1章-5
それからも僕たちはしばらく歩き続け、とある駅に到着した。
「ついたよ。ここが私たちディグアウターの町、秋葉原!」
「おぉー」
秋葉原は元々日本一の電気街で2000年台からはオタクの聖地として有名な街だ。僕の知っている範囲だとマニアックなショップが多数あるイメージだったが、今はディグアウターの拠点となっているようだ。
駅のホームに設置された梯子で線路から上がると、ホーム上は何人もの人が行き来していた。
「凄い、人が沢山いる……」
「ここは新宿駅、東京駅に次いで大きな拠点だからね」
「へぇーそうなんだ」
秋葉原の地下街ってそんなに大きいイメージなかったけどな。どんな感じだっけ。
開札を抜けるとそこにも人が行き来していた。地べたに布を広げて店を開いている人も何人かいる。よくわからない部品等を売っているようだ。数人が店頭に集まり店主と話し込んでいる。値下げ交渉中かもしれない。
酒のような瓶を片手に笑いあっている二人組もいる。
地上の荒廃ぶりと比べると、ここはとても平和だ。僕の知っている世界とさほど変わらない。
ただ、大きく違うのは、広告用に壁や柱に埋め込まれていたディスプレイは取り外され、天井にロープなどで固定されていた。画面には真っ白な背景が映し出されるだけで、どうやら照明器具として使用されているらしい。
「なんというか、凄いところだね」
「でしょ?」
ノヤは2番出口に向かって歩き始めた。本来は通路の先は階段になっており、地上に出られるようになっているが、階段は例の隔壁で封鎖されている。
その代わり、通路が新たに掘削されていて、どこかにつながっているようだった。
「こっちだよ」
「これはどこに通じているの?」
「私たちはヨドバシって呼んでるけど。昔は大きなお店だったみたいだね。今は私たちの家であり拠点になっているの」
掘削されたトンネルを抜けるとそこは地下駐車場のような空間だった。そこにいくつものパーテーションが立てられ扉が取り付けられ、個室のようになっている。それが駐車スペースに密接して並んでいた。
まるでマンションのようだ。
「ここは地下2階で、地下2階から地下6階までは全て居住区になっているよ。地下1階は商業スペースと研究室があるの地上エリアは今は倉庫として使われてるよ」
「ここで何人ぐらい暮らしているの?」
「ここだけなら600人ぐらいかな。あとは地下通路が岩本町や小川町、神田、神保町まで伸びてるからその辺だと思うよ。この辺は旧世代の古い通路や水路が沢山残ってるから、それを利用してるんだ」
「へぇー」
このあたりにそんな古い通路などがあったとは、知らなかった。
「とりあえずみんなに紹介するよ。地下1階に行こう」
スロープを上ると先ほどまでの居住エリアとは打って変わり、あちこちの駐車スペースに屋台が設置され、多くの人で賑わっていた。
人の合間を縫って進むと、テーブルと椅子が置かれた食事スペースのような場所が現れた。
「やっほー」
ノヤが手を挙げるとそこにいる数人が返した。
彼らがノヤの知り合いらしい。
なるほど、彼らもディグアウターなのだろう。比較的軽装ながらも、各所にロープを固定するためと思われる器具や金具がついた服を身に着けている。
「なんじゃいそのへなちょこは」
ぼさぼさした黒髪の猫背な男にいきなりへなちょこ呼ばわりされた。まあ否定できないけど。
「この口が悪いのがマッチ。で、向こうでパソコンいじってるのがマノハさん」
マノハさんと紹介された色黒で大柄な男はカウンター席で小さな端末に何かを入力し続けている。こっちを見すらしない。
「こっちの女の子がさくらちゃんで机の下に潜んでいるのがセラ」
さくらちゃんと紹介された少女は静かに飲み物を飲んでいる。あれ、セラは?
机の下をのぞくとさくらちゃんの足に絡みつくように抱き着いているもう一人の少女がいた。
「……美少女の足、最&高……」
うわごとのように呟いている。
「……暑苦しい」
さくらちゃんがセラを振り払うように足を動かすが、セラは離れない。
「……変態だ……!」