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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
闇の翼編
33/38

◯・撒き餌作戦

 船内でセシナードを中心に会議が行われた。負傷した騎士が多い事から、比較的魔物と遭遇する可能性の低い船内での防衛にあたる人員を減らし、さらにリナルが抜けた分の戦力を甲板防衛に回さなければならなかった。



 会議が終わるとが危険区域に入るまで自由時間となった。

俺は独り甲板で海を眺めていた。先程までコズミンとリナルと一緒だったが、今はいない。


「ルギー先輩」


 アルデンの声が聞こえたので振り向く。彼は心配そうにしていた。


「リナル先輩とコズミンさんが居なくなると心細いですね」

「そうですね」


「あ、お邪魔でしたらすみません」

「ん?」


 俺はコズミンとリナルの事を考えていたため上の空だったようだ。アルデンが心配するのも無理ないな。

「ヴァリアセントに戻ったら次の目的地を探さないといけませんね。何か案はありますか?」

「僕よりルギー先輩の方がお詳しいでしょうに。他の国で再建者や九大竜を探す旅に出るというのはいかがでしょう」

「ならギレアッディ大陸かルーンナッド大陸、どちらか決めないといけませんね」


 俺が迷っているとアルデンは俯きながら、ボソッと言った。


「僕なんかが同行しても良いのでしょうか?」

「え」

アルデンは暗い表情のまま話し続けた。彼は自分が足手まといであると思っているのだろうか? いや、そんなことは絶対にない。


「ルギー先輩はいつも冷静で状況判断も的確です。そして強い。僕はビビリですし剣術も下手で魔術だって全然ダメです。皆さんの邪魔になってしまうだけではないでしょうか」


 アルデンは俯いたまま話し続けるが段々と声が小さくなる。どうやらネガティブモードに突入してしまったようだ。


「戦いだけがチームの役割ではありません。料理の才も必要な要素です。アルデンさんが居なければ美味しい食事にありつけないかもしれません」

「それはそうですが」

「アルデンさんはチームで一番優しいですし気遣いも出来ます。怪我をした騎士を見つけると、治療するだけでなく、励ましの言葉をかけていましたよね。ヴァノリス帝国のスラムでお婆さんを心配していたのはアルデンさんですよね? みんな、アルデン優しさが好きです。それに、美味しい料理でチームの士気を高める事が出来るのはアルデンさんだけですよ」

「ルギーせんばぁ〜い」


 顔を上げた彼は泣いており、鼻水が垂れていた。

(まったく、なんで俺が励ます側に)


 俺はハンカチを取り出しアルデンの鼻を拭う。

「おいおい、泣かないで下さいよ料理長」

「だっへ、ブギー先輩が嬉しいごとを言ってくれるがらぁ〜」

「誰がブギー先輩だ! 甲板に鼻水溜まりでも作ってしまったら魔物がジャンプしてきますよ」

「そんな事言われても止まらないですよぉ〜」


 アルデンが鼻水を垂らしながら泣いたり笑ったりしている。

「グスッ、ん? 先輩あれ何でしょうか」

「んん?」


 俺はアルデンが指差した方向を見る。そこには海面に淡く光る丸い物体があった。ここからではよく見えないが恐らくかなり巨大だと思われる。

急いで甲板に設置されたライトを操作し、物体に向けると突如伸びるように上昇した。


 それは船を遥かに超える巨体を持ち、丸い胴体から巨大な脚を伸ばしたザトウムシのような生物だった。先程海面に見えていた丸い部分は、この生物の頭部だったようだ。


「せせせ、先輩。セシナード団長に報告してきます」

アルデンは大慌てで走り去った。


 俺の知っている限りではザトウムシはこんな巨大で不気味な外見ではないはずだ。

この異世界特有の生物か? だとしたら危険すぎるだろう。



 すぐにアルデンがセシナードとラリッサを連れて戻ってきた。こういう時だけ素早いんだよな。

「あれはネプチュリド、ですね」

「お兄様、ネプチュリドって確か船員を捕食するって噂の魔物ですよね?  本当にいるんだ」

「捕食どころか船ごと破壊されてもおかしくない相手ですよ」


 セシナードとラリッサは驚きながらも落ち着いている。


 ネプチュリドはこちらを警戒しているのか一向に動き出そうとしなかった。


「さて、どうしたものかな」

セシナードは顎に手を当てて考え込んだ後、口を開いた。

「とりあえず刺激しないようゆっくり離れましょう」


 騎士に合図すると船は距離を取るようにゆっくりその場を離れる。

しかし、ネプチュリドはゆっくり脚を下ろすと海の中に潜ってしまった。

「僕たちに興味を失ったのでしょうか」


 アルデンはそう言いながらもセシナードにしがみついている。


「いいえ、これは……前方に回り込むつもりです!」


 セシナード騎士の号令で船は方向転換する。


「セシナード団長! 間に合いません!」


 騎士が叫ぶと同時に船が大きく揺れた。ネプチュリドが浮上し、船を鉤爪で掴んでいる。


「やむを得ない。攻撃開始!」


 セシナードは剣を抜いた。それを合図に騎士たちも剣を抜く。セシナードはネプチュリドの鉤爪を切り落とそうと剣を振り下ろすが、硬い鱗に弾かれてしまった。


「硬いな」

「お兄様、離れてください!」


 ラリッサが詠唱するネプチュリドの頭上に雷が落ちた。

しかしネプチュリドは平然としており、痛がる様子さえなかった。


「雷鳴轟き、我が手に集え。稲妻よ、敵に制裁を与えん!」


 俺もネプチュリドに向かって雷を落とす。しかしそれも効いている様子はない。

「なんてやつだ」

俺は呟くと同時に思考を巡らせる。

(落ち着け! このままだと全滅だ。何か打つ手はないか?)


 その時、ネプチュリドの体から黒い煙が噴き出した。その煙は一瞬で船を覆い尽くすと視界を遮る。


「早く逃げてください!」


 ラリッサの警告が聞こえるが、既に遅かった。俺たちはネプチュリドが吐き出した煙に飲み込まれてしまったのだ。


「皆さん無事ですか?!」

セシナードの声が聞こえるが姿は見えない。

この煙を払う方法を考えるんだ。


「ラリッサさん、団長、聞こえますか?」

「はい!」


 俺は煙を振り払うために皆で一斉に風を起こす魔法を使うことを提案した。ラリッサは了承し、俺たちは詠唱を始める。


「我らに風の加護を! 疾風となりて、障害を吹きとばせ!」


 すると突風が起きて煙を吹き飛ばしたがすぐに別の煙が立ち込めてきた。

だがその一瞬の隙に俺は脚に向かって詠唱し、岩を放つ。


 ネプチュリドの硬い鱗を破壊することはできなかったが、その衝撃は伝わったようで船を掴む脚が離れた。


 ラリッサとセシナードも攻撃を開始した。

詠唱によって炎を放っている。

ネプチュリドは高圧の水を噴射して反撃しているが二人は器用に避けながら戦っていた。


 やがてネプチュリドは勝てないと判断したのか、海の中に潜っていく。


「船の損傷具合を確認せよ!」


 セシナードが叫ぶと騎士たちは被害状況を確認する。


「損傷は軽微です」

「すぐ撃退出来たのが幸いしました」

「ええ、そうですね。しかし油断はできません。引き続き見張って下さい」


 セシナードの言葉に騎士たちが敬礼する。俺は安堵しながらラリッサに話しかけた。


「無事で良かったです。さっきの魔物は一体」

「ネプチュリドは脅威レベル6に指定されている大型の魔物です。あれでも海では平凡な存在ですが、船が襲われるとひとたまりもありません。あの巨体ですからね」

「ええ、そうですね。海を舐めていました」

「それにあの煙の中では反撃すらままなりません。ルギーさんの機転のおかげで助かりました」

「いえ、ただ煙を払っただけです。それに団長やラリッサさんがいなかったら何もできませんでしたから」


 俺は謙遜する。だが実際、あの煙は対処できなければ俺たちは全滅していたかもしれない。


「まぁ、お兄様が本気を出していれば今頃魔物は解体されていたでしょう。さて、どなたか船内の安全確認をお願いします」

「自分が行きます」


 俺が挙手すると二人の騎士が名乗り出てくれたので、共に船内を巡回する事にした。



 船内に損傷は無く魔物の姿もない。

俺が「特に問題はなさそうですね」と言うと騎士は頷く。



 その後、甲板に戻った俺はアルデンとラリッサが二人で話をしているのを見かけた。何やら盛り上がっている様子だが聞き耳を立ててみると、ラリッサが捕まえたジェルシャークについて熱く語っているようだった。どうやらアルデンは一方的にラリッサの魔物愛トークに参加させられ困っている様子。


 巻き込まれては堪らないので、俺はその場を離れて甲板で海を眺めることにした。

波は穏やかで風も穏やかだ。空に太陽が輝いてれば最高なのだが、時折吹く風が心地よい冷気を運んでくる。




 しばらく海を眺めていると、アルデンがげっそりした顔でやってきた。

「もう勘弁して欲しいですよ〜」と嘆いている。

ラリッサの勢いに押されっぱなしだったんだろう。可哀想だがこればっかりは仕方がないだろう。

「お疲れ様です」

アルデンを労いながら、俺は次の襲撃に備えて魔術の練習をする事にした。


 まずは火の玉を出してみる事にする。手のひらの上に炎の塊を作るイメージだ。

生成した炎はだんだんと大きくなっていく。その過程で熱さを感じたが我慢しながらさらに魔力を込めていくと、最終的にバスケットボール大のサイズになった。


「僕もルギー先輩のように魔法が使えたら援護出来るんですけどね」


 アルデンが悔しそうに呟く。

「さっきの戦い、かっこよかったですよ! ルギー先輩の指揮、まるで団長のようでした」

「ありがとう」


 アルデンはまるで憧れのヒーローに会った子供みたいに目をキラキラさせて言うものだから、俺も謙遜するのは違うと感じ、受け入れる事にした。それにしてもアルデンは表情豊かである。


「団長ー!」

「はい」

「はい」

(しまった)


 騎士はセシナードに呼びかけたというのに、俺まで返事してしまって恥ずかしい気持ちになりながらも、平静を装ってセシナードに歩み寄る。

「どうした?」

「どうしました?」


 セシナードと俺が同時に答えるものだから騎士は困惑して言葉に詰まってしまった。


「すみません、え、ええと。団長達? 海上に再び船の残骸が浮かんできています。今度はかなり大きいです」

「モルウゴズ帝国の船団のようですね。しかし大型のバリスタを備えた強力な船団が魔物相手に苦戦するとは思えません。ルギー団長、どう思いますか?」


 セシナードが俺に意見を求める。


「すみません調子に乗りました。団長やめますね。モルウゴズ帝国というのは、ギレアッディ大陸の帝国の事ですよね」

「そうです。帝国と言えば一般的にモルウゴズ帝国をイメージします。ギレアッディ大陸の殆どを領地とする大国です」


 ヴァノリス帝国はマイナーらしい。それもそうか。


「あ、皆さんアレを見てください。遠くに船のサーチライトらしきものが見えます」

アルデンが指さす方向に目を凝らすと、確かに暗闇の中に明かりが見える

「ルギー団長、どう思いますか?」


 セシナードがまた俺に意見を求めてくる。もう勘弁して欲しいなぁと思いつつも気分の良い俺は答えることにした。


「そうですね、とりあえず挨拶でもしておきますか? もし帝国の船だとしたら見過ごすわけにはいきませんでしょう。ここはヴァリアセントに近い海域ですし」

「モルウゴズ帝国は血の気の多い国柄ですので、下手な接触は避ける方が良いでしょう。しかし私はあれをルーンナッドの巡洋艦と推測します」


「それってまずい事なんですか?」

アルデンが恐る恐る尋ねる。


「そうですね、この海域は魔物も多いですし、船を沈めても魔物にやられた程度に思われるかもしれません。ただ、帝国の船団に、ルーンナッドの巡洋艦……ヴァリアセントの領海に現れていい相手ではありません」

「私も同感ですお兄様。大陸で何か大きな動きがあったのでしょうか」


 ラリッサの言葉にセシナードは考え込む。

「だとすると厄介ですね。ヴァリアセントが戦争に巻き込まれている可能性が高いです」


「戦争?!」


 アルデンとラリッサは驚愕の表情を見せる。

「ええ。お二人も知っての通り、大国同士は友好的な関係にあるとは言えず、常に緊張状態が続いています。特にエンラーピッドでは小競り合いも絶えませんでした」

「でも大国同士が戦争なんかしたら、それこそ世界に大打撃を与えてしまいませんか?」


 皆の表情が曇る中、セシナードが続ける。

「もちろんそうです。各国は地底神という共通の敵を失った事で、互いに牽制し合いながら権力争いを続けています。魔物が跋扈する時代が終わったかと思えば今度は人間同士で争っているのです。全く嘆かわしい事です」

「人間同士が殺し合う、ですか」


 アルデンは信じられないといった様子だ。


「お兄様、速力でも分が悪いかと思われますが」

「そうですね、全てにおいて巡洋艦に分があるでしょう。ここはルギー団長に指揮をお任せした方が賢明かと」


「え? わ、わし?」


 セシナードの思わぬ発言に驚いてしまった。


「ルーンナッドの技術は転移者ジェルドワがもたらした物です。ここはルギー団長とアルデンさんにお任せすべきでしょう。それに私は海戦の経験がほとんどありませんし」


 俺だって無い。

海戦と聞いて思い出すのは、風呂の中でアヒルの玩具と戯れていただけ。

だがやるしかないようだ。俺は覚悟を決め渋々口を開いた。


「分かりました。こういうのはどうですか。あえて魔物を呼んで、敵に押し付けるとか。それで敵の目を誤魔化せば、その間に逃げる事が出来るかもしれません」

「なるほど! さすがルギー先輩です。で、どうやって魔物を?」

「え? ええと、それはですね。あのー」


 俺は言葉に詰まってしまう。その時、助け舟を出してくれたのはラリッサだった。


「お兄様、船内の食料を海に捨てて魔物を集めるのはどうでしょう?」

「それは名案ですがこちらが襲われるリスクもありますよ」

「うーん、アルデンさんはどう思いますか?」

「え? そうですね。その方法がうまくいけば敵を混乱させる事ができるかもしれません」


 俺もそれに乗っかる事にする。

「じゃあそれで行きましょう!」

「分かりました。ではルギー団長、いや船長。指揮権を譲渡致しますので何なりとご命令を」


 俺は少し緊張しつつセシナードの目を見据える。

「分かりました、動けるものは食料を運び、後方から海へ投げ入れて下さい」

「承知しました」


 セシナードが敬礼し、他の者たちもそれに続く。

この人、絶対俺をからかってるだろう。


 俺はアルデンの肩に手を置いた。こうなれば転移者同士で痛み分けだ。

「アルデンさんを副長に任命します」

「え、はい! 了解しましたルギー船長先輩!」

(語呂悪いな)


 アルデンは早速船内へ戻り食料を運び始める。俺は敵船との距離を測りつつ、騎士に指示を飛ばす。

「不明船との距離は?」

「さっきより縮まっているように見えます!」


 騎士が曖昧な報告をしてくる。

「ルギー船長! 前方にエレクトロゼアゼリーの群れを確認しました! ご指示を」


 ご指示をと言われても困る。巨大クラゲはドラゴンがいると攻撃してこないらしいが、リナルが下船してしまった以上、その弱点は当てにならない。

俺はアルデンの方を見たが、彼はブンブンと顔を横に振っただけだった。まるで嫌がるコズミンだな。


「ルギー船長! 多方向からデプススケイルの群れが接近中!」

「ルギー船長! 後方からも魔物が接近してきます」

「ルギー船長! 私の兜を知りませんか?」


 俺は頭を抱える。ノイローゼになりそうだ。こうなったら運を天に任せて手薄なルートを突っ切るか?  いや、でもそんな不確定なものに頼るのは危険だ。


「ルギー船長! 魔物が集まりすぎて対処できません!」


 そう言いながら騎士達は海へ食料を放り投げる。もうそれはいいよ。


「ルギー船長!  前方に巨大な影を確認しました」


 みんな大好きルギー船長は甲板から身を乗り出して前方を確認した。

海中から姿を現したのは巨大な魔物、ネプタリドンだった。


 先程遭遇した個体より小型だが、一斉に襲われてはひとたまりもないだろう。俺はすぐさま命令を飛ばした。

「全員、魔術で脚部を攻撃して下さい」

「りょ、了解しました」

「私も加勢します」


 ラリッサも加わり、俺達は一斉に唱え始める。

「大地よりの助力、我に宿れ!」

無数の岩礫がネプタリドンに降り注ぐ。


 致命傷を与える事は出来なかったようだが敵は怯み、衝突ギリギリのところで海中へと消えた。

振り返るとセシナードが丁度デプススケイルを殲滅させたところだった。


「見てください。巡洋艦もネプタリドンの襲撃を受けているようです。この隙に逃げられそうですね。貴方に任せて正解でした」


 セシナードが安心したように笑みを浮かべる。


「ふう、もう船長は懲り懲りですよ」

俺は返事をしながら後方の海を注視した。そこには巡洋艦が一隻、魔物の群れと交戦していた。

弾幕のようなもので魔物を牽制しているが、徐々に押されている。どうやら俺達が撒いた餌がネプタリドンを多数呼び寄せてしまったようだ。


「気の毒なほど上手くいきましたね」

苦笑交じりに言うアルデン副長。

「いや、そうでもないようですよ」


 セシナードがアルデンの言葉に反論した。


「あれを見てください」


 彼が指差したのは海上で暴れているネプタリドンだ。そこへ爪のような物体が接近したかと思うと、直後に大爆発が発生し、魔物が遥か上空へ吹っ飛ぶほどの衝撃が走った。


「な?!」


 俺は驚きの声を上げるしかなかった。あれも魔術なのか?


「ルーンナッドが神風型のゴルデを開発しているというのは本当だったようですね。もう実戦配備されていたとは驚きですが」

セシナードが感心したように呟く。巡洋艦から飛び立った爪のような飛翔体が神風型ゴルデらしい。あんなものに衝突されたら船などひとたまりもないだろう。


 だが、巡洋艦は俺達の追跡を諦めたのか反転し離れていった。

「敵船は神風を使い果たしたのかもしれませんね。やはり、帝国の船を破壊したのもあの」


 セシナードが推測する。艦対艦兵器が神風しかないのなら頷ける。だが、今はそれについて考えている場合ではない。

「とにかく今のうちに逃げましょう。船長はセシナード様にお譲りします。自分には荷が重すぎます」

「私も船の指揮には不慣れですからルギー船長が適任でしょう」

(時々ある泥沼の譲り合いは一体何なんだ)


「待って下さい。ルギーさんもお兄様も船長降りるなら、副長のアルデンさんが船長になるのでは」

「確かに、ラリッサの言う通りアルデンさんが船長に繰り上げですね」

「お願いしますよ船長」


 セシナードと俺がアルデンに迫る。

「そ、そんな。僕なんかが……。やはり経験豊富なセシナード団長が適任ですよ」


 船長の押し付け合いをしていると、ラリッサが声を上げた。

「じゃあ私がやりましょうか」

「宜しくお願いします」


 俺達三人はラリッサに頭を下げた。


「え?! ふふ、いいですよ」

困惑しながらも彼女は快く引き受けてくれた。


「では全速でお願いします。帰りましょう、ヴァリアセントへ」


 騎士たちもリナルもその言葉に続いて叫んだ。


「ヴァリアセントへ!! 」

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