05 土魔法が使えるかな?と思って使ってみたら使えました。
次に向かったのが北西のカンニバル・ウエィスト。
メキシアとの一番左端の防壁を守ることになる。
最前線の一人。
川が流れているため、不法侵入に気を使う地域になる。
川の上にも勿論防壁は通っているが、川に潜って侵入できないわけではない。
防壁と、川の両方に気を配らなくてはならない。
奥様はランベルトと同じ歳で、私達が結婚するほんの少し前に結婚したばかり。
すっかり奥様のシャーリーン様の尻に敷かれている。
カンニバル様も先の戦争で死にかけていて、治療した覚えがある。
防壁の方で何か騒ぎがあったらしくて、工事に携わっている人が走り込んできた。
「どうした?」
ランベルトが問うと、息も絶え絶えに話した。
「メキシアの村人が防壁へやって来ていて、ジャイカルの国民になりたいと・・・」
「解った。すぐに行く」
私達は取る物も取り敢えず、防壁へと向かった。
そこには七十人近くの貧しい身なりの老若男女がいた。
代表の一人がメキシアの近くの村民だと言い、生活が苦しくて食べていけない。もう死ぬか、メキシアから逃げるしかなくて、ジャイカル国に来たいと言った。
「今年の収穫もほとんど税で取られました。この冬すら越せません。どうか助けてください」
「少し待っていろ」
「解りました」
ランベルトは暫く考え込んで、カンニバルと話合い受け入れることを選んだ。
「刺客や間諜の可能性もありますよ」
「解っている。だが、追い返せばあのやせ細りようでは本当に死んでしまう」
ランベルトとカンニバルは難しい顔をしたまま、村人に食事を与えるように指示していた。
堀ができていたためこちらに来られないのに、どうするのかしらと見ていると、土魔法使いがメキシア側に橋を作って渡ってくるように村民達に伝えた。
わぁっ・・・!!土魔法便利!!私にも使えないかな?
一人ずつ名前と年齢、家族構成を聞いていく。
私は順に治癒魔法と、回復魔法を掛けていった。
シャーリーン婦人は炊き出しを行って、暫く様子を見ることになった。
「もしかすると目が届いていない所からもメキシアの村民が入ってきているかもしれないな」
「そうですね。まぁ、ある程度は仕方ないのではないでしょうか」
ランドールとカンニバルは難しい顔をして話していた。
私は防壁の出来上がっている場所に立ち、防壁の完成具合を見る。
「戦争が終わって二年とちょっと経っているのに、防壁作りは中々進んでいないのね」
「そうだな。予想以上に進んでいないよ。カンニバル、どうしてここまで進んでいないんだ?」
「土魔法使いの能力が低いためです」
にべもない返答がきた。
ヴェルトラムの領地から見ると防壁の高さは十mほどしか無いが、メキシア側から見ると堀を深さ五m、幅十m掘っている分、見下ろすと凄く高く見える。
防壁の幅も十mある。
防壁の上は馬車も走れるように作られている。
「落ちると死んじゃうわね」
「川の水を入れるから、助かるんじゃないかな?完成後に跳ね橋も一応掛けるしな」
「堀に水を入れるのね。だったら少しは安心かしら」
一応、胸の高さまでは手すりは作られている。
「防壁が完成したらの話になるから、まだまだ先の話になるけどな」
メキシアとジャイカルの両方を見下ろす。
「メキシアは小さな国になってしまいましたね」
防壁の上からだと隣国の王城が小さく見える。
「そうだな。メキシアがそれを受け入れられればいいが、そうでなければまた戦争だ。その時、ここを守り切るだけのものを用意しなければならない」
ランベルトとカンニバルが頷き合っている。
防壁の工事をしている土魔法使いの人達を眺めていると、なんとなく私も土魔法が使えないかな?と思って、まだ誰も手を付けていない場所を掘って、その土を盛り上げて防壁にするイメージで魔法を放ってみた。
素敵な夢を見て、目を覚ますと、ベッドの上で、魔力を使い果たして気を失ったのだと気がついた。
あれ?私治癒魔法使ってないよね?
ちょっとおぼろげな記憶を思い出しながら、土魔法を使ったことを思い出した。
土魔法一回で気絶するって、土魔法を使うのって恐ろしいほど効率がいい!!
それと同時にあの高さから落ちなくて良かったと胸を撫で下ろした。
ベッド脇にあるベルを鳴らすと、メイドとランベルトが一緒に入ってきた。
「あっ、おはようございます」
「あ、じゃないよ。いきなり倒れるから何事かと思ったよ」
「ちょっと土魔法使えるかなーー?と思って試してみたんです」
「凄いことになってるよ」
「凄いこと?」
「まぁ、取り敢えず身支度して食事にしよう」
「解りました」
何時もより豪勢な食事が供され、カンニバルがニコニコだ。
ちょっと不気味に思いつつ、私がもう食べられないと思うほどしっかり食べた。
勿論、デザートは別腹だ。
魔法を使った後は睡眠とたっぷりの食事が必須だ。
ランベルトに昨日と同じように防壁へ連れて行かれると、昨日工事していたところから百m位一気に工事が進んでいた。
「凄い工事の進みようですね」
「ルリィがやったんだよ。魔法使いの人達から言わせると、強度が足りないそうだ。それ以外は問題ないので、できればルリィに掘り進めて欲しいと思っているんだが、やってもらえるか?」
「私、土魔法使えたんですねー。驚きました」
「知らなかったのか?」
「知りませんでした。でも何となく使えるような気がしたので試してみました」
「そ、そうか」
「頑張って防壁を作ります」
「すまない。頼む」
私はできあがっている防壁の先端へ行って、強度・・・と考えながらまた土魔法を使って、また気を失った。
一度で魔力を使い切るのはある意味問題だよね。
次に目覚めた時にそう思った。
「ルリィ、ここに残って東の端まで防壁を作ってくれるか?」
「いいですよ。出来ることは頑張ります。ですが、屋敷のことはどうしましょう?」
「ルリィが帰ってくるまではロアに任せておくしかないな。防壁、任せる」
「解りました。頑張ります」
初日に使った土魔法では強度が足りなかったが、二度目に使った時は強度も完璧だと土魔法使いの方に褒めていただいた。
ここだけの話、堀を進める工事は治癒魔法を使うより楽だった。
治癒魔法は、ちょっとずつ魔力が削られていくので、苦しい状態が長く続く。
その点、土魔法は一度使うと気を失うので、苦痛もなく爽快だった。
何と言っても素敵な夢が見られる。
クルイストが守る場所まで二週間で防壁を作る事ができた。
砦作りは土魔法使いの方にお任せだ。
日に日に防壁を作れる距離も伸びている。
ヴェルトラム邸から見て、真北になるのがビリリア・クルイストが守る砦になる。奥様はヘルマイア様。
側近の中では一番実家の爵位が高い、侯爵家。
嫡男だったのに、侯爵家を蹴ってランベルトに付いてきた物好きだ。
そのことに文句を言わないヘルマイア夫人も凄いと私は思ってしまう。
私にとって貴族籍はありがたいものではないけれど、ヘルマイア夫人は生まれた時から貴族だ。
辺境伯なら侯爵と同等の扱いになるけれど、陛下から側近達に与えられたのは騎士爵のみ。
ランベルトは何も言わないけど、ついてきてくれた側近達にはきっと凄く感謝をしていると思う。
クルイストでも同じようにメキシアの村民が逃げてきていて、受け入れたと話している。
私は治癒魔法と回復魔法をエリアヒールというものを使ってみた。素敵な夢の世界の本に書かれていたので、使えるか試してみた。
私が一度で作る防壁を見て皆、口を開けて私と防壁を何度も見比べていたらしい。
私は意識がなかったので、後から聞いた。
カンニバルが私を毎回抱えて下に降ろすのも大変だし、ランベルトが北東のレイスト・トステリアの視察が終わると防壁から離れて行ってしまうからと言って、防壁の上に大型馬車を上げ、その馬車の中を私のベッドルームにした。
馬車から土魔法を使って、目が覚めたら自分で階段を降りて、食事、入浴を済ませて、治癒魔法と回復魔法が必要な人達の治療をして、また土魔法を使っては、気を失うことを繰り返している。
大型馬車はカンニバルの気遣いもあって、快適なベッドルームになった。
当然、私が眠る大型馬車は、私の護衛騎士に守られている。
魔力を使いすぎて気を失う時は、ほぼ十四時間くらい眠ってしまう。
魔法を使う以外に、体を動かさないと、そのうち寝たきりになってしまう。
ランベルトは私が眠っている間に視察に回っている。
私が村を回れないため、治癒魔法や回復魔法が必要な人には防壁まで来てもらっている。
来られない人は、また後日村を回るときまで待ってもらうしかなくなった。
メキシアの難民を受け入れていても、ここでも農民の数が足りない。残っているのは歳をとった者ばかりだったそうだ。
冬が来る前に農民達が移動してきてくれればいいけれどと皆で話した。
北東のレイスト・トステリアのところまで土魔法を使いながら進んでいると、土魔法使いの人が、私はどこかおかしいと声高に言い出した。
一度で気を失うまで使い切ってしまうこともおかしいし、魔力量が兎に角おかしいと言われてしまった。
私は逆に「魔力を使い果たさないから魔力量が増えないのよ」と言い返しておいた。
聖女の頃から他の人よりも魔力は多かったのだ。その事で責められても、土魔法使いの人達の努力が足りないとしか言いようがない。
レイスト・トステリアは騎士爵を先の戦争での活躍で平民から騎士爵へ叙爵した人。トステリア家へ婿入りして、奥様のラスベラータ様がお父様から伯爵位を頂いた。
貴族がよく解らなくてその一点で苦労している。
その気持は私にも良く解る。
私も平民だからね。
ラスベラータ様は「私は名ばかりの伯爵で、全てはレイストに任せているの」と公言している。
この夫婦にも私の土魔法を見て驚かれ、歓待を受けた。
国からお金が出ているとは言え、資金繰りはどこも苦しいものね。
食事は人の三倍の量でとっても美味しいものを用意してくれている。
この先からはヴェルトラムの領地ではなくなる。
大きな川の上を防壁を崩さないように建てる方法を教えてもらう。
ここでも砦作りは土魔法使いの人達に任せて、私はどんどん掘って防壁を作り進める。
いよいよヴェルトラムの領地の境になる川に突き当たった。
この領地も川を伝って入ってくる者に気をつけなければならない。
川の両端にも砦を作るそうなので、お隣の領地と馴れ合わずに、仲良くして欲しいと思った。
ここでランベルトとは別れることになる。
「防壁作り、頼むね」
「任せてください。視察される村の人達にも次の機会に必ず伺いますと伝えてくださいね」
「ああ。伝えておくよ」
別れのキスは馬車の中で済ませた。
次に会えるのは早くて二ヶ月?先かな。
ずっと一緒だったから、ランベルトが側にいないと寂しいと感じてしまう。
川の上は今までよりも圧縮を強くして強化する。
幅も広く作る。川の中に支柱を立てて支える。
川の中の支柱は念入りに強化するように言われる。
私は岩をイメージして支柱作りに力を入れた。
川の向こう側に着くと、先代の王弟公爵だったフルベルト・アンサーレッツ辺境伯がにこやかな顔をして待っていた。
私は跪いて挨拶をすると「聖女様、同じ辺境伯だからこれからは普通に接してください」とお願いされた。
そんなお願いされても、畏れ多くて、気を緩めると、陛下に対応するのと同じになってしまう。
アンサーレッツ辺境伯は苦笑しながら、私に感謝を伝えてくれた。
「聖女様のお陰で防壁作りの完成が早まって、費用と時間を抑えることができて、本当に感謝しているよ」
「私は、出来ることをしているだけなので」
「きっと、王家もヴェルトラム婦人への報奨に頭を抱えていると思うよ」
「いえ、本当に、出来ることをしているだけなので・・・」
アンサーレッツ辺境伯は笑って、私が使う土魔法を見て、気を失うのを見て、目を見張って、本当に大丈夫なのか心配して帰っていったと翌日、護衛騎士が教えてくれた。
アンサーレッツ辺境伯の側近の方の屋敷で食事とお風呂のお世話になりながら、アンサーレッツ領の防壁は完成した。
末弟殿下のオールベルト辺境伯も私が来るのを待っていてくれた。
グリゴリア・オールベルト様とは割りと気安い仲。
「グリゴリア様。お久しぶりでございます」
「結婚式以来だね」
「あの時は色々ありがとうございました。フルール様はお元気ですか?」
「ああ。元気にしているよ。息子のルーズベルトも大きくなったよ。二人共来たがったんだけどね、フルールが妊娠中でね」
「それはおめでとうございます」
「ありがとう」
「治癒魔法が必要になりますね」
「聖女様を一人派遣していただくことになっているから心配いらないよ」
「そうですか!良かったです。もし、必要な時はいつでも言ってくださいね」
「もしもの時には頼むよ」
「はい」
奥様のフルール様は一人目の妊娠中、ずっと治癒魔法を掛けに通っていた。
王族の妻なのだけど、力の弱い聖女を選ばれた。
グリゴリア様とフルール様は大恋愛の末の婚姻で、当時は色々言われていた。
フルール様の力が弱かったため、妊娠中は定期的に通って治癒魔法と回復魔法を掛けに行っていた。
行くと、食事やお茶で歓待してくださった。
ルーズベルト様が少し体の弱い子だったのもあって、王族の中で一番付き合いが長く、深かった。
「ランベルトと結婚するって聞いた時は、落ち着く所に落ち着いたと思ったよ」
「?」
グリゴリア様は笑って、片目を瞑った。
「これは秘密なんだけど、ランベルトは聖女ルリィの大ファンだったからね」
「えっ?」
「あっ、やっぱり聞いていないんだ」
「はい。知りませんでした」
グリゴリア様が教えてくれたのは、ランベルトは第一王子殿下との婚約が気に入らなくて、陛下に何度も第一王子の不誠実な行いを報告していたそうだ。
その時に、ランベルトは陛下から、ルリィから婚約破棄したいとか解消したいと申し出があったら、それを認めて、ランベルトが私への婚約の申し込みをする権利を与えると約束したそうだ。
「そんな素振りは一つもありませんでした。逃げ道は塞がれていたんですけど・・・」
「可愛い男の見栄なんだろうね。どうか、仲良くしてやってね」
私は耳を赤くして「はい。旦那様ですから」と答えた。
もしかすると分類はハイファンタジーになるのでしょうか?