成績向上対決 真鳥彩花編
あの女との対決を約束した日の帰り、私は一冊のノートをコンビニで購入した。
髪の毛用ではなく、きちんとした理由で買いました。
家に帰ってそのノートの表紙にこう書きます。
『あっくんと過ごす一週間計画ノート』
一週間好き放題にできる……考えただけでもよだれがでる甘美な時間。
正直一週間なんてあくびをしてたら終わってしまうような短い時間ではなく、一生好きにしたいですが。
「え~っと内容は」
『一日目~最終日……終始子作り』
完璧です。
私の計画を簡単にまとめるとこんな感じです。
あっくんが私で気持ちよくなってる姿を想像したら私……あ、ダメです我慢できなくなってしまいそうです。
せめてキスを……ダメです! キスはちゃんと夫婦になってからじゃないとですね!
もしかしたら計画が破綻するかもしれません。
その場合の対処も考えなくては――
* * *
「今日は彩花に教えてもらうでいいんだよな?」
「そう。着替えたら行くから待っててね」
「おう」
今日は彩花の日。
そして今日は金曜日なので学校の事も心配する必要はない。
まさか彩花も雫と同じような事はしてこないだろう。
あ、思い出しただけでも恥ずかしくなってきた。
「入るよー」
「お、おう」
制服から着替えた彩花が俺の部屋に入る。
それと少し膨れたリュックを持ってきた。
勉強道具……にしては多いような気がするが……
「荷物多くない?」
「ん? ああこれ着替え入ってるから」
「着替え? なんで?」
「今日金曜日でしょ? だからこのまま泊まろうかと思って」
「はい?」
「あ、大丈夫だよお父さんとお母さんには許可もらったから」
「いやそこじゃなくて」
「なに?」
「ホントに泊まるの?」
「嘘ついてるように見える?」
「見えないけど……ここ数年そういうのなかったからちょっとな」
「あ〜そういうこと。じゃあ毎週末は泊まりにくるよ」
「え!?」
「ダメなの?」
「いや……わかったいいよ」
「はい決まりー」
「今度彩花の部屋にも遊びに行きたいんだけど」
「それだけは絶対ダメ!」
「ええ……」
強い声音で言い返される。
俺出禁くらうような事したかな……。
「今日はあっくんの家でご飯たべよ」
「え、俺作れないぞ?」
「私作るよ」
「彩花料理できるのか……」
「ちょっとね。そんなにレパートリーないけど」
「いや作れるだけすげぇよ」
「じゃ後で食材買いに行こうね」
「わ、わかった」
小さい机を出し、勉強できるように準備をする。
彩花も緊張している様子はなく自分の部屋かのようにべたっと座る。
「今日は国語と英語やろっか」
「二つもやるの?」
「うん。夜遅くまではやらないけどね」
彩花の計画だと二時間ほど国語を勉強した後は晩ご飯の食材を買いにでかけ、そのまま夕飯へ。
さらにその後は英語の勉強をするという計画らしい。
こういったスケジュール管理はさすがだと思う。
キッチリした性格の持ち主だ、計画を潰されると怒るだろうから大人しく従うか。
「国語の先生優しいからテスト対策プリント渡してくれるんだよね、これやっておけば大丈夫でしょ」
「そうだな……と言いたいところだけど、ほぼわかりません。漢字ぐらいならちょろっと……」
「しょうがないなぁ」
一問一問彩花に教えてもらい両面印刷された対策プリントを埋める。
彩花も雫と同じく教え方がかなりうまい。
というか上から物を語るだけじゃなくて少しは自分で理解しろって自分自身を殴りたい。
「大丈夫? ちゃんと理解できた?」
「お、おう……」
「心配だなぁ、本番でちゃんといい点とってよ? じゃないと一週間子づ――教えた意味がなくなるからね」
何か言いかけたのが気になるが、彩花の言う通り教えてもらったならばきちんと結果を残さなければ意味がない。
二人は勝負をしているみたいだが、わざと点数を低くとるとかそんなふざけた真似はしない。
「国語はそれで十分だね。あとは復習とかしておけばバッチリ!」
「そうか、ありがとな」
「予定より早く終わったけどどうする? 英語やっちゃう?」
「いや、英語は予定通り夕飯後でいいんじゃないか?」
「それじゃあ、一区切りつけて夕飯の準備しよっか」
そうと決まると二人でスーパーへ行き今晩の食材を買いにいく。
「ふぅ……いっぱい買ったね」
「これだけあれば当分もちそうだな」
「さっそくとりかかろっか」
彩花は自分で持ってきたエプロンを身につける。
あ、意外と似合うな……今更だけど彩花って結構美人だよな。
「そ、そんなにジロジロみないでよ……」
「わ、悪い……ッ!」
ぷいっとそっぽを向いて恥じらう姿もいいなと思ってしまう。
あれ? 本当に十七年も一緒にいた幼馴染みか?
「私が作っている間、お風呂の準備してきて!」
「は、はい!」
悶々としながら風呂の準備をすすめるが、やはり集中できない。
エプロン姿で恥じらう彩花が脳裏に焼き付いて離れない。
おかしいな、こんな意識したことなかったのに何で今頃……。
「「いただきまーす」」
初めて彩花と二人きりで食事をする。
今までは彩花の両親と妹の朱音が一緒にいたので違和感というか新鮮というかそんな感じがする。
「おいしい?」
「おう、めっちゃうまいよ」
「七海さんのお弁当とどっちがおいしい?」
「えっ……どっちもおいしいよ」
「私は『どっちが』って聞いたの。なのに『どっちも』っておかしくない?」
「ほ、本音を言ったまでで……」
「二者択一って言葉しってる?」
「知ってます……」
「じゃあ答えて?」
あかん。
彩花さんめっちゃ怒ってます。
仮に『雫のほうが美味しいよ』なんて答えたら俺の首はあさっての方向へ飛んでいくだろう。
いや本当にねどっちもおいしいんだよ。
「うーん! んまい! 彩花の方が断然うまい!」
「うわーめっちゃ白々しい……」
大根役者さながらの演技を晒したわけだが、当然彩花の視線が痛い。
「……雫のもおいしいよ。でも彩花のはいつもの味って感じなんだよな」
「いつもの味……?」
「そう。なんだろうな食べ慣れてるというかそういうの。高級な料理よりも俺はこの『いつもの味』のほうが好きだな」
「そ、そう! そっか!そっか!」
「……やっぱりいつも食べてるやつだ」
「えへへへ」
俺がそう言いながら箸をつまむとさらに嬉しそうにする。
「じゃあ、これからは毎日私がメインでご飯つくろうかな」
その後も世間話や学校の話やらで結構盛り上がり二人きりの食事を終えた。
「よし、気持ち切り替えて勉強するか!」
「おお……って言いたいところだけど、あっくん先にお風呂入っちゃってよ」
「え? いいのか? 汚れてない一番風呂は彩花じゃなくて」
「うん。いいのいいの」
「嫌じゃないか? 俺の入った後に入る……って」
「本当に大丈夫だから! 気にしないで! むしろ後の方が私にとってはご褒美……」
「なんかいった?」
「なんでもない! 早く入ってきて!」
「お、おう?」
彩花に背中を強く押されながら風呂場へ向かう。
俺としては気をつかったつもりだったんだが、必要なかったようだ。
「ふふふ、十五分いや二十分は戻ってはこない。この間に部屋を物色しておこう。えへへへ」
といっても服を匂いを嗅いだりとかエッチな本を探したりとかそういった類のことではなく、単に眺めたいだけ。
「やっぱりあっくんはゲーム好きなんだねぇ。昔から変わってないなぁ」
他にも大量のマンガ本やパソコンなどもあり、いかにも男の子の部屋って感じがする。
「デスクもきちんと整理されてるなぁ……ってあれ?」
デスクの端っこに見覚えのある紙と花が置いてあるのを見つけた。
気になって手に取って見ると、
「……これ持っててくれたんだ」
それは私の部屋にもある物と同じ、拙い字で書いて作った『こんいんとどけ』と花束を結んだ『指輪』。
正直、私だけ大事にしていると思っていた。
これを見たとき嬉しさと彼に対する気持ちがより一層強くなった。
今でも覚えている、あの約束を。
『あっくん、おおきくなったら私とフーフになってね?』
『フーフ? なにそれ?』
『私をおよめさんにしてってこと』
『およめさん? いいぞ。さやかはかわいいからな』
『やったー! じゃあこれになまえかいて』
『なにこれ?』
『これはねー私をおよめさんにしてくれるヤクソクのしるし』
『そっかーじゃあ……はい、かいたぞ』
『おおきくなったらおよめさんにしてね? ヤクソクだよ?』
『おう!』
『わーい! あっくんだいすきー!』
ふふ、思い出すだけで恥ずかしい。
けど嬉しい。
やっぱり私たちは結ばれる運命なんだ。
私たちがちゃんと夫婦になれば永遠に幸せだし、お父さんとお母さんも喜ぶ。
何も間違っていない、むしろそれ以外の道がない。
「あっくん……大好き」
秋斗「見られちゃまずい系は全部スマホに入ってるから大丈夫だな。今時ベッドの下なんて時代遅れだぜ」