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七海さんと彩花はさらに勉強を教えたい

 一昨日と昨日と二日にかけて勉強を教えてもらった翌日、いつものように雫とお昼ご飯を食べていた。


「秋斗くんごめんね、あの日から父さんがすごい早く家に帰ってくるようになったの」

「それ結構警戒されてるって事でしょ」

「かもしれないね。けどそこまで深くは訊いてこないしバレてはいないと思うけど……」

「なら大丈夫かな」


 あの時クローゼットの隙間から覗いていたが、俺が隠れている事を知っていたような立ち振る舞いだった。

 いつ自白するのか、それを楽しみながら雫に問いていた。

 

 『その日以降父親が早く帰ってくる』

 それはもう、俺がいつ来るのか待ち構えているという事でいいだろう。

 安易に雫の家にはいけなくなったというわけだな。

 

「私の家では勉強をできなくなったので……」

「ので?」

「駅前の図書館でやろう!」

「俺はいいんだけどお迎え大丈夫?」

「大丈夫。父さんが帰ってくる前に家に着けばなんの問題もないよ。そもそも門限なんてうちにないし」

「そか、それなら大丈夫か」

「ただ一つ問題があってね」

「問題?」

「イチャイチャできないという大きな問題が」

「図書館じゃなくてもイチャイチャはやめてくれ」


 イタズラな笑顔と本当の笑顔が混ざったような顔で俺を見つめる。

 マジでやりかねないのでジャブを打っておかないと。比喩的な意味でね。


「じゃあ駅前の図書館待ち合わせで」

「りょーかーい!」


 急遽図書館での勉強会が開かれる事に。

 俺としてはテストの不安が消えていくだけなので結果的にはよかった。

 ただ雫としても自分自身のスキルアップのために勉強したいのではないか? とも思ったがそれを訊いたら雫の気遣いを貶してしまう事になる。

 なので雫の気持ちをありがたく受け取る事にした。




「あ」


 学校から帰って家に着いた瞬間ある事を思い出した。

 それと同時に嫌な汗が滴る感覚が襲う。

 

「昨日彩花に明日も勉強教えてあげるって言われてたんだった……どうしよ」


 今更断ることもできない。

 雫との約束もある。

 そして時間もない、そろそろ彩花が家にくる時間だ……あ〜ヤバイヤバイ。


「あっくん入るよーってあれ? まだ制服から着替えてなかったの?」

「あ、これはその、今着いたばかりというか……」

「いやいや一緒に帰ってきたでしょ。何言ってるの」


 ダメだ。彩花を欺くスキルが俺にはない。

 下手に嘘をついて嫌われるぐらいだったら正直に言うか……。


「その今日の勉強会なんだが……図書館でやろうと思ってな」

「駅前の? 私は全然大丈夫だよ」

「お、そうか……と、友達もいるんだけどいいかな……?」

「なんでそんなに動揺してるの? それに友達って誰? 男? 女?」


 だんだん彩花の雰囲気が変わってきた。

 それも怖い方向に。

 

「……んなで……す」

「え? 聞こえない」

「女……です」

「ふ〜ん。あっくん、いつの間に女の子と仲良くなれたの? 私もその子に挨拶しなきゃだね。名前は?」

「………」

「な・ま・え・は?」

「七海雫……さんです」

「……おバカなあっくんでも気付いてると思うんだけど私、あいつ嫌いなの」

「はい、存じております」

「だったらどうすべきなの?」

「お断りを……いれます」

「違う。今すぐ私を連れて行ってあの女と正々堂々戦わせるのよ」

「ええ……」


 そうだった、彩花は納得いかない事があると必ずぶつかりに行く性格だった。

 簡単に首を縦に振る人間じゃない。

 それは俺にだけでなく、親や先生にだってその性格は変わらない。

 いいのか悪いのかわかりづらいが……。


「早く行きましょ。七海雫……私が来て吠え面をかくといいわ」



   * * *



 突如勉強会に彩花も参戦することになり、緊張や不安が拭えないなか駅前の図書館に到着した。


 もうすでに雫は中にいるようだが、彩花が来てることは知らない。


「二階にいるみたいだからいくか……」

「……」


 ああもう怖いよ!


「あ! 来た! こっちっこっち……って若干一名老廃物がいるけどどうして?」

「すまん、実は彩花とも勉強する約束をしてたんだ」

「あっくんと二人きりになれなくて残念ね」

「別にいいですけどね。私が秋斗くんに教えるから、あなた終始一人ですよ?」

「はぁ? 私もあっくんにテスト範囲教えることになってるんだけど?」

「秋斗くんに教えられるほどの脳みそ詰まってるんですか? 大丈夫ですか?」

「あの雫、彩花は前回の中間テスト学年四位だよ」

「……なかなかやるようですわね。私の足元には及びませんが」

「悔しいけれど、そればかりは何も言えないわね」


 当然目には見えないが互いに火花を散らしあっている。

 俺としては仲良くしてほしいんだが‥‥‥。


「あ、そうだ。いい事思いつきましたよ真鳥さん」

「なに?」

「今回のテストで勝負しましょう」

「何言ってるの? 私があなたに勝てるわけないじゃない」

「ええ、それはわかってます。ですがお互いの点数を競うわけではありません」

「じゃあ何よ」

「秋斗くんの成績をよくした方が勝ちという勝負です」

「なるほど、『どっちの教え方が上手いか』ということね」

「そういう事です。内容は好きな教科を四つ選び、自分が教えた四教科の平均点で競います」

「ふーん。もちろん報酬はあるんでしょうね?」

「もちろんです。何もなしに勝負なんて仕掛けませんよ」

「それで? 報酬は?」


「それは……『一週間秋斗くんを好きにしていい権』を差し上げます!」


「ちょっとまて! 今まで黙って聞いてたけども! そこだけは黙ってられんわ!」

「へぇ。あなたにしては考えたじゃない」

「なんで彩花も乗り気なんだよ」

「秋斗くん忘れたの? 『拒否権』のこと」

「うぐ……ッ! じゃねぇよ! なに痛いとこ突かれた主人公みたいな事やらせんだ! 俺納得してないからな」

「一週間あっくんを好きにしていい……あんなことやこんな事が……ふへへへへ」

「おい彩花! 目を覚ませ!」


 必死に彩花の肩をゆするが、上の空。


「対決を受け取ったということでいいですよね?」

「もちろんよ。受けて立つわ」

「私のほうはすでに数学を教えているので残り三つ選びますね」

「私も化学を教えているから残り三つね」


 俺を無視し、話し合いの結果こうなった。


 彩花……国語、英語、現代社会、化学

 雫……数学、理科、保健体育、家庭科


 以上全八教科である。


「本番まであと二週間もないですが、日替わりで教えるようにしましょう。もちろん休日を使っても構いませんし、一日に何教科でも教えていいです」

「こんなにテストが面白く感じるなんて初めてだわ」

「お互いいい勝負にしましょう」

「ええ。よろしくね」


 さっきまで犬猿の仲と言えるぐらいお互いバチバチだったのに今は握手を交わしている。

 

「日替わりという事なら私はおいとまするか。昨日教えちゃったし」

「いいのか? せっかくきたのに」

「うん。今日は帰って自分の勉強するよ。じゃ夕飯までには帰ってきてね」

「おう」


 彩花は荷物をまとめて図書館を後にした。

 残ったのは俺と雫の二人。

 

 この図書館が閉まるまで二時間はある。

 ただのテスト勉強で終わるのか、それとも違う勉強もさせられるのか、どうなるかわからない。


彩花・雫(さて、一週間なにしようかなぁ……えへへへ)


秋斗(二人の顔が怖い……)

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