影より見る者
……最近、私に彼氏が出来た。本当に彼女が私で良いのかっていうくらいにかっこよくて素敵な人……っていうか龍。
きっと、普通に過ごしていたら彼と付き合うことは無かっただろう。付き合えたのは自分の境遇のおかげに違いない。
「……あ、不味い。もうこんな時間だ」
担任から押し付けられた仕事をこなしていたら、日が暮れてしまっていた。私はわっせわっせと支度をして校門へ。
校門まで来ると見知った顔が視界に入る。
「うっそでしょ……!?」
以前だったらこんなことするわけがないのに、彼氏彼女の関係になったらこういうことするのこの人は?
「うーっす!ようやく来たな、待ちくたびれたぜ!」
「エルドラド!? か、帰ってても良かったんだよ?」
「良いじゃねぇかよーっ!付き合ってるんだからよーっ!」
「いや、それはそうだけどさ!」
「ほらぁ、早くかえろーぜー!!」
そんなこんなで帰路を渡る。途中で互いの手が触れた気がした。
「…………ぁ」
瞬間、彼が私の手を握った。大きな手が私の手全体を包む。
「………手慣れてるね、前に付き合ってる人とか居た?」
「ないでぇす!! お前らも弟も知ってるだろ!」
すんごい………陽キャ………
私達とエルドラド達は昔からの馴染みで、たまに一緒に遊んだり世話になってたりしてた。そして、その積み重なった想いを胸に私は少し前にエルドラドに告白した。失敗しても良かった、また元の関係に戻れると知っていたから。結果、成功してこうして付き合っている。
…………それから、何ヶ月経ったっけ? 特に弊害やいざこざは起きなかった、いつも通りに日常を過ごせている。
「……おっ、たこ焼き!!!」
エルドラドが指さした方向に屋台があった。
「……………帰ったら、ご飯でしょ? アルカディアに怒られちゃうよ?」
「良いじゃねぇかよー!俺は今アレが食いたいのー!!それにちょっと食ったくらいで変わんねぇよー!!!」
「はぁ………」
まぁ、食べれれば良いよね。
「ちゃんとご飯食べられるだけの容量は残すんだよ?」
「わぁっとるわい!!」
そうして私はエルドラドにたこ焼きを買ってあげた。
「なッ! 別にお前が払う必要ないんだぞ!?」
「私が良いから良いんだよ、ほら」
私はたこ焼きをエルドラドの眼前にちらつかせる。
「いただきまーふ、あっづあづッ!!」
「気をつけて気をつけて」
「はふはふー、うまうま」
こっちまでほのぼのしてしまいそうな笑みを浮かべる。心が浄化されそうだ。
「ほらっ、お前も食えっ!」
するとエルドラドは爪楊枝でたこ焼きを刺し、私の口前に持ってくる。
一人で食べられる、と言おうとしたけれどきっと善意でやってくれてる。それを無下にするわけにはいかなく、そのたこ焼きを口にした。
「ん、おいひ」
「んだろんだろ!」
私達はたこ焼きを食べながら帰路を歩く。気がつけば家に辿り着いていて、エルドラドはいつものようにお邪魔することになった。
「おぉっそいぞーーーー!!! 何やってたんだぁーーーー!!!!」
「うぎゃあ!!アルカディア来てたの!?」
玄関を開けて早々、アルカディアの大声が耳にお邪魔する。
「恋人同士だからってこんな夜遅くまで外に居ちゃいけません!!」
「お前は俺の親父か」
「が、学校で色々あったんだよ〜」
「別に恋人同士が一緒に帰って何が悪いんだよ、それにお前どうしてそうカリカリしてるんだ? 余熱でベーコン焼いちゃうぞ?」
「カリカリしてませんー!!」
「じゃあ嫉妬?」
「嫉妬だぁ!? どうして幻さんに嫉妬なんざしなきゃいけないのさ!!」
「誰も幻とは言ってねぇぞ」
「何、私嫉妬されてたの? まぁ最近はアルカディアに構ってあげられてなかったからなぁ」
「変なこと言うな!! 兄さんも余計なこと言うな!!」
「ボロ出したのお前だぞ」
………これが私達の日常風景。アルカディアはちょっと我が強い子。……え、私はどうなんだって? さぁ?得意なことはトランプくらいしかないし。
ちなみにどうしてエルドラドが私の家に来るのかというと、いつもここでご飯を食べさせているから。アルカディアも遊びに来たついでだろう。なんでも、二人に両親は居ないから毎日ここで食べてってる。まぁお泊まりまでは流石に無いけど。
「兄さん今日ご飯抜きね」
「何で!?俺だけ理不尽じゃね!?」
「兄さんが変なこと言わなきゃ良かったんだよ」
「ぶぐぅぅぅぅ」
「じゃあ今からご飯食べに行く?」
「マジで!?」
「待て僕をぼっちにするな!!!」
「エルドラドだって冗談言ったんだよ、軽く受け流してあげなって」
「僕だって冗談だし……」
「おっかしいなぁおかしいなぁ、俺の彼女が俺以外の男とイチャイチャするなんておかしいなぁ」
エルドラドがそんなことを言う。
「何でよ、アルカディアは別に良いじゃない」
「アルカディアだって男だぜ、可能性はゼロじゃない。それに、アルカディアだって幻が気になってるみたいだからな」
「なんでそうなるのさ!? 僕は別に幻さんのこと好きでもなんでもないし!!」
「そうやって全力で否定してるところがまず怪しいんだよなぁ、まさか俺の知らないところで………」
「してない!! 龍の誇りにかけてそんなことしない!!」
「じゃあ何で最近俺達に対して当たりが強いんだよ〜?」
「えぇ………そんなに強くなってる?」
「バチバチのムキムキに強くなってる」
私達が付き合ってからアルカディアの当たりがあからさまに強くなった。
「ぐぅぅ……」
「ほら言ってみろよ、兄貴が聞いてやるぜ。あ、でも幻は渡さないぞ? 飽きたら貸してやるかもしれんが」
「いや飽きないでよ、ていうか本人の前でそんな会話すんなや」
シャレにならないよ。
「だってさ、二人が付き合ってから明確に二人の時間増えたじゃん………」
私とエルドラドは顔を見合わせる、つまりこれは………
「寂しかったの」
「そんなんじゃねぇし!!!」
「だったら俺らの時間が増えてもモヤモヤすることなんざありえませんねぇ?」
「違う絶対に違う!! そもそもそんなのでイライラしてたら僕がメンヘラみたいになるじゃないか!!!」
「なんだ、違うの」
「全ッ然違うんですけど!!?」
「でも結果論としては寂しかったからイライラしてたってことだろ?」
「だーかーらー!!!」
「ごめんねアルカディア、確かにエルドラドにばっか贔屓してたかもしれない。これからは貴方にも構ってあげるから許して許して」
「………………浮気」
「ちょっと待ってエルドラドさん違うんですよこれは」
瞬間、エルドラドがじりじりと間合いを攻めてくる。
「わかってるさ、俺の弟だもんなぁ。かっこいいもんなぁ?」
「違うってそんなんじゃないって。アルカディアはどうするのさ」
「俺がなんとかする、お前は俺だけ見てれば良いんだよ」
「それだけ聞くとヤンデレなんですけど」
「俺結構ヤンデレなんだぜ?」
「え、ヤンデレ彼氏は流石にキツいかなー」
「ほぅ、ならお前を殺して永遠に俺のモンにしてやる」
「シャレになってないからマジで勘弁してほしい」
ていうか、アルカディアはどうするんだよって話。別にエルドラドと付き合ったからってアルカディアのことを忘れるわけじゃない。家族だ、二人とも私達の家族だ。言ってしまえば、二人とも大切なんだ。
………二人からしたら、どうなんだろう?
「おーい、ご飯冷めちゃうぞー」
姉さんの声が聞こえたので私達は自分の席へと向かう。
「アルカディア」
「………何」
「言ってくれないとわかんないからね? 寂しいなら寂しいって言ってね」
「そりゃあ……多少は寂しいよ。でも、二人の時間を壊したいわけじゃないんだ」
「そうなの。まぁ、貴方も弟みたいでとっても大事な存在だからさ。蚊帳の外だなんて思わないでよ?」
グルルルル…………………
「何だよエルドラド、これもダメなの?」
「良いと思ってるのか?」
「アルカディアは弟じゃない」
「世の中には弟に惚れるような奴も居るみたいだぜ?」
「酷い人だ、そんな人にはなりたくないね」
「俺はお前がそうなるんじゃないかって思ってるんだがね」
「ハハッ☆ とんだご冗談を」
「まぁ、仮の話さ。お前と俺が別れたら、アルカディアは恋愛対象に入るのかい?」
「それは、わからないよ」
「つまり、そうなる可能性だってあるよな?」
エルドラドの笑みがこんわいのなんの。
「そうなるって?」
「浮気する可能性」
「どうしてそうなった!!」
「不安の芽は……前もって潰しておきたいからね」
「そんなに私が不甲斐ない人に見えるの!?」
「見えない、でも不安なんだ。だから―――」
エルドラドは私の耳元で囁く。
「浮気したら、殺すぞ」
「ヒェッ」
今本気で悪寒走った、身体ブルブルしたわ。
「それを理解したならアルカディアと関わっても良いぞ、俺もそこまで束縛したくないからな」
「は、はい………」
姉さん………どうやら私はやばい人と付き合ってしまったのかもしれない……………
兄さんと一緒に帰り道を歩いていると、兄さんがこんなことを言ってきた。
「俺、今日ヤンデレみたいになってただろ」
「あー、そうだね」
「別に気にしなくていいぞ、お前に取られるつもりないし」
その言葉に僕は思わずムッとして
「それなら全力で奪いに行こうかな」
「別に構わないぞ」
先程とは真反対の言葉を発する兄さん。
「何、自信満々なんだね?」
「弟に負ける兄になった覚えはねぇしな、それに………このままじゃお前の精神面に色々支障が出るだろ」
「……………何の話さ」
「あいつのことはうまく騙せたつもりだろうが、俺にはお前の嘘なんて取るように判る。お前の兄さんだからな」
「何の話………?」
「正直に言え、アルカディア。お前嫉妬してたんだろ」
「………そんなわけ」
「さっきも言ったはずだ、お前の嘘は丸わかりだと。お前が前からあいつに好意を向けていたことは俺だって知ってたさ。俺は確信持って言ってるからな? それに、俺があいつのことを好きだってこと、お前も知ってただろ?」
…………知っていた、知っていたから手を出せなかった。多分それは兄さんも同じだったのかもしれない。僕のためを思って、兄さんも自分から行動しなかったのかもしれない。
「これはいわば偶然だ。俺は偶然あいつに選ばれた、ちょこっと運命が違っていればお前が選ばれた可能性だってあるんだぜ? まぁ、これだけは言っておくけどよ………俺らが付き合ったからってお前が遠慮する理由は毛頭ない。他の奴にとられたらブチギレるかもしれねぇけど、お前だったら仕方ないで終わらせて応援するさ」
「…………どうして」
「お前が俺らの幸せを望むように、俺もお前の幸せを望んでるから、それだけさ。んじゃ、戯言も終わりだな。さっさと帰ろうぜ〜」
僕の数歩先を歩いている兄さんに僕は大声で
「兄さん!!」
「…………何だ?」
「そんなこと言うなら………僕本気で彼女奪うよ?良いの?」
「そうじゃなきゃこんなこと言わないぜ。俺も取られる気なんて無いけどな! ま、せいぜい頑張るこったな」
………本当にこれで良かったのだろうか。考えてみる、もしかしたら僕が兄さんと同じ立場だったらきっと同じことをしていたかもしれない。
………だったら
自分の幸せのために、みんなの幸せのために
「やれることをやろう…」