04 ルリィは温泉が好き。そして夢の世界に物思う。
すいません。予約設定を間違っていました。
一週間遅れになってしまいました。
本来ならもう一話UPしたいところなのですが、話が進まず停滞していて、UPできません。
ランベルトに伴って視察について回る。
メキシアの村民達は「今日からあなた達はジャイカル国民です」といきなり言われて怯え、戸惑っている。
亡くなった村民が多くて、その亡くなった人の畑の面倒が見きれなくて雑草が伸び放題になっている。
せっかくの収穫が減ってしまう。
私は村民に最高の治癒魔法と回復魔法をかけて、持ち主のいなくなった畑をよろしくと頼んだ。
喜んで引き受けてもらえてホッとした。
ランベルト達の方は視察は終わっていたようで、私が戻るのを待っていてくれた。
ナルニア邸に着くと、この屋敷にも温泉があると教えてもらったので、私はいそいそと入りに行った。
温泉はヴェルトラムの屋敷みたいに大きくはないけれど、手足は十分に伸ばすことができそうだ。
メイドが私の世話をしようとしたので、必要ないと断って、温泉に浸かって夢の世界を思い出した。
戦争の混乱の中、治療しては気を失って、目が覚めたらまた治療する。それを繰り返していたある日、腕が変な方向に曲がっている騎士の下へ行った。
痛みだけでも早くとってあげたくて、治癒魔法を掛けている時「あぶないっ!!」と私の護衛騎士が声を上げ、振り向くと私の背後から飛ばされた人がぶつかってきた。
この時は護衛騎士が間に合わず、私にまともにぶつかってきて、私は飛ばされてきた騎士の下敷きになった。
私はその時、多分、命に危険があったのだろうと思う。
無意識で自分に治癒魔法をかけて、魔力が尽きた後、衝撃で三日間目を覚まさなかった。
その夢は、この世界とは似ても似つかないところで、見たこともない衣装を着た人の夢を見た。
まるで、自分が体験したように感じる夢で、魔法がなくて、その代わりに科学と言われるものが進んだ世界だった。
私はこの夢の中では子供がする勉強とは思えないほど高度な勉強をして、成人しても勉強していた。
夢の世界では二十歳が成人で、それでもまだ勉強をしていて、とても安全な国だった。勉強が終わると、就職活動をして、働くことになった。
働くことだけに縛られるのではなくて、仕事が終われば仲のいい人達と遊びに行くことも多々あった。
夢の中で体験したことは現実の私の知識となった。
ただ、残念なことに、連続した夢を見るのではなくて、断続的に色々なシーンを見る。
子供、少女、母、祖母、曾祖母、色々な夢を見た。
この夢は、魔法を使い果たした時にしか見れない。
ただ眠っただけでは見られない。
見た夢はルリィの記憶に残り、少しずつ蓄積していく。
少しずつ蓄積されていく記憶も、前後が解らなくて、理解できないことも多かった。
最近は魔力を使い果たして意識を失うことが殆どないので、夢を見られずにいる。
夢が見たくて、魔力を使い果たしたくてウズウズしてしまう。
ぽたりと天井から落ちてきた雫が肩に当たり、夢の世界を思い出していた私は現実に戻された。
この世界であの夢の世界で見たことを、実現してみたい。
ふぅ・・・もう出なくっちゃ。のぼせちゃう。
私は温泉に浸かって気持ち良かった気分を、書類を見ていたランベルトとスレイアの前で、そのまま口にした。
「ねぇ、ランベルト、スレイア。この地に温泉宿を作ったらどうかしら?」
「温泉宿ですか?」
「そう、この中で温泉が嫌いな人いる?」
使用人達にも聞いてみたところ、嫌いな人は居なかった。
「手足が伸ばせるお風呂っていうだけでも、価値があると思うの。それが温泉!!貴族に浸透するのには時間が掛かるかもしれないけど、この辺境領が落ち着いたら陛下も視察に来られるでしょう?その時、温泉に入っていただいたら、きっと気に入ってくださると思うの。そうしたら貴族の方に噂が回るのなんてすぐでしょう?貴族が泊まれる贅を尽くした宿と、商人達でも泊まれる宿の両方を作るといいと思うのよ」
「なるほど・・・」
ランベルトがスレイアに向かって頷く。
「貴族が使ってくれるお金って大きいと思うの」
「スレイア、その方向で立案してみてくれ」
「解りました」
スレイアも、一度はヴェルトラム邸へ行くらしく、私達と一緒に出発した。
ヴェルトラム邸に着くまでには二日ほどかかる。
「中間辺りの場所に宿を作りましょう。野営しなくていいように」
「そうだな。ヴェルトラム邸に行くのに野営では疲れるしな。ルリィがいれば野営だろうが宿だろが、代わりはないけどな」
「屋根があるというのは、気持ちの満足度が違います」
「まぁ、そうだな」
ここにいる皆が苦笑した。
「それと、ヴェルトラムについたら領内の移動は、馬車は必要無いと思います。私も馬に乗りなれてますし。今回みたいに荷物がある時は仕方がないですけど」
「そうだな、ルリィがいいなら、その方が早いしな。しかし、道の整備はいつになるだろうなぁーー」
「焦りは禁物ですよ」
「そうだな」
翌朝、目覚めと共に回復魔法を掛ける。
野営だとやはり疲れが残ってしまうから。
翌日の昼過ぎに、ベルトラム邸へと到着した。
全員に治癒魔法を掛けるだけ掛けたら、私はさっさと温泉へと浸かりに行った。
温泉は男女別にしたほうがいいのかしら?
私の後に男性陣もぞろぞろと温泉に入りに行き、皆さっぱりした顔で夕食の席に着いた。
今回は王都から料理人が先に来ていたので、満足の行く夕食が呈された。
その日の夜は夫婦の寝室が準備されていて、久しぶりにランベルトに可愛がられた。
朝食が済むとレイとロアに私の執務室へと案内される。
レイはこの家の執事で、ロアはレイの妻で、私専用の執事になってくれる。
レイとロアはこの屋敷で一番年上らしい。それでもまだ三十歳を超えたところかな?
レイもロアも貴族なので、長い名前があるのだが、呼びやすいようにとレイとロアと呼ぶように言われた。
ドアを開けると、執務机の上には書類が山になっていた。
「もしかして私、あれ全部に目を通さないといけないのかしら?」
私はドアを締めて見なかったことにしたかったけれど、逃げ出せば増えていくだけだと諦めて、書類に目を通し始めた。
「ロア、私、多分普通の女主人の仕事はできないと思うの。丸投げする気はないんだけど、細かいことはロアに一任してもいいかしら?報告書だけはあげてもらいたいんだけど」
「はい。旦那様からも、奥様には教会関係もあるので、細々したことは私が対処するようにと言われております」
「そう、良かった。お願いするわ」
真面目に書類に目を通して、一息つくために、お茶をランベルトの執務室へいただきに行くことにした。
レイにお茶を入れてもらって、休憩だと私は思っていたのに、ランベルトは「丁度良かった」と言って書類を私にむけ、話を始める。
仕方なく頭を仕事に切り替えて渡された書類に目を落とすと、建て替えの略式図面と、大凡の工事日数だった。
「ランベルト。私、屋敷を建て替えても、温泉は欲しいのだけど・・・」
ランベルトは「よっぽど気に入ったんだな」と笑う。
「ええ。ランベルトが思っている以上に気に入っているわ。一日中いつでも入れるんですもの」
「解った。その方向で話をしてみる」
「ありがとう」
私は満足して「今から温泉に入ってくるわ」と言って仕事を放り出した。
ゆったり体の力を抜いて湯に体を任せる。
「気持ちいい・・・」
ガラリと扉が開いた気がして視線をやると、何も身に纏っていないランベルトが居た。
「ラ、ランベルト・・・私が入っているの知ってるよね?」
なんで入ってくるんだという責める視線を送りながら、自分の体を小さくしてランベルトに見られないようにする。
ベッドの上でも恥ずかしいけど、陽の光の中で見られるのはもっと恥ずかしい!!
「入っているのを知っているから、来たんじゃないか」
「仕事を放り出してきたんですか?」
「仕事を放り出した妻に言われたくないな」
ニタリと笑うランベルトが、湯の中に入ってきて、私を膝に乗せた。
「ランベルト!!」
非難を込めて名を呼ぶが、ランベルトは背後から私の首筋に唇を落とした。
ランベルトの掌は私の胸を彷徨い、ランベルトの膝で私の膝を開かされた。
すっかりのぼせてしまった私にバルローブを着せ、ベッドに放り込んで、小さなキスを落として、メイドに水を飲ますように指示して、ランベルトは仕事へと戻っていった。
王都から運び込んだものが片付き、生活が落ち着くまでに一ヶ月ほど掛かった。
村民達が治癒魔法のお礼だと言って野放図だった庭の草抜きを手伝ってくれた。
庭師が感激していた。うん。解るよ。
草が人の背丈より高い程成長していたものね。
持ち主がいない畑の世話だけでも忙しいのに、気にかけてもらえたことがとても嬉しかった。
私は草抜きのお礼に回復魔法を掛けた。
その後、庭師が季節の花を植えてくれているので、そのうち目を楽しませてくれるだろうと思っている。
そうそう、奥様方は私達が屋敷に到着してから十四日も後に到着した。
死屍累々の状態で、痛々しかったが、仕事は待ってくれなくて、私は奥様方に治癒魔法と回復魔法を掛けて無理やり立て直してもらった。
皆さん随分お痩せになっていた・・・。
来ている服がぶかぶかになっている。
私は全く変わりない。
戦争の時ですらほとんど痩せなかったものね、これくらいの移動では痩せたりしない・・・。
まぁ、私、すっごく食べるものね・・・。
私達の屋敷でやっと落ち着いたと思ったら、今度は自分たちの屋敷に行かなくてはならないと知り、奥様方はこの世の終わりのような顔をしていた。
アントゥール夫人など、自分の住む屋敷に到着したにも関わらず、ヴェルトラム邸まで連れてこられて、体調がやっと戻った途端に引き返さなければならないのだから、誰よりも絶望感は強いだろう。
今度は女性だけ別に馬車を出す事ができないので、強行軍になると言われ「私はここに残ります」と半分泣きながら私に引っ付いて離れなかった。
自邸についても聖女は居ないのだから、直ぐに体調の立て直しはできないのだから仕方ないだろう。
女性陣の願いは聞き入れてもらえず、強制的に馬車に乗せられ、連れて行かれてしまった。
ヴェルトラム邸に着くまでに女性同士の交流をする予定だったのだけど、当初の予定とは大分変わってしまっていた。
あまり交流は持てなかったけれど、聖女としての価値は認めてもらえたので、それで良しとするしかない。
「道の整備も急務ね・・・」
「そうだな。でもまぁ、それは後回しだ。兎にも角にも防壁が最優先だ」
「そんなにメキシアが脅威なのですか?」
「間違いなくまた攻め入ってくると思う。力も失っているのに、領土欲と聖人、聖女が欲しくて仕方がないんだ。まぁ、無理しすぎて国が潰れる方が早いかもしれないけどね・・・」
「国民にとってはどっちもありがたくない話ですね」
ランベルトは北に視線をやって何かを思っていた。
「工事ばかりで入ってくるものが少ないのも辛いですね」
「そうだな」
戦争で受けた被害は大きく、メキシアに重税を課されていたために、村民はやせ細っていた。そんな彼らにジャイカル国の一般的な税でも課すことは難しかった。その為、今年は村民に税金を半額免除することに決めた。
それでも、メキシアからの賠償金があるからなんとかやっていけるのだけれど。
窓の外には実った小麦が刈り取られないまま、そこかしこに残っている。
村民に回復魔法を掛けまくって頑張ってもらっているけど、痩せた村民達に無理は言えなかった。
それと、来年の植え付けをどうするかという大きな問題があった。
私の両親達に早めに来てもらうようにお願いした。
村の畑は、村の人達にお願いすることにしてもらった。
両親達は着いて息つく暇もなく、畑の刈り入れを慌ただしくしてくれている。
両親と、弟の結婚相手とその家族、妹と、妹と結婚の約束をしたという男の子の家族が一緒に移動してきた。
妹に婚約の約束をしたのか聞くと「向こうが勝手に言ってるだけ」と興味なさげに答え、男の子とその家族に聞くと「畑を貰えるということなので結婚ができなくても問題ありません」と答えた。
両親達が居た村とその周辺の村の次男以下の畑を貰えない方達に、畑を任せたいので来て欲しいとお願いしている。
五世帯程、両親達が来てくれた直後に移動してきてくれている。
農家ですら、それでも足りなくて、陛下に国内に畑を貰えず、困っている人や村で職がなくあぶれている村民に来て欲しいとのお触れも出してもらえた。
足りないのは農家だけではないのだ。
ランベルトは予定通りに、側近の屋敷へと視察に行く準備を始めた。
治癒魔法と回復魔法を掛けるため、私も付いて行くことになっている。
南西のユーラシア・コルウェンから順に時計回りに回っていくことに決めた。
馬車ではなく、馬に乗って駆けていく。
癒しの大盤振る舞いをしての強行軍。
そろそろ魔力を使い果たしたい。
でないと、魔力も伸びないし、夢も見られない。
夢を見られないのは私にとって、知識の蓄えだったので切実だった。
ユーラシアは残念なことに婚約者が第一王子と関係を持った相手の中の一人で、陛下に婚約解消をするように言われて、結婚できなかった可哀想な人だ。
これは内緒だけど、ユーラシアの婚約者は五回は処女膜再生の治療に来た人なので、婚約解消を陛下の力で出来たことは良かったね、としか言いようがない。
ユーラシアの為人は八人の中で一番気が利いて、優しい人。
苛烈さなどどこにもないように見えるのに、戦いになると先陣を切って走り込んでいくタイプらしい。
先の戦争で死にかけていたのを何度か治療した覚えがあった。
「陛下はユーラシア様に新しい結婚相手を探さなかったのですか?」
素朴な疑問として、ランベルトに聞いてみた。
「いい相手が居ないらしい。下の世代にならないと無理なんじゃないかな?」
ああ、たしかに同世代ではまともな女性って残っていないよねーー。
一日でも早くいい人が見つかるように神に祈っておくね。
この国では神はあまり崇められていないけど。
次に西のシルズィー・バリスト。
彼が独身の理由は少し純愛。
年上の女性を好きになったのだけれど、その人には既に婚約者が居て、諦めるしか無かったのだけれど、好きになった女性が婚姻先でどうやら白い結婚を強いられているようで、三年の白い結婚で婚姻解消するらしい。
婚姻解消が出来たら一緒になる約束をしていると聞いている。
相手の女性ララベル夫人は「瑕疵のある女などと一緒になるものではありません」と何度も断られたものの、シルズィーは諦めず、彼女に「Yes」と言わせたらしい。
後少しで婚姻解消になるので、婚姻解消になったその足でシルズィーの下に来ると約束しているそうだ。
シルズィーはその日を首を長くして待っていると頬を赤らめて話してくれた。
本当に申し訳ありません。