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第69話

 男子寮を出てすぐにわたしはバージル様からさっき見たことに関して説明を受けることとなる。


「エリオットは今朝男子寮から連れ出されたらしい」


 とても短い説明だったが、予想通りバージル様は不気味な存在と会話をしていた。

 しかもとても慣れているように見えた。多分今回が初めてではないのだろう。


「……本当に会話が出来ていたのですか?」

「ああ。問答無用で害してこようとするやつの方が圧倒的に多いが、さっきの女みたいに意思疎通出来るやつも中にはいるんだ。話しかければ返事をしてくる。見た目は不気味だが人間とあまり変わらない」

「そんな話初めて聞きました。随分慣れていましたけど、これまでも今のように会話していたんですか?」

「――必要な時は。ごめん、アシュリーに言えば心配するかと思って」

「そりゃ心配しますよっ!」

「ごめん、怒らないでくれ」

「怒っていません! わたくしは心配しているんですよ!」


 亡くなられたバージル様のお兄様であるフェリクス様と会話をした時とは全然違う。

 わたしは色々小言を言いたくなるのを堪えた。今はエリオットとレオノアのことを優先しなければならない。


「……くわしい話は後で聞きます。それより、エリオットはどちらに?」

「顔を隠した二人組の男に運ばれていたとアイツは言っていた。エリオットの意識はない状態だったらしい」


 悲鳴を上げないように口元を手で覆った自分の手が震えてしまう。

 まさか誘拐? でも学園に侵入し、エリオットを連れ出す事なんて可能なのだろうか。王族や貴族の子供を預かるこの学園から。


「そしてレオノアはその現場を偶然目撃してエリオットの後を追ったらしい」

「そんなっ!」

「……まさかレオノアにそんな行動力があったとはな。手引きした者が学園にいたらしく、準備されていた馬車に乗って堂々学園から連れ出されたようだ」

「探すあてはあるのですか?」

「外出記録を確認して馬車を手配した者を探そう。それと馬車が向かった方角は何となくわかったから追跡させる」

「わたくしに手伝えることはありますか?」

「二人は私が見つける。だからアシュリーはここで大人しく待っていてくれ」

「でも……」

「頼むから無茶をしないでここに居てくれ。約束をしてくれないと心配で学園から離れられない」


 バージル様をこれ以上ここに引き留めるわけにはいかないわ。

 何の目的でエリオットが連れ去られたのか分からないが時間が惜しい。約束しないと動き出しそうにないバージル様に「学園で大人しく帰りをお待ちしています」と誓った。きっと二人は見つかると信じ、わたしは学園で待つことになった。

 二人を助けるために手伝えることがあるなら何でもするが、残念ながらわたしは足手まといにしかならない。


 バージル様は数名の教師と生徒と共に学園を離れ、今回の事件の報告と二人を見つけ出すための応援を要請するために王宮へと向かった。しかも連れ去れらた生徒二人は公爵家の子供だ。とんでもなく大きな騒動へと発展するだろう。

 同時にバージル様の指示でアーノルドをリーダーとした一団を編成して馬車の追跡をさせたらしいので早く二人が発見されればいいのだけれど。



 とりあえず残りの生徒達は詳しい事情が分かるまで寮で待機することとなった。

 生徒を守るために寮内には教師が、そして学園の敷地内には騎士が配置されることとなる。侵入者を防ぐためではあるが学園中に重苦しい空気が流れていた。

 わたしはバージル様との約束を守って寮で大人しく過ごしていたが、一日二日と過ぎていくと不安で頭がおかしくなりそうだ。バージル様とも連絡が取れないので、ただ待つことしか出来ない自分がもどかしい。


 不安で堪らなくなっていたわたしに声をかけてきた生徒がいた。


 カフェテリアで見た婚約者と友人との三角関係を噂されていたルーナだ。

 陰鬱な顔をし、身体の前で手を忙しく動かしている少女と今まで一度も会話をしたことがなかった。親しくもない少女に「少しいいでしょうか?」と消えそうな声で話しかけられ、困惑しながら頷く。


「人がいないところで話をしたいのです。誰にも聞かれないような場所で……」

「わたくしにですか?」

「はい、エリオット様とレオノア様のことなのです」

「えっ?」

「ついてきてもらっていいですか?」


 目を泳がせ挙動不審なルーナは正直怪しい。


「……何でわたくしなんですか?」

「あなたじゃないと二人は救えないからです。ついてきてもらえますね」


 怪しいと分かっていても二人の名前を出されたらついて行くしかない。

 心の中で大人しくしていると約束したのにそれを破ってしまいそうですとバージル様に謝罪しながらルーナに案内され、寮の一階にあるリネン室へと向かった。確かにここなら二人きりで誰にも聞かれずにゆっくり話せそうだ。


「それで? 二人のことについて話してください」

「ちょ、ちょっと待ってください。こっちに、あれ? えーっと」


 ルーナはリネン室の一番奥まで行き戸棚をいじっている。

 この子はいったい何をしているのかしら?

 不思議に思っていると思いがけないことが起きた。がこんと大きな音が鳴ったと思ったら戸棚が大きく横にずれ、戸棚があった場所に地下へと続く階段が現れたのだ。

 ルーナを見ると隠し通路を開いたルーナもわたしと同じく驚いた顔をしている。張本人がなぜ? と思ったが、どうやらルーナも半信半疑だったのだろう。スムーズに戸棚がずれなかったのは初めて試してみたからのようだったし。


「一緒に来て下さい」


 何だか嫌な予感がする。


「一緒に、来て下さいっ」


 どこから取り出したのかルーナの手には小刀が握られていた。

 こっそり隠し持っていたのだろう。小刀をわたしの方に向けているのだがその手が大きく震えている。本人の意思なのか、誰かの指示に従っているのか分からないが、ルーナはなぜかわたしを寮から連れ出そうとしている。泣き出してしまいそうな目からは強い決意を感じた。


「……分かりましたから小刀を下ろして下さい。危ないですわ」

「いいから行きなさい!」


 ぶんっと小刀を振りだしたルーナに敵対するつもりはないと両手を上げる。


「一つだけ教えて下さい。二人のことです……二人を救えるといった話は嘘なんですか?」

「嘘じゃないわっ! とにかくそこを進みなさいっ! それがみんなのためになるのよ。早くっ!!」


 拒否したらこのまま刺されてしまいそうだ。

 わたしはルーナに従って階段を下りて行った。

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