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ドライとドラゴン〜対人恐怖症でも対竜は大丈夫な引っ越しばかりの異世界転移生活〜  作者: 極限改造されたエネルギーガトマシ@にっこりドラゴンとハシビロコウが好きな語彙力鸚鵡以下の人っぽいただのゲーマー
闇の翼編
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◯・黄色軍団との死闘

 家に戻る頃にはラリッサもフラフラと歩く程消耗していた。

「大丈夫ですか?」

俺が尋ねると彼女は苦笑いしながら答えた。

「少し疲れましたけど、楽しかったです。シャワー浴びてきますね」

彼女は奥へと消えていった。


 剣術の訓練で俺はさほど疲れた感じはしない。むしろ歩き回る事の方が疲労を感じる。

おそらく無意識的に手を抜いてしまっているのだろう。剣術が合わないからといってサボっていたのではあっさり死んでしまう。この世界は選り好み出来るほど甘くはないというのに。


「ルギー先輩、お疲れ様です!」


 アルデンが元気よく挨拶をしてきた。

「あの、先程セシナード団長が訪ねて来たのですが、どうやら船は借りられたようですね」

「そうですね」

「ルギー先輩の交渉術でしょうか、それともカリスマ性? どちらにせよ凄いです」


 アルデンは自分の事のように嬉しそうに笑いながら言う。

「別に自分は何もしていないですよ。それよりもこれから忙しくなります。観光に行くのではありませんからね」


 あれからコズミンは目を覚まさず、アレシアの塔も機能を停止したままだ。両方を解決出来るとすれば九大竜しかいないだろう。


「そうだ、差し入れで頂いたオムライスの味が再現できなくて失敗作がたくさん余っているんです。良かったら食べませんか?」

「じゃあ頂きましょうかね」

「こちらです」


 俺はアルデンに案内され共に台所へと向かった。そこには目を疑う光景が広がっていた。

巨大なテーブル一面にオムライスがところ狭しと敷き詰められているのだ。

その数は軽く五十人前を超えているだろう。


「料理長、これを食べろと?」

「はい、今日は忙しかったようですし、お腹も空いているでしょう?」

「いや、でもこれはさすがに無理です。大食いコンテストかよ」


 俺の言葉に対してアルデンは笑顔で「飽きたら途中で味を変えますので」と言った。そういう事ではない。


 アルデンはオムライスをせっせと運び始めた。

皿の上にこんもりと盛られたオムライスに思わず溜息が出る。俺は覚悟を決めるとスプーンを手にとった。


「いただきます」


 まずは一口目、半熟の卵とライスを一緒に頬張る。

うん、グレイのオムライスには劣るとはいえ普通に美味いなこれ。続けて二口目、三口目とスプーンを口に運ぶ。そしてふと顔を上げるとアルデンがこちらをじっと見ていた。


「なんですか?」


 俺が尋ねると彼は慌てた様子で答える。

「いや、量が多いなって」

(あんたが作ったんだろ)

「でも残すわけにもいかないでしょう。捨てるなんて勿体ない」

「あっ、命を無駄にするなんて僕はなんてことを! 僕も食べます!」


 俺達はオムライス軍団を撃破すべく、黙々と食べ進めていった。

やがて最後の一口を食べ終わると俺は大きく伸びをした。

「ん~~、二皿目行くか」

「さすが先輩、早いですね!」


 そこに寝巻き姿のリナルがやってきた。

「リナル先輩、今まで寝ていたんですか?」

「うん、久々に二度寝して気持ちよかったー」

「それは何よりです……って違う! リナル先輩もオムライス食べてくれませんか? というかドラゴンに戻って全部食べて」

「わぁ、美味しそうですね」


 彼女は飛び上がりドラゴンの姿に戻った。


  俺が二皿目を平らげた頃、フードファイト会場に風呂上がりのラリッサがやってきた。

「あら? 三人揃って何やってるんですか?」

「誰かさんがオムライスを作りすぎまして。自分はもう限界なのでバトンタッチお願いできますか?」

「僕も限界です」

「いいですよ」


 彼女はテーブルに着き、優雅にオムライスを食べ始めた。こりゃ期待できないな。


「ラリッサ先輩、まだまだいっぱいあるのでペース上げてもらっていいですか」

「任せて」


 ラリッサは元気よく答えるとスプーンを動かす速度を上げた。食べ終わった皿が積み重なっていく。

まさかラリッサに大食いの才能があったとは。ヘルドロス戦に駆け付けた時以来の頼もしさを俺は感じている。


「ご馳走様でした」


 オムライスを平らげたリナルドラゴンは人間の姿になっていた。

結局、リナルに四十皿以上食べてもらう羽目になったが、無事にオムライス軍団の壊滅に成功。俺達は解放されたのだ。


「ドラゴンの胃袋はどうなっているんですか」

アルデンが不思議そうに尋ねると、リナルは水を飲みながら笑顔で答えた。

「分からないわ。でも私より遥かに小さいコズミン様もいっぱい食べるでしょ?」

「そうですね。変な質問してすいません」

「気にしないで、美味しいオムライスありがとうね」


 俺が食器をキッチンに運んでいると、リナルが「私が洗うから置いておいて」と言ってくれたが数が数だけに手伝う事にした。


「じゃあ私は先に部屋に戻っていますね」

一人離脱していったのはラリッサだ。

いつも凛としている彼女も、オムライスを食べ続けた結果なのか、げっそりしていた。

まぁ、お嬢様にはゆっくり休んでもらって、俺はリナルを手伝うとしよう。


「じゃあ始めましょうか」


 俺達は台所に立つと洗い物を始めた。


 すると調理器具の片付けをしているアルデンの目が光る。

「ちょっとリナル先輩、洗剤付けすぎです」

「あ、ごめんごめん」

リナルの洗い物は洗剤をドバドバと付け過ぎて泡まみれになっていた。泡の魔物でも爆誕しそうだ。


「ルギー先輩は、もっと優しく洗ってください」

俺は適量付けて洗っていたが、早く終わらせたいという焦りから力が入ってしまっていたようだ。

「はいはい、メイド長の仰るとおりに」

俺は言われた通りに優しく洗っていくことにした。

「メイド長……。そういえばアルデンは調理場に立つと性格が変わるみたい。お母さんですね」

リナルのお母さん発言に俺は笑いをこらえきれず吹き出した、


「何か言いました?」

彼が不思議そうに首を傾げたので俺は答える。

「アルデンさんは真面目だねって話していたんですよ」

「それだけが取り柄ですので」


 そうこうしているうちに洗い物が終わったので次は洗った皿を布巾で拭き取り棚にしまっていく作業だ。

「僕も手伝います」

アルデンが慌てた様子で布巾を手に取り台所に駆けてきた。

俺達三人は手分けして作業を終わらせた。



 その後、それぞれ風呂に入りさっぱりさせた後は、ソファーでくつろぎながら雑談していた。

「そういえばラリッサ先輩って見かけ通りお金持ちなお嬢様だったんですね。こんな豪邸、僕には一生買えないなあ」

「セシナードさんが妹のために買った別荘みたいなもので、家はもっと大きいらしいですよ」

「ええ?!」

俺の補足にアルデンが驚く。

「そんな凄いお嬢様がオルミガ族の原始的な村で生活していただなんて、ますます信じられません」


 思うに、ラリッサは平民的な生活に憧れていたのではないだろうか。行き付けもこじんまりした店だし、原始的な競争だって大好きな様子だ。騎士になる事で幼い頃に彼女が見ていた夢が叶ったのかもしれない。


「眠れないならゲームでもしませんか」


 俺の提案にアルデンが嬉しそうに乗っかってきた。

「いいですね! 何やりますか?」

「ええと、リナルさんってゲームやった事ありますか? トランプとか」

「とらんぷ? 何かの魔術ですか?」


 どうやらこの世界にトランプは無いようだ。

だが強ち間違ってはいない。トランプで魔術をする人間が元の世界にもいた気がする。

「ルギー先輩、実は僕……トランプやった事がなくて」


 アルデンが申し訳なさそうに言った。まぁそういう人間もいるだろうがアルデンの場合、家庭の事情も絡んでそうな気がする。

「カードゲームと言えばモンスターの絵柄が載っていてバトルするみたいなものはやった事あるんですけどね。もちろん対戦はした事ないですけど」


 ああ、ぼっちあるあるだな。俺も経験があるのでよく分かるぞ。

「じゃあもっと簡単なものにしましょうか」


 道具が無くても出来る簡単なゲームを考えた結果、しりとりをする事となった。

「しりとりを誰かとするのは久し振りです。じゃあルギー先輩からどうぞ」

アルデンが先攻を譲ってくれたので、俺は早速しりとりを開始する。


「カニ」


「次は僕ですね。絵画」

「がおー!」

リナルが吠えた。

なんだそれ、可愛いなおい。思わず笑みが溢れてしまう俺だったが、ふと我に返った。

「いやいや、しりとりのルール分かっています? なるべく単語でお願いしますね」


 俺が指摘するとリナルがバツが悪そうに答える。

「す、すいません。ルール聞いてませんでした」

「ルギー先輩、ゲームなんですからそんな厳しくしなくても……。さてはゲームガチ勢ですね?!」


 アルデンの言う通り、転移してもなお消えることのないゲーマーとしての血が騒いでしまったようだ。

「そうですね。リナルさんごめんなさい」

「大丈夫です。続けましょうか、次はルギーさんの番ですよ」

「じゃあオムライス!」


 しりとりは意外と頭を使うもので、最初のうちはポンポンと言葉が浮かんでくるのだが段々詰まってくると途端に難易度が上がるのだ。


 暫くしりとりは続いたものの決着が付かずにお開きとなった。


 そして二人が雑談しているのを聞きながら俺はウトウトしている。

ちなみにアルデンの所持金は全てオムライスの研究代として消えていったのだが彼は満足そうだった。


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