2章「ディグアウター」
僕はどこかの町を歩いていた。見覚えがある街並みだ。
しばらく進むと、右手に一軒の家が見えてきた。決して大きくはないがここが僕の家だ。
玄関のドアを開けて靴を脱ぎ、居間に行くと母がテレビを見ていた。
「あら、お帰り。今日は早いのね」
「そうかな」
「ご飯まで時間あるからおやつでも食べる?」
そういえばお腹がすいている。
「うん、食べようかな」
しかし、脚を踏み出そうとしたら、全く動かない。
あれ、おかしいな。なんで歩けないんだろ。
ふと、違和感を感じて顔を上げると、母の姿は消えており、家の中はまるで廃墟のように
朽ちていた。
「おはよー おきてー」
「……母さん?」
体を起こす。ああ、そうか、僕は寝ていたんだ。ということはさっきのは夢か。
よかった。
目を開くと、薄暗い地下駐車場の中だった。
目の前にノヤとマノハが立っている。
「おきた?」
「うん、起きた」
「じゃあ、色々説明するからこっち来て」
「うん」
地下2階から1階層上がるとそこは様々なコンテナが置かれたスペースになっていて、それぞれが独立した店や倉庫として使われているようだった。
「ここのコンテナが私たちの共有倉庫だよ」
少し小さめのコンテナで中はぎゅうぎゅうに色々なものが詰め込まれている。
「まずはこれをつけろ」
渡されたのはベルトのようなものだった。
「これは?」
「これからお前が身に着ける装備に電力を供給するターミナル充電器だ。俺たちはそのままターミナルと呼んでいる。スロットに刺したバッテリーから無線接続での電力供給ができる」
僕が戸惑っているとノヤとマノハが手際よく僕に装備を装着していく。
「そしてこのバイザーみたいなのがソナー。地面や壁の向こうの構造を把握できる」
頭の上からスリムなVRゴーグルのようなものをかぶせられた。フレームが無い構造なので視界が広い。
「あとヘルメットとライト、マスクも忘れずに」
なんか色々凄いことになってきた。フル装備だ。
「最後に一番大事なこれを渡そう」
少し分厚いスマホのようなものを受け取った。
画面がついており、24時間表示のデジタル時計が画面いっぱいに表示されている。
「なんですかこれ」
「こいつは俺たちの生命線、俺たちはシンプルにデバイスと呼んでる」
「デバイス……」
「そいつには原子時計が内蔵されている。俺たちにとって時間はとても重要なんだ」
「地下は暗くて時間の感覚がなくなるからね。これは少ない電力で正確な時間を刻み続けるんだよ」
「あと、ビーコンみたいな機能もある。詳しい原理はよくわからねえけどこれを近づけると……」
そういいながらマノハは自分の腰に付けたターミナル充電器にデバイスを近づけると画面の表示にノイズが走った。
「こんな感じでノイズが出る。正確な原理は不明だが無接点給電の電波を感知しているみたいだ」
つまり、電波を出しているものが近くにあればデバイスを見ればわかるってことか。
「ロボットどもはYリアクターを使って稼働しているが、リアクターもこの充電器と近い電波を出している。むしろあっちの方が強力だ。だからこいつを持っていれば近くに奴らがいるかわかるんだ」
なるほど、センサーとして使えるってことか。
「あとは武器だが……」
マノハは僕の全身を頭から順番に確認するように眺めた。
「うーん、格闘は苦手そうだし、重いやつも駄目そうだな。銃ならいけるかもだが、余りが無い」
「とりあえず私のナイフ渡しとこうか?」
ノヤが倉庫から取り出したのはダガーナイフのようなものだった。正式には何というのだろうか。詳しく調べたことが無いのでわからない。
「まあ、それでいいだろう」
僕はノヤからナイフとホルダーを受け取り、腰に装備した。
「さて、じゃあ基本的な流れだが、俺とノヤが先行する。お前は後方確認をしつつ付いてこい」
「歩きながら定期的にソナーを打って確認するんだよ。足元や壁がもろくなってトンネルや建物が崩壊することもあるから注意してね」
「バッテリーとデバイスは命と同等の価値がある。ゴーグルでバッテリー残量の確認ができる。絶対に怠るな。デバイスの時計もこまめに見るんだぞ」
「以上だよ!大丈夫そう?」
えっと、まとめると……
①定期的にソナーを使いルートの確認
②バッテリー残量の確認
③デバイスの画面確認(時間とノイズの有無)
ぐらいかな?
「……大丈夫です。いけます!」
「いい返事だ」
「じゃ、いこっか」
僕たちは薄暗い線路に再び足を踏み入れた。