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無事に出立した聖女一行。
「アオイ、無事に出発できたね?」
「うん。ねえトリス、ロイター様に掛けた魔法を解いていいときになったら教えてね?」
「そのままでもいいけど…」
「えっ?何か言った?」
「いいや。何でもない。馬車で3時間程したら一つ目の休憩地点だから、そうしたら魔法を解除しよか?」
「わかった。そうするね。」
碧衣とトリスは馬車の中ではあるが寛ぎながら、会話をする。
最初の街までは馬車で一日半掛かるので馬を休ませるためにも休憩を挟んで向かうことになっている。
そして碧衣は最初の休憩地点でロイターに掛けた魔法を解く。
ロイターが目覚めても国王とトリスの父親にはフォローを依頼してあるから無謀にも追いかけてくることはないと碧衣もトリスも思っていた。
「ねえ、トリス?」
「どうかした?もしかしてまだ疲れてる?」
「ううん。違うの…今回はついてきてくれてありがとう!」
「はは。俺がアオイと行きたかったんだから、気にすることはないよ?」
「それでも、トリスには魔法師団の仕事だってあっただろうし…」
「聖女様を護る以上に重要な任務なんてないよ?」
「ふふ、ありがとう。あなたがいてくれて心強いよ!」
「そう言ってもらえると来た甲斐があるよ。」
道中、碧衣とトリスは穏やかに過ごすことができた。
しかし、婚約者でもない男女が馬車で二人きりというのはあまりよろしくないことを彼女はまだ知らない…。
* * *
(出立前のトリスと碧衣専属侍女たちの会話)
「ノートル卿、本気ですか!?」
「本気。申し訳ないが馬車にはアオイ様と私だけで乗ろうと思っている。」
「ですが…」
「君たちの言い分はわかる。だが、これだけは譲れない。寝ているとき以外は私がアオイ様を護る。」
「間違いは起きないと?」
「私は、本当に心を通わせていない相手に無理強いするような人間ではない。」
「わかりました…」
こうして侍女たちの心配を他所に、碧衣とトリスは二人だけで馬車に乗ることになったのだった。
* * *
(魔法が解除されてからのロイター)
「おい!どうなっている!?どうしてアオイたちが出立して、私はここにいるんだ!?」
開口一番、外の様子から既に出立時間が過ぎていることに気がついたロイターは侍従を怒鳴っていた。
「お声をかけても、揺すっても起きなかったのは殿下にございます…。」
「何だと!?」
「そこで、何をしている?」
ロイターに掛けた魔法が解除される頃だろうと思って国王がやってきた。
「父上!どうして、アオイは出立してしまったのです!?」
「浄化の旅は危険だ。いくら魔力が強いお前でも行かせることはできない。護衛の人数も確保できない。
それに、アオイ殿とトリスタンのふたりがいれば戦力は十分補える。」
「何故、トリスが行けて私は残るのです!?」
「お前には執務もあるだろう?仕事を一人前に出来ない奴が国の重要な任務と言えど、旅に出るなど以ての外だ。」
「一人前に出来ていない…?」
「お前がやり終えたと思っている執務の半分以上はある人物がやり直しをしているから滞っていなかっただけだ。」
「そ、そんな…」
ロイターは膝から崩れ落ちる。
「アオイ殿が戻って来るまでに一人前になれないのであれば、お前の地位はなくなると思え!いいな?」
国王は去っていき、その場にはロイターと侍従たちだけが残った。
「今まで、一人前ではなかったのか…?
お前は、父上が仰っていたある人物を知っているか?」
侍従に質問すると彼はコクリと頷く。
「誰か教えろ…と訊いても答えないよな…。」
しかし、ロイターは答えを聞かなくてもその人物が誰なのかわかったような気がした…。
* * *
最初の街に到着した碧衣たちは領主や駐在している騎士や魔法師たちから説明を受けた後にすぐ出立し、瘴気が溜まっている森の手前にいた。
「これが、瘴気…ですか…。」
「はい。それともう少し進んだ所に、瘴気から産まれた魔物もおります。」
「魔物…」
「アオイ様、大丈夫ですよ?私がお護りいたします。」
「ありがとうございます、トリスタンさん。」
騎士や魔法師たちと森を進んでいくと途中から嫌な雰囲気が碧衣を包む。
「トリスタンさん、瘴気の源が近いかもしれません…。」
「魔物も強く、多くなってきましたからね…。
アオイ様、大丈夫ですか?」
「はい。無理ならば、すぐに言います。」
騎士や魔法師が次々と魔物を倒していくが減る様子が全くない…。
「アオイ様、ここです!」
「ここが…。」
碧衣の眼の前にはドス黒い沼に黒い靄が漂っている場所があった。
「こんな瘴気が森全体に充満していたら、近隣の街や村に影響が出るのは当たり前ね…
私で役に立てるのなら!」
碧衣は瘴気に向かって「綺麗になって…。」と祈りを捧げる。すると碧衣の身体が光輝き、瘴気が浄化されていく。
「美しい…。」
「聖女アオイ様は素晴らしい…。」
聖女一行の騎士や魔法師たちは彼女の美しさに見とれている。
「お前たち!魔物がいるんだぞ!よそ見するな!」
トリスが神秘的な碧衣を見られたくなくて喝を入れる。
瘴気がなくなっていき、碧衣の周りの空気が綺麗になっていく。
「瘴気で満ちてしまった森…元に戻って…。」
碧衣の祈りで枯れてしまった森が元に戻っていく。
「アオイ、もう終わったよ?」
「よかった…。上手くいったみたいだね。森も再生できてよかった…。
そういえばトリス、他の皆さんは?」
「街へ引き返す準備してる。怪我した奴に回復魔法かけたりしてから出立するけど、疲れてない?」
「うん。平気。ちょっと怖いこともあったけど、トリスが護ってくれるってわかってたから…。」
「アオイのことはこの命に替えても…」
「それはダメだよ!」
「えっ?」
「命に替えたらトリスがいなくなっちゃうじゃない!それはダメ!嫌!絶対にダメだからね!?」
「アオイ、無傷で一緒に王都へ戻ろう?」
「うん!」
周りに誰もいないので、リラックスしたふたりは勝利の余韻に浸った。
* * *
「聖女様、ありがとうございました!」
「「聖女様!」」
街へ戻ると凄い盛り上がりを見せている。
「聖女様の浄化のお陰で、水が!綺麗な水が湧きました!」
「畑の作物が芽吹いて!それに花も咲きそうで!」
「魔物に受けた傷が治って!」
「持病の癪が治った!」
様々な声が聞こえる。
「トリスタンさん、聖女特有の魔法でそこまでいろいろ良くなります?」
「どうでしょうか?ただ、民たちはアオイ様に感謝していることだけは言えますね。」
「誰かの役に立つって嬉しい!」
「私もお手伝いさせていただきますね?」
「はい!」
浄化の旅への確かな手応えを感じた碧衣だった。