路地裏の聖剣少年
「この聖剣ならそうだな......6000タウって所かな。どうだい、売るかい?」
行政非認可の聖剣ディーラーの男は貧民街に似合わない小綺麗な服と、いかにもといった浅ましい笑みを浮かべる。
「おいおい、足元を見すぎじゃないか?そんなのじゃあ俺の聖剣のメンテナンスだけで殆ど持ってかれちまうじゃねーか。」
聖剣狩りを生業としている事もあり、俺の聖剣の消耗は早い。修理を怠ると直ぐに使い物にならなくなる。それは飯の種を失うことと同義だ。
「安いか?じゃあ残念ながら取引不成立だ。他の買い取ってくれる奴を探すことだな。」
「チッ、わかってるよ!!俺も政府軍に見つかる訳には行かないからな。その値段で頼むよ。」
「毎度ありぃ。」
硬貨の入った紙袋を受け取った。
......結局聖剣の修理費用を差し引いて残り1500タウ。聖剣狩りの稼ぎは当たればおおきいが収入は安定という言葉からは程遠い。高く売れる獲物であっても俺よりも強い者が多く、返り討ちに会いかねない。物価の安い貧民街から出ることはできそうにない。
貧民街は古代の遺跡をそのまま住処にしている事が多い。
古代文明は工学において高い技術を見せている。二千年以上経つとも言われる遺跡は地表にありつつ未だに最低限度の住居として実用に耐えうるし、また超常の力を持つ聖剣は古代技術の結晶でもある。
何が入っているかも定かではない安酒を片手に住処に帰る。その道半ば程で貧民街に珍しく歌が聴こえる。ここに居るものたちは殆ど歌の良さを知るものはいない。
「ニ、ヤニノウェー、ゲン。ノノ、サン、ノシー、タウ。
ヤニノウェー、サク、ノデッカ、ノウェ、クラ♪」
「ンだよ、ガキじゃねーか。それも男の。」
ボロの服に包まれた小汚い少年はハッとしてこちらを睨む。
「しかも、手に持ってんのは聖剣か?ハッ、おいボーズちょっとそれ見せてくれよ。」
「ふざけるなァ!!」
少年は聖剣を鞘から抜きもせず一直線に突っ込んで来る。
「なんつー速さだ?ガキとは思えねーな。」
力任せに振るわれた一撃を聖剣で受け止める。速度が乗っている分腕と刀身にかかる重圧はかなりのものだった。
助走によって付いた力が無くなったと感じ大きく剣を振るい少年を弾き飛ばす。
少年は体重も軽いため簡単に吹き飛ばされるが、遺跡そのままの壁に足をつけ、壁を蹴り、また次の壁を蹴り立体的な軌道をとり再び突っ込む。
「ボウズ。お前の才能はとてもガキとは思えねーほどだ。だがな、技がねーんだよォ。だからこうやって......」
受け止めた剣を逆手に持ち替え威力を流し、つられて落下する体は地面に叩きつけられ衝撃で力の弛んだ手から聖剣を取り上げる。
更にその細い胴部を脚で抑え込む。
「簡単にのされちまうんだよ。」