◯・闇の翼:星光を求めて
気がつくと俺は白い部屋にいた。
どうやら気を失っていたらしいが、どのくらい時間が経ったのだろうか? それに他の皆は何処へ行ってしまったのだろう? 周囲を見渡すとリナル達が倒れているのが見える。
手短な場所に倒れているアルデンの鼻先を突いてみるが反応がない。
全員息はあるようだが、一体何がお起きたというのか。
「うーん」
アルデンを起こして肩を揺するとようやく目を覚ました。
仕方ないのでリナル達全員を叩き起こすことにするか? いや待て、コズミンがいない。
頭はふらふらするし、吐き気がして気持ちが悪い。
すっかり光を失ったドラゴン像の足元にコズミンが倒れ込んでいた。
コズミンも俺達同様に気を失っているようだが、外傷はないようだ。
コズミンを抱きかかえるとリナル達が目を覚ましたようで上半身を起こす。
「そんな。コアが停止しているなんて」
リナルがドラゴン像を見て驚愕の声をあげる。
「コアが停止するとどうなるんですか?」
呑気に寝ぼけ眼で問うアルデン。居眠りした学生か。
「コアが停止すれば、当然アレシアの塔は機能を失います」
「ってことは私達は塔の恩恵を受けられなくなるって事じゃないですか!」
「ラリッサ、それだけじゃない。世界は再び暗闇に包まれる。大変なことになった」
ラリッサとシラー団長が取り乱すのを横目に見ながら、俺はコズミンを揺さぶるが全く反応がない。
「これは試練なのか……。皆様、塔の管理は我々アルカニウム・オーダーにお任せ下さい。一先ずこれを」
初老の男が俺達に差し出したのは魔力供給石が使われたランタンだ。半永久的に光を発するが、この空間ではほのかな明かりが灯っているに過ぎない弱々しさだ。
「まずは塔の外へ出ましょう。コアの機能が回復しない以上、倒壊の恐れがあります」
リナルの提案に俺達は頷き長い螺旋階段を降りることにした。螺旋階段には豪華な装飾が施されている。しかし今は見る影もない状態だが。
外は完全なる闇だった。
「皆さん、私から離れないように。孤立すればおしまいです」
ランタンを持ったラリッサを先頭にする形で歩く。
「暗いですね。僕は後方を警戒します」
アルデンは最後尾にいる。俺はコズミンを抱えながらラリッサの後ろを歩いているのだが、しばらく歩くと遠くに何かが見えた気がした。
「ランタンの灯り? あそこに誰かいますね」
ラリッサの歩みが止まると同時に前方から女性の声がした。
「助けて! 魔物がうじゃうじゃいて」
衣服も武器もボロボロで威厳さの欠片もないが、星の紋章からアルカニウム・オーダーの一員であろうことが分かる。
「一体何があったのですか?」
俺が質問すると、女性は頭をかきながら答える。
「それはこっちが聞きたいくらいだよ。いきなり真っ暗になったと思ったら魔物が溢れ出してこのザマさ!」
魔物が溢れ出した? ヴァレイピーク山脈は自然神トリスリフの加護を受けているはずだがおかしいな。
「ど、どんな魔物ですか?」
アルデンが恐る恐る問うと女性は答える。
「分からないね、皆で塔まで戻ろうとしたら突然黒い霧がランタンの灯りを遮って、気づいたら囲まれてたんだ」
「あなた一人のようですが他の人たちは?」
「分からないよ。みんな散り散りになったからね! 私は運よく逃げられたけど、他の人はどうなったか」
「なるほど、分かりました。その特徴からしてリーパーでしょうね」
ラリッサの答えに女性は慌てふためく。
「リーパーだって?! 昼間から出て来られたんじゃたまったもんじゃないよ!」
女性が激昂して叫ぶとラリッサは冷静に答える。
「私達はまだリーパーと遭遇していませんので、この辺りはまだ安全と言えます。このまま塔へ向かいアルカニウム・オーダーと合流されるといいでしょう」
「そうか、ありがとう。私は塔へ向かうことにするよ。下は魔物で溢れかえってるから気を付けるんだよ」
女性はそう言う残すと山を登っていった。
俺達は下山後、リーパーのいるかもしれない道を通りヴァノリスまで戻らないといけない。
「それにしてもラリッサ先輩はよく落ち着いていられますね。僕はダメだ、気が狂いそうです」
身震いしながら話すアルデン。暗闇は人を不安にさせる。俺も慣れるまで時間がかかりそうだ。
「しっ! 魔物の気配だ」
シラー団長が声を潜めて言う。
「ひいい、来ないでください!」
アルデンの情けない声に反応したのか、のそのそと魔物が姿を表す。
「出たぁ!!」
俺は目を凝らす。そこには狼のような魔物がいた。ティケウルフだ。
白い狼は唸るような声を上げながら戦闘態勢を取る。
シラー団長とリナルが剣を構える。俺はコズミンを抱きかかえているしラリッサはランタンのせいで剣が使えない。ここは二人に任せるしかなさそうだ。
「団長、ここは私達に任せてください」
リナルが一歩前に出て剣を構えるとシラー団長は頷いて下がる。
「さて、いきましょうか」
リナルが剣でティケウルフに斬りかかると敵はあっさりと倒れた。
「魔術も使わず俊敏さもない。ティケウルフさんらしくないですね〜」
ラリッサが不思議がる中、シラー団長もティケウルフを仕留めるとアルデンはホッと息をつく。
「先輩方ありがとうございました。お怪我は無さそうですね」
シラー団は腕組みしながら考え込んでいるようだ。手応えがなかった事が気になるのだろうか。
その後、俺達は再びヴァノリスに向けて歩き始めた。
暗闇で油断ならない中、慎重に歩を進めていくと、やがて前方に明かりが見えて来た。
「オルミガ族の村が見えてきましたよ」
ラリッサが呟くとシラー団長はホッとしたように胸を撫で下ろす。
「それは良かった。ここで休ませてもおう。ントラ達の様子も気になるしな」
村の入り口に着くと見張りのオルミガ族に迎えられた。
「シラー団長、戻ってきてくれたのか! 空は暗くなるしリーパーは湧くし一体全体どうなってんだ?」
「ああ、済まない。厄介なことになっててな」
シラー団長は軽く答えるとスタスタと村の中へ入っていく。
俺達も後を追うと、オルミガ族の族長が出迎えてくれた。
「これはシラー団長よくぞご無事で」
オルミガ族達は深々と頭を下げる。態度を見れば一目瞭然だ。俺がヴァノリスにいた間、シラー団長とラリッサはオルミガ族のために奔走していたのだろう。
「心配をかけましたね」
シラー団長は微笑んで答える。
「ところでントラ達はどこにいる?」
族長が答えようとすると、奥から聞き慣れた声が近付いてきた。
「闇の世界へようこそ! よく来たなルギー! それに学友リナルも!」
「ントラさん! ああ良かった。元気なようで」
俺はホッと胸を撫で下ろすと、ントラは嬉しそうに駆け寄って来た。彼の後ろについて来ていた妹のヤナもペコリとお辞儀をする。
「シラー団長、ラリッサさん、ルギーさんも無事で良かった」
「なんとかね。しかしずっと魔物の気配が消えないな」
シラーは辺りを見渡しながら言う。
「それなんだが、クソ野郎共は暗闇から無限に湧いてきやがる。村中の魔力供給石を集め、足りない分は焚き火で補ってる。それでも追いつかん」
リーパーが夜に行動するのは知っているが灯りがあれば湧き潰しが効くのか。そいえば松明で敵をぶん殴っていた荒野の傭兵、元気にしてるかな。
「問題は他にもある。ヤナの魔力が一向に回復しないらしくてな。俺も疲れが取れにくいように感じるぜ」
ントラは溜息をつく。ヤナの呼吸が少し荒いように見えた。
「私が治癒魔法をかけましょうか?」
ラリッサが申し出る。
「おお! 頼むぜ!」
彼女がヤナの額に手を当てて治癒魔法を唱えた。淡い光が彼女の体を包むと、呼吸が安定していくのがわかる。するとシラー団長が口を開いた。
「確証はないがアレシアの塔が光を失って以降、魔力の回復が遅くなっている気がする。ヤナの魔力が回復しないのも外的要因だろう」
「成る程〜。ティケウルフさんが弱っていたのもそのせいだったんですね」
ラリッサは自分の魔力供給石を見ながらそう呟く。
「さて、ヤナも回復したようだし、今日は村で一泊させてもらうとしよう。皆、ご苦労だった」
シラー団長が皆を見回して言う。
「団長こそ、駆け付けて下さってありがとうございました」
ラリッサが頭を下げると、他の皆もそれに倣った。
簡単な夕食を済ませた後、リーパーに襲われないよう焚き火を囲んで眠った。
目が覚めると、俺達はオルミガ族から水と食料、リーパー対策としてランタンをいくつか譲り受け村を後にした。ヤナは魔力を完全に回復させることはできなかったがラリッサのおかげで少しマシになったようだ。
コズミンは変わらず気を失ったままだったので俺が抱きかかえている。
「ルギー先輩、寒くないですか」
歩きながらアルデンが話しかけてくる。
「確かに空気がひんやりとしていますね」
「あ、ラリッサ先輩。その服って寒そうですね」
ラリッサが着ているのはオルミガ族が普段着にしている動きやすい薄手の服だ。それをアルデンがまじまじと見つめる。こら、ジロジロ見るんじゃありません!
「フフ、私は平気ですよ。ドレスでもいいくらいです。アルデンさんの服も寒そうじゃありませんか」
ラリッサは胸元を手で押さえて答えると、アルデンは恥ずかしそうに頰を赤らめた。
「あ、すみません」
「暗いからセーフです!」
「談笑しているところ悪いがお客さんがいるようだよ」
「え?」
アルデンが驚いた表情で辺りを照らすと影が蠢くのが見えた。リーパーの群れだ!
「先手必勝です」
リナルが炎魔法を放つ。
火球が走り、敵に直撃したように見えた。
「グオォ!」
しかし別方向からも咆哮と共に影が飛び出してくる。
「くっ! やっぱり魔術はルギーさんじゃないとダメですか」
リナルは舌打ちして距離を取る。ラリッサも炎魔法で応戦するが敵の数が多くこのままでは消耗戦だ。
「赤き炎、静かに燃ゆるものよ、私の意志に呼応し、敵を焼き尽くせ!」
俺も加勢してリーパーたちに炎魔法を放つ。何匹かまとめて倒したようだが依然として四方から魔物の気配がしている。
「何かこの魔物たち、統率が取れていませんか? まるで誰かに操られているみたいに」
ラリッサの疑問にリナルが答える。
「地底神ではないかと。地上の混乱に乗じて魔物を解き放ったのではないでしょうか。まったく、懲りないやつです」
リナルが剣を鞘に納めながら言うとドラゴンに変身し、咆哮で威嚇する。
リーパーたちは怯んだのか目を光らせながら後退すると、一箇所に集まった。強者を前にした時、弱者は本能的に集まって身を守ろうとする、か。
(今だ!)
俺は魔力を練って雷魔法を放った。辺りを閃光が包むと魔物は悲鳴を上げて次々と倒れ伏していく。
「やったか!」
(やめてくれ、団長)
しかし、魔物の気配は完全になくなった。
「どうやら勝ったみたいですね」
リナルが安堵の表情を浮かべ、アルデンは緊張の糸が切れたのか座り込んでいる。
俺も普段味あわないような疲労感に襲われ、思わずへたり込んでしまった。ラリッサも同様のようだ。
「立て! 敵はまた襲って来るぞ。ヴァノリスまであと少しだ」
シラー団長が檄を飛ばし、皆慌てて立ち上がる。
「さあ行きましょう!」
元気なリナルの声に鼓舞され俺達は歩き出す。今の規模の魔術をもう一度使うのは難しいかもしれないな。
そんな不安もありつつ、なんとかヴァノリスに到着した。
街にはルーンナッドが置いていったであろうゴルデが各所に再配置されていた。
搭載されている大型ライトを活用し、効率的にリーパー避けが行われている。
街の人々は俺達を見つけると無事に帰還した事を喜んでくれた。
「お〜い! ルギーさん達が戻ったぞー」
「おお、本当だ。いきなり行方不明になったから心配してたんだぞ」
人々から歓声が上がり皆が俺達に手を振る。
まるで英雄の帰還だ。
「彼らが戻った! きっと暗闇も払ってくれるに違いない」
「私達、なんだが期待されちゃっているようですね」
「はは! 我々がアレシアの塔に登ったのが原因かもと言えば態度も急変するだろうな」
ラリッサと団長が話しているのを聞きながら人々をかき分けノービルトの宿を目指した。
原初の人間の知恵を借りるとしよう。
宿に入るとノービルトが出迎えてくれた。
ただでさえ見た目も声色も暗い人だ、真っ黒になって見えなくなるんじゃないかと余計な心配をしていたが。
「休暇は楽しんだが? 戻ってすぐで悪いがアレシアの塔で何か起ったようだ。様子を見に行ってくれないか?」
「それが、アレシアの塔に行ってまして」
俺達は順を追って話し始めた。自然神トリスリフが神殺しを処理した事、アレシアの塔のコアが停止し、ヴァノリスに辿り着くまでに遭遇したリーパーの群れなど一通り伝える。
ノービルトは真剣に聞いてくれた。
「そうか。アレシアの塔はかつて破壊神バドワストが崩そうと試みたが失敗している。奴がどうすることも出来ない数少ない物の一つだ。お前達が触れた程度でどうこうできる創造物ではない」
「コズミンさんが目覚めないのも塔の機能停止と関わりがあるのでしょうか」
「コズミン? ああ、お前の連れている蛇か。俺はアレシアの塔について多くを知っているわけではない。九大竜上位の者の知恵を借りた方が良いだろう」
「九大竜上位?」
詳しく聞いてみるとヴァリアセント大陸の東に九大竜の住まう島があるそうだ。
何人たりとも立ち入る事のできない聖域であるらしく、生きて帰った者はいないという。
「普通の船で渡れば死ぬ。ヴァリアセントに戻り、騎士団が保有する大型の船を借りて海路で向かうのが良かろう」
「騎士団の船なら確かに耐えられるかもしれないが戻ったところで国王と揉めるだけだよ」
団長が答える。彼女の言う通り、俺達がヴァリアセントで支援を受けられるとは思えない。
「ヘルドロスはそこまで愚かな神ではない。世界中が闇に閉ざされている今、奴も解決に向け動いていると俺は見ている」
「ルギーさん! あれを!」
ラリッサが窓から指さす方を見ると町の遥か上空に燃えるように明るい巨大な物体が見えた。それはゆっくりと町の中心へと移動している。
「何事だ?! あれは…九大竜の」
ノービルトが宿の外へ飛び出していったので俺達も続く。その物体は赤い鱗で覆われており、体は太く短い首と長い尻尾が特徴的だ。大きさは三十メートルくらいありそう。
「あれも九大竜なのか」
団長も驚いているようだ。
「おそらくセヴィエーナ様の元へ向かっているのでしょう」
「セヴィエーナ様?」
「ええ。ルギーさん、よく覚えておいて下さいね。現在、セヴィエーナ様は九大竜の実質的トップ、私達のリーダーなのです」
「なるほど分かった。覚えておくよ」
リナルはセヴィエーナ様について語りたそうに俺を見るが今はそれどころじゃない。上空から赤いドラゴンが降りてくる。
全身が赤い鱗に覆われ、背中には大きな翼があり尻尾も長く先端には鋭い棘がついている。
リナルはドラゴンの前に立つ。
『久しぶりだなリナル』
ドラゴンが喋った。低い声から察するに若い男性のようだ
「ベイランドノート様、久しぶりね。元気にしてた?」
『ああ、もちろんだ。リナルに会えなくて寂しかったぞ』
「私もよ」
『人間との暮らしはどうだ? 差別は受けていないか?』
「うん。みんな優しいわよ」
『それなら良かった』
ドラゴンがリナルを優しく撫でる。どうやらこの赤いドラゴンはリナルの知り合いらしい。
『そちらの人間はお前の友達か? 俺の言葉がわかるようだな』
ベイランドノートがリナルに言う。
「彼はルギーさん。特別な人間よ」
リナルに紹介されたので俺も挨拶する。
「はじめまして。ルギー・ドライリアムズです」
『ルギーか、良い名前だ』
ベイランドノートが俺に近づいて匂いを嗅いだあと顔を舐めてきた。馴れ馴れしい奴だな。
「ベイランドノート様、ルギーさんに失礼ですよ」
リナルがむっとした表情で言う。
『すまない、ルギー』
ドラゴンは素直に謝ると俺から離れた。不思議と力が漲って来る気がする。俺もついにドラゴンの魅力にやられる変な体になってしまったのか?!
「謝らないで下さい。とても素敵な贈り物をありがとうございます。ベイラン様の愛が伝わりました」
「ええと、ルギーさん? それはベイランドノート様から魔力と神力が流れているのです」
リナルがドン引きしながら説明している。俺は試しに腕に魔力を流してみる。
リーパーとの戦闘で消耗した魔力が完全に回復したようだ。
『塔の機能が失われた今、人間は大気中から魔力を吸収できない。お前もルギーに魔力を分け与えてやるのだぞ』
「ええっ?! それは恥ずかしいです」
リナルが頰を赤らめて言う。
『恥ずかしいだと。何故?』
「魔力を渡すのは親しい間柄だけよ! そんな人前でするなんて破廉恥です!」
リナルが慌てた様子だと、どうやら勘違いしているようだ。
『別に舐めろとは言わん。魔力を譲渡する方法は他にもあるだろう』
「へ? あ、そうですね」
リナルの顔がさらに赤くなる。確かに、舐めなくても手から放出するとか方法はいくらでもあるだろう。
気付くと団長達は遠くにいた。ドラゴンを恐れているのだろうか? 顔を守るように手で覆っている。
ベイランもその様子に気付いたようで気まずそうにしている。
『忘れていた。俺の熱風は人間に危害を加えてしまうのだ。そろそろセヴィエーナに会いに行くとするか。アレシアの塔を復旧させる方法を聞きたい』
「私も行きます」
リナルが答えた。俺も一緒に行きたいので交渉する。
「自分も連れて行ってもらえませんか?」
『断る』
てっきり快諾してくれるものと思っていたら、ベイランドノートは即答で断った。
『ルギー、九大竜にはプライドがある。人間を背中に乗せる事は出来ない』
「なら、脚で掴んででも構いません」
俺は更に食い下がるが駄目なようだ。
舐めるのは良くて背中に乗せるのはダメってドラゴンの基準はどうなっているんだ?
「ルギーさんが来られないなら私も同行しません。島へ渡る他の方法を考えます」
『そうか。ではまたな』
ベイランドノートは背中を向けて飛び立った。
すると途端に辺りが薄暗くなる。上空から暖かい火の粉が降り注ぎ、真紅の竜は姿を現した。
ベイランドノートが飛び去るのを確認し終えるとリナルは俺に向き直り真剣な眼差しで語りだした。
「ルギーさん、ヴァリアセントに戻りましょう」
「船に乗るのですね?」
「はい、私はドラゴン、そして人として、皆様と一緒にいたいのです」
「分かりました。行きましょう」
俺はリナルと共にヴァリアセント王国へ帰ることを決意した。
そこに団長達がやってくる。
「ルギー、それにリナル。ドラゴンはなんと言っていた?」
「ベイランドノート様は九大竜上位の方の意見を求め、例の場所へ向かうそうです。自分も追うつもりです」
「はい、それには騎士団の船が必要になります。こんな状況ですし、ヘルドロスも協力してくれるんじゃないかと」
団長達に正直に答えているとリナルが補足してくれた。
「ルギー、ついにドラゴンの言葉を理解できるようになったのか!」
注目すべきはそこじゃないのだが、団長は驚いた様子だ。
「一歩先を越されました〜」
ラリッサまで冗談めかして言ってくる。
「こんな状況ではヴァノリスで落ち着いて休めないでしょうから、自分はすぐにでもヴァリアセントに戻りたいのですが、団長達はどうされます?」
俺が団長達に尋ねると、皆顔を見合わせた。二つ返事で承諾されるかと思ったが、意外にも悩んでいるようだ。
「うーむ」
団長は腕を組みながら唸った後、ラリッサに視線を移す。
「私はまだ不安定なヴァノリスを放置して遠出する事は出来ない。だが、ヴァリアセントの様子も気になる。ラリッサ、ポナカンを通してお前の兄貴に連絡できないだろうか」
「それが、ポナカン達が姿を見せてくれないんです」
「それなら仕方がない。ラリッサ、君はルギーに同行してくれ。アルデン、君はどうする?」
「僕はルギー先輩について行きます!」
アルデンは即答した。
「ハハ! 頼もしい目付きになったなアルデン。ノービルトは……いなくなったようだから私が後で伝えておく。じゃあ、気を付けてな」
「はい! 団長もお気を付けて」
団長と別れ、俺はすぐにでも出発する気満々だったのだがアルデンが眠気に勝てないと駄々をこね始めたので、仕方なく借りた家で睡眠を取ることにした。
家で横になって気付いたのだが、皆興奮状態だっただけで疲れが溜まっていたのかすぐ眠りに落ちた。
8千文字あるので今週はこの1話のみです
新章に入りましたが常に真っ暗という設定を忘れがち(笑




