弟子と師匠
たった三日、しかし地獄を思わせる様な痛覚の密度。それが三日間増え続けていく。そんな長すぎる三日間。それも終わりが迫っていた。
「まだわかんねぇか!?お前は体が軽い剣も軽い。吹き飛ばされやすいから空中戦術を採る。それは良い。問題は動き方だ!!」
「ぐぁああ!!」
言葉通りに跳んで壁を蹴って斜め上から斬りかかってきたサンディをマイヤーは剣の一振で弾き返す。十四と三十路の筋力の差が明白としてそこにある。サンディは勢いを殺しきれず、地に背中を叩きつけ転がる。
「手前ェは、ただ!!跳んでるだけだ!!落下の力を十全に生かそうとしていない。ただ足りない体重を少し補っているだけ!!敵の力を自分の力にしろ!!周りの地形を使え!!生にしがみつけ!!それが出来なきゃ死ね!!」
一見力任せに見えるマイヤーの剣は、その実サンディの動きを考慮した上でのものだった。防ぐにも防ぎきれない。次の一撃二撃は必ず喰らう。
(次の強烈な一撃ー!!)
マイヤーの一薙ぎを剣で受けたサンディは身体ごと弾かれ十メートル程吹き飛んだ。マイヤーは奇妙な手応えにニッと笑う。
「そうだ。それだよ少しは分かってきたか?その感覚。」
思いっきり吹き飛んだサンディは傍目とは裏腹に特に堪えていない様に立ち上がった。
「全力で剣のみを押さえて足の踏ん張りをあえて無くし、連撃からいったん間合いを取る。正しいかどうかは兎も角、それがサンディ、お前の第一歩だ。」
「ありがとうマイヤー。」
「とりあえず、風呂入って飯食って寝るぞ。明日以降の事はそれからだ。」
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寝床についてランタンの灯りを消す。街灯も無い貧民街の夜は月明かりだけがただ一つの光源になっている。ポツリとマイヤーが零す。
「サンディ、お前は何がしたい?お前は強くなる。その力がある。俺よりも、俺が狩ってきた聖剣使いの誰よりもだ。その力で何を叶えたい?」
「俺のやりたい事......」
平時のしっかりと開いたサンディの目の半分程の目でサンディは考えた。
「俺のしたいこと......シスター、みん、な......」
思考は睡魔に負けトロンと力を失う。そこにあるのは攻撃的な目でマイヤーに襲いかかった獣の姿は無く、無垢に育ち盛りの十四の少年の姿だった。
それを見たマイヤーは自分の中に感じたことの無い感情が渦巻くのを確かに感じていた。そして、これまでの自分が死んでいくのを。