強すぎたから自らを追放した戦士の話
ツィアのカフェ。名前はまだないその場所にお客さんが今日もやってきます。
「おう、やってるか!」
はつらつとした声、渋い口調の冒険者のような方が、今日はやってきてくれました。
「はい、大丈夫ですよ。ええっと、お酒はないですけど……なにか飲みますか?」
「レップルティーを一つ!」
「用意します」
どすっと座る冒険者さん。なんだかすごく強そうです。
さっそく私は果実を取り出し、果実『レップル』を用意します。
「レップルティー好きな人はなかなか多いそうです」
「はっはっは、あの酸味が効いた味を口にしたら誰だってそうなる!」
「わかりますよ、私も好きですから」
レモンとアップルを融合させた植物魔術師が作成した果実。それがレップルです。
最初にレモンのすっぱさがやってきたのちに、アップルのほんのりとした甘さがやってくるのが特徴的で、人気な果実として市場を賑わかせているそうです。
私のカフェでは果汁をたっぷり使ったものを用意しているので、その風味を直に楽しめるようになっています。
「はい、できましたよ」
「おう、ありがとな!」
出来上がったレップルティーをしっかり味わう冒険者さん。
ラージサイズなのもあって、かなりの量があります。
「お嬢ちゃん、勇者のパーティーから離脱したんだってな!」
「命が危なくて、そうなっちゃったんです。魔法を使うと身体に負担がかかって……」
「はっはっは、仲間思いな勇者じゃねえか。追放にも色んな理由があるんだなぁ!」
「……そうなんですか?」
なんだか気になる言い方をしてきたので、私も問いかけてみます。
すると、冒険者は昔懐かしむような表情になりました。
「俺も追放された身でね」
「えっ、追放されたのですか?」
「厳密にいやぁ、俺を追放してくれってパーティーに頼んだんだが」
「変わってます……」
「ははっ、そうかもしれんな」
グビっとレップルティーを飲む冒険者。
豪胆なその態度からは、追放という言葉はあまり似合いません。
「パーティーの経験を積ませてあげたかったのさ」
「経験を……?」
「ひとり強い人が魔物を倒す。それは悪いことではない。だが、経験を積まずに生き残ることができるかといわれりゃ、それは別問題になる」
「それって、場数を踏むみたいな」
「そうだな。戦場での経験は、自分がどう動いたかによって培われていく。それを育むことができない冒険者は死にゆくだけさ」
「……納得はできます」
自分の限界を理解する。
それはどんな状況でも重要なことなはずです。
私がこうして生きていられるのも、勇者様に無理をしないように言われてきたからというのも大きいです。
「俺が昔いたパーティーは前衛がふたり、後衛がふたりでな。もう片方の活躍を奪ってたってわけだ」
「強すぎて、ですか?」
「あぁそうだ。模擬戦では何回も切磋琢磨していたが、俺ともうひとりの間には差がありすぎてな。俺だけが強い状況に陥っていたのさ」
「だから、追放の道を選んだと……」
「そうさ。だから今の俺は流浪の冒険者。自由気ままに生きている」
どこか寂しそうな顔を浮かべる冒険者さん。
出会いもあれば、別れもある。それがパーティーというものです。
ですが、強かったから別れることになるというのはなんだかやるせない話です。
「その、お言葉になってしまうかもですが、連絡は」
「とってないな」
「それは駄目です、ちゃんとお話しないと!」
「なんでだ?」
「お世話になった相手に、お礼もそこまでのまま、さよならは寂しすぎます……!」
「だが、俺はいい迷惑だったかもしれないんだぞ?」
「でも、です!」
冒険者さんのパーティーがどんな間柄だったかは知りません。
ですが、こうして話していると感じられる人柄からは、悪い人のようには感じられませんでした。
だからこそ、会話するべきだと思うのです。
もっと、コミュニケーションをとるべきだと。
「……そう言われても、行先なんてわからないさ」
「それは……」
言葉をつなげようとした瞬間でした。
「新しくできたカフェ! 行ってみたかったんだよね!」
「おやっさん、元気してたらいいなぁ。レップルティー好きだったって……」
「あ、あれ。あそこにいるのって」
新しく来たお客さん。
その人たちと、冒険者さんの目が合います。
「お、お前たち、どうしてここに!?」
「おやっさん? おやっさんだ!」
「もう、勝手に出て行って心配したんだから!」
「怪我してないですよね、回復しましょうか?」
冒険者さんと、お客さんが驚きと歓喜の声をあげます。
これはきっと偶然。ですが、素敵な偶然です。これは、対話できるチャンスでもあります。
「もう一度、話し合ってみませんか? パーティーを離れる選択もありかもしれませんが、お互いの為になる行動もあるはずです」
「……こんな出会い方があるんなら、考えるきっかけにはなるな。レップルティーおかわり! こいつらの分も出してくれ! オレが金を出す!」
「毎度あり、です!」
冒険者さんの表情が明るくなりました。
きっと、後悔していたのかもしれません。行動を起こしたことを。ですが、きっともう大丈夫。
何故なら、話し合いができるから。
ちゃんとお互いを理解しあえれば、相互理解もできるはずです。
笑顔になる冒険者のおやっさん、そしてそのパーティー。
私は、その優しい笑顔をこれからも作っていきたいと思いました。




