1章-7
そんな馬鹿な。だが、何度見直してもそれは僕が見知ったスカイツリーだった。
ん、まてよ?これが東京ユグドラシル?てことは、あの巨大な世界樹ももとはこうだったってことか?
「一つ確実なのはどうやらお前は別の東京の記憶を持っているってことだ。それを調べれば、どうして東京がこうなっちまったのか、わかるかもしれない」
ただの妄想かもしれないけどなとマノハは酒をあおりながら言った。
「確かに妄想かもしれません。僕にはまだどこが現実なのか定かではない気がしていて」
「現実は存在しない」
マノハはそう断言した。
「え、いや存在はしているでしょう」
「じゃあ、現実てなんだ?夢や妄想じゃなかったら現実か?自分の目で見たら現実?そうとは言い切れない。高度なVR空間である可能性は否定できないし、ここが電脳空間じゃないという証拠もない」
電脳空間?!考えたこともなかったがそんなことありうるのだろうか。
テーブルを右手で触れてみる。ザラっとした荒い木材の手触りを感じる。これがバーチャル?
「これは俺もわからない問題なんだ。だから答を探すためにここでディグアウターをしている」
現実を探す……か。
「僕も探してみます」
「ああ、答えを見つけたら教えてくれ」
そういってマノハは笑った。
そのあとは食堂の片づけを手伝ったり、そのお礼として謎の肉料理 (おいしかった) をふるまってもらったりしているうちにいつの間にか夜になっていた。
地下暮らしの欠点は窓が無いので外の景色がさっぱりわからないことだ。
この通称「ヨドバシベース」にいる人たちは外部偵察のために建物の外壁に監視カメラを設置しており、それで外の様子を常に監視しているそうだ。夜も暗視機能で良く見える上サーモグラフィー機能までついている。
そのカメラで撮影されている映像がリアルタイムで壁面のディスプレイに投影されることで、疑似的な窓のように機能している。しかし、それだっていくつもあるわけじゃないので、やはり時間間隔は狂いがちになる。
「ただいまー」
ノヤが戻ってきたのは外がすっかり暗くなってしばらくたったころだった。
すっかり泥だらけになってしまっているその手には、大きな袋が握られている。
「今日は珍しいものを見つけたよ」
ノヤが袋から取り出したのは片手で持つには少し大きいかなというくらいのサイズ感の物体だった、少し丸みを帯びていて中央部分からは何かのケーブルが無数に伸びている。
よくわからないが何かの部品だろうか。
「Yリアクターじゃないか!」
近くで豆のスープを食べていたマノハが勢いよく立ち上がった。
「凄い!どこでそんな状態のいいものを?」
「実はロボットの修理工場の跡地を見つけてね。多分数年前の大洪水の時に破棄された場所なんだけど」
「水没しているのか?」
「うーん、わかんないね。修理に出してみるよ」
「ああ!ぜひ頼む」
マノハはとても興奮していた。
「Yリアクター……てなんなんですか?」
「ああ、そうか。お前は知らないんだったな。あれはヤハギ機関、通称Yリアクターって言われてる。一言で言えば永久機関だ」
「永久機関?」
「そうだ。あれは外部からのエネルギー供給を受けずに半永久的にエネルギーを生み出す。あれを一つ持っているだけでヨドバシベースの電力問題は大体解消するのさ」
「……ちなみに、ヤハギ博士て人が発明したから、ヤハギ機関とかYリアクターって言われてる」
いつの間にか隣に来ていたさくらが教えてくれた。
「なんだかよくわからないけど凄い物なんですね」
「今ヨドバシベースにあるYリアクターは1個だけで、しかも壊れかけなのよね。ここの電力は基本的に地下鉄の電力網を使ってるけど、それだっていつ途切れるかわからないし」
「Yリアクター一つで生み出せるエネルギーは限られているが、安定供給できるという点で最高だ」
Yリアクターとは発電機のようなものなのだろう。確かに資源が不足しているように見えるこの世界で、持ち運び可能な発電機はとても便利だ。
「……でもほとんど無傷は珍しい。Yリアクターはロボットの動力として組み込まれていることが多いけど、破壊して取り出そうとするとYリアクターも破損するように作られてるから」
「繊細な部品なんですね」
「やつらは装甲は厚いくせに、ばらそうとするとすぐ壊れるのさ。鹵獲されたとしても技術を盗まれないようにする安全装置みたいなもんなんだろう」