2章-2
時刻は6時18分。早朝だ。
背負ったリュックには数日分の食料とナイフ。
準備万端だ。
僕はゴーグルのこめかみ付近にあるボタンを押した。
すると自分を起点に光の輪が広がり、地形をスキャンしていく。
スキャンされた場所は輪郭が青い光で画面内にはっきりと浮かび上がり、暗い場所でも見えやすくなる。
しかし本当に驚くべきなのは、このソナーはどうやら壁の向こうを透視できるようだ。ホームの方を見てみると、壁の向こうに別の空間が見えている。あれは駅構内の構造が透けて表示されているのだろう。
「壁の向こうに空間があれば表示されるよ。といっても透視できるのは10mぐらいが限界だけど。危険な地形は赤く表示されるし、動く物体は緑で表示されるよ」
確かによく見ると少し離れたところで小さな緑色の点が動いている。あれはネズミかそれに近い小動物なのだろう。ノヤの方を見ると全身緑色で表示されていて少し面白かった。
「ふふっ、凄いですねこれ」
「でしょー」
やはりノヤは自慢げだ。
「そろそろ行くぞ。バッテリーがもったいない」
マノハが歩き始めたので、予定通り僕はノヤの後ろにつき、一緒に歩き始めた。
「この辺は危険なエリアなんですか?」
「いや、それほどでもない。数年前大洪水があって、北千住付近のトンネルは盛大に水没したが、今は水もほとんど引いているはずだ」
「その時大半の警備ロボも流されちゃったから特別危険ではないと思うよ。ロボットは耐水処理されてるから水没したぐらいでは壊れないんだけど、流されて破損した挙句長時間水没していた個体はやっぱり壊れちゃうね」
何駅か通り過ぎたころ、トンネルの壁面にある蛍光灯が消えてしまっているエリアに到着した。信号機も点灯していない。
見えている限り、ここから先は漆黒の暗闇が広がっている。
「ここから先が水没エリアだった場所か。エール、懐中電灯を使え」
僕は言われた通りヘルメットに取り付けられた懐中電灯の電源を入れる。
暗闇の中に一筋の光が現れるが、正直全然足りない。手元を照らすのがやっとだ。
「ここから先は注意して進もう」
先ほどまでよりもゆっくりと進む。壁面には浸水した水かさを示すように、茶色く汚れた跡が残されていた。どうやら僕の胸と同じ高さまで水位があったらしい足元は土が堆積し、レールは完全に埋まっている。
凹凸は減ったので歩きやすくなったが、その分よく滑る。まだ完全には乾いていないようだ。
しかし、こんなトンネルを水没させる規模の洪水ってとんでもないな。
「止まって」
突然ノヤに呼び止められた。どうしたんだ?
「ソナー」
言われてすぐにソナーを起動するが、異常は見られない。
「なんか変な音がする」
言われて耳を澄ますと、ゴゴゴゴと何か低い地響きのような音が確かに聞こえる。何だろう。
あとはどこかで水が滴るような音。
ソナーを打ちながら周囲を見渡す。
「やあ諸君」
いきなり背後から声がした
「うわぁ!」
思わず飛びのいてから振り返る。だが、そこには誰もいない。
何だ?どこにいる?
「ゴーグルを外してみたまえ」
少しゴーグルをずらすと、そこにはセラがいた。あれ?いま映ってなかったけど、どうなってるんだ?
「アンチソナーコーティングされた合羽を羽織っていたのさ」
そういってセラは羽織っている真っ黒な合羽を指でつまんでひらひらして見せた。なるほど、フードをかぶって暗闇にいれば懐中電灯を一瞬当てたところで気が付かないかもしれない。
「なんだセラちゃんいたのかー」
ノヤが安堵した様子で言う。ノヤが気付いた違和感はセラによるものだったようだ。
「心配だから見に来たんだけど……実はちょっと困ったことになってね」
「えー……今度は何したの?」
ノヤが不安そうに聞いた。
「…実はさっき警備ロボに見つかっちった☆ 後ろから追いかけてくるから逃げた方が良いよー!」
そういうが早いか、セラはものすごいスピードで僕らを追い越し走り去っていった。
「おいおい、マジかよ。何体来るんだ?」
マノハが腰のホルスターからハンドガンを抜く。
「もう、セラちゃんも戦ってよね!」
ノヤが、セラが走り去った方に叫ぶと、かすかに「むーりー」と返事が聞こえた。
「まあしょうがないね。私たちでやろっか!」
そう言った瞬間、トンネルの横壁が爆破されたかのように弾け飛び、何かがトンネル内になだれ込んできた。
「うわっぷ、ソナー!」
ただでさえ暗いのに砂煙で視界はゼロだ。慌ててソナーを打つ。
ゴーグルに表示されたのは巨大な物体だった。
シルエットしかわからないが、巨大なアームが2本ついているのがわかる。
「げぇ!K型だ!」
「逃げるよ!」
なんだかわからないが戦って勝てる相手じゃないのは僕にも分かった。慌てて走り出す。
足元を確認するためもう一度ソナーを打つ。
青い光の輪が広がり、そして辺り一面が赤く表示された。
「!?」
次の瞬間天井に亀裂が走り、滝のように水が流れ込んできた。
ガラガラと崩れる音と激しい水流の音ですべてかき消されて、何もわからなくなった。




