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幸せな物語の終わらせ方。  作者: 本田レン
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すかいぶるー 02

追加しました。誤字脱字、稚拙な文章お許しください。

教室に帰った後の燈心の行動は素早かった。

教室に入るとすぐに、


「おーいみんな、どうやら蒼葉クンの噂は間違ってたらしいぞ。保護観察処分は事実だが、だいぶ前の話だそうだ。ヨカッタナー。だからみんなで仲良くしましょう。と言うことでこの話題は解散!」


燈心がそう言うとクラスの不安は薄まったように見えた。燈心がそう言うならと。

燈心が明るく、誠実な人だということはこの一ヶ月でも大いに感じていた。彼だからこそ、この発言は効いたのだろう。

日が経つにつれて、クラスの僕に対する雰囲気は少しずつ前に戻っていった。

一週間も経つと僕の噂なんて無かったかのように、クラスは回るようになった。

と言っても、僕に積極的に話しかけてくる人はまだ居ない。必要最低限のコミニケーションのみだ。

そんな僕を見兼ねてか、燈心はよく昼休みに話しかけてくれた。

とことん優しい人なんだなと思う。彼はどんな人にでも、ヒーローみたいに手を貸すのだろう。

徐々に変わるクラスの雰囲気に燈心は安堵しているように見えた。


五月の半ばに入ると、新学期ムードは吹き飛び、増してく気温と湿気に梅雨の接近を感じていた。

今クラスでは、二週間後に行われる体育祭に向けて準備をしている最中だ。

体育祭は人によって印象が大きく変わるイベントだろう。

例えば、いくつかの授業は体育に置き換わり練習に充てられる訳だが、これは運動が苦手な者にとっては好ましくない状況なのだろう。

逆に運動が得意な者は、自分が活躍できるイベントになる訳で、その熱の入り方は尋常じゃない。

学校行事というものは、大体この熱量の差でクラスに軋轢が生まれるのだ。

僕は運動は得意な方では無いのだが、悪目立ちしないように最低限の熱量は持って参加する事にした。


今日の体育祭の練習は昼過ぎの五・六時間目であり、暑さによって過酷を極めていた。

汗は吹き出し、体内に水分と呼ばれるものはほとんど残っていない。

そんな灼熱の中、クラス対抗ムカデ競争を練習するという苦行を行なっていいる。

多少の地域差はあると思うが、ムカデ競争のセオリーと言われるものは、運動神経の良いものを前と後ろに置き、その間に運動が苦手なものを置くというものである。

先頭はサッカー部の神田君、後ろは燈心だ。

もちろん僕は真ん中の挟まれる人間であり、もうほとんど上に上がらない足で、砂を巻き上げながら前に進んでいた。


暑い、暑すぎる・・・。


遠のく意識が足を鈍らせる。数秒後、僕たちのムカデは派手に横転した。

運動部の人たちはすぐに立ち上がる姿勢を見せピンピンしているが、僕を含めた運動ができない者たちは疲労困憊だ。

そんな僕たちを見兼ねたのだろう。燈心が声を掛け、少し休憩となった。

早急な水の摂取を体が命令している。水を取らねばムカデには成れないのだ。


遥高校の建物は大きく分けて三つ存在している。一つは普段授業を行なっている新校舎。二つは体育館。そして三つは、今は使っていない旧校舎である。

この三つの建物は校庭を中心にコの字型に立っている。

外の水道は二ヶ所に設置していて、一つは校庭と校舎の間に設置してあるもの、もう一つは旧校舎の前に設置してある。

距離で言えば、新校舎の水道の方が近かったが、混んでいたようなので旧校舎の方に向かった。

着いた途端に蛇口を捻る。生暖かい水が出てくるが、そんな事は関係ない。僕は水を勢いよく飲み込んでいく。


水ってこんな美味しかったかな。


ただの水道水から味を感じる。これが身に沁みるというやつか。

思えばこんなに汗をかいて運動したのは久しぶりだ。

小学生の時はよく外で遊んでいたが、あの事件以来色々と消極的になっている。


自分が前を向いて歩いてはいけない。

忘れてはいけない。


僕があの事件を忘れたら、一体何が残るのだろうか。

こんな罪悪感とも言えない自己満足の反省に何の意味があるのだろうか。

そしてそんな中途半端だから、時々薄れて今を楽しもうとする、そんな自分がとても嫌になる。


たかが水を飲んで感動して、それを悔いる。本当に何がしたいんだ。

残された僕は何をすればいいんだよ。


先ほど飲んだ水が、すっかり体に馴染んでいた。

校庭の真ん中の方でクラスで集合がかかっているようだ。

すぐに行こう。待たせるわけにはいかない。

そうしてこの場を離れようとしたとき、視界の端で何かが動いた。

もう使われていない旧校舎、その二階の窓に人影のような物が見えた。

気になったが、その場に足は止めず校庭に向かった。





「旧校舎は彼女の城だからな。蒼葉が見たのは彼女だろう。」


「彼女・・・?」


「ほら前にも言っただろ。黒市黒華のことだよ。」


昼休み、わざわざ移動してきた僕の前の席で、何個ものパンを頬張る燈心は答える。

燈心は「life mate」の食事制限をあまり気にしないタイプなのだろうか。


「黒市黒華はこの学校では有名人なんだ。容姿端麗、成績優秀、そして亜科。まあ最後の項目だけで有名な理由にはお釣りがくるだろうけどな。」


「彼女がどんな人かは分かったけど、城というのはどういう事なの?」


「使われなくなった旧校舎に、一年前から勝手に住み着いたんだ。旧校舎は彼女が生活を送る家みたいな場所なのさ。」


そんな怠惰な学生が夢見た寝坊対策みたいな無茶苦茶ありなのだろうか。

なぜそんな横暴を学校が認めたのだろうか。

僕が抱く疑問を見抜いたように、燈心は話を続ける。


「学校側も放置してるんだよ。なにせ亜科の生徒なんて学校始まって以来だからな。何十万人に一人の確率。そんな生徒を受け持った学校なんて数える程だろう。」


「それが放置する理由になるのか。」


「学校側も面倒は起こされたくないんだろう。それこそ亜科に関係するものとかな。それを考慮した結果、旧校舎の犠牲も止む無しという訳さ。」


そんなに気になるならと、燈心はプリントの束を渡してきた。


「実は黒市黒華の在籍はウチのクラスなんだよ。席は自分で持っていったから無いけどな。悪いけどプリント届けてやってくれ。」


「そういう事は燈心みたいな人の方が良いんじゃないか。向こうも話しやすいだろうし。」


「いや俺はダメだった。前に届けに行ったとき酷く避けられてよ。確かに可愛いから、ジロジロ見過ぎたっていうのはあるかもしれないけどな。」


「それは誰でも少しは避けると思うよ。」


「そして帰りに黒市黒華がなんて俺に言ったと思う?『君は、子供と大人を上手く使い分けていて嫌いだわ。』だってよ。何を言ってるかはよく分かんないけどよ、普通に傷ついたわー。」


嫌いという部分を除いて、少し彼女の発言が共感できてしまうことは燈心に失礼だろうか。


「まあとにかく届けてやってくれよ。みんな嫌がってるけど、俺は黒市黒華の体育祭の参加とか諸々諦めてないから。そういうこともアイツに伝えてやってくれ。」


図書館によくいる。そう言われ、押し付けられてしまった。

人からの頼まれごとを放棄出来るほど心は強く無いので、放課後に僕は旧校舎に向かった。


よく考えたら、図書館と言われて場所がわかる訳が無い。転校生、ましては旧校舎だ。

この旧校舎はいかにもという木造建築で外からの見栄えは綺麗では無い。

とにかくこの前見た二階にいこう。そう考えながら新校舎との渡り廊下を進む。

立ち入り禁止のコーンを跨ぎ、埃まみれのドアノブを握る。

僕は彼女の城に踏み込んだ。


中は意外と綺麗で、想像していたものとは違っていた。

埃一つ無いとまでは行かないが、物が散乱したり、何かが壊れているようには感じない。

床は新校舎のフローリングとは違った木製で、使われてきた年季を感じる。

一応一階を見て回るが、図書室らしきものも、人の気配も無い。

諦めて、二階への階段を上る。踏み込むたび板が軋む音が聞こえる。

前に見えた場所は端の教室だったような気がする。

二階に上がり、その教室へ向かう。

木製の引き戸に手をかける。立て付けが悪くなかなか開かない。

思いっきり力を入れると、今度は勢いよく大きな音を立てて開いた。


中は少し薄暗く視界は悪いが、積み上がった本があちこちに見え、図書室であることを確信する。

そして見つけた。

薄く汚れた机と椅子が散乱した中に、一際綺麗なセットが一つ。

窓からの微かな光が照らす人間がいた。

机を背にして、長い黒髪を垂らす少女がいた。

目を瞑り、本を枕にしている彼女がいた。

白い肌、青い唇をもつ黒市黒華がいた。





























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