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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
闇の翼編
37/38

◯・魔女降臨

二週間に一回の投稿ペースになってしまいました〜

読者いないし別にいいでしょ(適当)

 アルノイドと二回目の遭遇を果たした翌日。

俺達はギザヘボ村の宿で次の目的について話し合いをしていた。


 エンラーピッドが戦争状態にある今、むやみに出歩くのは危険だろう。


「コズミンさんが元気になったら、またアルノイド様に会いに行きましょうね」

「そうですね」


 会議は中断しラリッサ達と他愛も無い会話をしていると、体が数センチ浮き上がるほどの地響きがした。


「何事だ!」


 ボルベルトは慌てて窓を開けた。すると、荒野の方で砂煙が上がっているのが見えた。


「あれは……へルドロスの攻撃です!」

「へルドロスって、ラプリアセントの国王で再建者である彼のことかね? 本当だ」


 ボルベルトは窓から身を乗り出して確認するが、ここから見えるはずもない。

鳥の視力かよ。


「自分もそう思います。間違いありません」


 へルドロスには二度殺されかけたからな。

さっきの衝撃は奴が剣を巨大化させて叩きつけたのだろう。


 俺はラリッサに確認を取ると、慌てて宿を飛び出した。


「おいみんな、何処に行くんだ! 外は危ないぞ」


 ピコロが慌てて追いかけてくる。彼がいると心強い。



 爆心地は村からかなり近かった。

へルドロスが何と対峙しているにせよ、一刻も早く状況を確認しなければならない。


「ルギーさん! これはまさか」


 ラリッサが息を吞む。そこには巨大なクレーターが出来上がっていたからだ。

クレーターの中心にはへルドロスが佇んでいた。


「へルドロスさん!」

「ルギーか、久しいな。だが貴様と遊んでいる暇は無いのだ」


 へルドロスの視線の先には凶悪面をした禿頭の男がいた。


「へルドロス、貴様の無敗伝説もここまでだ。我輩が貴様を討つ!」

「ふん、威勢だけは一人前だな。だがその程度の力では余には勝てぬぞ?」


 へルドロスの周囲には何人かの騎士がいる。

その中に緑鱗軍隊長、コルビンの姿もあった。


「神殺しと再建者の戦いか。歴史に残るであろう場面に私は遭遇してしまった」

恐怖か興奮か、ボルベルトの両手は震えていた。


「ルギーさん、どうしましょうか」


ラリッサはそう言いながらも決意に満ちた表情だった。


「へルドロスは強い。しかしステトロブが単独で挑んでくるとは考えられません。ここはへルドロスに協力しましょうか」

俺はラリッサに答えると、向きを変えてへルドロスに話しかけた。


「神殺しは我々の共通の敵ですよね。ここは協力しませんか」


 俺はへルドロスに提案した。


「良かろう。貴様には借しがある」


 へルドロスはあっさり承諾した。あまり信用は出来ないが神殺しよりマシだろう。


「ありがとうございます。ところで、そちらの方々は大丈夫ですか」


 俺は緑鱗軍隊長コルビンと数人の騎士に視線を向けた。


「彼らは余の忠実なる部下だ。ここまで死なずに付いて来たのだからな」

「そうですか。ではへルドロス陛下、神殺しを一緒に倒しましょう」

「ふん、貴様に言われずともそうするつもりだ」


  へルドロスがステトロブに向き直る。


「誰かと思えば我輩の邪魔をした若造一味ではないか。あの目障りな竜はどうした」

「消え失せろ!!」


 俺が答える前にへルドロスが斬りかかるが、その一撃をステトロブは拳で防いだ。


「再建者と言えど我輩の岩のように硬い皮膚は貫けぬようだな」

「面白い。すぐにくたばってもらってはつまらぬからな」


 へルドロスはステトロブの拳を払い除けると、そのまま剣を振りかざした。

禿は体を仰け反らせ、紙一重で避ける。

そしてバックステップで距離を取ると上空から突如、矢が降ってきた。

姿は見えないがやはり敵はまだ潜んでいるようだ。


「そこだ」


 へルドロスが剣を振ると、矢を次々と斬り落としていく。

その隙にステトロブが突進し、拳を振り上げた。


「小癪な」


 へルドロスはステトロブの拳を剣で防ぐと、力任せに押し返す。

ステトロブはくるりと体を回転させ、体勢を整えたところにピコロとラリッサが斬りかかる。


 しかし斬撃はステトロブの硬い皮膚に弾かれてしまった。

俺は畳み掛けるように雷を落とそうと詠唱を始めるが、そこで邪魔が入った。


 巨大な岩石が俺めがけて飛んで来たのだ。

慌てて雷を放つと岩石は粉々に砕け散った。


 飛んできた方向に目を凝らすと、クレーターの縁に弓矢を持った人影が確認出来る。

神殺しのメンバー、マルスヌスだ。


 奴は弓を構え矢をつがえると、次々と放ってきた。

矢は魔力を帯びながら放物線を描いて飛んでくる。

以前、ラプリアセント脱出時に騎士団が放った矢をヤナが魔術で迎撃していたのを思い出した俺は雷を放って打ち落とす。しかし数が多い。

矢は次々と飛来する。


 キリが無いと感じた俺は魔力供給石の力を開放し、盾を展開する。

すると凄まじいスピードで矢を吸収していく。腕に強い衝撃が走ると矢の嵐が止んだ。


「助かったよ。ルギー。後衛が厄介だな、後はおいらに任せろ」


ピコロは礼を言うと、狙撃手のいる方へ走っていく。


「待て、ピコロさん」


 俺は慌てて呼び止めたが遅かった。マルスヌスが放った矢がピコロを襲う。


「畜生、何百発持ってんだ? 手から矢が生えてくんのかよ」

ピコロは矢を斬り落としながら悪態をついている。


「援護します」


 俺は右手に魔力を流し込み、さっきのお返しとばかりに岩を放った。

マルスヌスは素早く回避すると弓を上空へ向けて放つ。

それらは上空で無数に分裂すると、俺達に向かって降り注いできた。


 再び盾を展開して防いだが、腕の重さが半端ではない。

吸収した魔力が限界に達した俺は盾を解除する。


 魔力は自然に発散されるまで待つ必要があるというが、敵に無駄な動きはない。

そんな余裕はなさそうだ。どうにかしないと。


 重い右腕を左手で支えながらマルスヌスを見据える。


「ルギー、おいらに考えがある」


 ちょこちょこと近付いてきたピコロが俺に耳打ちする。

俺は頷くとマルスヌスに向かって岩を放ち続けた。

狙いは地面だ。予想通り、大量の土煙が上がる。


 マルスヌスの姿が見えなくなると目前に岩の壁を生成し、身を潜めた。


 岩の壁に矢が当たる音がする。

この状況で正確に狙撃してくるとは流石、神殺しと言われるだけある。


 そろそろいいだろう。


「魔の力よ。疾風となりて、障害を吹きとばせ!」


 土煙を切り裂きながら風の刃をマルスヌスがいるであろう方向へ放った。

命中は期待していない。

視界がクリアになると丁度、ピコロがマルスヌスに肉薄するところだった。

マルスヌスは手から岩を放つが、ピコロはそれを軽々と避け、剣を振り下ろす。


 会心の一撃が命中したようだ。

マルススヌがクレーターを転がり落ちていく。


 しかし、それでも奴は起き上がると弓を捨て短刀を構える。


「オイラを相手にそんなものが通じると思っているのか?」


 ピコロは容赦なく斬りかかる。

マルスヌスは素早い動きでそれをかわすが、ピコロの素早さは並じゃない。

すぐさま間合いを詰めていく。


「これでおいらの勝ちだな」


 ピコロはマルスヌスの短刀を弾き飛ばすと剣を突き立てようとした。


「甘い」


 マルスヌスが笑みを浮かべるとピコロが吹っ飛んだ。

どうやら無詠唱による風の魔術だ。


 ピコロは空中で体勢を整えると着地した。

俺もただ見ていたわけではない。重い右腕を支えながら魔力を集中させていた。横槍は十八番である。


「咆哮せし雷霆よ、我が呼び声に応え、前方の敵を粉砕せしめん!」

「ピィ!」


 右手から放たれた雷がマルスヌスに直撃すると、奴の体から白い光が溢れだす。次の瞬間には煙のように消えてしまった。


 マルスヌスを撃破したようだ。

コズミンの声が聞こえたがバフでもかけてくれたのだろうか。

そういう事にしておこう。


「いいところを持っていかれたな」

ピコロがこちらに向かって歩いてくる。


「怪我はありませんか?」

俺はピコロに尋ねた。


「うん、おいらは大丈夫だぜ。お前が放った風の刃もギリギリのところで回避した」

(それはすまなかったな)


 ピコロと共にへルドロスの加勢に向かうことにした。



 クレーターの中心でへルドロスとステトロブが対峙していた。

先程と違うのはステトロブの背後に長身の女が立っている事くらいだ。


「貴様はクースラだな?」


 へルドロスは女に話しかけた。

遠目からでも目立つ深紅の瞳に、肩に垂れる黒髪が特徴的である。


「剣術の神に認知されているとは光栄だわ」


 クースラが答えると、ステトロブは振り返り笑みを浮かべた。


「いいところに来たな。この再建者が我輩を侮辱するのだ。手を貸せ!」


 ステトロブはへルドロスに向き直ると拳を構え、戦闘態勢を取る。



「愚か者め、誰がお前のような禿に手をかすか!」


 クースラは一蹴する。


「なんだと? 貴様、我輩は今回の再建者討伐隊のリーダーだぞ」

「それがどうした。お前にそんな大役が務まるとは思えん。ただでさえ頭の悪い貴様のことだ。今回も失敗するに決まってる」

「ならばそこで見ておれ。我輩が再建者を始末する」


 ステトロブはクースラを無視し、へルドロスに突進した。


「茶番は終わりだ」


 へルドロスは剣から紫色の光を放つと、彼の身体と共に巨大化していく。


「神の成り損ないが。身の程を弁えろ」

ステトロブは怯まず拳を振り下ろす。

しかし、へルドロスはオーラのようなもので防いだ。


「何?!」

「貴様のような愚鈍な奴の攻撃など我輩には通用せん。神殺しとはいえこの程度か。ならばさっさと消え失せろ」


 へルドロスが巨大な剣をステトロブに向かって振り下ろすと、地面に巨大な亀裂が入った。

ステトロブは間抜けな悲鳴を上げると、裂け目へと落ちていった。


「さて、邪魔者はいなくなったようだな」


 クースラの方へゆっくりと歩き出すへルドロス。


「そうね、あなたを消せるのは私しかいないもの」

「そっくりそのまま返す。弟がいなければ何も出来まい」


 へルドロスは剣から再び紫色の光を放つ。


「へルドロス……。私達、何度も助け合って来たじゃない? でも、今回ばかりはあなたを見逃す事が出来ないのよ」

「クースラ。ゴルデ戦争では貴様の魔術に何度も助けられた。貴様がいなければ、余はヴァリアセントを守り切ることは困難であっただろう。だがあれは貴様を利用したに過ぎん」

「そうね。助け合いだなんて美しい言葉、私達には似合わないわね。あなた達はここで死ぬのよ」


 クースラの髪が紫色に輝き始めた。


「面白い。やってみろ」

へルドロスは剣を地面に突き刺し、詠唱のようなものを始めた。

「刃に秘められし力よ、燃え盛れ!」


 へルドロスの周囲に赤い光を放つ火柱が出現した。

俺も始めてみる光景だ。


「焼き尽くしてやろう、魔女クースラ」

「へー、あなたが魔術を使うなんて。歴史に刻まれるんじゃない?」


 クースラは余裕の表情で微笑むと、周囲の環境が一変した。


「かつて魔術の神と謳われた、私の力をお見せするわ」


 巨大な竜巻がいくつも発生し、へルドロスの周囲で唸りを上げている。


「雷操!」


 クースラは空高く舞い上がると、雷雲を発生させた。

へルドロスを狙い撃つように雷が落ちる。雷はへルドロスのオーラに弾かれたが、絶えず降り注ぐ雷はお目々に悪い。俺の目が……。


「無駄な事を」


 へルドロスのオーラが更に大きくなった。

「雷よ。この者の魂を焼き尽くせ」

雷雲から幾つもの雷がへルドロスに向かって一斉に落ちた。しかし、へルドロスはそれをものともしない。


「まだまだこれからよ」


 大地が揺れ始めた。地震か?


「貴様の魔術などたかが知れている。災害級の魔術で殺せるのは人間くらいだ」

「そうかしら?」


 クースラは呪文を唱え始めた。

地面から炎を纏った岩石が次々と出現していく。


「灼熱の岩よ、神に制裁を与えよ」

クースラは火炎弾のようなものをへルドロスに向かって撃ち放った。

「何だこれは?」


 へルドロスは棒立ちのまますべてを受けきった。


「無駄だ。余に魔術は通じぬ」


 へルドロスがクースラに向かって跳躍する。


「遅いわ」


 クースラの背後に魔法陣が現れるとその中へと姿を消した。次の瞬間、雷雲の中に巨大な影が現れる。


 へルドロスが上空を見上げると、クースラと思わしき影が巨大な火球を生成した。


「燃え尽きろ」


 上空から火の玉が落下してくる。しかし、それはへルドロスだけを狙ったものではなかった。

隕石が無差別に降り注ごうとしている。


 へルドロスは巨大な火球を巨大化させた剣で切り裂いた。しかし、それとは別な隕石が地上に衝突した。

衝撃により大地が陥没し、土煙が上がる。


「滅びろ」


 クースラの声が響き渡ると竜巻がへルドロスを呑み込み、大爆発が起こった。

猛風により俺も立っていられず膝をつく。


コズミンが吹き飛ばされないよう抱え、煙が晴れていくのを待った。


「ピィ!」


 へルドロスは平然としており、全くダメージを受けていないように見える。


「何ということだ。余の装備が傷物になってしまったではないか」


 へルドロスは忌々しそうに言った。


「オイラ達、ここを離れた方が良さそうだ。剣術の神と魔術の神……。おそらく決着はつかない。少なくとも数千年、それ以上かも」


 ピコロは険しい表情で言った。


「数千年?!」

「そうだ。どちらかが倒れるまで戦い続けるだろう。へルドロスの攻撃はクースラに届かず、クースラの魔術はへルドロスに効かない」

「分かりましたピコロさん」


 俺達はクレーターから距離を取る事にした。

周りを見渡すが、アルデンやボルベルト、ラリッサの姿が見えない。


「他のみんなは?」


 俺はピコロに尋ねた。


「わからないが、おそらく無事だろう。ラリッサは強いからな」

「そうか、良かった」

「おいら、村のほうが心配だ。一度戻る事にするよ」

「わかった。じゃあまた後で」

「ああ」


 ピコロは俺に軽く手を振ると、立ち去っていった。


 へルドロスとクースラは依然として戦い続けている。どうやら本当に決着が数百年後とかにならないだろうな? とりあえず巻き込まれないよう安全な場所へ避難する事にした。へルドロスに助力したいのは山々だが敵の攻撃を吸いすぎて腕に中型ドラゴンがしがみついているような重さなのだ。



 クレーターから離れたところまでやって来たが、魔法陣がぼんやりと青い光を放っている。

警戒しつつ近付いてみると突然、脳内にメッセージが流れ込んできた。


『ごきげんよう、ルギー』


 それは聞き覚えのある声だったが思い出せない。


「誰だ?」

『お前の仲間は俺が預かった。返して欲しければ、今からいう場所に来い』

「ラリッサさんとアルデンを誘拐したのか?」

『場所はエンターピッド西南、廃墟となっている邪王の城だ。すぐに来い、さもなければ』

途切れてしまった。こちらの質問には答えるつもりはないというより、青い魔法陣にメッセージを残していただけのようだ。ご丁寧に地図まで残してやがる。


 俺一人で向かうのは正直言って厳しいが、仲間の危機だ。

行くしか無いだろう。頼れるドラゴンも騎士もいないのだから。


 俺は深呼吸をすると指定された廃墟に向かって歩き出した。


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