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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
ラカワノン編
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先輩転移者 タコさん登場です!

本日2話目の投稿です

「ここがギザヘボ村です。宿の手配は済みましたのでゆっくりお休み頂けますよ」



 ギザヘボ村。ラカワノン山の麓に位置する村で、二足歩行の蟻の姿を持つピピケッケ族が暮らしている。ラリッサは村に到着した後、蛇と転移者が居ない事に気付き一人で捜索に赴いてくれていたらしい。


「それと、あなたにサプライズがあります! 私について来てくださいね〜〜」

 やれやれ、困難を乗り切り自信がついたのかすっかり隊長気取りだよ。

正直サプライズは好きじゃない。だが他に行く宛も無いので付き合うことにした。


 宿に到着した。

村の宿と聞いて期待はしなかったのだが想像の三倍は立派な作りで、蟻顔の管理人に案内されたのは二階の部屋だった。

部屋には椅子が三脚用意されてあって、奥に眼鏡を掛けた中年男性が座っていた。

男は俺を見つけると口をへの字に曲げながらギロリと睨みつけて来た。見るからに偏屈そうなオヤジだ。


 不穏な空気の侵入を払い除けるかのようにラリッサが明るい声色でへの字メガネの紹介をする。

「こちらの気難しそうな方は転移者のボルベルト・タコメイカーさん。そして! えっと……そう言えばあなたの名前をまだお聞きしていませんでしたね」

 ボルベルトは腕を組み変えると更に目を細め無言でプレッシャーを与えてた。

視線を感じ取ったラリッサは、あははは……と笑いながら気まずい雰囲気を何とかしろと言わんばかりに目配せをして来る。とは言っても、俺は自分が何者だったのかすら思い出せない。とりあえず話してみるか。

「自分は転移してまだ二日目の者です。記憶が飛んでいるようでして自分の名前が思い出せないのですが、ボルベルトさん、宜しくお願いします」


 警戒している相手に相応しくない隠し隠しの自己紹介となった。

だが、敵意は無いと伝わったのかようやくボルベルトが重い口を開いた。

「君、どんな恩寵(スキル)を持ってる?」

「あ、転移者さん。恩寵(スキル)というのは……」


 意味を聞き返す前にラリッサが説明をしてくれた。

転移者は例外無く特殊な能力を持ってこの世界にやってくるそうだ。この世界の人間には備わっていない力である事から神からの贈り物と考えられているらしい。


「それが、自分にどんな恩寵(スキル)があるのかすら分かっていなくて」

「ふん、蛇を連れているようだが君の使い魔か?」

「コズミンといいます。島で出会ってから一緒に行動している仲間です」

「島はいくらでもある。何処だね?」


 俺が体験した事を二人に伝えた。コズミンの話になると長い胴体をブンブン振り出したので、コズミンの功績やドラゴンとの遭遇には触れず、適当に誤魔化した。



 一通り話し終えるとボルベルトが腕組みを解き早口で喋りだした。

「まず、君が転移した島は強力な結界が張られていたはずだ。噂が本当なら大男は封印されていた破壊神だろうね。名前は確かバドワストとかいったか。その後、島を襲ったのはルーンナッドの巨大兵器(ゴルデ)で間違いない」


 ボルベルトの推測はラリッサにも興味深いものであったらしく、深く腰掛け直すと瞬きを速めた。

好きで封印を解いたわけではないとは言え、若干の責任を感じた俺は大男バドワストについてボルベルトに聞いた。

「彼は何者なんでしょう?」

「深遠な知識と破壊の力を秘めた世界の敵だ。全知全能という噂がもあるが数多の猛者が奴に消されている事実から鑑みるに……私は否定しないね」

「成る程。ボルベルト先輩は博識でいらっしゃいますね。この世界を旅して回ったのですか」

「先輩か。悪くない」

ボルベルトの口元が緩む。


「私は富と名声に興味無くてね。転移前の記憶を持っているから尚更、この安全な村で過ごせられればそれで満足なのだよ」

「転移前は苦労されていたんですね」

「転移者は皆、元の世界では敗者だからね。君だってロクな人生じゃなかったはずだ」

「そうですか。なら自分も戻れなくていい」

「同感だな。そうだ、この世界の事についてまとめた本があるのだが欲しいかね?」

(ボルベルトは典型的な『とっつきにくいが良い奴』だな)

だがこれが最小限の贈り物でご褒美を得る返報性の効果か。情報は喉から手が出るほど欲しい。

「是非読ませて下さい」

「じゃあ魔力石と交換だ」

「何ですかそれ」

「魔力供給石の事だが?」


 当然の如く言われてもそんなものは持ってない。

「そういえばお二人とも魔力供給石をまだ埋め込まれていないようですね。特にボルベルトさんはもう長い事、滞在されているというのに未装着のままでは不便でしょう」

「ずっと村にいたんだ。持ってるはずないだろ? それより後輩にご自慢の魔力石を見せてやったらどうだ?」

「えっと、魔力供給石というのはこれの事です」


 不貞腐れたように腕組みをするボルベルトを横目に、ラリッサが右手の甲に埋まっている水色の宝石を見せると説明を続けた。

「魔力供給石と呼ばれるこの石は、再建者達が力の一部を使って創造したマジックアイテムです。元々私達の体は魔力を溜めたり操ったり出来る能力を備えていますが、それを装着する事で魔力の供給を早めたり、特殊な魔法陣を描けるようになったり、色んな恩恵が得られます」

「転移者にも使えるものなんですか?」

「もちろん使えますよ! けど装着するには再建者や特別な力を持った生物にお願いする必要があります

(あー、そういうのならいいや)

「手の甲に埋めるってそれ危険じゃないですか?」

「まあ種類によっては無視出来ないリスクを負うことになりますが、努力だけではどうにもならない部分を補える優れものに変わりありませんから」

「ラリッサさんが装着している魔力供給石にはどんな効果があるのか聞いても構いませんか」

「よくぞ聞いてくれました! 私が装着している水色の魔力供給石はとても希少価値の高いものなんですよ〜~。攻撃を吸収して無力化してくれるので私みたいなスロースターターには有り難い効果なんです」


 自慢気に魔力供給石の価値や効果について解説してくれたが、ラリッサによるととても需要が高く入手は困難を極めるという。

「可能性は低いですけどギザヘボ村には知り合いの傭兵が多くいますので魔力供給石が余っていないか聞いてみましょうか?」

「タダでくれるとは思えないがね」

ボルベルトが険しい顔で否定する。

「私、お金ならありますので!」

「傭兵にはロクな人間がいない。後で襲撃されて魔力石も取られるに決まってる。君が私を助けてくれる保証はあるのかね」


 への字メガネのネガティブ思考は相当のようだ。良く言えば慎重派なのだが。

いずれにせよ今すぐ手に入る代物ではなさそうなので今日は宿に籠もることにした。


 ボルベルトが大量の書物を貸してくれたお陰で退屈はしないだろう。学者肌なのか魔力供給石の考察もかなり細かい。聞き慣れない言葉だらけで読み飛ばしながらページを捲っていく。

ふと、自分の名前がないことを思い出した俺は気になった単語を組み合わせて偽名を作った。


 【ルギー・ドライリアムズ】

うん、良い響きだ。


 読み進めていくうちに、今いる場所の状況も分かってきた。

ギザヘボ村はギレアッディ大陸の北北西に位置する。

ギレアッディ大陸とは三大大陸中、最も広大で西部のエンラーピッドと呼ばれる荒野以外は帝国が支配しているようだ。

極めて危険な国らしく西部を通る際ですら護衛が欠かせないという。この村に傭兵が常駐しているのも需要があるからなのだろう。


 ギザヘボ村の北部には巨大なラカワノン山があり、北国ルーンナッドの領土に位置する。

俺が転移した島もルーンナッドにあり、人間より巨大兵器(ゴルデ)と呼ばれる機械の方が多い軍事国家らしい。

俺を襲撃したカマキリもゴルデだったのだろうか。


 南部にはラプリアセント王国が広がっている。ロードネブナンド騎士団が治安の維持を担っており、最も安全な国と言われているようだが人間至上主義が色濃く残っており、差別的な部分もあると書いてある。

ラリッサもロードネブナンド騎士団出身なのだろうか? 


 なお世界の地下や上空にも国はあり、通常の方法では辿り着けないという。

魔物は各地に分布しているようで命を落とす転移者の多くは魔物によるもの。転移者が降り立つ場所がランダムであるのなら降りた瞬間に死ぬなんて事も考えられる。


 爆発する果実を実らせる木の魔物についても記述があった。

アバンセルという木の魔物で、脅威レベルは②に指定されている。近付かなければ無害だが共生するアントや生息する環境によって脅威度は異なる存在。稀に生る小さな果実は珍味として高値で取引されるらしい。そういえば俺、持ってた。

 ちなみにアントの脅威度は③だった。基本的に人間は襲わないが群れを形成するらしく住処に近付くと攻撃性が増すようだ。よりにもよって調査拠点を巣の近くに設営するとは確認を怠っていたのだろうか?


「ピィ〜ピィ〜」

 気付けばコズミンも本を覗き込んでいた。

退屈なんだろう。明日はコズミンと一緒に村を見て回るとしよう。


 ベッドに仰向けになると天井の証明にも魔力供給石のようなものが使われているのがわかる。

証明の落とし方が分からなかったので本をアイマスク代わりにその日を終えた。

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