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8/22

08 ランベルトとルリィの思いのすれ違いの始まり

すみません。12/7に若干手を入れました。

 視察が決まった帰り道、ナルニアでルリィと別れた。

「陛下に野営させるわけにはいかないので、私は陛下が過ごしやすく、視察に来てよかったと言われるように準備をしたいと思います」

 そう言ってルリィは私を置いてナルニア邸を旅立っていった。


 ナルニアから馬車で一日の距離の場所にルリィは、宿を建てると言っていた。

 後着で建物の前についた私は、ルリィが作った建物を見て驚いた。堅牢で、美しい建物だった。


 中を覗くと多分、土魔法なのだろう・・・ベッドやテーブルまで設置されていた。

 私が用意するものは布製品か・・・。

 布張りのソファーは必要だな。


「しかし、ルリィの土魔法・・・でいいんだよな?進化し過ぎじゃないか?」

 同道していたスレイアも内覧して、驚いていた。

「ええ、我々の知る土魔法とは違うと思われます」



 内部を見学した後、スレイアとは別れて、私はヴェルトラム邸へと急いだ。

 ルリィと会えるかもしれないと思って急いだのだ。

 残念なことに、ヴェルトラム邸に着くと、ルリィの姿はなかった。

 いや、解っていたよ。

 でも一目会うくらい待っててくれても良かったんじゃないかな?

 誰にも言えない愚痴を一人でこっそりこぼした。


 ナルニアからヴェルトラム邸までは一度の宿泊で済むが、クルイストまでは二箇所、宿が必要になる。

 ルリィはそれを今頃設置しているのだろう。



 レイとロアにナルニアまでの道中に宿が建っているから、必要なものを買って、入れてほしいと頼んだ。

 それからクルイストまでも、今頃、宿が建っているだろうから、そちらも過不足無く準備を頼んだ。


「陛下が来られるまで、四ヶ月しかない。急いで準備を整えてくれ」

「かしこまりました」

 レイとロアに任せれば、陛下が泊まるのに不便が無いよう手配してくれるだろう。


「旦那様、物見台を見に行ってください」

 そう言われて見に行くと、物見台は物々しい感じか消え去って、外観が美しい茶系の大理石のようなものに変化していた。

「奥様が帰ってこられて直ぐに物見台へ向かうと、こうなっていました。中身も随分変わっています」


 そう言われて各階、改めると、調理室や浴室までもが用意されていて、快適な空間が作られていた。


「ルリィ様が陛下に喜んでいただきたいと、改良されました。最上階にソファーを設置するようにと言い付かっております」

「そうか。ではそのように手配してくれ」

「かしこまりました」


 私はやっと旅装を解いて、温泉に身をゆだねた。

 温泉から出ると、山積みになっている書類に目を通して、サインをしていく。

 この書類仕事がなければ、どんな立場になってもいいと思うのだが、悲しいかな、どんな仕事にも書類仕事はついて回る。


 集中してこなしたおかげで、溜まっていた急ぎ分は粗方片付いた。

 一人の侘しい食事を終え、また書類仕事をして、今度いつルリィに会えるのだろうか?と考えながらベッドに体を横たえた。



 ルリィ・・・私達はまだ新婚なんだよ。

 君を捕まえているのは本当に難しいな。

 ルリィが側に居ることのほうが少ないってどういうことなんだ?と誰かに文句を言いたい。

 最初に頼んだのは私だよ。それは解っている。

 けど絶対、ルリィが望んで進んで工事に手を付けていってるよね?

 まず、話し合いが必要だったと思うんだよ。私は。


 まず一晩、話し合ってから出発でも良かったんじゃないか?


 ルリィは一度出ていくと矢のように出て行ったきり、帰ってこない。

 必要なことだとは思っているよ?!思っているけど、一日くらい・・・そう望む私は我儘なんだろうか?



「旦那様、お仕事の手が止まっております・・・」

「ルリィはいつ帰ってくるとおもう?」

「・・・申し訳ありません。奥様のされていることと、考えていることは、私には解りかねます。多分、陛下が来られるまで帰ってこられないのではないでしょうか?」

「やっぱりそう思うよね・・・?」


「残念ですが・・・。奥様は出立される日、万全の状態で陛下をお迎えするのだと、仰っていました」

「そうか。感謝するべきだと思うけど、私は本当にルリィと結婚したんだよね?」

「私もそのように記憶しておりますが、最近は自信を失くしてまいりました」


「レイが自信を失くすくらいなんだから、私が結婚した夢を見ていた気分になっても仕方ないよね・・・」

「旦那様が憂いていても、仕事は待ってはくれません。奥様が、どんどん進めていくスピードに我々も付いていかなければなりません」

「そうだな・・・頑張ろう・・・」


 

 その後、ルリィの行動の報告に上がってくる。

 当然、ルリィからの手紙はない。


 現地ではきちんと話し合って決めているようなので、軋轢はなく、工事がどんどん進んでいく。

 ウェイストの山の頂上に一日で新たな砦が作られたと報告を受けては驚き、騎士寮が完成したと聞いては驚き、クルイストも同じように次々に施設が出来上がり、トリステリアも施設が完成したと続々報告が上がってくる。


 アンサーレッツ、オールベルトでも施設が完成し、オールベルトもカンニバル同様に山の頂上に新たな砦が作られた報告書と感謝の手紙が届いた。

 施設が完成したらルリィは帰ってくる。と喜んでいたのは数日で、ルリィは新たに川に堤防や橋を設置していると報告が来た。


 ルリィが帰ってくるかも知れないと喜んだだけに私の落胆はロアに「言葉のかけようがありません」と言わしめた。

 



 四ヶ月が経ち、私はルリィに一度も会えないまま陛下が王城を出立する日を迎えた。


 陛下がトンネルに感動していたとの報告書を読み、トンネルが通された瞬間に立ち会っていなければ、人の力でできることとは信じられないだろうなと思った。

 父の心中を察するよ。私は。


 今までは迂回するか山越えをするしかなかったところを、山の中を掘り進めて、崩れないように固めて、トンネルの中で闇に包まれないように、魔法を通すとほのかに光る壁をルリィは作り上げた。


 最短距離で移動ができるようになり、馬車の移動に合わせて、ルリィは陛下の宿泊施設を点在させていった。

 他領に勝手に宿泊施設を作ったと苦情が出ては困るので、陛下から、視察用の宿泊施設を作ると連絡を入れてもらった。


 連絡を入れた時には完成していたので、どの領地の領主達も驚いたことだろう。

 建物は準備したので、後のことはそれぞれに任せた。


 一緒にいたスレイアも開いた口が塞がらない様子で、私とスレイアはこの時、同じ気持ちを共有した。


 陛下が進行してくる領地の領主達は胃の痛い思いをすることになるだろうが、諦めてもらうしかない。

 陛下もきっと、短期間でできた宿泊施設のことを聞かれて困っていることだろう。



 父親であっても、陛下を迎えるための準備に私も目が回りそうになっている。

 何と言っても未開発地になのだ。

 人員が割けない。

 ルリィが張り切ってくれたおかげで、宿の建設はなんとかなかったが、それを運営する人だけはどうすることもできない。

 今いる、使用人達に頑張ってもらうしかない。



 現在のルリィはクルイスト砦に居るらしいのだが、何をしているかはさっぱり解らない。

 既存の土魔法ではできなかったことをルリィは成し遂げている。

 と報告書に書かれているが、それだけでは理解できない。


 すっかり土魔法に傾倒してしまったルリィは、土魔法の精度をどんどんあげていっているらしい。

 土魔法で作った建物とは思えないものになっているらしい。

 物見台を見れば、なんとなく想像もつく。


 ヴェルトラムの新しい屋敷にはまだ引っ越さないで欲しいと、ルリィが言っていた。とビリリアから報告書が上がってきた。


 ルリィ、私の手紙に返事を書いてもバチは当たらないんだよ。他所からの報告書以外の連絡も入れて欲しいと思うのは私の勝手なのだろうか?

 側で見学している魔法使い達は土も水も火の魔法も複雑に使用しているように思うとだけ書かれていた。


 粗方完成しているのだから、帰ってくればいいのに、ルリィは村を巡って治癒魔法と回復魔法をも掛けて回っているらしく、土魔法をもっと美しく使えないか試行錯誤しながら建物を仕上げているらしい。

 村民の家にまで手を出しているという噂も聞こえている。

 この事は報告書が上がってきていないので、真偽の程は解らないが。


 ここまで放置されている私は、ルリィが帰ってきたら腰が立たなくなるまで相手をしてもらおう。と私は心に誓った。

 そして浄化魔法は使わせず、妊娠してもらおうではないかと考えた。


 そうは思っても、現状、ルリィが妊娠すると困ることばかりなのだろうが・・・。

 そんな事を言っていたら、子供を持つタイミングは一生やってこないだろう。

 自然に任せるのが一番だと思うんだ。私は!!


 結婚してからというもの、離れ離れになっている時間のほうが多いのはどういうことかと、今日も誰かに文句を言いたい。

 いや、レイやロイにはいつも言っているが・・・。


 ルリィをこの腕に掻き抱きたい衝動を抑え込み、執務に取り組む。

「陛下の到着とルリィが帰ってくるのは、どちらが早いと思う?」

「申し訳ありません。奥様は戻れないそうで、ウェイストで陛下と旦那様のお出でをお待ちするとのことです」

「聞いてないんだけど?!」

「すみません・・・お伝えしづらくて・・・報告書には書かせていただいたのですが・・・」


「ああぁ・・・ルリィの報告書には手を付けていない・・・読んでもよく意味が解らないし・・・」

「そうでございますね」


 陛下がハルロイ辺境伯邸に到着したと連絡が来た。

 ハルロイ邸で二泊して、砦に一泊、ナルニアで一泊、中間の宿で一泊・・・か。


「さぁ、後三日くらいで陛下が到着されると思う。最後の確認を頼む」

 伝令がここまで来る日数を省くと後三日で到着する。

 使用人達の一部は中間の宿へ出発している。

 後は優秀な使用人達に任せる。


 私はルリィの報告書に目を通していくが、やっぱり書かれていることは理解できなかった。



 早馬が到着して、陛下が直に到着することが解り、屋敷内はピリッと引き締まった。



 父上を乗せた馬車が目の前に止まり、父上が馬車から降りてきた。

「父上、遠いところをよく来てくれました」

「手間をかけるな」

「いえ、来ていただけて嬉しく思います」

「ルリィはどうした?」

「ルリィは土魔法を使って物見台を作ったり、騎士寮を作ったりと忙しくしておりまして、現在ウエィスト砦で陛下をお待ちしている・・・筈です」


 陛下は笑って「ルリィの手綱を掴みそこねたな?」と私に聞いてきた。

 私は「そのようです」と苦笑いで答えた。


「馬車の窓から見たが、第一防壁は本当に完成してるのだな。ルリィはあらゆる意味でジャイカル国の聖女であるな」

「はい。私もそう思います。父上、一度休息を取られますか?」

「いや、必要ない」


「では、登るのは大変かと思いますが、物見台に上がってみられますか?」

「うむ。上がってみたいと思う。ハルロイでは上がらずに我慢してきたのだ」

 子供のように目を輝かせて、陛下は物見台の階段に一歩足をかけた。


 陛下のペースに合わせて、階段をゆっくりと上がる。

 陛下付きの聖人も一緒に付いてくる。

 陛下が疲れた頃を見計らっては回復魔法を掛けている。


 物見台は円柱から円錐形になっていく形状で、最下層はかなり広い。

 最上階でも、私の部屋よりやや大きいくらいある。

 各階に食料や武器、備品等の収納ができ、建物内の外壁側をぐるりと螺旋階段で登っていく。


 上階には兵士たちの休憩所もあり、十三階建てほどの高さがある。

 最上階に透明度が高い大きな窓ガラスがはめられていて、三百六十度ぐるりと外が見られるようになっている。

 窓の外側にも出られるようにテラスが張り出している。


 不思議なことにルリィは土魔法で、とても透明度の高いガラスも作ってみせたのだ。

 ルリィ曰く、火魔法と土魔法が使えればガラスは作れると言っていた。

 ガラスが生成できる魔法など、聞いたことがない。


 聖人が何度か陛下に回復魔法を掛けて、陛下は物見台を登りきった。

「素晴らしい眺めだな!!ジャイカルもメキシアも全てを見通せる!!」

「はい。メキシアが人を集めたら直ぐに解るようになっています」


「うむ。本当に素晴らしい!!ルリィが王都に来た時、城にも物見台を作ってくれるように頼もう」

「登る度に聖人を連れて上がるのですか?」

「聖人が可哀想か?」

 陛下は聖人の方を向いて笑って問いかける。

「必要な時はいつでも声をおかけください」

 笑顔で聖人は答えていた。


「目のいい者を物見台に配置しておけば、情報もいち早く知ることができよう。先の戦ではハルロイへの到着が二日も遅れたと聞いている。その二日が命取りになることもあるかもしれん。できることは全てしておくべきであろう。ルリィには申し訳ないがな」


「父上、私は聖女や聖人をよく知らないのですが、ルリィは少し聖女の枠を飛び出しているのではないかと思うのですが・・・」

「そうだな。歴代聖女の中でも飛び抜けておると私も思う。癒しの力だけでなく、土魔法に、火魔法も使えるのであろう?」


「はい、はっきり答えないのですが、水魔法も風魔法も使えるようです」

「光魔法以外を使えることは本当に稀だと聞いていたのですが、ルリィ様は何と言っていいのか解らないのですが・・・人知を超えた何かなような気がします」

 と陛下に付き添っている聖人もルリィという存在の異質さに言及した。



「ルリィは本当に何者なのだろう。我が国の救世主であることは間違いないが・・・ルリィが敵でなくて本当に良かったと思うな」

 陛下がしみじみと言った。


 その日、陛下はソファーに座り、日が暮れるまで物見台から外の景色を見下ろしていた。



 ナルニアで入った温泉が気持ち良かったと言って、ナルニアに別荘を建てたいと言っていた。

 我が家の温泉に入って、こんなに素晴らしいものが世の中にあると知らなかったと感動し、この建物を壊さず、陛下の別荘にすると言い出した。

 だから急いでランベルト達の屋敷を完成させろ。と陛下がせっついた。


「次に陛下がいらっしゃる時には、陛下のための別荘が建っていると思われます」

「ふっふっ!楽しみだな!!」

「ここまで強行軍で皆も疲れていることでしょう。明日は一日ゆっくりしてください」

「ああ。明日も物見台に上がりたい」

「解りました」


 その日も物見台から一日ずっと、外の景色を眺めていた。

 父はこの景色を見て何を思ったのだろうか?

二度目のクラッシュで性も根も尽き果ててしまいました・・・。

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― 新着の感想 ―
[一言] ランベルトも、これまでは殿下として周囲が意を汲んでくれていたから自分から伝えることに不慣れなのかなとも思います。 しかし、嫁がかまってくれないと拗ねるだけじゃなくて、会えたときに直接さみしい…
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