06 陛下の報奨は、本当に私が欲しい物をくれるのでしょうか?
ランベルトと別れてからほぼ二ヶ月とちょっと、土魔法を一回で一km以上掘り、土を盛り上げ、強固に固めて進められるようになった。
多分後三回で防壁は完成する。
東西の端が山にあたるのは問題だよね?
山から攻め入られることになるんじゃないのかな?
山のてっぺんに合わせて移動させてもいいんじゃないかな?
駄目かな?
東は攻め入る力がなかったからあまり北上できていない。
ハルロイに釣られてなんとなく防壁を越えて、おそるおそる進んでいたらしい。
ちょっとだけ、ちょっとだけ・・・いいよね?
ランベルト、怒らないよね?
ランベルトかぁー・・・。
あぁ、温泉に入りたいなぁー。
ランベルトにも会いたい・・・。
ランベルトが東端に迎えに来ると言ってくれたが、それは断った。
まだまだすることはある。
砦からジャイカル国を見下ろして、目が届く範囲で土魔法を振るっていく。
残念なことに防壁のように土魔法一回で気を失うことはない。
私の独断で必要と思える道を敷設していく。
砦から各屋敷へ、各屋敷から王都へと向けて。
防壁の上を馬に乗って西へと歩を進める。
防壁の直ぐ下にも道を敷設する。
私がベッドとして使っていた馬車は空で私の後を付いてきている。
魔力の残りが少なくなると、馬車に乗り込んで道作り。
気を失って、眠りにつく。今回はどんな夢を見られるだろうか?
翌日も道作りを頑張っていると、背後から水の流れる大きな音がした。堀を覗いてみると、水が流れてきているのが見える。
堀は削れることなく水が流れ、その水は濁りのない綺麗なものだった。
「水の透明度があるってことは堀が削れていない証拠ですね」
護衛騎士の一人が私に向かって話しかけてくる。
「そうね。良かったわ。土魔法を使うのは初めてだったからちょっと・・・心配だったの」
「余裕そうに見えてましたよ」
護衛騎士達がクスクス笑う。
「そう見えるように頑張っていたからね。土魔法使いの方達の強度補強のおかげだと思うわ」
「最初の土魔法の時以外、誰も補強なんてしていませんよ」
「そうなの?」
「完璧な土魔法だったそうですよ」
私は嬉しくて、褒めてくれた護衛騎士達の顔をまっすぐに見られなかった。
グレゴリア様の領地と、アンサーレッツの領地の道の敷設が終わって、アンサーレッツとトステリアの間に流れる川に大型の橋を作っている所にランベルトが迎えに来てくれた。
「おかえり」
久しぶりに会うランベルトに、視線を合わせるのが少し恥ずかしかった。
「ただいま戻りました」
ランベルトが私を抱きしめようとしたので「お風呂に入ってからにして」と強く拒否した。
ランベルトは気にしないと言って私を抱きしめ、口づけをしてくれた。
ランベルトは私を護衛してくれていた女騎士達を労い、感謝を伝え、館に戻ったらは金一封を渡す約束をしてくれていた。
これからもお世話になる方々なので、ランベルトの気持ちが本当に嬉しかった。
「ヴェルトラムの屋敷に戻ったら二週間の休みを交代で取ってもらうことにする。後少し頑張ってくれ」
とランベルトが護衛騎士達に伝えていた。
ランベルトが迎えに来てくれたけれど、私はまだヴェルトラムの領地に道を敷設していかなければならない。
勝手にしていることなので、しなければならないかと言われると、首を傾げられてしまうかもしれないけれど、道の整備は早急に必要なことだと思っている。
トステリアの屋敷で入浴と、豪勢な食事を堪能して翌日、また防壁の上に登った。
「何をする気だ?」
ランベルトは私がグレゴリア様とアンサーレッツの領地に道を敷設していることを知らないので、怪訝な顔をしている。
「道を作ろうと思って。ここからならヴェルトラムの屋敷も、側近達の屋敷も見えるから最短のルートで道が作れるでしょう?」
ランベルトは目を点にしていたが、私がしようとしていることに口出しはしなかった。
砦から直線でヴェルトラムの屋敷まで整地した真っ直ぐの道を作る。邪魔になる木や岩は排除して。
ヴェルトラムの屋敷から各屋敷へと道を伸ばしていく。
十七本目を敷設している途中でランベルトの腕の中で意識を失った。
気を失うのは解っていたので、馬車に乗ろうとしたのよ!
なのに、ランベルトが私を抱えて離さなかったんです。
翌日、残りの道を敷設して、ハルロイ辺境伯までの道も通した。
私が必要と思える道は敷設し終わった。
「ランベルト、後どこか必要な道ってあるかしら?」
「今は思いつかないから、また必要になった時に頼んでいいか?」
「解りました。グリゴリア様とアンサーレッツ辺境伯様にもそのように伝えてください。必要な道があれば遠慮なく言って欲しいと」
「伝えておく。ルリィ、本当にありがとう」
「私の出来ることをしたまでです。次は第二防壁に行って、道を作らなければなりませんね」
ランベルトは申し訳無さそうな顔をした。
私は笑って「適材適所ですよ」と片目を瞑ってみせた。
「ルリィは今度は第二防壁か・・・いつになったらヴェルトラムに帰ってくるのやら?」
「・・・一度、帰ります」
「そうしてくれたら嬉しいよ。ハルロイには使者を立てておくよ」
「そう言えば、ハルロイ辺境伯って、辺境伯のままなのかしら?」
「そう言えばそうだな」
「どうするんだろうな」
とその場にいた全員で首を傾げた。
「・・・さて、十年計画の防壁作りが終わってしまったんだが、どうしたものか」
ランベルトは今回は意識を失わなかった私の手を取り、砦の階段を一緒に降りた。
その体のどこにそれだけの食べ物が入るのか?と毎回驚かれながらたっぷりと食事をとる。
「もう、食べられない・・・」
「デザートの用意がありますが、どうされますか?」
シャーリーン夫人が聞いてくれて、私は「食べます!!」といい笑顔で答えた。
クルイスト砦に着いて、ヴェルトラムの屋敷へ帰ることになり、道の快適さにランベルトは驚いていた。
快適になるように意識して作った私も、快適すぎて驚いた。
王都の道より馬車は揺れなかった。
ヴェルトラムの屋敷に着くと、私はすぐに温泉に入り、食事を堪能して、ランベルトにベッドへと引きずり込まれた。
「新婚なのに亭主を放ったらかしにするとは大した悪妻だな」
そう笑いながらランベルトは私を堪能した。
勿論、私も満足のいくまでランベルトを堪能した。
ヴェルトラムの屋敷で二日程ゆっくりした後、新しく作る屋敷の側に防壁の応用で物見台を作った。
物見台の完成に、これなら砦もいい感じに作れるかもしれない。
屋敷はどうだろう?
頭の中でイメージを固めていく。
図面をもう一度見せてもらって、細部は後から作るとして・・・土色の建物なんて嫌よね。
夢の中の建物を頭に浮かべて、取り敢えず外壁のみを考える。
広さ、高さ、色は白をしっかりとイメージして、最も強固な硬さで土魔法を放った。
ランベルトは目を見張って屋敷となる白い建物を眺めていた。
「なんで白い色なんだ?」
レイとロアも新しい屋敷の外壁を触って、首を傾げる。
「このツルツルした素材はなんなのでしょうか?」
「大理石をイメージしてみたんだけど」
「あぁ、言われてみれば大理石だな」
「扉、開きますか?土なので重くて開かない可能性が・・・」
レイが引くと扉は重さがないかのようにスーッと開いた。
「重みは感じませんが、微量ですが魔力が吸われました」
中身はまだ何もない。広大な空間があるのみだ。
四階建てをイメージしたので、階層を区切って、階段を造り付けていく。
一階の図面を見て壁を作っていく。
当初の予定より、大きく作ってしまったようだ。
図面のとおりにならない。
「ちょっと図面の通りにいかないみたいです・・・大きく作ってしまいました」
「いや、構わないけど・・・」
ランベルトが呆然と答える。
「天井も高いですものね・・・」
ロアが天井の高さに目がいっているようだ。
一つ一つの部屋を大きめにとって、図面の通りに区切っていく。
二階、三階、四階も同じようにしていく。
「あと、細かいことは追々やっていきますね。物見台と繋げようかと思うのですが、どう思われますか?」
「ああ、繋がっていると便利だな」
一度外へ出て、物見台と屋敷が見える場所に立ち、二階から上に屋根付きの渡り廊下を繋げた。
屋敷と物見台にも扉をつけたところで、意識を失った。
数日後、隣国まで見通せる高さの物見台に登った。
物見台の最上階にはテーブルやソファー、小ぶりな執務机が配置されていた。
既に騎士が交代で監視についているらしい。
物見台に登るのに回復魔法が必要だったけれど、ヴェルトラムの領地を見下ろし、村民と話をして、作って欲しいと願った、水路とため池を作った。
残念なことに意識を失うこと無く、自力で降りることになってしまった。
私が「階段を降りるくらいなら、気を失いたかった」と言うとランドールは、物見台で意識を失った時は、布団を物見台に持ち込むつもりだったと言った。
どっちにしても自力で降りなければならないのなら、意識を失わずにすんで良かったのか・・・?
いや、やっぱり夢が見たかったな。
後ちょっとで魔力が尽きるので、物見台を強化してみた。
私の目論見通り、私はその場に崩れ落ちた。
翌朝、ランベルトに叱られた。
「魔力が尽きるのが解っているなら、先に言うべきだろう!!」
「ごめんなさい」
「これからは気をつけて!!」
「はい・・・」
実は誰にも言ってないけど、魔力量が凄いことになっている。
治癒魔法なら一日中使っても、意識を失うことなどまずない。
これでは夢が見られなくなってしまう。
どうすればいいのか考えなければならない。
土魔法でなんとかなる屋敷の家具などをせっせと作って、魔力があると色々便利。という物を設置していった。
作っていて、冬場は少し寒々しいかも?と思いつつ、思いつくまま、夢の世界で便利だったものをこの世界で使えるように考えた。
私が屋敷に戻ってから二十日ほどで、陛下から王都へ来るようにと要請が来た。
防壁が出来たとはどういうことかという質疑があるそうだ。
「出来ちゃったものは出来たんだから仕方ないよね?」
「まぁ、出来上がったものな」
「でもまだ砦作りはまだだし、騎士の宿舎もまだでしょう?」
「ああ、こちら側の階段を作ったり、騎士達の寮も必要だからね」
「なら完成じゃないですよね?」
ランドールは「そう言えなくもないかな?」と苦笑を浮かべた。
私はお留守番だと思っていたのだけれど、ハルロイ辺境伯の所から王都への道を作らなくてはならないと言われて同行が決定した。
ハルロイ砦からハルロイ邸までの道、ハルロイ邸から西の隣の領地との道も敷設した。
第二防壁の上を馬車を走らせて、中央のオートマル辺境伯領地、東のガリアルト辺境伯領地にも道を敷設していく。
既にできている道をより平にして、固めて、真っ直ぐ通していく。
ついでに第二防壁も強化して、高さも上げておく。
第二防壁には堀は作らない。
見える範囲の屋敷と屋敷も繋ぐ道を作っていく。
「治癒魔法より土魔法を極めてしまったかも知れません」
ランベルトにそう言うと、各辺境伯邸の横にも物見台を作るように言われた。
今回も回復魔法を掛けながら、物見台へ上り、王都への真っ直ぐな道を敷設する。
枝のように屋敷と新たに敷設した道をつないで行く。
物見台で意識を失うと、ランベルトは背負って降りてくれた。
うふっふっ。
快適な道のお陰で、王都までの時間が短縮され、予定通りに王都に着いた。
本来なら一日早く着くところだったのだけれど、新設した道と、各屋敷を繋ぐ道を敷設していたため、予定通りにしか到着できなかった。
到着早々、陛下と謁見することになった。
私は全員に回復魔法を掛けて陛下の下へ向かうことになった。
陛下、その側近に、宰相、その側近と各種専門分野のお偉い方々に囲まれた部屋に呼ばれ、陛下の対面にランベルトと私は着席した。
「防壁に道まで完成したというのは本当なのか?」
ランベルトは私を見て、陛下を見据え口を開いた。
「はい。ルリィが土魔法を使える気がすると言い出しまして、試したところ誰よりも強い土魔法を使えることが判明しましたので、ルリィ一人に負担してもらうのはどうかと思ったのですが、防壁の完成が先決だと思い、ルリィに願いましたところ、快く引き受けてくれましたので、・・・防壁が完成しました」
「そうか!!事実であったか!」
「ただ、まだ砦、騎士寮などの施設は完成していません」
「それは土魔法だけでどうにかなるものでもないからな」
「はい。ハルロイ辺境伯から王都までの道も敷設できました」
「なんと!!」
「ハルロイ邸から王都今まで八日掛かっていた移動が四日に短縮されました」
口々に「なんと」とか「まさか」などの声が漏れている。
「どうしてそんなに短縮できたのだ?!」
「はい、ルリィの案で、山の中をくり抜きました」
「信じられん!!山は崩れてこないのか?!」
「防壁を支えるほどの硬度があるので心配ないそうです」
「山の中は真っ暗であろう?」
「屋敷と同じように入り口で壁に魔力を通すとほのかに光るようになっていますので、闇ではありません」
「是非行ってみたいな!!」
「予定を組んで視察していただけたらと思います」
「ルリィにはどれだけの報奨を与えたものかと頭がいたいわ。希望があれば、望みを叶えたいと思うので、考えておいてくれ」
「ありがとうございます。考えさせてもらいます」
私は陛下とランベルトの会話をただ黙って聞いているだけなのだけど、それだけで胃が痛い思いをした。
もう、余計な報奨は必要ないんだけど・・・。
王族の報奨なんて、私の望みのとおりになったりしない事は前回の報奨で思い知った。
私が望む相手との結婚を認められたはずだったのに、結局王族に嫁がされてしまった。
今は、嫌ではないけれど、やはり騙されたと言う気持ちがある。
そんな事をぼんやり考えていると、陛下達の会話は続いていた。
「うむ。ヴェルトラム砦への視察の予定を組んでくれ」
陛下が宰相の方に向かって言った。
「陛下が来られるのは、全てが完成してからが良いかと思いますが」
「いや、構わぬ。メキシアを見下ろしたい」
ランベルトはクスリと笑って陛下に「かしこまりました」と返答した。
陛下の視察は四ヶ月後に決まり、私達は慌ただしくなった。
ランベルトと同行したスレイアが唸っていた。
「頭が痛いな」
「ランベルト様が陛下の視察の了承をしたのですから、諦めてください。道中陛下を受け入れなくてはならない方々のほうがもっと大変なのですから」
「せめて温泉宿が完成していたらなぁ・・・」
「そうですね。でも、温泉には入っていただけるので、次回の視察も心待ちにしていただけるかも知れません」
「そうだな」
「ランベルトにとっては親が遊びに来るだけではないですか」
「それはまぁ、そうだが所々に野営していただかなければならないだろう?」
「そうですね・・・陛下に野営・・・大問題ですね」
ランベルトが何を危惧しているのか解って、私も血の気が引いた。
「だろう?」
「私、四ヶ月の間にちょっと頑張ります!!」
ランベルトとスレイアが私を見て、二人同時に「ほどほどでいいから」と言われてしまった。
「立ち寄る屋敷にはなるべく早く連絡するように伝えてあげてくださいね」
「そうだな。だが、陛下の周りでは予定を立てられないかも知らないな」
「そうですね。今までとは全く違うのですから、陛下が移動する前に、誰かにハルロイまで馬車旅をしてもらわないとならないだろう」
頭を抱えたランベルトとスレイアに私も加わって考え込んだ。
すいません・・・。
今年中には終わりそうもないことが判明しました・・・。