すかいぶるー 01
初執筆、初投稿になります。
稚拙な文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
人は幸せを求めて生きている。
幸せな未来と不幸せな未来があったら、幸せな方を選ぶに決まってる。
不幸せな未来は当然のように切り捨てられる。
僕の罪はきっと不幸せな未来を選ぼうとしたことなんだろう。
僕と彼女が選んだ未来は、多くの人にとって不幸せな未来だった。
「君が死んで回る世界なんて間違ってる。」
それが僕が犯した間違い。一生消えない傷。
でも許せなかった。大人になれなかった。
二人なら乗り越えられると本気で思ってしまったんだ。
青くて痛い僕の罪。
・・・・・
まもなく高尾山口駅、まもなく高尾山口駅、、、
車掌の車内アナウンスで目を開ける。
まだ条件反射で起きれる程、高校には通っていない。
今日もまた少し前から始まった高校二年生の日常を過ごすだけ、、、とはいかなくなってしまった。
遥高校に四月に転校して一ヶ月、ついに僕についての噂が広まった。
近所の高校だと色々苦しいだろうと、わざわざ両親が遠方の高校を選んでくれたのだが、それも意味がなかったようだ。
自分としてはどちらでも良かったのだが、両親の思いを汲むと少しやるせない。
この罪からは逃げられない。
だから僕は苦しまなければならない。
遥高校前の坂はとても急勾配で有名だ。百メートルに満たない距離なのだが三分弱はかかる。
気分が沈む権利なんてあるのかわからないが、少し足取りが重い。
「ほら、あの人が例の・・・。」
幾分か前に舗装されたコンクリート、まだ新しい靴、葉のついていない小枝。
一緒に坂を登る生徒から視線を感じ僕は下を向き歩く。
下を向いて歩いていると人は早く進むのだろうか。気がつくと僕は二の三と書かれた教室の前に立っていた。
少し間を置いて教室に入ると、待っていたのは予想していた光景そのままだった。
疑い、嫌悪、軽蔑、恐怖、、、。
ついこの前まで仲良くしていた、知り合いのような人物からの挨拶なども無い。
席が一番後ろ端でよかった。
僕はなるべく波を立てないように、静かに座る。
座ってからも周りの注目は僕のままだ。
こんな状況、慣れていたはずなのに。
寂しい、悲しい気持ちが湧くことに驚く。一ヶ月のブランクはだいぶ効いたみたいだ。
前の学校では空気のように扱われていたから、反応があるだけ違うか。
教室全体の様子見タイムは続いたが、チャイムが終わりを告げた。
先生が入室し生徒は着席する、いつもの日常。変化したのは僕への空気。
当然、その些細な変化に大人は気づかない。
一時間目の古典、そこからの授業もいつも通りだ。グループワーク的なものが無いのはありがたい。
授業が始まると、つい先まであった視線も弱まった。
窓の外に意識を向ける。
見える景色は、白い校庭で授業を受ける生徒、坂下に広がる街並み、遠く離れた遊園地。
この景色の中に何万という人が生きていて、幸せを享受している。
彼女を犠牲にして。
自問自答を繰り返し、考えに耽るのは暇な授業の特権だろう。
僕は静かに目を瞑った。
昼休みになっても僕への注視がなくなることはなかった。
クラスの憩いの時間を潰すのは申し訳ない。
席を立ち教室を出ようとした時、一人の男子が静観を破った。
「よう、藤井蒼葉クン。調子はどうだい?」
なんて答えたらいいんだろう。何を答えても不正解な気がする。
言葉が声にならない。
「まあ、ここじゃ話しにくいか・・・。一緒に外出てもいいか?」
彼の問いに僕は頷く。教室から二人の影が消えた。
彼は時折僕に話しかけながら、先導して歩いていく。
話しかけてきた彼の名前は赤羽燈心。明るい性格でクラスからの人望も厚い。
転校直後の僕にも気軽に話しかけてくれた、いわゆる気の良い人というやつだ。
着いた先は普段は使わない移動教室だった。
「ここ人がほとんど居ないし、話しやすいかなって思ってよ。」
「そうなんだ・・・。」
「そーなのよ。」
会話はスムーズには続かない。探り合いをしているつもりは無いのに。
なぜ彼は僕に話しかけてきたのだろうか。
しばらく中身の無い会話が続いた後、彼は伸びをしながら
「聞きにくいんだけどよ、やっぱ聞かなきゃ始まんないわ。噂の保護観察処分て本当か・・・?」
やっぱりこのことについてか。僕の回答はいつも決まってる。
「本当だよ。正確に言うと過去形だけど。噂は何も間違って無い。」
彼は驚きと困惑の表情を見せる。
「じゃあ「亜科」に関係してるていう話もか。」
「それも本当だよ。僕自身が亜科では無いけど、亜科を手助けしたんだ。」
僕は手の甲の数字を表示する。八十年と十ヶ月十五日、六時間三十八分が緑に表示されている。
「Laplace Mate」によって算出された僕の残りの寿命、その日数。
この罪について聞かれたら正直に答える。それが僕が決めた償い方だ。
でも彼からは軽蔑されるだろう。亜科を助けることは重罪なのだから。
しかし、彼の反応は思っていたものと違っていた。
「まじかー良かった。藤井は亜科じゃないのな。保護観察処分も今じゃないと。じゃあ無問題ってやつだ。」
僕は驚きを隠せない。と言うより不思議でしょうがない。
「赤羽君は僕のことを怖いと思ったり軽蔑したりしないのか。」
「怖い?軽蔑?そんなの全然ないぞ。まあ、他のやつは多少、というかかなりあると思うけどよ。俺バカだからそこら辺気にしてないんだわ。」
そんな理由で・・・。なかなか彼の考えがわからない。
「そんな理由なのさ。ちなみに藤井に話しかけたのは、クラスの不安を払拭するために奔放する姿を見た女子からの好感度を上げるためだ!!!」
「え・・・。」
「だからそんなこと気にすんなよ。俺は俺のために藤井に話しかけた。ただそれだけさ。ほら・・・昼飯まだ食ってなかったろ。一緒に食べようぜ。」
赤羽君は本当に優しい人なんだろうなと思う。
彼はポッケから購買のパンを取り出し、机に並べながら隣に座るよう目配せしてくる。
僕は指示通り隣に座る。
「俺のオススメは月曜限定カレーパンだ。次にオススメなのが栗パンで、解析パンも美味いぞ。あとこれと・・・。」
机には次々にパンが並べられていく。どれだけ出てくるんだ。
「特別に藤井に一つ進呈しよう!どれが良い?」
「じゃあこの梅あんこパンで。」
「梅あんこパン!?良いセンスしてるじゃん。」
パンを選ぶことにセンスなんてあるのだろうか。逆にセンスの無いパンを選んでいたら、そのパンを買ってきた赤羽君もセンスが無いことにはならないのだろうか。
そんなことを考えていたら、彼はいつの間にか机に並んでいた大量のパンを、半分以上平らげていた。
「赤羽君は食べるの凄い早いね。」
「おう、まあな。あと、その赤羽君て言うのやめてくれよ。距離感じるからさ。燈心でいいよ。」
「えっと・・・燈心、良かったら僕も蒼葉と呼んでくれないかな。」
「オーケー蒼葉。了解したぜ。」
燈心はパンを齧りながら笑ってくる。人に笑顔を向けられたのは久しぶりかもしれない。
僕たちはしばらくパンを貪る。
この梅あんこパン、しょっぱさと甘さが絶妙で美味しい。
僕の美味しそうな表情を見たのか、燈心も喜んでいそうだった。僕はなんだかこのしょっぱさで泣いてしまいそうだった。
食べ終わると燈心が口を開いた。
「嫌だったら別にいいんだけどよ、なんで蒼葉は亜科を手助けして生きてるんだ?」
「それは・・・。」
亜科を助けて生きている者は誰一人いない。それがこの社会の常識だ。
僕らの社会は生活支援AI「LaplaceMate」の登場により寿命が遥に向上した。
食事や運動、仕事のストレスまで管理し、的確な改善策を常に提供してくれる。
僕たちの寿命は一秒単位まで計算され、手の甲に任意に緑色で表示できるようになった。
そんな理想的社会の実現の中、手の甲の数字が赤で表示されるバグとも呼ばれる存在が登場した。
彼らの表示された数字は少ない年数の場合が多く、寿命とは考えられないものだった。
原因はわからなかったが、当初は特段気にされることはなかった。色の変化などただのシステム上のバグに過ぎないそう考えられていた。
しかし事件は起こる。赤の表示の人が0になったとき死んだのだ。ただ死んだだけでは無い。
大勢の人を巻き込んで死んだのだ。それは事故、災害、テロ・・・。
被害の形は様々だが、赤の表示の者のカウントがゼロになると大きな死亡事件を起こす。そんな実態が明らかになっていった。
それからの社会の対応は早かった。赤に表示される者をゼロになる三日前に処刑する法律が施行されたのだ。
処刑したところで事件の数に変化は無いのではないかといった反対意見も見られたが、不安が爆発した世間の後押しもあり迅速に可決された。
以降、世間からは赤に表示される者を忌避する意を込めて、普通とは違う種、「亜科」と呼ばれるようになっていった。
そして現在、死亡事件発生件数の減少からその妥当性は増してきている。
亜科を助けるとなぜ死ぬのか。
それは最後は亜科と一緒に巻き込まれて死ぬ結末しか無いからだ。
この結末に例外は無い。僕を除いて。
「あまり詳しくは言えないんだ。けど僕はたまたま生き残って今ここにいる。」
理由はわからないが目の前で事件が起きてなお、僕は生き残ってしまった。
手助けした者は死んでしまう特性上、法律では抑止する罰則はあったものの、明確な定義はされていなかった。
僕が十歳の少年だったこと、検証すべき例外であること、起きた事件が比較的小規模だったこと。
この三点が考慮され、僕には五年間の保護観察処分が課されたのだ。
「まあ、言えないならしょうがないな。生きてるだけでラッキーて事にしておこう。」
ラッキーか。そんな風に思えたらどんなに楽だったか。
僕がまた暗い顔になっていたのだろう。
燈心は椅子を蹴飛ばすように立ち、僕に言う。
「クラスのやつら、別に悪いやつじゃ無いんだ。ただ蒼葉のこと怖がってるんだと思う。」
「当然だよ。亜科を助ける行為は亜科自身も傷つける酷い行為だから。」
「世間ではそうかもな。でも俺はそんなに悪いイメージないぞ。人は誰かを助けたくなるもんだろう。」
「今の燈心みたいに?」
「なんだいい返し出来るじゃん。心配して損したわ。」
燈心は少し照れて、それでいて少し寂しそうに笑った。
そのとき学校のチャイムが鳴った。長くなると思っていた一時間はとても早く過ぎ去った。
「とりあえず、教室に帰るか。そのとき言ってやるよ。噂は嘘だって。保護観察のことについては、蒼葉の風貌ならそこまで気にならないけど、亜科を助けたっていうのはちょっとな。」
「いやそれはやめて欲しい。僕はこの事に関して嘘をつきたくないんだ。」
「じゃあ間をとって保護観察は昔のことでしたってことだけ言おう。これなら嘘はついていないし、みんなの蒼葉に対する不安も薄まるだろ。」
噂なんて一つの答えが出れば他は消えていく。燈心はそう言った。
亜科の噂も時期消えていくだろうと。
燈心は移動教室から出ようとしたとき、僕の方に背中を向けて言った。
「言うか迷ったけど一応言っとくわ。この学校にも亜科のやつが一人いるんだよ。黒市黒華ていう女子がさ。」
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