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全話を完結にしたのですが、碧衣が現実世界へ戻ってきてからのお話を少しだけ書きたくて…。
「碧衣、準備できた?」
「うん!トリス、お待たせ!行こう?」
大学で再会を果たし、両想いになった碧衣とトリスは期間を置かずして同棲をはじめた。
喧嘩をすることもあるけれど、幸せに暮している。
そんな今日は祖母の家にトリスを紹介しに行くのだ。
「そういえば、今日は伯母さんもお祖母ちゃんの家に来るって言ってた。」
「碧衣がお世話になった伯母さんだよね?」
「うん!大学入ってからはバイトが忙しかったりで時々連絡するくらいだったから、私も会うのは久しぶりなの。」
「そっか。」
「お祖母ちゃん、伯母さん、ただいまー!」
「碧衣ちゃん、おかえりなさい。」
「碧衣、おかえり。って私の家ではないけど。」
「ふふ。ふたりとも、元気だった?」
「元気だったよ。それで碧衣ちゃん、そちらが?」
「うん。彼が今、お付き合いしている…」
「はじめまして。碧衣さんとお付き合いしていますトリスタン·ヴォッシュと言います。」
「綺麗な人ね…」
「うん。」
「ヴォッシュさんは碧衣のどんなところを好きになってくれたのかしら?」
伯母が直球で質問をする。
「ちょ、ちょっと伯母さん!?」
「最初は碧衣さんの何事に対しても一生懸命で直向きな姿に好意を持ちました。その後会話を重ねていくうちに、子どもっぽいところもあるかと思いきや大人びて私を引っ張ってくれる面も好きになりました。
あと、花を眺めている彼女が素敵でとても好きです。」
「ふふ。碧衣ちゃん、顔が真っ赤よ?」
「だ、だって…」
恥ずかしくて俯く碧衣。
「ヴォッシュさん、碧衣ちゃんから話は聞いているかもしれないけれど、この子は子どもの頃はとても苦労していたの。
私は碧衣ちゃんにもう苦労はしてほしくないの…。」
「はい、お祖母さん。」
「碧衣は幼い頃に私の愚弟のせいでとても辛い日々を過ごしたわ…私も碧衣にもう苦労はしてほしくないの。」
「はい、伯母さん。」
碧衣の祖母と伯母の言葉にトリスは返事をする。
「彼女を全力で幸せにすると約束します。」
トリスはふたりに頭を下げる。
「お祖母ちゃん、伯母さん、トリスタンさんと幸せになります。」
碧衣も頭を下げる。
「ふたりで幸せになるのよ?」
「「はい。」」
祖母は微笑み、これからの碧衣とトリスの幸せを願った。
* * *
祖母と伯母への挨拶を終えた碧衣には他の悩みが出てきた。
「ヴォッシュ教授、あの…」
「講義時間以外の質問は受付ませんと、初めの講義で言ったはずですが?」
「いえ、あの講義のことではなく…」
「では、何でしょうか?」
「その、教授は恋人とか…」
そう、トリスはモテるのだ。若いのに教授として教鞭をとっているしイケメンだから当然だろう。
「はあ…あなたは大学に何しに来ているんですか…?」
トリスから冷気が漏れる。「あれ?魔法?」と碧衣が勘違いするほどの冷気である。
「あっ…い、いえ…失礼しました…。」
「さて、碧衣?そこにいるんだろ?出ておいで?」
「ひゃ、ひゃい!って気がついていたの?」
「俺が碧衣の気配を間違えるわけないよ?」
出てきた碧衣を抱きしめる。
「ね、ねえトリス?こ、ここ廊下だよ!?誰かに見られたら…」
「俺は構わないけど?」
「いやいや、さっきの子には大学に何しにきているんですか?とか言ってたよね?」
「碧衣は特別だから。」
「ふぇっ!?」
「俺の可愛い碧衣…。」
トリスは碧衣の頬に口づける。
「ちょっ!」
「どうせ、気づいている学生もいるから、バレるのは時間の問題だと思うけど?」
「ふえっ!?」
「まあ大学近くに一緒に住んでるんだから、学生たちに見られてもおかしくないよ?」
「そ、そうだった!私、トリスと過ごせることで浮かれてた…」
「何それ?可愛いんだけど?全くさ、昔から君に惚れてるのに、更に惚れさせてどうするのさ?」
そう言うと彼は碧衣を強く抱きしめる。
「ずっと碧衣のことを愛しているよ。」
「トリス、ありがとう…。」
碧衣の「トリスがモテて困る」という悩みはトリスの甘やかしでどこかへ吹っ飛んでしまったのだった。
* * *
「碧衣、卒業おめでとう。」
「ふふ。ヴォッシュ教授、ありがとうございます。」
「また俺のこと教授って呼ぶ…。」
碧衣はたまにトリスのことを教授と呼んでからかっている。
「だって、私が学生のうちしか呼べないもの。」
「それもそうだね。さて、卒業式も終わったし帰ろうか?」
「うん。」
「今日はお祝いだから、レストランを予約したんだ。」
「ふえっ!?本当!?」
「ああ。だから、まずは着替えから!」
「き、着替え!?」
碧衣はトリスに連れられて高そうな服屋へ入っていく。
「ちょっ、トリス!?」
「大丈夫だよ?やあ、店長。この子宜しく!」
気さくに店長を呼ぶトリスに驚く碧衣。
「ヴォッシュ様、お久しぶりですね?
あら?そちらのお嬢様がヴォッシュ様の…?」
「ええ。だから、とびきり可愛く美しくしてくれ!」
「承知しました。」
「碧衣、とても綺麗だ…。」
「あ、ありがとう…」
一時間後、トリスの前に現れた碧衣は青系の膝丈のフォーマルなワンピースを着ていた。
「ヴォッシュ様の瞳のお色なんですよ?」と店長が碧衣に耳打ちする。
トリスはそんな店長に「ありがとう。」と言って碧衣の手を引いてお店を出た。
「前の世界で君のドレス姿を見れなかったことが心残りで、どうしても俺の瞳の色の物を着てほしかったんだ。
あの世界では、自分の瞳や髪の色の贈り物を恋人にするのが一般的なんだよ。」
「嬉しい…。トリス、ありがとう!」
「碧衣、卒業おめでとう。」
「ありがとう!」
ふたりは乾杯をして食事を始める。どれもこれも美味しい料理に碧衣は笑顔になる。
「ねえぇ、トリス?」
「碧衣、呑みすぎじゃない?」
猫なで声で頬が赤い碧衣。あまりお酒は強くないのに、今日はトリスがお祝いしてくれるし素敵なドレスを贈ってくれたりで、気分がいいのだ。
「ん?そぉかなぁー?」
「もう、お水にしようね?」
「ふぁい!でねぇ、トリスタンさん?」
「どうしたんだい?」
「私ぃ、トリスタンさんが大好きぃ!」
「俺も碧衣が大好きだよ?」
「ふふ。これからもぉ、ずぅーと…」
碧衣が言葉を発しようとするとトリスが碧衣の口唇に人差し指を当てて止める。
「碧衣、続きは家に帰ってから聞くよ?」
そう言ってトリスは碧衣の手を引いて店を出た。
* * *
ガチャと家の玄関を開けると碧衣の酔いは一気に醒めた。
「トリス、これって…」
沢山の花束の中にメッセージを見つけた。
『 We are meant to be together. 』
「僕らは一緒になる運命…」
「碧衣…。」
トリスが跪く。
「俺は前の世界のときから碧衣を愛している。
ずっと一緒にいよう。」
トリスは碧衣の手をとり、口づける。
「私も、トリスタンを愛してます。ずっと一緒にいてください。」
碧衣はトリスを抱きしめた。
「碧衣、俺たちは一緒になる運命なんだ。
前に言っただろ?聖女は王族と婚姻するって。」
「ふふ。そうだったね。」
ふたりは口づけを交わし愛を確かめ合った。
「異世界に転移してトリスに出逢って、恋して、この世界へ戻ってきて落ち込んで、でもトリスと再会できて、ずっと一緒にいられることになってとても嬉しい…。」
「碧衣を一緒幸せにするよ…。」
その後ふたりは結婚し、子宝にも恵まれて幸せに暮したのだった。
今度こそ、本当に完結です。
完結作品や次回作(ってまだ構想段階ですが…)も読んでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございました。