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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
闇の翼編
35/38

◯・ミメナ村でのひととき

 ギザヘボ村に到着した。


 ラカワノン山の麓に位置する小さな村で、静かで美しい自然と蟻顔のピピケッケ族が特徴的だ。

ここは魔力供給石に乏しいのか、灯りは殆ど無い。


 村の入り口にはピピケッケ族の兵士が立っている。ラリッサは馬を降りて話しかけた。


「すみません、ラカワノン山に行きたいので一日滞在させてもらえますか?」

「今は危険。おいらが許さないよ」

ピピケッケ族の兵士は警戒心を露わにして答えた。


「え、あなたはピコロ・アントニウスじゃないですか!」


 ラリッサが驚いたように歩み寄る。


「おいらの名前知ってるのか? って、お前ラリッサじゃないか! 久しぶりだな」


 ピコロも嬉しそうに言う。

ラリッサさんに蟻の知り合いまでいたとは恐れ入る。


「ええ、お久しぶりです。ルギーさん、アルデンさん、紹介しますね。こちらはヴァリアセント魔術剣術学院で私の同級生だったピコロです」


 ラリッサが俺達に紹介してくれたので俺は頭を下げた。


「初めまして、ルギーです」

「アルデンです! 綺麗な羽根ですね」


 アルデンの言う通りピコロは他のピピケッケ族には無い鮮やかな青色の体と透明な羽根を持っていた。

褒められて嬉しかったのか、誇らしげに羽根を広げている。


「ありがとう友人。おいらは短時間なら飛べるんだ」

「ところで村の様子はどう? 変わりないかな」

「その逆だよ。リーパーの襲撃、それから帝国の兵士にならず者、色んな悪い奴等が襲って来るんだ」


 ピコロは悲しそうに言うと深い溜め息を吐いた。


「そう、それは良くないわね」


 ラリッサも憂鬱そうに呟く。村も心配だがここには転移者であるボルベルトも居たはずだ。ピコロに聞いてみるか。


「ボルベルトさんはいますか」

「ボルベルトさんならギリ生きているよ! 良かったら宿に来るといい。案内するよ」


 ピコロは飛び跳ねながら走っていく。

俺達はピコロに連れられてギザヘボ村の宿に向かう事にした。


「ルギーとアルデンは、ラリッサと一緒に旅をしているのか?」

「ええ」


 俺の代わりにラリッサが答えた。


「騎士団に所属していたんだけど色々やらかしちゃってね」

「やらかしたって何をしたんだ? 偉い人でも殴ったの?」

「まー、そう。上の人を怒らせてね」


 ラリッサは否定せず照れ臭そうに頭を掻いた。

へルドロス国王を二度も怒らせたからな。


「騎士団をクビになって冒険者になったってわけか。いいなー冒険者」

「ところでボルベルトさんはどんな人なんですか?」


 そういえばアルデンはボルベルトに会った事がなかったな。


「ボルベルト先輩はこの村に隠居している先輩転移者です。とっつきにくい人ですがいい人ですよ。右も左も分からなかった頃、ボルベルト先輩が貸してくれた本でこの世界について学ぶ事ができましたので」

「へぇー、異世界で本を書く人だなんてすごいですね。ボルベルト大先生ってお呼びした方が良さそうですね」


 ボルベルト大先生か、確かにその方がしっくりくるな。本人もさぞ喜ぶだろう。


 宿は休業中らしいがピコロが説得してくれて、宿の二階に泊まれる事となった。


「ボルベルトさんは部屋にいるよ」

ピコロが階段を上りながら言ったので俺達も後に続く。

「ボルベルトさんお客さんだよ」


 ピコロが扉を開けるとボルベルトは窓の近くに座っていた。


「ああ、君達か」


 ボルベルトは無表情のまま言った。相変わらず無愛想な人だ。


「ボルベルトさん、お久しぶりです。ルギー・ドライリアムズです。覚えていますか?」

「ああ。隣はラリッサだな?」


 ボルベルトは軽く手を挙げて答えた。

「ええ、ラリッサです。またお会いできて嬉しいです!」

「おいらは? おいらはピコロ!」


 ピコロはその場で飛び跳ねている。その様子を見てボルベルトは小さく笑った。


「君とはいつも会っているからな」

ボルベルトとピコろのほほえましい会話に、ラリッサも微笑んだ。


「それで、今日はどうしたんだ? あのモゾモゾ帝国とかいう奴らの制圧に来てくれたのか?」

「実は別件なんですよ。いつも肩に乗っていたコズミンという蛇を覚えていますか?」

「ああ、君の使い魔だろう?」

「実はコズミンが意識を失ってしまったのです。それで別件も合わせてラリッサさんとアルデンさんと一緒に九大竜に助けを求めているのですよ」

「そうか読めたぞ。これからラカワノン山に登ってドラゴンに会うつもりなんだな? だったら登山する必要は無い」

「どういう事ですか?」

「ドラゴンがこの村を守りに来ているからだ」


「アルノイド・ドレイク様が?! ボルベルトさんそれは本当ですか?」


 ラリッサが驚いて聞いた。


「本当だ。今思えばこんな小さな村が存続していられるのもドラゴンが守っているからだろうね」

「アルノイド・ドレイク様は今どこにいますか」


 俺の質問にボルベルトは面倒くさそうに答えた。

「知らない。私はドラゴン学者ではないのでね。だがしばらくこの村に滞在すればそのうち会えるだろう」

「向こうからきてくれるなら待つだけですね。これでコズミンさんの容体も回復するかもしれないですよ!」


 ラリッサは嬉しそうだがドラゴンが防衛しなければならない程、危険な世の中になってしまったという事だろう。


「ところで君は何者かね」


 ボルベルトは腕組みしながらアルデンを睨めつけた。


「自分とラリッサさんの友人で、旅の仲間でもあるアルデンさんです」

「それで、アルデン君とやら。なぜ君がこの場にいるんだ?」


 ボルベルトはアルデンがこの場に居る事を不審に思っているらしい。

そういや俺も最初はボルベルトに警戒されたな。


「はじめましてボルベルト大先生。噂はルギー先輩から聞いています」

アルデンはかしこまって挨拶した。


「僕も転移者なんです。ラリッサ大先輩やリナル先輩、ルギー先輩にはいつも助けてもらってばかりですけどね」


 ボルベルトはアルデンの言葉を黙って聞いている。


「それでその、ボルベルト大先生はルギー先輩の師匠のような方なんですよね? 僕も大先生から技術や知識を学びたいです」

「弟子入りというヤツかね」


 ボルベルトは興味無さげにつぶやいた。


「はい! 僕、大先生から教わりたい事がたくさんあるんです」

「君、魔力供給石を装着しているようだが魔術は使えるのか?」

「もちろん使えませんよ。ただの飾りと化しています」


 アルデンは元気よく答えた。


「そうか、魔力供給石も泣いている事だろう。君には必要ないようだな」

「さすが大先生! 魔力供給石が泣くなんて比喩、僕には思い付きません」

「私を馬鹿にしていないか?」

「とんでもないです。大先生が全てにおいて優秀なのは知っていますから」


 アルデンが尊敬の眼差しを向けるとボルベルトは一瞬笑みを見せた。しかしすぐに無表情に戻る。


「それで、君にも得意な事の一つや二つあるのかね?」

「はい!」


 アルデンは返事をすると、鞄から食材を取り出した。

「僕は料理が得意です」


 ボルベルトは目を丸くしてアルデンの食材をまじまじと見つめる。


「君、料理が出来るのか?」

「ええ、ヴァリアセントの絶品オムライスには及びませんけど」

「では早速作ってもらえるか。卵が必要なら私が出そう」

「ボルベルトさんって卵を創造できるのですか?」

「私はニワトリか。村で買ったものがある。使いたまえ」

「わかりました。では宿の厨房を借りても?」


 アルデンがピコロに訊ねると彼は快く承諾した。

俺達は料理が出来るまでボルベルトと雑談しながら待った。


「ルギー、君はヴァリアセントに行ったのだろう? あの国は平和なのか?」

「良い都市ではありますがいきなり牢屋に入れられた挙げ句、へルドロスに決闘を挑まれました」

「ん? へルドロスに勝ったという余所者の噂を旅の者から聞いたがまさか君だったのか?」

「ルギーさんはへルドロスに勝った上に“神殺し”三人を圧倒したんですよ〜。同じ転移者でもタコさんとは大違いです」


 ラリッサはボルベルト、いや、タコ先輩の悪口を言いながら微笑んだ。

「タコ?」

「あっ、いえ。コホンッ! ボルベルトさんも私達の度に同行しませんか? とても楽しいですよ」


 タコ先輩は首を振った。


「いや、遠慮しておこう。私は村を離れる訳にはいかないのだ」

「そうですか、残念です」


 ラリッサは肩を落とす。


「君とルギーがこの世界を救ってくれると私は信じているよ。とりあえず戦争を止めてくれると助かる」

「はい。最善を尽くします」


 俺は頷いたが、戦争を止めるなんて無理だろう。

だが、それに近いことは出来るかもしれない。ドラゴン頼みにはなるが。



 数分後、アルデンがオムライスをボルベルトの前に持ってきた。


「お待たせしました!」


 ボルベルトは珍しく目を輝かせ、テンションも上がっている。

「おお! これは美味しそうだ。!では早速頂こう」


 ボルベルトはスプーンで一口すくうと口に運ぶ。


「うん?」


 ボルベルトは目を見開いた。

それから無言で食べ続ける。そしてあっという間に完食した。


「大先生、ど、どうでした?」


 アルデンが感想を求めるとボルベルトは口を開いた。


「素晴らしい。この料理は今まで食べた中で最高だ」

「ええと」


 アルデンは困惑して俺を見る。


「アルデン料理長はボルベルトさんのコメントが安っぽいと仰られている」

「え!? 僕はそんなこと言ってませんよ」


 ずっと横で会話を聞いていたラリッサは笑いを堪えきれずに吹き出す。


「ボルベルトさん、いくら何でもそのコメントは無いですよ。全ての料理人に感謝しなければなりません」


 ラリッサは肩を震わせた。そんなに面白いのか。異世界ジョークは俺にはさっぱりだ。


「すまなかった。君の料理があまりにも美味しかったのでついその場しのぎのコメントをしてしまった」


 ボルベルトは申し訳なさそうに謝罪する。


「いえいえ、僕は気にしていませんから」

「オムライスのお礼に、この魔術書を君に貸してやろう。新しく書いたものだ」


 ボルベルトは本を差し出した。アルデンは受け取ると本を開く。

横から覗き込んでみると俺が以前滞在している時に貸してくれたものとまったく同じ内容のものだった。


「魔法だけじゃなくて魔物についても書かれているんですねぇ」


 アルデンは感心したように唸った。

「もちろんだ。私はどの転移者より真面目に研究しているからな」

(何が研究だよ。新しいのは表紙だけで内容は同じじゃないか)


 俺は心の中で毒づくが、口には出さなかった。


「ありがとうございます! 静かな場所で読んできますね」

アルデンは嬉しそうに頭を下げた。


「うむ、頑張ってくれたまえ」


 アルデンは本を抱えると部屋を出て行った。


「さて、アルノイド・ドレイクさんがいらしゃるまで私達もぶらぶらしていましょうか」


 ラリッサが提案するが、座ったまま腰を上げなかった。

この暗闇では何も見えないし、することがないからな。


「うーん、じゃあルギーさんのお話でも聞かせてくださいよ!」


 ラリッサが目を輝かせる。


「話? 別に面白いことはありませんよ」

「そんなことありませんよー! シターンの森での事を聞きたいです」

「シターンの森に本当に行ったのか?!」


 ピコロが前のめりに食いついてくる。


「といっても、挨拶をして少し話しただけなんですけどね」



 俺は森での出来事をかいつまんで話した。ピコロとラリッサは真剣に聞き入っている。



「そうかぁ。セヴィエーナ様はとてもお美しい方だったんだね」

ピコロがうっとりとした表情を浮かべると、ラリッサも大きく首肯している。


「はい! 私も船でセヴィエーナ様を拝見させていただいた時は、言葉を失いました」


「とても妖艶で美しいドラゴンでしたね」


 俺はセヴィエーナの容姿を思い返しながらしみじみと呟いた。


「ドラゴンなんだろう? 怖くはないのかね。気楽に九大竜の話なんかするもんじゃない。聞かれていたらどうするんだ」


 ボルベルトが身震いをしながら場の空気をバッサリいこうとするがラリッサは否定する。


「大丈夫ですよ! セヴィエーナ様はお優しい方ですから。偉大な方だというのに、人間のためを想ってあんな小さな島に住まわれているなんて気の毒です〜」

「おいらが聞いた話では九大竜は全員人語を話せるらしい! 知能も人間よりも遙かに高いんだ」


 ピコロの説明に俺も補足する。

「確かに自分には人語に聞こえますが、他の人間には唸っているようにしか聞こえないみたいですよ」

「はえ〜」


 ピコロとラリッサは感嘆の息を漏らす。


「じゃあルギーさん、アルノイド・ドレイク様がいらっしゃったら通訳して下さいよ。ドラゴンと人間が仲良くなれる機会なんてそうないですし」

「それは良いアイデアだ。おいらからも是非お願いしたい」

「ちょっとそれは自分には荷が重すぎますが……コズミンと離れてからドラゴン成分が足りていないのでアルノイド様とじっくり話してみたいとは思っています」


 俺は二人の提案に困惑しながらも答えた。


「ドラゴン成分ってなんですか?」

ラリッサが不思議そうに聞いてくる。

俺は手のひらに水球を出現させると、ティケウルフの姿に変えながら説明する。


「ラリッサさんはティケウルフを見てモフりたいとは思いませんか?」

「モフりたいです〜。凶暴じゃなかったらですけど」

「そう! 自然と触りたくなる衝動にかられるでしょう? それと同じです。自分は四六時中コズミンと一緒にいたので尚更です」

「なるほど〜! ではアルノイド様がいらっしゃったら“ドラゴン成分”を補給させてもらいましょう」


 俺もすっかりおかしな方向へ進んでいるようだ。

ラリッサが理解してくれたところで俺は水で作ったティケウルフの造形を解く。


「まったく、若者の考えている事は分からん。ラリッサ、君は優秀な騎士なんだろうに犬っころなんか追い掛けてないでボーイフレンドでも作ったらどうだ」

「ティケウルフさんの悪口は許しませんからね!」


 ラリッサがキッと睨みつけると、ボルベルトはやれやれと肩を竦める。


「君、怒るところおかしくないか?」



 俺はわざとらしく咳払いをする。

「あー、コホン。アルノイド様に会うなら手土産を用意した方が」


「確かにそうですね〜。何にしましょう?」

ラリッサは真剣に頭を悩ませているようだ。

「そうだ! コズミンさんも大好きなフルーツにしましょう」


 ナイスアイデアだ。フルーツならギザヘボ村でも買える。


「じゃあ、おいらが買って来よう。君達は前回、村で騒ぎを起こしたから今行くとややこしくなるかもしれないからね。ラリッサとルギーはここで留守番を頼む」

「分かりました」




 暫くして、本を読み終えたアルデンと買い物を終えたピコロが戻ってきた。

ピコロは大きな袋を抱えている。


「アルノイド様は甘い物はお好きなのだろうか」


 ピコロが俺の顔を見ながら問うが、知るわけがない。


「蟻じゃないんですから」

アルデンは少し呆れつつ答えた。

「なんだね、そのツッコミは」


 ボルベルトは眼鏡越しにアルデンを睨めつける。


「いえ、なんでもありません」


 アルデントラウマになっちゃうぞ。

勇気を出して突っ込んだのに可哀想に。空気を変えるため俺はピコロに話を振る。


「それで、フルーツはゲットできましたか」

「うん」


 ピコロは紙袋の中をゴソゴソと漁る。取り出したのは糖度の高そうな真っ赤なイチゴとリンゴだった。


「ドラゴンには小さいかもしれないけど味は保証する。残ったらみんなで食べよう」


 ピコロとアルデンが席につく。

暫く他愛もない話をしていたが次第に話題が尽き、長い沈黙が場を支配した。

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