◯・闇の翼:護衛任務
まず、騎士達が王都の外壁沿いに照明を設置した。
照明の動力である魔力供給石の不足分は街中からの寄付で何とか足りている状態で、再び破壊されれば再供給は困難な状況である。時間はかかるが分散せず、一箇所事に全員でリーパーの迎撃に備える。
「よし! ここは完了だな」
ルドーが額の汗を拭いながら言う。
「お疲れさまです! 重そうですね、大丈夫ですか」
リナルもルドーを労う。オッサンの苦労が報われて良かった良かった。
セシナードの話ではリーパーは人間への攻撃を優先する魔物だが、今回現れた個体は照明を徹底的に攻撃するようで、騎士達が照明を設置している間にも何体かのリーパーに破壊されたという。
「皆さん、私は王都内にリーパーの気配を感じません。運が良いようです」
ここでもリナルの感知能力が大いに役立った。襲撃が無いので護衛である俺やラリッサも、騎士達とともに作業を進めているとセシナードが口を開いた。
「それにしても静か過ぎますね。まるで息を潜めているかのようです」
「お兄様もそう感じますか。リナルを信じないわけじゃないけど確かに違和感があります」
敵の奇襲に気を付けながら作業を続けていると魔物の出現を感知したリナルが叫んだ。
「来ました! 右斜め後ろです!」
リナルの声に合わせて俺達は一斉に振り向き、攻撃に備える。
案の定、暗がりから数体のリーパーが現れた。
「運搬係は後退しろ! ラリッサ達は脅威を排除」
セシナードが指示し、騎士達は照明を運びながら後退する。
「偵察かもしれません。ここは私達に任せて魔力の温存を」
ラリッサが剣を構えて前に出るとリナルも頷いた。
「じゃあ、俺も援護するか」
ルドーも剣を抜いてラリッサの隣に並ぶと叫ぶ。
「ヴァリアセントの為に!」
ラリッサとリナルが突撃し、ルドーは威勢だけで何もしない。
リーパーの攻撃を避けたラリッサが剣で斬りつける。
「脅威を排除」
敵が少数なのもあって、ラリッサとリナルだけで全てのリーパーを撃破した。
「うおおお! ラリッサ様!」
騎士たちの歓声が上がる。
「お見事です」
セシナードも感心した様子でラリッサを見る。よく交戦する魔物とはいえ爪に毒を持っている以上、攻撃を受けるわけにはいかない。
俺たちは引き続き王都の外壁沿いに照明を設置していく作業を進める事にした。
暫くするとまた少数のリーパーが襲撃してきた。
「くそ、チマチマと来やがって」
騎士たちは愚痴をこぼしながら作業を進めている。暗闇での作業で相当ストレスが溜まっているようだ。
「ご安心下さい。一体も接近させません」
ラリッサが自信満々に言うと騎士たちの顔色も良くなった。
その後も、少数のリーパーが出現したが問題なく撃退する事が出来た。
奇妙な襲撃が続く中作業は進み、外壁沿いの照明の設置が完了した。
「よし! これで完了だ」
ルドーは大きく伸びをして水をがぶ飲みする。
その時だった。リナルの表情が一変し、暗闇に向け鋭い視線を向ける
「お出ましのようです」
敵が接近している事を知った俺たちは即座に戦闘態勢に入る。
セシナードも剣を抜いて騎士と共に迎撃態勢に入ると、俺も暗闇の中で身構えた。明らかに魔物の気配とは違う。
「リーパーの飼い主はあなたでしたか」
正体を現した相手に向かってリナルが挑発気味に口を開いた。
「九大竜にそう言われるとは光栄だな」
相手はとぼけたような口調だが、赤く燃えるような瞳を持った特徴的な人物を忘れるはずもない。邪王族だ。
「仲間を犠牲に逃げ延びたようですけど、今度はそうはいかない」
「逃げる? 邪王一族の長であるこのガディウデュール様がドラゴン如きを恐れているとでも?」
「マジかよ……確かに特徴は一致するが、邪王が実在しやがったなんて」
ルドーは敵わないと直感したのか、剣を落として後退りする。他のメンバーも同様の動きを見せた。しかしリナルだけは様子が違った。まるで小物を見ているような顔をしている。
「じゃあ始めましょうか。リーパーの増援でも呼ぶ? それくらいのハンデあげてもいいけど」
リナルが挑発しながら距離を詰める。俺も彼女の後に続いた。
「舐めるなよ小童どもが!」
ガディウデュールは乱暴に魔法弾を放った。リナルはそれを弾き飛ばすと、そのまま斬りかかる。
ガディウデュールも剣を抜いて応戦するが、リナルの攻撃は鋭く動きに無駄が無い。どうやら剣術の腕もかなり上達しているようだ。
だが敵は攻撃を避けるのが上手く決定打には欠けていた。
「へぇ、邪王が剣を使うなんてね」
「器用なんでな」
ガディウデュールはリナルの剣を受け止めると、力任せに押し返す。
「殺し合うのもいいがまず……俺様の話を聞け」
「嫌だと言ったら?」
「拒否権を行使する前に死人が出る」
奴は目を赤く輝かせるとアルデンの身体が奴に吸い寄せられる。
「やめろ!」
俺は咄嗟に叫ぶが既に遅かった。
ガディウデュールに首を掴まれ宙ぶらりんになったアルデンは苦しそうにもがいている。
「リーパーを放ったのは俺じゃない。ジガウルアスの野郎だ」
「まぁ、リーパーは地底神のしもべですしね」
セシナードは納得したように言うと武装解除した。
「ああ、だがあの野郎が企んでいる事と言えば地上世界の支配か復讐か、或いはその両方かもな。俺は奴の痕跡を追って来たまでだ。お前達と争うつもりはない、わかるか?」
「わかった。その首切り落としてあげるね」
リナルが剣を手に歩み寄っていく。アルデンの命が危ない。
「リナルさん待って! アルデンが」
俺が必死に叫ぶとリナルの動きが止まった。
「命拾いしたわね邪王。アルデンを離してさっさと消えて。さもないと」
「そうさせてもらおう。話が分かる奴で助かるよ、ルギー。それじゃあまた」
ガディウデュールはアルデンを地面に投げ捨てると闇の中へと消えてしまった。
リナルのちょっとした暴走はあったが、平和的に解決して良かったと思う。
「アルデンさん大丈夫?」
ラリッサが心配そうに駆け寄り、傷の手当てをし始めた。
「はぁ、助かりました。ありがとうございます」
アルデンは弱々しく微笑む。
ガディウデュールの脅威が去ってから作業を再開すると程なくして、街中全ての照明の設置が終わった。
それから一通り見回ったがリーパーが隠れている様子もなく、安全と判断され避難命令が解除されると隠れていた王都の人々が少しずつ姿を現し始めた。
「これで安心ですね。リナルのお陰だよー! 邪王相手に圧倒するなんてもう騎士どころか英雄です」
ラリッサは興奮気味にリナルを褒めちぎっている。
「照れますよラリッサ先輩。でも私も本気で邪王を始末しようとした訳じゃないですよ」
「そうなの?」
リナルが頷くとルドーは腕を組んで唸った。
「あの野郎、首洗って待ってやがれ!」
武器捨てて諦めていたくせに、敵がいなくなると吠え出した。本気なのかボケなのか分からないから困るんだよなあいつ。
「皆さんお疲れ様。ここ数日、本当に良く戦ってくれた。暫くお休みになってください」
「お言葉に甘えて休ませて頂きます」
騎士達はセシナードに軽く頭を下げると騎士団へと向かった。
「では、私もこれで失礼します。ルギーさんも休まれるといいでしょう」
セシナードも立ち去ろうとしたがラリッサに引き止められた。
「待って下さいお兄様、大変な状況下でこんな頼みをするのも気が引けるのですが、船を手配して頂けませんか? シターンの森に行かなければならないのです」
ラリッサは真剣な眼差しでセシナードを見つめた。
彼は少し考えた後、首を縦に振った。
「わかった。すぐに手配しよう。準備が出来たら呼びに行くので、それまで休むように」
「ありがとうお兄様! 理由は必ず説明しますので」
その後、俺達はラリッサの豪邸に戻るとベッドに倒れ込んだ。




