………ちょっと!! 買い物するんじゃなかったの!?」
「え? 買い物だけど?」
「いや、スーパーに行くとかじゃなくて?」
「誰も行き先がスーパーなんて言ってないけど」
「そ、それはそうだけどさぁ」
大丈夫かなこれ。弟みたいな存在だけど異性だし………う、浮気にならないよね?
「そんな細かいこと気にしなくて良いよ、あのクレーンゲームやろうよあの玩具ほしい」
「…………貴方まさか、私に集って奢らせるつもり!?」
「そんな下衆なこと考えてないし、ただ遊びたかっただけだし。でも買い物って口実ないと兄さん許してくれないじゃん? 形だけでも買い物はするよ。それに、おかしいと思わない?」
「何がおかしいの?」
「僕と幻さんが遊びにいこうとしたら、兄さんついてこようとしてたんだよ?」
そういえば、アルカディアと二人きりで遊ぶのは本当に久しぶりかもしれない。
「僕はね、幻さんと遊びたかったんだ。兄さん抜きでね。幻さんはそうじゃなかったってこと?」
「遊びたくないってわけじゃないけど……」
「じゃあいいじゃん!」
アルカディアは私の頭に手を置いて
「昔みたいに遊ぼうよ、二人きりでさ!」
ああ怖い怖いほんとに怖い、エルドラドに殺されそうでほんとに怖い。でもこの機会を逃したらアルカディアとまたいつ遊べるかわからないもんな……
「わかったよ、少しだけだよ」
「やった! ハンドスピナー取りにいこう!」
これは断じて浮気じゃない、遊んでるだけ。それだけでデートになんかならないよね?
そんな不安を抱えながらアルカディアと遊んで、家に帰ると不貞腐れたエルドラドが居た。
「やるじゃねぇか、まさか次の日から実行に移すだなんて」
家に帰った途端兄さんがそんなことを言ってきた。
「何の話? 僕は幻さんと買い物に行ってただけだけど」
「買い物ってだけであんなに時間かかるわけねぇだろ!! くっそ、こうなるんだったら今日にしておけばよかった!!!」
「兄さん、ちなみにだけどさ」
「なんだよ」
「幻さんの財布結構軽いけど来週大丈夫?」
「…………………まさか貴様!?」
「お金が無いのにデート行っても仕方なくない? だったらいつもみたいに家にいる方が良くない?」
「貴様の策略に乗ってたまるか!! 来週は絶対行ってやる!!!」
ガルルルルルル、と唸り合う僕達。
「こうなったら貴様の財布から金を……」
「それは流石にダメだよ兄さん」
……あの日から、僕は彼女に近づくようになった。悔いが残らないようにするためだった。ここまで自分のために行動したのは初めてだった。だから、幻さんと二人きりになって、兄さんを嫉妬させて、こうして怒られることに僕は満足していた。
いつ終わるのだろう、僕の欲望はいつ満たされるのだろう。その日が来るまで、きっと僕はこの行動をやめないだろう。
兄さんのお墨付きだしね?
「ぴぇぇ……今日は疲れた……」
何とか生存することができた。
確かにアルカディアと遊んだことはすごく楽しかった。けど、違和感が拭えなかった。
「………なんであんなに積極的だったんだろう」
まぁ考えても仕方ないか。今日は遊びまくってクタクタだ、寝よう。
「ぽやすみ〜〜」
そうして、私は己の意識を闇の中へと放り込むのであった。