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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
ラカワノン編
3/38

◯・聖域の守護者

能登半島地震により亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表します。

被災者の皆様に平穏な日々が戻りますことをお祈り申し上げます。


※この作品には揺れや爆発を伴うパニックの描写があります。

もしストレスを感じる方は観覧をお控下さい。



本日は三話ほど投稿する予定です。

数字は全部漢数字で統一したいものの、百二十三などの読み辛いものに関しては今後

123のように表記する可能性があります。

 転移者の二日目は爆音という名の目覚ましによって幕を開けた。


何事かとテントから顔を出し、周囲を見渡してみると、爆音と共に土煙が視界を覆った。

鎧を着た騎士たちが右往左往と逃げ惑っている様子はさながらパニック映画だ。

地面、木の枝、テントの上、あらゆる場所に居る大きな蟻が騎士に爆発果実を投げ付けている。

「ピィィ!」

 蛇は何故だか楽しそうだ。暴れて肩から落下しないよう腕に巻き付けると、テントから脱出するタイミングを計る。

多くの兵士が戦意を喪失する中、金髪を靡かせながら蟻を倒しながら駆けていく騎士の姿が見えた。ラリッサだ。

 最初は彼女の剣捌きを目で追えていたが徐々に速くなり、鋭い一撃を放つようになっている。

しかも蟻の投げる果実を空中で破壊しながら次々と切り倒していく。俺が呆気に取られているうちに辺りは元の静けさを取り戻した。


「ラリッサ様ーーー!」


 誰かがそう叫ぶと拍手喝采が起こり土煙が彼女の立ち姿を優雅に演出する。ラリッサは照れ臭そうにしながらやめてくれと言わんばかりに両手を前に広げ、騎士達を静めた。



 混乱は落ち着き、騎士達が軍営の被害確認をし始めると、ラリッサが神妙な面持ちで話し掛けてきた。

「申し訳ございません転移者の方を危険に晒してしまい……。アントが集団で襲って来ると分かっていれば軍営を安全な場所へ移す決断をしていたのですが。私のミスです」


 俺の目にアントの撤退は「覚えていろよ!」というありきたりな捨て台詞を吐いて逃げ帰ったように見えたが、彼女もそう感じ、もう襲って来ないと判断したのだろうか? 昨日単独で行動したチエフスがトリガーの可能性についても気になったので彼女に尋ねてみる事にした。

「昨夜、アントを一掃すると仰っていたチエフス隊長が触発させた可能性は?」


 それを聞いた彼女は目をまん丸にして一瞬、動揺を見せたが直後に呆れた表情を浮かべ怠そうに話し始めた。

「はあ、チエフスの仕業だったのですね。昨日の襲撃の時、私は威嚇行動を取りました。アントは魔物の中でも賢い部類に入りますので人間との衝突は出来るだけ避けたいと思っているのです。おそらく巣があるのではと私も思っていましたが、必要以上に刺激しなければ大丈夫と判断したのです。今回の任務は他国での調査ですし、戦闘はなるべく避けるよう言われていたのですが、あの目立ちたがり屋のチエフスは……」

「なるほど。派手に騒ぎを起こしたくなかったのですね」

「それもありますけど、魔物とはいえアントを斬りたくはありませんでした。彼らの生息域に侵入しているのは私達の方ですもの。ここは私の小指を一本」

「ちょっと待って下さい!」


 ラリッサが岩の上に小指を置き、口を締めて踏ん張りだしたので慌てて止めに入る。

「ラリッサさん! アントは女王を守るため、名誉の死を選んだのですよ。あなたが敵に同情しているようでは彼らの名誉に泥を塗る行為になります!!」

 咄嗟に出た言葉だった。俺の知るアリさんと同じ習性を持っているなら女王を守るための名誉の死として納得させられないかと試したのだ。


 すると、ラリッサの動きがピタリと止まり、柔らかい眼差しをこちらに向けると冗談だと笑いながらこう続けた。

「メルヘンな考えをお持ちなのですね。魔物に女王がいるなんて嘘、転移者かガンジガンテに収容された、気の狂った罪人くらいなものですよ」

「自分の目には冗談に映らなかったですよ」

「小指くらい無くとも生活に支障はありません。だけど確かに、冷静さを欠いていた部分もあったかも。静止して下さりありがとうございました」


 自己犠牲型の騎士なのか? 隊長は戻って来ないしこの調査団、全然スマートじゃないな。


 ラリッサの目線が横へ向く。騎士が息を切らしながら駆け付けると報告を始めた。

「ラリッサ様、この山、変です!」

「落ち着いて。何があったのですか?」


 変な人が突然出てきそうな空気感が漂う中、騎士は一呼吸置き報告を続ける。

「魔物が攻撃的になっています。普段人を襲わない魔物までもが我々を執拗に追ってきまして、何人か負傷しました。チエフス隊長も行方不明ですし一旦調査は中止すべきかと!」


 ラリッサは頷くと騒めく騎士たちに向かい撤退の指示を送る。

「魔物が凶暴化しています。調査を一時中断し、負傷者を連れて麓の村まで退却しましょう。急いで!」


 反対意見を述べる騎士は居なかった。急ピッチで片付けを終えるとラリッサを先頭に隊列を組む。どうやら下山するようだ。

俺は保護対象として扱われていたためか四方を囲われている。不愉快だが安全という面では安心する。



 只管、道なき道を下っていくと葉のない曲がった木々のみが生える平らなエリアに出た。隊が歩みを止めたため小休憩を挟むのだと思っていたがその甘い思考はラリッサの一言によって否定される。


「敵襲!」


 木々が大きく揺れたかと思うと、前方で次々に爆発が起こった。

襲撃者はアントではない。木々が自らに実った爆発果実を(ふる)い落とし、周囲を無差別に破壊しているのだ。騎士達が口々に叫んでいるが絶えることのない爆発音によって掻き消された。


 前方にラリッサの姿が見えるがどっしりと構えており落ち着いているようだ。音は凄まじいが爆発が起こっているのは前方。加えて斜面にいる俺達の元に爆弾果実が転がってくることは無いだろう。

 だが、敵は想像以上に狡猾だった。前方の爆発が止んでいくにつれ、後方からも同様の音が響き渡って来る事に気が付いた。音は次第に大きくなり、目視で転がって来るものが見える距離まで脅威は近付いている。


「逃げろ〜〜!」


 誰かがそう叫ぶと、皆運搬していた道具を捨てながら下へ駆け降りて行く、負傷者を連れている騎士は姿勢を低くして盾で身を守っていた。俺も慌てて駆け降りるが頭上を爆発が通り過ぎ、前方にいた騎士が吹き飛んだ。

 前方の木々はどうやら弾切れらしく爆発は起こっていない。しかし山の方から際限無く転がり落ちてくるため前進したところで弾道から外れる事は出来ない。

山中で爆死なんか御免だ! 俺は軌道を見極めながら左右に動こうとするが足場が悪く思うように動けないでいる。


 先に平地に到着した騎士達が赤い玉を放っているのが見えた。玉は彼らの目前で生成され発射されているように見える。放たれた攻撃は的確に転がって来る爆弾を捉え破壊していくが、依然として多数の爆弾が俺達の横を掠めて行く。

「ダメだ! 皆自分の命を優先しろ!」


 誰かがまた叫ぶが安置なんてどこにも無い。しかも転がり落ちて来るのは爆発だけでは無い。アントや獣も逃げ惑っていた。

攻撃は止まない。山全体が唸りを上げ斜面を無数の爆弾が転がって来る。爆弾果実は衝撃を受けると爆発する性質があるのは確かだが次第にバウンドしながらも、狙ったかのように近くで爆発する近接信管型のものが増えているようだった。


 山は効率的に、俺達を始末しようとしている。


 

 その時だった、腕にギュッと巻き付いていた蛇からイメージが送られてきたのだ。長方形の壁のようなものである。

んな無茶な。壁を作れとでも言いたいのかと思った次の瞬間には、蛇の胴体が水色に輝きながらするりと腕を離れ滞空したかと思うと、突如として巨大な半透明の壁が出現した。


 壁はキラキラと輝いており、転がって来る爆弾を防いでいる。壁を飛び越える高さまでバウンドした爆弾は内側に吸引され小さく弾けている。

「これは一体……」

「分からない。けど今が下山するチャンスだ行くぞ!」

「誰の魔法だ?! とにかくありがとう」


 盾を持ったまま動けないでいた騎士も顔を上げ、困惑しながらも重荷を捨てた。

皆、空中に静止している蛇には目もくれず一目散に降りていく。

俺はどうするべきか悩んだ。この力は蛇の不思議な能力によるもので間違い無い。壁がいつまで耐えるのか分からないし今すぐ離れたい気持ちよりも、蛇を見捨てて逃げたくないという気持ちの方が強かった。


留まる決意を胸に刻むと新たなイメージが流れて来る。






 それは広い空間にポツンと置かれた石だった。





 直感で、物体を表しているのではないと理解した。俺が感じ取ったのは寂しいという感情だ。

この蛇には犬や猫のような愛くるしさも無く、意思の疎通も強制的に送られて来るイメージのみ。

正体も不明だが皆を助けるため、こいつは頑張っているのだ。

「安心して。置いて行ったりはしない」

「ピィッ!」


 嬉しそうに鳴くと、蛇はより強い光を放ち壁も呼応するようにフラッシュした。






 爆発音が止み周囲が静まり返ると蛇は元の淡い光に戻り元の鞘に収まった。

アントや動物達が心配そうに山頂の方を見上げていた。彼らにとって山は住処そのもの、自分の命より母なる山に起きた異変の方が心配なのだろう。

「下山しようか」

「ピィ!」


 振り返ると蛇の作り出した壁がキラキラと輝きながら崩壊していく。綺麗な光の粒が斜面を伝い、目の前を流星のように流れ消えて行く。

「蛇さん、君のことはコズミ……コズミンと呼びますね」

「ピィ?」

「気に入らない?」

「ピィィ!!」

 笑顔で上を見上げるイメージが浮かんだ。そうか、気に入ってくれたようだ。


 斜面を降り、平地で一息つく。

だがまだ昼間であるにも関わらず、俺の周りだけ影になっていた。


 嫌な予感がして見上げようとした途端、さっきの爆発が生温いと感じる程の強い衝撃が全身を揺さぶり、吹き飛ばされた。


 俺は自分の目を疑った。目前に迫るは鍾乳洞のような白く鋭い何か。

グルルル……と不気味な音が響き、風が肌を刺す。

勇敢にもコズミンがピイ! と威嚇するとそれは後退し、全貌が目に飛び込んできた。


 綺麗に生え揃った牙、そして藍色の鱗の隙間には目のようなものがいくつもあり、紫色に妖しく輝いている。背中には体躯を優に超える翼を備えていた。


 

 ドラゴンだ!



 周囲の魔物達は微動だにせず、木々も萎縮しているのか縮んで見えた。

まるで獲物を狙うかのような鋭い眼光と身体全体から溢れ出る威圧的ななオーラ。それでもなお言葉では形容し難い美しさがある。

 ふと、ぐちゃぐちゃした線のイメージが浮かんできた。直感でコズミンが送ったものではないと気付くがドラゴンも彫像の如く動かなくなってしまった。


 まるで時間が止まっているかのような状況下、隣でコズミンが余裕そうに尻尾を振っているのを見て冷静さ取り戻した。

ドラゴンの意図が全く読めない。いつ襲われてもおかしくない状況の中、ドラゴンを刺激しないよう、ゆっくりその場を離れた。


 三十メートルほど離れた時、ドラゴンが急に大きく羽ばたくと飛び上がった。凄まじい風圧に森が騒めくと巨影は山の頂の方へと消えて行った。




 ドラゴンと思い掛けない邂逅を果たした俺は、アント達を刺激しないようそっとその場を離れた。



 山を降りていると、心配して捜索に来てくれたラリッサと合流し、無事下山する事が出来た。

2024/02/19

誤字脱字を修正。多い(汗)

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