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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
ラプリアセント編
7/38

◯・翳りし神の刃

調子に乗って一万字突破してしまったので今週はこの1話だけとします(汗)

 ゴルデの荷台で揺られながらようやく橋を渡りきる事が出来た

目前には巨大な灰色の壁が聳え立っている。


「お客さん、国境の町ヨーナヘルトに到着だ」


 グレイヴュール団の一人がゴルデを停止させると、近付いてきた門番が入国審査を始めた。

「ラリッサさんですね。どうぞお通り下さい」

「ええありがとう」


 ラリッサは優雅に答えた。どうやら彼女は有名人らしく門番が慌てて敬礼をしている。

「それとこちらの方は騎士団が保護しているルギーさんです」

ラリッサ達が入国許可証を提示すると門番はチラッと見ただけでにこやかに「どうぞお通り下さいませ!」と道を開けた。彼女なら顔パスでも通れそうだが。



 そして俺達は国境の町、無事ヨーナヘルトに入ることが出来た。


「馬車を用意してきますので少々お待ち下さい」

そう言うと門番は走って行った。



 しばらく待っていると馬に乗った門番が戻ってきた。

「お待たせしました! 道中、どうかお気を付けて」

「ありがとう」


 ラリッサは礼を言うと俺に乗り込むよう促した。

「ここで一休みしないのですか?」

「いえ、ここはあくまで国境ですから……早く出ないといけないのですよ」


 見渡すと確かに町中、鎧を着た人ばかりだ。一般人は見当たらない。

深くは詮索せず馬車に乗って出発した。長い橋を渡ってきてようやく休めると思ったら再び移動か。俺はこの先の道のりに不安を覚えていたが、コズミンは笑顔のイメージを俺に送ってきている。



 ヨーナヘルトを出て三時間ほど経っただろうか? この辺には村も町もないようで人っ子一人いない草原の道をひたすら走っている。移動ばかりで退屈だ。体を動かせないのもそれはそれできついな。

「安心して下さい。もう少しで王都ヴァリアセントが見えてきますよ」

ラリッサが微笑みながら言った。どうやら顔に出ていたらしい。


 更にしばらく走ると大きな城門が見えてきた。あれがヴァリアセントに違いない! というかそうであってくれ。

「ここが王都ですか?」


 俺がそう聞くと彼女は頷き答えた。

「そうです。ラプリアセントの中枢、ヴァリアセント。そして騎士団の本拠地でもあります」


 門の前で検問を受けていると門番の一人が俺達の方へ駆け寄ってきた。どうやら彼女の知り合いらしくラリッサに小声で話しかけている。彼はコズミンを見ると一瞬驚いたようだがすぐに納得した表情を浮かべていた。


 だが俺は違和感を感じていた。ラリッサも騎士もこれまでになく真剣な表情をしている事に。



 検問が終わり俺達は王都に入った。長い歴史を感じさせる石造りの建物が連なっており、広場では露店が立ち並び活気に溢れている。そして遠くに宙に浮いた立派な城が視界に入る。


「ここが王都ヴァリアセントか。えとラリッサさん、あの城は何故浮いているのですか?」


 俺はそう尋ねるが彼女は返事をしないどころか目線すら合わせようとしない。不思議に思いながらも馬車はそのまま進む……。

「ラリッサさん、ここは王都なんですよね? 自分はここで暮らすのですか?」


 ラリッサの表情が暗い。

「ルギーさん……その件なんですが、私に与えられた指令は貴方を王都まで送り届けるというものでして、これから貴方は騎士団に拘束され牢屋に入れられます」


 牢屋?! その言葉に衝撃を受けた俺はラリッサの顔を直視することが出来ないまま、ただ狼狽えていた。

どうしていきなり牢屋に入れられるんだ?!

そんな俺の思考を読み取ったのかコズミンは少し悲しそうな表情になった。慌ててラリッサを問い詰めようとしたその時、鎧を着た騎士が一斉に馬車を取り囲んだ。


「ルギーさん、本当にごめんなさい。私は貴方を守る立場なのに……」


 彼女の言葉を飲み込む前に馬車を囲んでいた騎士の中から二人の男が近付いてきた。どうやらこの二人が俺を拘束するようだ。

「貴様が破壊神の封印を解いた転移者だな? 我々騎士団は国を脅かす敵を野放しにするわけにはいかないのだ! よって……貴様を拘束する」


「ルギーさん抵抗しないで」

彼女は俺に手錠のようなものをはめた。

「私が連行します」


 騎士は顔を見合わせた。

「そいつは危険人物です。しかし……ラリッサさんが言うなら仕方あるまい。どうかお気を付けて」

「ええ」


 ラリッサは頷くと俺を馬車から連れ出し王都の路地裏へ向かう。

薄暗い路地を抜け、町外れに辿り着いた時彼女は立ち止まって口を開いた。

「ルギーさんはこれから地下の牢屋で生活する事になりますが、数日後には王が貴方をどうするか決断します。でもきっと大丈夫なはず」


 ラリッサは悲しげに微笑んだ。まるで別れ際に見せる笑顔のようにぎこちない。だが、俺はこれから一体何をされるのか分からないのに牢屋行きを受け入れられる訳がない。

「ちょっと待って下さいよラリッサさん! いきなり手錠をはめて連行しておいて王に裁かれるのを待てというのですか?」


 彼女は俯き唇を噛んだ……そして覚悟を決めたのか顔を上げ、話し始めた。

「ルギーさんお願いです私を許さないで下さい。騎士団にも王にも罪はありません。貴方を逃がすチャンスはいくらでもあったのに私はそれをしなかった。これは私の罪です」


 彼女はそう言うと右手を握りしめる。その手は震えていた。俺の今の状況は理不尽だが彼女は命令を遂行しただけで何も悪くはないのだ。

「ラリッサさんを恨むなんて事は絶対ありません。今まで生きられたのもラリッサさんのお陰ですし。だから自分を責めないで下さい」

「ごめんなさいルギーさん……」

「大丈夫ですって!」


 ラリッサを安心させようと笑顔を試みたが、自分でもぎこちなくなっているのが分かった。この国の法律も分からなければ他に頼れる人間もいない。何よりコズミンはどうなる?

「そうだ、コズミンを預かってくれませんか?」

「え?」


 ラリッサは戸惑っているようだった。彼女はコズミンの事をとても気に入っている。コズミンの未来を託せるのは彼女しかいない。

「どうかお願いします」


 ラリッサはしばらく迷っていたがやがて頷き返事をした。

「分かりました。コズミンさんを大事に育てます」


 彼女にコズミンを差し出すがコズミンは首を降った。だが俺に躊躇している時間はない。心を鬼にして彼女に押し付けるように渡した。

「そろそろ行かないと見つかってしまうのでは」

「そうですね。連行します」


 ラリッサに連れられ王都の地下へ向かう。そこは地下牢になっており、囚人らしき人間が格子の隙間から手をこちらに伸ばしていた。

「こちらです」


 ラリッサが立ち止まると目の前には重々しい扉があった。どうやらここが俺の新居らしい。

看守が鍵を開け中に入るよう促される。


 中に入った俺は囚人用の粗末な服に着替えさぜられると独房に押し込まれた。


 鉄格子で出来た戸を閉め、鍵をかけられた音がした。

「ここからは絶対逃げられんぞ。脱獄など考えないことだな」

看守が釘を刺すが長時間の移動に突然の拘束、逃げる気力などもう残っていなかった。

「コズミン、ラリッサさん……」


 俺はこれからの不安を押し潰すように二人の名前を呟いた……。






 それから数日間、俺は独房で死んだように過ごしていた。王都に来たはいいがどうすれば良いのか全く分からないのだ。脱獄する気にもなれない。


 それにしてもコズミンは元気でやっているのだろうか。

久々に色々と考えていると誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた。

やがて俺のいる独房の間で足音が止まる。


「ルギーさん始めまして。妹がお世話になっております。私はセシナード・アスケーン。一応赤鱗軍の団長です」


 鉄格子から姿を現したのは金髪で整った顔立ちをした男性だった。アスケーンといえばラリッサさんの家族なのか?

「もしやラリッサさんの」

「ええ、妹から貴方の話を聞きまして一度お会いしたかったのですが、大丈夫ですか? お身体の具合が悪いように見えますが……」


 彼は心配そうな表情で俺を見つめている。ここで嘘をつく理由も無いので正直に話すことにした。

「正直牢屋に入れられて参ってます」


 俺は力なくそう答えるとセシナードはいつの間にか用意されていた椅子に深く腰掛けた。

「私は貴方に罪はないと考えています」

「もしかして俺をここから出してくれるのですか?」


 俺がそう尋ねると彼は少し困った様子で首を横に振った。

「申し訳ありませんがそれは出来ません。貴方は破壊神を解放した張本人ですからね。いずれ国民全員が知ることとなるでしょう。ですが私から王に進言する事は出来ます。貴方に封印を破れるほどの力があるとは思えませんが転移者のみが持つ力、或いは転移に伴う破壊的なエネルギーが原因であることは間違いないでしょう」


 そうだ。俺は転移者が持つとされる自分の能力さえ知らない。それに破壊神の解放だって好きでやったわけではない。

「転移者は皆、叶えたい夢を持っています。ですがルギーさんのその様子からして覚えていないようですね。それどころか自分の能力さえ知らない……」


 彼は少し考えた後、更に続けた。

「妹から貴方の話を聞いていて思ったのですが魔物や動物が相当お好きなようですね。じつは私も家でペットを飼っていまして」

「え?」


 唐突な動物の話に戸惑ったが、確かに動物は好きだ。と言ってもモフモフした毛玉よりツルツルした生き物のほうがより好きである。

「ラリッサさんのドラゴン愛には負けますがね」


 俺がそう言うとセシナードは笑い出した。どうやら俺からそれ以上有益な情報は聞き出せないと悟ったのだろう。暫く他愛もない雑談が続いた後、急に力強い口調に変わった。


「貴方にはやるべき事が必ずあるはずです。貴方は他の転移者とは違う、そう感じてならないのですよ」


 彼はそう言うと立ち上がった。そして深々と頭を下げた後、独房から去っていった。

彼の発言が引っかかった俺は一人考えていた……。


 セシナードの言った”やるべき事”とは一体なんなのか? そもそも俺にやる事なんてあるのか? 俺はどんな夢を持ってこの世界にやってきたのだろうか。






 答えが出ないまま数日が過ぎ去り、俺は独房から出された。どうやら何か進展があったようだ。

「これより貴様を王の前に連行する」


 看守は俺の手錠を外すとそう言った。セシナードが王に掛け合ってくれたのだろう。

兵士達は俺を連れて外に出ると空中に浮いている城の真下にある円状の大きな台座に向かう。


 台座の上に全員が乗るとゆっくりと上昇していく。ふと下を見ると城の中から沢山の騎士達が出てきていた。彼らは皆武装しており、建物の陰から野次馬が心配そうに覗いている。どうせどう足掻いても死ぬのだから抵抗するだけ無駄だ。

そう考えているうちに俺は城の上空へ到達していたようだ。


「この中に王がいらっしゃる。妙な気は起こすなよ」

一人の騎士が大きな扉を開け中に入るよう促した。




「よく来た異世界の厄災よ。余はヴァリアセント国王ヘルドロス・カーマンだ。再建者ヘルドロスという者もおれば、剣術の神と呼ぶ者もいる」


 王座に堂々と腰を下ろしていたのは、金色の装飾があしらわれた立派な服を身につけ、豪華な冠を被った中年の男だった。眩しさに俺は少し目が眩んだが我慢した。

「お初にお目にかかります、ルギードライリアムズです」

(偽名だけど、まあ大丈夫か)


 ヘルドロスの左横には見慣れた顔がいた。ラリッサとセシナードだ。俺に気付くとラリッサはほんの少しだけ微笑んだがセシナードは無表情のままだった。

「さて早速だがルギーとやらよ……これからお主をどうするか決めなければならんのだが、その前にそなたの事を聞きたい。何故ここに連れて来られたのか心当たりはあるか?」

「破壊神を解放したから、ですか」


 俺は正直に答えた。

「分かっているならよろしい。お主が解放したのは史上最悪の災厄と恐れられている存在でな、奴を封印したのはジェルドワという転移者だったが解放したのもまた、転移者というわけだ」


 ヘルドロスは俺を見つめたままそう言った。途中で口を挟もうとしたがやめた。どう考えてもこの状況では無理だからだ。

「今こうしている間も奴は復讐の機会を虎視耽々と狙っておるであろう。お主が奴の手先であるならこの場で処刑を行う」

「ちょっと待って下さい! 俺は何も悪い事はしてません。あの神と何の関わりもありません」


 俺は慌ててそう言ったが、ヘルドロスは聞く耳を持たなかった。

彼は俺を殺す。そう確信した瞬間今まで抑えていた感情が溢れ出してきた。怒りだ……何故こんな理不尽な目に遭わなければならないのだろうか。俺は必死に反論を考えた。


「陛下、間接的にとはいえルギーさんが破壊神を解放した事は認めましょう。しかしあれは北国ルーンナッドで発生した出来事です。陛下の一存で決められる事ではないはずです」

援護射撃をしてくれたのはラリッサだった。

「ほう、ラリッサよ。余に噛み付くか」

「そういう訳ではありませんがルギーさんは危険人物ではありません!」


 ラリッサは必死に訴えかけるようにそう言った。だがヘルドロスはそんな彼女を冷たくあしらう。

「ラリッサよ、お主はいつから余に意見できる立場になったのだ? まぁよい。どのみち助かりたければ剣を取るしかあるまい」

「そ、それって……」


 ラリッサは言葉に詰まった。

「転移者は強力な力を持っていることが多いからな。我が国と民を脅かす可能性のある危険因子を野放しにしておく訳にはいかん」


 ヘルドロスの言い分は一方的だ。だが反論したところで何も変わらないのは火を見るよりも明らかだ。

「さてルギーよ、お主の処遇が決まったぞ。まずは中央広場へ移動する」


 ヘルドロスがそう言うと台座が下降し始めた。ラリッサとセシナードも慌てて飛び乗ってくる。



 台座から降りた俺は待ち構えていた騎士に連行されるような形で広場に来ていた。そこには多くの騎士のみならずラフな格好をした一般人も集まっていた。敵意のこもった目で俺を見つめるものはいない。だが、歓声にも似た声が広場に響き渡るとヘルドロスの手に巨大な剣が出現した。

「これより転移者ルギーへの執行を行う。お主も剣を抜け! もし余に一撃でも通せば無罪放免にしよう」


 ヘルドロスはそう言うと剣を構えた。

(死刑か)

 俺がそう考えているとラリッサが慌てて声を上げた。

「お待ち下さい陛下! 何の罪も犯していない人間を処刑するというのでしたら、私もルギーさんに加勢させてもらいます」

「ラリッサよ、何故そこまで奴を庇うのだ?」


 ヘルドロスは彼女に冷ややかな視線を送った。だが彼女は怯むことなく続けた。

「彼は私の大切な親友です。失うわけにはいきません」


 ラリッサは俺の真横に立つとこう叫んだ。

「ルギーさん、私はもう二度と貴方を見捨てません! ここで死ぬというなら私も一緒です」

「やれやれ、妹がそういうなら私も貴方の味方になります。剣術の神に一撃を通す……こんな機会は滅多にありませんからね」


 セシナードもラリッサの隣に並ぶとヘルドロスは鼻で笑った。

「とんだ茶番だな……。まぁ面白くなるならそれで良い。さあ掛かってくるがよかろう」


 俺は観衆が投げ入れた剣を拾うと抜いた……が、まるで接着されているかのようにびくともしないのだ

(何これ抜けないんですけど?!)


 そんな俺を嘲笑うかのようにヘルドロスは言う。

「どうやら剣の使い方も分からぬようだな。ではこちらから行くぞ!!」


 開始の合図も無いままヘルドロスは猛スピードで斬りかかってきた。

「危ない!」

間一髪のところでセシナードが弾いてくれた。


「叛逆の翠色騎士セシナードよ。お主を斬るのは本意ではないのだがな」


 セシナードは「手加減は無用です」と言って剣を構えた。

「ほう、まさか本気で余に勝てると思っておるのか?」

「神である陛下に敵うなど思っていませんよ。ですが貴方と戦える機会はそうありませんし、何よりルギーさんの本当の実力を私は見てみたい」

「面白い……ならば見せてみろ!!」


 ヘルドロスはセシナードに向かって斬りかかったがセシナードはスルリとかわした。そしてすれ違いざまに斬撃を繰り出す。が、ヘルドロスは見た目に似合わぬ軽やかな身の熟しでは回避した。

正面を避け背後からラリッサが攻撃を仕掛けるがヘルドロスは振り向くことなく剣を回して攻撃を防ぐ。

兄妹の連携は完璧に見えるがそれでもヘルドロスは余裕で対処している。

「ラリッサ。お前は剣を振れば振るほど速くなる能力を持っておるな? だが余の本気には到底及ばん」

「でしょうね」


 ラリッサはそう言うやいなや更にスピードを上げてヘルドロスに攻撃を続けた。俺も負けていられないと思いちょろちょろ動いて戦っている風を演出するが俺なんかが入っていける隙は無かった。


 ラリッサの加速する斬撃を全て防いだヘルドロス。だが一瞬よろけた隙をセシナードは見逃さず、踏み込んで剣を突き出した。


 ガキーンという音が鳴り響くと、セシナードの剣が粉々に砕け散った。

「甘いな……」


 ヘルドロスのよろけは演技だったのだ。

「お兄様!」


 ラリッサはセシナードを押し飛ばすようにして彼の回避を成功させた……だがヘルドロスの剣が彼女に向かって振り下ろされる。


 狙ったのはラリッサ自身ではなく武器だ。主の手から離れ回転しながら飛んで来る凶器は危うく俺の右足に突き刺さりそうになった。


 俺はラリッサの剣を拾って咄嗟に丸腰となった二人を庇いに行った。

「ルギーさん無茶しないで!」

 ラリッサの心配の声と同時に二人に斬りかかろうとするヘルドロスの攻撃を俺は剣で受け止めた。

(くそ重い!!)

攻撃を受け止めただけで手が痺れる程の衝撃だった。だがここで諦めれば二人の命はない。


 俺は力を込めて弾き返すと、ヘルドロス彼は距離をとって仕切り直してきた。

「お主、ようやく戦う気になったか」


 ヘルドロスは余裕の笑みを浮かべてそう言った後、剣に不気味なオーラを纏わせた。そして次の瞬間、剣が紫色の光を放ちながら巨大化していく。


 絶望は更に続いた。紫色のオーラが地面を這ったかと思うと俺の脚がまったく動かなくなったのだ。まるで何かに固定されているかのようにビクともしない。

「これでお主達は逃げることは出来ん。遊びはここまでだ。次の一撃で……」


 ヘルドロスがそう言って、不敵な笑みを浮かべた。次の瞬間ヘルドロスの剣は更に巨大化し、その禍々しさをさらに増していった。


「この攻撃を受けてみよ」


 ヘルドロスはそう言うと剣を振り上げた。

(駄目だ……終わった)

俺が死を確信した瞬間だった。ピィという聞き慣れた声が耳に届いた。


 ああ、死ぬ間際って本当にスローモーションのように感じるんだな。ふと見ると、ラリッサとセシナードが何やら必死に叫んでいるように見える。俺のすぐ目の前には紫色の光を放つ剣を振り下ろすヘルドロス。俺は目を瞑った。

だが、相手は振り下ろしたというのに痛みも苦しみもやって来ない。恐る恐る目を開けるとそこには空中に浮くコズミンの姿があった。紫色のオーラをまとう剣をコズミンが放つ水色のエネルギーが受け止めている。両者は均衡しているように見えたが、やがてヘルドロスの剣は光を失い、元の大きさに戻っていった。


「ピィ!」


 コズミンはひと鳴きすると俺の横に着地した。ヘルドロスは明らかに動揺している。

「そいつは何者だ。お主の使い魔か?」

「コズミンは俺の……いや、俺はコズミンの守護者だ」


 俺はコズミンを抱き上げると自慢げにそう答えた。

「馬鹿な……神である余の攻撃が使い魔如きに防がれるなどあり得るはずがない! まさかルギー、お主の力なのか」


 ヘルドロスはそう言うやいなや斬りかかってくる。俺の身体は勝手に動いていた。無意識の内に斬撃を受け止め、俺も剣を振り下ろしていた。だが、その攻撃もヘルドロスにあっさりと防がれていた。

「ルギーさん危ない!!」


 ラリッサの叫び声が聞こえると同時に身体が勝手に動いていた。いつの間にか俺の脚は動くようになっており攻撃をかわしている……。

いや違う、コズミンが俺を動かしているのだ。それだけではなかった。俺が剣を振ると水色のエネルギー波が射出されヘルドロスの体勢が崩れたのだ。

「この力は……!」


 驚愕するヘルドロスを余所に俺は勝手に斬りかからされ、ヘルドロスの身体は吹っ飛んでいった。ヘルドロスは巨大な柱に叩きつけられるがそれでもなお倒れない。だが彼の手にはもう剣は握られていなかった。



「余所者が神に一撃を通すか。見事だ、負けを認めよう」



 ヘルドロスはそう言い、しばらく周囲を見渡すと背中を向けゆっくり離れていった。俺はというとあまりの出来事に呆然としていた。だが、俺の意識を引き戻すようにラリッサが抱きついてきた。

「ルギーさん! お怪我はないですか?!」

ラリッサは目に涙を浮かべながらそう言っている。心配してくれるのは嬉しいけど鼻水が!

「ありがとうございます。ラリッサさんも無事で何よりです」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「まさか貴方のような人間が神の攻撃を防ぎ、さらに攻撃を通すとは……」

セシナードも俺に感心しているらしいのだが素直に喜べない自分がいた。結果的にコズミンのお陰で助かっただけで俺自身は何もしていないからだ。

まるで剣に振り回されるように動き回る俺はさぞ滑稽だった事だろう。


 王であり剣術の神でもあるヘルドロスの敗北に、ギャラリーからはざわめきが起こっていた。

「今までヘルドロス様に一撃を通した奴がいたか?!」

「攻撃性を当てることすら不可能なのに吹き飛ばしたぞ」

「あいつ何者なんだ」

「セシナード様とラリッサ様が無事で良かったわ」


 ギャラリーから称賛と困惑が入り混じった声が飛んでくる。俺を利用してヘルドロスに一撃を入れたコズミンは俺の腕の中から首を伸ばしている。視線の先にあるのは果物屋だ。

「ピィ」

コズミンは鳴くと猛スピードで飛んでいった。

群衆をかき分け後を追いかけてみると案の定、果物屋の商品が目に留まったようで、勝手に売り物を食べようとしている。

「コズミン駄目ですよ!」


 俺の言葉を聞いているのか聞いていないのかコズミンは一心不乱に果物を食べている。俺は店主の方に振り向くと頭を下げた。

「すいませんコズミンが勝手に」


 俺がそう言うと店主も何故か頭を下げた。

「いやいや先程の戦いは凄かった。人間が再建者に勝つなど歴史的快挙です。今日はとても気分が良い。お好きなだけどうぞ!」

店主は軽やかなステップを踏みながら店の奥へと消えた。


 次々と果物を放り込むコズミンを呆れながら見ていると突然頭の中に声が響いた。

『見てたいたぞ恩人よ』


 慌てて周りを見渡すと、いつの間にか隣に四角い物体が浮いていた。物体には不規則な模様や幾何学的なパターンが浮かび上がっており無数の光の粒子が交錯している神秘的なものだった。

『どうした、助けた相手は忘れる主義か?』


 この声……聞き覚えがある。忘れもしない俺が転移して初めて会った大男、破壊神だ。

「その声は破壊神か?」


 俺がそう言うと、物体はゆっくり回転し始めた。

『貴様は生き延びたようだな。驚いたよ、タイムリープでもしているのかと疑い調べさせてもらったが違うようだ。転移者ごときが得られる能力でもないしな。そうだ、再会の記念に教えてやろう。貴様の転移者としての能力は竜と交流が出来るというものだ』

「情報過多ですね。ええと竜と交流ですか。他には?」

『無い。貴様の能力はそれだけだ。その、何だ。あまりにも弱過ぎてかける言葉が見つからん』

「いや……まぁそうでしょうね。アント一匹倒せる気がしないし」


 俺はガックリと肩を落とした。

『だが竜と交流できる人間はそういない。転移者の能力は夢を叶えるために必要なものだ。貴様の願いも竜に関わりのあるもので間違い無い』


 じゃあドラゴンが好きなラリッサに会ったのも、ラカワノン山でドラゴンに遭遇したのも全ては俺の能力が導いた結果なのか?

確かめるようにコズミンと目を合わせると「ピィ!」と鳴いて小さく跳ねた。

『そいつも竜に関係する生物だろう』


 コズミンの見た目は竜とは程遠い蛇だ。しかしドラゴンの子供という可能性もあるか。だがもっと気になるのは目前のこいつだ。

「破壊神バドワスト、あなたは本当に世界の敵なのですか」

『その質問に答えるならば、違うという答えになる。まぁ当初、創世神からこの世界を掃除するよう命令されたが今では世界の敵でも味方でもないな』

「じゃあ、あなたの夢はなんですか」


 俺がそう言うと破壊神は少し考えた後に答えた。

『そうだな、他者の不幸を観察出来ればそれで満足だ』


 破壊神の意外な答えに俺は驚いた。まさか世界から忌み嫌われている破壊神が観察って。それも性格が悪すぎる。

『貴様、今失礼な事を思っただろう』


 破壊神に心を読まれた俺は慌てて首を横に振った。

「いや別に」

『ならいい。おっと、そろそろ時間のようだ。貴様の数少ない友人がこっちへ来ている。また会う時を楽しみにしているぞ』


 破壊神は皮肉たっぷりに言うと消えた。そこにラリッサが息を切らせながらやってくる。

「ルギーさん、ここにいたのですね。あれっ、コズミンが何か食べているけど大丈夫なの?」


 コズミンは果物を口いっぱいに頰張りながら俺の方に顔を向けた。

「問題ありません、お腹が空いていたのでしょう。今日は食べ放題なんですよ」


 俺がそう言って頭を撫でるとコズミンは嬉しそうに目を細めた。

「食べ放題なんてサービスありましたっけ。まあ良かったです。自由を得られた途端につまらない罪で逮捕されなくて」


 確かにそれはダサすぎる。いやさっきの戦いも相当だが。


「とりあえず今日は休んで下さい。ルギーさんの暮らす家はお兄様が用意してくれました。案内しますね」

ラリッサが歩き始めるので俺はその後ろをついて行った。歩きながら考えるのはやはり破壊神バドワストの事だった。あいつの夢が他者の不幸を観察する事だなんてあり得ないだろう。

俺がそんな事を考えているといつの間にか街の外れにある豪邸に到着していた。

「ここがルギーさんとコズミンさんのお家です! どうぞ中へ!」

「ちょ、立派すぎます!」


 まるで貴族か王族が住んでいそうな立派な建物で庭も広々としている。俺は恐る恐る家の中に入ると、その広さに圧倒された。部屋数もかなりありそうだ。

「私の家よりは小さいですけどね〜〜」


 恥ずかしげもなく言いながらラリッサは微笑む。これが金持ち特有のジョークなのだろう。

「それでは今日はゆっくりお休み下さい。これからについては明日お話しましょう」


 彼女は帰っていったが、正直不安でしかない。家賃って……タダなんだよな?

俺の心配をよそにコズミンはベッドの上で跳ね回っていた。

「ピィ! ピイィ!」


 俺にもコズミンみたいに跳ね回る無邪気さがあれば気が楽になるかもしれない。そう思い、疲れて寝落ちするまでコズミンと一緒に遊んだ。

テンポアップしました。相変わらず戦闘シーンの描写が苦手なまま。

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