サンディとマイヤー
目が覚めると貧民街の民家の中だった。その内装に見覚えは無い。
自分の体は薄い麻布が覆われて床に寝かされていた。
「おっ、起きたか。随分寝坊助だったな。」
男は酒に薄らと顔を赤らめ笑う。慌てて手先は聖剣を探すが触れることは無い。
「お前の聖剣おもしれーな。錆び付いてるワケでも無し、鞘から抜けねーなんて。あと軽い。ホントに刃ついてんのか?」
聖剣を持つ男を見て抵抗を諦める。麻布から出て起き上がろうとするとなにかが飛んでくる。掴んでみればそれは一つのパンだった。
「食えよ。遠慮なんていらねーぞ、お前が手に取ったからお前のモンだ。」
「......ありがとう。」
「礼なんざいらねえ。ただの気まぐれだ。礼と言うのなら金か酒をもってこい。」
パンを齧りだす自分をみた男は「ケッ」と、そっぽを向いた。
そして食べ終わった頃に男に向けて言葉を紡ぐ。
「ご馳走様、俺の名はサンディ。」
「俺はマイヤーだ。サンディ、なんでお前みたいな金持ちのお坊ちゃんでもないガキが聖剣なんざ持ってやがんだ。世界中にありふれているとはいえテメーみてーなガキがもってるもんじゃねぇぞ。」
サンディは俯く。少しの間言い淀んだがポツポツと話し始めた。
「俺、孤児院にいたんだ。5年くらいになるかな、あれから。」
「孤児院?このご時世珍しいな。」
たしかに、世界中に孤児は溢れているが、孤児院など建てても聖剣という力を持った賊からしたら都合のいい獲物も同然だ。当然、孤児院の数は少なくなる。
「シスターが一人で切り盛りしてたんだ。この聖剣は元々シスターが使ってた物だ。」
元々シスターの所持品ということでマイヤーは一応納得する。神を信奉する教会の宗派によっては聖剣など刃物の使用を制限する事もあると聞く。そういった理由で、抜けない聖剣を愛用したと推察する。
「んで、お前がそれを持ってるって事は......」
サンディは暗い面持ちで僅かに頷く。
「孤児院、なくなっちゃったんだ、盗賊のせいで。アイツらシスターが追い返した奴らが「報復に」って何十人の仲間を連れてきて、シスターは僕に逃げなさいって聖剣を渡して一人で......」
サンディは途中、涙ぐみながら手には痛いほどの力が入っていた。
マイヤーは居心地悪そうに首を捻って見たり頭を掻いてみたりと落ち着かない様子だった。
「その......なんだ、聞いて悪かったな。シスターは......」
「シスターは死んでない。強いんだ、世界で一番、シスターは。」
「そ、っか。そだな。そんだけ強けりゃどっかで飄々と生きてるだろ。」
そう言ってマイヤーは軽く背伸びをすると聖剣を俺に放り投げた。
「三日間だけだ。テメェをどっか放り出すまで剣を見て......違うな、っとー、技の限りを以て虐めてやる。表に出ろ。」
頬をポリポリと書きながら自分の聖剣を手に外へと歩き出した。
......子細は省くがこの後身体中打ち身だらけになりその日は眠りについた。